カフェ・カンパニー株式会社 代表取締役社長 楠本修二郎氏インタビュー  カフェ・カンパニーがNTTドコモと仕掛けるグッドイートカンパニーとは?(前編)

カフェ・カンパニーが、オンラインとオフラインを融合させた食の新しい体験価値を創造する企画を推進する為に設立した株式会社グッドイートカンパニーがNTTドコモとの資本業務提携を行ったことが話題となっています。グッドイートカンパニーの狙いについて、カフェ・カンパニー株式会社 代表取締役社長であり、株式会社グッドイートカンパニー 代表取締役CEOでもある楠本修二郎氏にお話しを伺いました。


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カフェ・カンパニーが、オンラインとオフラインを融合させた食の新しい体験価値を創造する企画を推進する為に設立した株式会社グッドイートカンパニーがNTTドコモとの資本業務提携を行ったことが話題となっています。グッドイートカンパニーの狙いについて、カフェ・カンパニー株式会社 代表取締役社長であり、株式会社グッドイートカンパニー 代表取締役CEOでもある楠本修二郎氏にお話しを伺いました。

カフェ・カンパニー株式会社 プレスリリース
食のDXを推進する「グッドイートカンパニー」が始動。〜 日本の食を愛する、すべての人の思い・体験・技術を未来につなぎ、世界中へ拡げる 〜

記者)最初に、カフェ・カンパニーがどのような戦略を持たれているのかについてご説明いただけますか。

楠本)カフェ・カンパニーは2001年に創業した会社です。実は、「飲食店をやろう」ということは大学生の頃から決めていました。誰かと共にごはんを食べながら会話することはイノセントで人類共通の素晴らしいコミュニケーションだと思っていたし、「これからは、場もメディアのひとつとなる時代がくるな」という感覚が確実にあったので、いずれ、絶対に飲食店をやろうと思っていたんです。

1998年頃、インキュベーション会社やIT企業の役員などもしながら、原宿と渋谷をつなぐ「キャットストリート」という遊歩道の開発に携わり、そこでカフェを創りました。この「キャットストリート」は、以前は河川で、道路認定を受けてすぐだったんです。当時は、その河川だった頃の名残を受けて建物はすべて道路に背を向けて建っていたわけです。つまり玄関口が道路とは逆側にあり、ストリート自体がものすごく暗かったんです。

だけど、道路認定を受けたことで、今後はその暗かったストリート自体が賑わいの場所になっていくのではないか?しかも動線が分離されているということは、住人にとってのプライバシーもある程度保たれつつ、商業も入れられる。ひとつのストリートで商業と住宅が一体で共存する街創りができるなんて面白いなと思い、木造アパートの一角をカフェにしたり、ゴミ捨て場だった場所に「WIRED CAFE」の1号店を作ったり…、というところから始まりました。

カフェを創るということは、街のコミュニティを創っていくことでもあると思うんです。集う人々やその街のキャラクターは30ヶ所に30通りのコンセプトがある。現在も60ブランドほどを展開していますが、「食」を通じてその街の表情を創っていくことがスタートだったこともあり「マルチブランド戦略」というよりも、街には街のキャラクターがあるから、そのキャラクターを活かしてカフェという集い場を創っていくほうがいいのではないか?という「ものづくり的視点」からブランドを創っていったんです。「WIRED CAFE」もそうですし、「伊右衛門カフェ」もそうなのですが、有難いことに「ここに出店してください」という数々いただいたご依頼に、単一ブランドでの展開ではなく、その場所や人々に求められるブランドを創ることで応えてきました。なので、こちらからプッシュ型の戦略で「100店舗創ろう!」と出店していくというよりも、デベロッパーさんなどからのご依頼に応じていたら、現在の店舗数、ブランド数になっていた、という状況ではあります(笑)。

ちなみに社名の「カフェ・カンパニー」の”CAFE”は「Community Access For Everyone=みんなが集うコミュニティの場」の略なんです。カフェを創ること=街のコミュニティを「食」を通じて盛り上げよう!という思いをずっと言い続けてきたので、少なくとも当社の社員やメンバーは僕たちの仕事は「食」でコミュニティを創る仕事なんだなという意識を持ってくれていると思います。それが企業文化として根付いていることは、とても大きな財産だと感じています。

記者)求められてることを、と仰ってはいますけども、実際にはここだけは押さえておきたいというところをお持ちだと思うんです。お店をやられている方々は、強いブランドを1個作りたいという方や、いろんな業態のお店を作りたい方など様々なんですけれども、みなさん悩まれてると思うので、カフェ・カンパニーがここまでになったベースの部分を教えていただけませんか。

楠本)そうですね。もしその因数分解をするならば、僕たちが創ってきた「コミュニティ」は結果の産物とうことです。「コミュニティ」は、人々が日常の中で集い、共感で繋がっていく場であるから、誰もが触れることができる「食」が中心にあると思うんです。だから、僕たちは「食」を通じて生活提案をし続けてきました。美味しいものだけを提案するのではなくて、「食」のまわりにある生活やその背景、文化、これから未来に受け継いでいきたい味やそれを作る人々、全ての要素を編集して創った店舗がハブとなり、コミュニティとなっていくのだと思います。ただ、それが難しくて、僕も結構失敗があります(笑)。早すぎてもダメで、遅すぎるとなにかの二番煎じみたいって言われちゃう。

