飲食店オーナーの疑問… 融資の審査はどうして時間が掛かるのか?

飲食店オーナーの疑問… 融資の審査はどうして時間が掛かるのか?

今回はなぜ融資に時間が掛かるか、事業主のそんな疑問を払拭するために申込みから融資実行まで、普段見ることのない銀行の支店の中の動きを中心に見ていきましょう。


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事業主が銀行に融資を依頼すると、本人が期待していたタイミングで融資が下りないことが多いです。するとどうしても感じますよね、「どうして銀行ってこんなに融資に時間が掛かるのだろう?」って。

融資に時間が掛かるというのは確かに事実です。一般的に早いもので申込みから融資実行まで2週間、長いものは1ヶ月位掛かります。実際、元銀行員の私でもこれぐらいの時間が必要でしたし、難度の高い案件だと半年も掛かったものもあります。ただし融資に時間が掛かるのにはそれなりの理由があります。今回はなぜ融資に時間が掛かるか、事業主のそんな疑問を払拭するために申込みから融資実行まで、普段見ることのない銀行の支店の中の動きを中心に見ていきましょう。

融資相談窓口

事業主が融資を依頼する窓口は一般的に二つあります。一つは自分の店を訪問してくれるその銀行の得意先担当者(以後得意先係)に融資申込みする場合、もう一つは銀行の融資窓口を訪ねて融資係に直接申込みする場合です。

事業主からすると同じように銀行に申込みしているように見えますが実はかなりの差があります。得意先係は融資の推進をノルマとしている仕事であり、一方融資係は融資の事務処理をメインの仕事としています。この差は大きくどの程度事業主の融資に本気で向かい合ってくれるかという点では、やはり融資相談はまずは得意先係にすることがおススメです。

得意先係に融資申込みすると

さて、得意先係が事業主から融資の相談を受け最終的に申込みを受け付けたとします。この融資申込みがその銀行にとって全くの新規案件か既に融資実行先で増額融資の申込みであるかでもかなりの審査時間の差はありますが、ここではその前提条件を省略して審査の流れを中心に説明します。

まず融資に関する審査書類は全てその得意先係が作ります。得意先係は顧客から融資相談を受けるとまず審査に必要な決算書を預かり、融資金額・金利等融資条件を詰めながら同時に顧客に色々な質問をして融資の資料作りに必要なデータを集めていきます。直接聞き取りでは難しい業界事情などは業界紙や銀行内部に蓄積されている業界データを使って、その事業主の仕事と関連させて妥当性のある融資案件に仕上げていきます。

また決算書の分析というのも審査に時間の掛かる仕事の一つで、色々な角度から決算書の数字を眺めて売上・利益の動向・資産、負債資本のバランス、数字に矛盾がないか、ひとつひとつチェックしていきます。もし粉飾がされていると分析指標が異常値を示します。ベテランの審査マンだとこの数字を見ただけでどの数字が操作されているか分かるほどです。

一つの案件でも仕上げるのに得意先係だけでも早くて1週間は掛かります。さらに時間の掛かる理由は銀行員の仕事はその仕事だけに掛かりっきりでできないという点です。得意先係は多くの取引先を担当しているので融資案件処理も他の仕事と併行して作業しなければなりません。

したがって得意先係がどれだけその事業主の融資案件を強く意識しているかで、案件に対する取り掛かりのスピードも違ってきます。得意先係から如何に早く上司に融資案件が上がるか、これがまず第一関門です。

融資の第二関門、融資先係長

無事に得意先係から審査資料が上がるとまずは得意先係長(課長・支店長代理とも呼ばれる中間管理職)に回されますが、この部門の通過は極めて早いです。極端な話、1時間以内で回ります。なぜなら本人も得意先係と同じ融資推進のポジションなので最初から前向きです。そもそも得意先係の段階である程度融資が可能かどうかふるいに掛けていますので、その前提で得意先係長はチェックするので主要ポイントさえ簡単に確認したら後は簡単なコメントつけて融資係にそのまま回します。

