飲食店を経営していると、さまざまなトラブルに見舞われることになります。そのなかの一つが、「見本と違う!」というクレームでしょう。今回はこれについて見ていきましょう。
明らかな「騙し」は返金の対象となる
「見本と違う」場合、悪質であるのなら、当然お客様に返金をしなければいけなくなります。
たとえば、メニューブックには5本の焼き鳥串が写っており、それを「焼き鳥の盛り合わせ」としているが、出すのは3本だけだった、という場合。これは当然返金の対象となります。
以前問題にもなりましたが、記載されていた素材と違うグレードのものを出した場合も返金しなければなりません。たとえば、「松阪牛のステーキ」と書いているのに、実際にだしているのはオージービーフのステーキだった、というような場合です。
「鯛の蒸し焼き」としていたが、鯛が手に入らなかったのでスズキの蒸し焼きにした、という場合も当然のことながらアウトです。
これらのようなケースは、「見本と違う!」ということもそうですが、飲食店のあり方としてそもそも大きな問題を抱えています。返金だけでは済まなくなり、店の存続自体が危ぶまれるケースも出てきます。悪徳業者として知られてしまえば、経営自体が立ち行かなくなることでしょう。
ちなみにこれらは「景品表示法」で厳しく定められています。これは「努力義務」ではないので、守らないと罰金などの罰則が与えられます。現在はSNSやクチコミもありますから、悪質なことをしていた場合、あっという間に拡散されて話題になります。
なぜ、どうして? 「見本と違う」が起こるそれ以外の理由
「まったく違う素材だった」「量が違う」というケースは、飲食店側に100パーセントの非があります。このため、これらに対する意見は正当なものであり、返金の対象となるというのはある意味では当たり前のことです。
ただ、それ以外にも、「見本と同じ素材を使い、同じ量で出しているにも関わらず、お客様から見本とは違うというクレームが入った」というケースもあるでしょう。むしろ、飲食店を誠実に経営している人であるのなら、このようなケースの方が多いかもしれません。
飲食店を経営している方の立場としては、「見本とそっくり同じものが作れるはずがない」というのが本音でしょう。特にメニューブックに載せる見本の場合は、プロのカメラマンを雇い、シズル感を大切にして撮影をしてもらうわけです。言ってみれば、「現物を、現物以上に美しく撮り、購買意欲を掻き立てること」を目的としているのですから、出てくるものとメニューブックの写真がそっくり同じであるはずがない、とさえ言えます。
また、料理をする料理担当者の技術によっても「再現度」は違います。私自身が飲食店で働いていたときの経験談ですが、「メニューブックとまったく同じ配置、同じソースのかけ方」を実現する人もいれば、「ソースのかけ方も料理の置き方もバラバラ、付け合わせの位置も違う」という人もいました。同じ素材を使っていても、盛り付けに気を付ける人・盛り付けがきれいな人と、盛り付けにそれほど気を使わない人・盛り付けがそれほどきれいではない人がいるわけです。
「同じ味なんだからいいだろう」「個人差や技量の問題もある」と考えるのは、飲食店側からすれば当たり前のことです。
このようなケースの場合、お客様からクレームを入れられても、原則としては返金をお断りすることができます。これを認めてしまった場合、たとえば「つけあわせの位置が2センチずれていた」などのようなケースでも返金しなければならないのか、という問題も出てきます。「どこまで」という線引きが非常に難しいのです。
飲食店の言い分もわかるけれど…
ただ、「線引きは難しい」とは言うものの、実際にはクレームを入れられると、作り直すというケースも多いのではないでしょうか。さすがに「つけあわせの位置が2センチずれていた」というだけでは作り直しまではしなかったとしても、「あまりにも料理のレイアウトが崩れており、皿の外に飛び出ている」「2種類のソースを使っているが、本来は混ざり合うべきではないそのソースが混ざり合ってしまっている」などのようなケースの場合は断ることは難しいと思われます。(「返金」にしてしまうとお金目当ての人が来てしまう可能性があるので、ここはやはり、「作り直す」というかたちで対応するのが望ましいと思われます)
また、そもそも、このようなクレームが来ないようにするために、「盛り付け技術」も含めて調理担当の腕を均一化する教育をすることも重要です。「見た目の美しさ」は味を大きく左右するものですから、これがきれいになっていないと食欲も損なわれるでしょう。飲食店を経営していくためには、「見た目の美しさ」「盛り付けの技術」をスタッフに教えるのもとても大切なのです。