シェーブルチーズは、今まで紹介してきたチーズとは少し異なるものです。その特徴を踏まえず、一般的なチーズと同じような感覚で出してしまうと少し困ったことになるかもしれません。ここではシェーブルチーズの特徴を抑えつつ、飲食店で出せるものについて考えていきましょう。
シェーブルチーズはそもそも原材料が違う
シェーブルチーズが、ほかのチーズとまったく違う扱いをされるのは、シェーブルチーズの持つ特性によります。
ほかのチーズは、一般的に、牛の乳から作られています。しかしシェーブルチーズの場合は牛の乳ではなくて山羊の乳から作られています。牛乳で作られるチーズほどメジャーではありませんが、実は、「歴史」という意味で考えると、シェーブルチーズの方が歴史は長いと言われています。
牛乳の乳で作られたチーズに慣れた人の場合は、シェーブルチーズには食べにくさを感じることも多いでしょう。なぜならシェーブルチーズには、牛乳で作られたチーズとは違う独特の香りがあるからです。これを「臭み」と感じる人もいます。
このシェーブルチーズは、商品によってまったく味わいが異なります。また、なかには白かびや青かびを植え付けたものなどもあるため、その味わいは多岐に及ぶでしょう。もっとも青かびのシェーブルチーズはなかなか出てきにくいので、なかなか目にすることはないかもしれません。フランス生まれの「ペルシーユ・ドゥ・マレ」などがそれです。
ここでは、一般的なシェーブルチーズのなかから面白いものをいくつか紹介します。
食べやすいものから食べにくい物まで…ヤギ乳を使ったチーズ
ヤギ乳を使ったチーズのなかでも、特に面白いものと言えば、ノルウェー生まれの「イエオスト(「イエトスト」とも)」でしょう。これはキャラメルそっくりの外見と味を持つという、不思議なチーズです。一口食べれば口のなかいっぱいに生キャラメルのような味わいと方向が広がるでしょう。ただし、甘味が強すぎるわけではありません。キャラメルにも似た香ばしさが広がりますが、砂糖のような甘さは感じないでしょう。
お客様にお出しするときはそれをよく説明したうえで、「もっと『おつまみのチーズとして楽しみたい』ということであれば、唇で潰すように食べてください」とひと言添えると良いでしょう。
これは貴腐ワインと非常に相性がよいチーズです。貴腐ワインは高額でとても甘いチーズとしてよく知られていますが、デザートワインの一種であり女性に人気の種類ということで取り入れているバーもあるのではないでしょうか。そのおつまみとしてイエオステはとても適しています。また、ヤギ乳に慣れていない人にもおすすめ。
酸味と甘み、両方を兼ね備える「クーロンヌ・ロショワーズ(「クーロンヌ ロショワーズ」とも)」は、ドーナッツのような形をしているチーズです。これはかんむりの形をしているとも言われており、「クーロンヌ」という名前もそこからきています。
表面には灰もまぶしてあり、非常に独創的な外見をしています。しかしその内部は意外なほどにけれんみがなく、シェーブルチーズに慣れていない人でも比較的食べやすい味わいに仕上がっているのが特徴です。数多くのシェーブルチーズを排出しているフランスのアンドル・エ・ロワール地方で作られているこれは、白ワインの相棒に最適です。女子会などにもよいでしょう。
ただ、飲食店で出すときは、多くの場合、切り分けて供することになります。そのため、クーロンヌ・ロショワーズ最大の特徴であるその面白い形を見せられないのが残念です。
やや男性向け、ワインバルなどでぜひ出したいシェーブルチーズとして、「ロカマトール(「ロカマドゥール」とも)」を紹介しておきましょう。
これは、「これぞシェーブルチーズ!」と言いたくなるような、非常に個性豊かで濃厚な味わいが特徴です。香りも強く、パンチがあります。
コインのような形をしたチーズで、中はよく熟成しており、切るととろりと中身があふれてきます。
酔っぱらってしまいそうなほどの強い芳香は、チーズ好きの人にはたまらないでしょう。「ワインバル」「おつまみが個性的なお店」を打ち出すのなら入れることを考慮したいチーズです。ただ、初心者さんにはそれほどおすすめできないチーズであることもたしか。そのような場合は別のチーズをすかさずご案内することが大切です。
あくまで個人的な主観ではありますが、赤ワインと相性がよいチーズです。しかし中身は意外なほど柔らかいので、白ワインでも物によってはなじむでしょう。
このように、お店で出すべきシェーブルチーズというのは、飲食店の客層やメニューによって大きく変わります。ただこれはシェーブルチーズだけの話ではありませんし、チーズそのものだけの話でもありません。ほかのどんな料理や設備であっても、同じことが言えます。基本を踏まえたうえで、「自分なら何を勧めるか」「どのプランが自分と会っているか」を考えていきましょう。