「労災」は、起こってしまうと、けがをしてしまう当事者も、また労災が起こることで保険料が上がってしまう可能性がある運営者にとっても不幸なことです。
そのため、「どのようにしたら労災が起きないようにできるか」をを常に考え、取り組んでいく必要があると言えるでしょう。
ステッカーを貼る、それだけでも抑止力となりうる
油物を扱う飲食店の場合、床がすべりやすくなっています。「転倒」は飲食店の労災のなかでももっとも多くの割合を占めるものであり、これの対策を考えることは非常に重要です。
このようなけがを防ぐためには、「ステッカーを貼る」というただそれだけのことがかなり有効です。「滑りやすい、注意!」「転倒注意!」というのが書かれたステッカーを足元に貼っておくと、従業員は常にそれを意識することになります。
また、この「ステッカー」は、飲食店の労災として「転倒」の次に多い、「切れ・こすれ」にも有効です。刃物の危険を呼びかけるステッカーなどもあるからです。また、火傷に警鐘を鳴らすステッカーもあります。
飲食店であるため、客席側にこのようなステッカーを貼ることはとても難しいでしょう。しかし厨房やバックヤードにこのステッカーを貼ることはできます。
整理整頓が労災を防ぐ
意外に思われるかもしれませんが、「整理整頓」もまた、労災を防ぐための手立てとなります。整理整頓された場所というのは非常に物が見えやすく、物が管理しやすくなっています。「整理整頓されていなかったから、足元にあるダンボールにけつまずいて転んでしまった」「上から物が落ちてきてけがをしてしまった」という事態を避けることができます。
飲食店において、「清掃」は非常に重要なものです。店をきれいに清掃することで売り上げを上げることができる、というのがまず一つ。汚いお店には人は入ってこようとは思いません。
また、汚いお店の場合、いろいろなところに「本来いてはいけない菌」「繁殖した雑菌」がいることになります。これによって食中毒などが起こる可能性があり、極めて危険です。
そしてこの「清掃」は、労災を防ぐためにも役立ちます。
上でもお話ししたように、飲食店の床というのは、油汚れや水ハネで非常に転びやすい状況となっています。
しかしきちんと清掃し、足元をきれいにしておけば、これらのリスクを避けることができるでしょう。
マニュアルの徹底と問題の共有もしたい
製造業や建設業においては、しばしば、「マニュアルを無視していたために、重大な事故(労災事故)が発生した」という事例が認められます。
たとえば実際にあった件ですが、「相当に職歴をつんだ熟練の職人が、『今まで大丈夫だったから』『慣れているから』『これがあると動きにくいから』という理由で、安全帯(高所などで作業する際、万が一のことがあった際に体を支えて落下事故などを防ぐためのもの。文字通り、命綱となりうるもの)を外していた、あるいはいい加減な付け方しかしておらず、落下して死亡した」というものです。
このような事故は、定められたマニュアルを遵守していれば起きなかった、あるいは格段に軽いけがで済んだ事故なのです。
飲食店においては、ここまでの事故は少ないかもしれません。
しかしマニュアルを無視してしまったためにスライサーでけがをするなどの事故は、たびたびみられます。
会社側が作る「マニュアル」、特にそのなかの「安全に関する項目」は、必ず理由があります。それを「面倒だから」「合理的ではないから」「もう慣れてきたから」という理由で無視することがあってはいけません。むしろ、少し慣れてきたくらいのときが一番危ないと考え、マニュアルを遵守することの大切さを広く教えていくべきなのです。
さて、もう一つ取り組んでほしいところがあります。
それが、「問題が起きた時、それを全員で共有する」ということです。
「労働中にけがが起こること」はなんとなくわかっていても、それを実感としてとらえることは難しいということもあります。
「自分のことではない」「自分にけがなど起こらない」と考えてしまいがちなのです。実際に、どれだけ書物やマニュアル、あるいはWEB媒体で「労災は起こりうるものだ」と説いても、それを自分のことだと感じ取れない人は多いと思われます。
しかし、同じ職場で働く、顔もよく知った、会話も交わしている人が、実際にけがをしたのならどうでしょうか。
だれもが「自分の身にも起こりうることだ」「自分の職場でも起こりうることなのだ」と、実感として労災を身近なものだと認識することでしょう。そしてこのような認識は、「次の労災」を防ぐために非常に役立ちます。
飲食店を経営しているときには、「労災」という言葉とは無縁でいられなくなることもあるでしょう。
しかし、労災はだれにとっても不幸なものです。それを防ぐためにさまざまな予防策をとることは、経営者にとって、必要不可欠なことだと言えるでしょう。