次に融資の審査に時間の掛かる場所は融資部門です。これは融資係、融資先係長の順にまたチェックしていきますが、融資先係は融資事務係と呼んでもいい係なのでここも簡単なチェックでコメントを付けて迅速に融資係長に回します。問題はやはりこの融資係長です。

得意先部門とはまた違った視点で案件をチェックします。特にこの部門を通過すればよほどの問題案件でもない限りその支店ではお墨付きを受けたも同様なので、やはり融資先係長はその分野の最終責任者として手抜きはできません。徹底してチェックし、中途半端な書類だとこの段階で得意先係に再修正のため戻されます。これがまた時間の掛かる理由です。また支店長もほとんどの場合、融資責任者にはそのような責任感の強い緻密なタイプを配置しているものです。

最後の融資決定者、支店長

この後の流れは簡単です。融資部門で案件が十分練られ検討された後、次長、支店長と最終決済のため案件が上がっていきます。得意先係長と同様、次長では通過にあまり時間が掛かりません。ただし融資係長が彼らに信頼されていることが前提です。支店長まで融資案件が上がるともうよほどのことがない限り承認の決済が行われます。

しかしここでも面白い現象があって、得意先部門ばかりで昇進してきた支店長と支店の融資部門や本部の審査部を経験した支店長では決済までの時間の掛け方にやはり差があります。ラーメンの汁で言えばあっさりとこってりの差くらいです。こってり型支店長だとここでまた審査に時間が掛かります。早い支店長なら1時間以内で承認しますが、遅いタイプは決済まで何日も費します。

また融資案件によってはさらに時間の掛かるケースがあります。

銀行の各支店には本部から支店長に専決決済権限というものが与えられていて、これは一定の融資金額以内なら支店長が単独で最終決済をしても良いという権限のことを言います。またこれは支店の規模によって異なり当然大きい支店ほど決裁権限額も上がります。専決決済の趣旨は融資決済を迅速化・効率化させるためです。

融資金額は事業所単位でカウントされるので新規申込み、あるいは既に一定額の融資がある先が増額を申し込んだ結果、総額で支店長専決決裁権限額を超えればその案件は本部に送られ審査部で審査・決済を受けることになります。その他、その事業主の決算書が債務超過のような場合も支店長は単独決済できず審査部送りとなります。ただ審査部が決済する案件でも実際は現場の長たる支店長の意見が大きく反映されます。

事業主が受け身で審査を待たない方法

このように銀行の審査には時間が掛かりますが、事業主にも銀行に審査を早めてもらう方法が無いわけではありません。それをいくつか挙げます。

①得意先係にプレッシャーを掛ける

事業主が直接銀行に出かけて融資部門や支店長に「まだか」と詰め寄るのは印象を悪くするので全くお勧めできませんが、よく顔を合わしている得意先係に融資の回答を早めてもらうように要求することは問題ありません。得意先係も自分の受けた案件なので責任感があれば当然気にしています。支店に帰ったら、自分の案件がどの段階を回されているかチェックして、遅くなっているようなら早く回すよう内部で交渉してくれるでしょう。著者もできるだけ早くストレスから解放されたいのでこの手はよく使いました。

ただし禁物なことは感情的なプレッシャーを掛けすぎて得意先係を敵に回さないことです。相手も人間ですからやり過ぎると反発を覚えて表面的には従順にその場を取り繕っても、本音は「この事業者には次は絶対融資はしない」「二度とこの事業主には寄りつかない」と思っているかも知れません。依頼もほどほどで留めて下さい。

②融資申込みではきちんと融資の実行日を詰めて依頼する

事業主が融資実行日をあいまいなまま依頼すると、得意先係は「急がないのだな」と勝手に判断してそれに応じた仕事をしてしまいます。つまり後回しにされる可能性が高くなります。必ず融資金額と実行日はセットで依頼してください。「いつでもいい」は絶対ダメです。また必ず定期的に得意先係に連絡を入れて審査の進捗を聞くのもストレスが溜まらない良い方法です。

受身的に融資がいつ出るかやきもきしながら待つよりも、今どれくらい審査が進んでいるか、それを知ることだけでも、資金繰りで色々な対策ができる心の準備になります。