だから常になにかいろいろなアイデアを頭の中で分散的に持っておいて、「あ、まだ早いな」とか「そろそろかな?」などと考えるトレーニングをしています。それを絵にしてみるとか、それをメニューにしてみるとか、様々な方法でアウトプットのイメージを繰り返していると、「あれ、そろそろいけるかも?」というポイントが見えてくるんです。

そのときに絶対にブレさせちゃいけないのは、自分が街に繰り出してそれを感じること。渋谷でもいいし、吉祥寺でもいいし、あるいは地方都市でもいいので、そのフィットする感覚というか、自分が思い描いているメニューや空間などの業態イメージと街を歩いている人々の表情などを見ながら、完全にその人たちに憑依してみる、みたいな感じです。

自分はこのおじいさんになりました、って歩いてみたり、キャットストリートだったらストリート系の若者の気分で街を観察してみたり。そういう中での風景としてどういうカフェがあるといいのかな?と思考しながら、フィットさせていく感覚です。

この一連の流れが右脳的だとよく言われますが、僕の中では全然そんなこと無くて、トレーニングなんですよね。毎日、腕立てや腹筋をしているとだんだん筋肉がついていくじゃないですか。それと一緒で精度が上がってくるというか。

それはその街の人々のアバターに自分がなりきることで、その街にとって何が必要なのか?というイメージがつかめてくるんです。それができると、とてもアドバンテージが高いですよね。

たとえば、ラーメン屋さんでもカレー屋さんでも、味を突き詰めることは本当に素晴らしいことだと思います。だけど、その店の隣に同じ業態のライバル店が出来ると味や価格、サービスにおけるバトルになってしまいます。

「サードプレイス」という「家でもない、職場でもない、第三の場所」という意味の言葉がありますが、僕たちは「家でもあり、職場でもある、第三の場所」という意味でこの言葉を使っています。そんな、自分の生活にとって欠かせない居場所として生活提案ができる場を作ると、それはもう味や価格などの競争とは関係なくなってきますよね。僕たちが考える「生活提案」とは、そういうことなんです。

自分の自宅のようにも使えるし、仕事場としても使えるし、美味しいものをちょっと食べたりコーヒーを飲んだりしながら、自分にどんどんフィットしてくる場所。それを、早すぎず、遅すぎずに提案する。その結果できるものが「コミュニティ」で、そこから繋がり、自然発生的に仲間が増えていく場所ともなり得るのです。

今後、「食からの生活提案」はますます拍車かかってくると思います。音楽産業やファッション産業がそうだったように、食産業が生活者との関係をどのように創りながら発展するか、という観点ですね。つまり時代ごとに社会を表すコンテンツが変わってきていて、音楽から入って、ファッションに移って、いま食に向かっていると思うんです。

だからそこでトレーニングが必要になってきます。「ああ、こんなふうに変わっていくのか」という時代の変遷に決して背を向けずに、「へぇー!そうなんだ!」という好奇心と、「そうくるなら、これが必要になるかな?」という企みを絶対に持っていたほうが得だと思っているので、僕は時代に対して興味を失わず、ミーハーでいようと決めています(笑)。

料理人は料理に集中する。それは彼らにとっての美学でもあり、真似ができないプロフェッショナルの姿でもあります。でも、それだけでは社会を取り巻く情報が途絶え、変化のキャッチアップが遅れてしまいかねない。その結果、美味しく素晴らしい技が時代の波に取り残されてしまうことも数多くあります。僕は自分が料理人ではないからこそ、それが大変悔しいことだと思うんです。料理人ではない僕が未来の食に対して何かできることを常に考え、社会に対する感度も磨いていきながら、食産業に関わるみんなで時代の変化の波を捉えていきたいということが、僕の思いでもあるんです。

記者)基準をコミュニティというものに置いてらっしゃるということは、やっぱり箱じゃなくて、人にフォーカスがあるわけですね。おしゃれなお店を作ろうっていう発想ではなくて、お店っていうものを箱として考えているか、お客さんの集団と考えているかの違いだと思いました。

楠本)「カフェのある風景を創る」とずっと言い続けていて、箱だけではなく、そこにいる人も含めての「風景」です。例えば、ファッションに置き換えてみると、僕たち人間はほぼ9割方、服で覆われているわけですね。服を身にまとうという行為によって、ある意味、自分の内面を外面化しているんです。「自分がこう見られたい」「こうありたい」という内面の意思が服を着させている。それを先程の空間論に置き換えると、「僕はここに居たい」ということ。「この場所と僕が一体化している自分が一番好き」と感じられる場をどう創るかであって、ただの箱を創ることではないということです。

後編につづく。