飲食店での接客トラブルは、必ずしも、従業員側に問題があって起こるものばかりではありません。お客側に100パーセントの問題があって起こることもあります。今回はそのなかでも非常に重い問題になりがちな「セクハラ」についてお話していきます。
飲食店でのセクハラ被害は決して珍しいことではない
まず飲食店を経営している人に心得ておいてほしいのは、「お客側からのセクハラというのは、決して珍しいことではない」ということです。
経営者が男性の場合は実感として感じにくいかもしれませんが、男性客から心ない言葉を掛けられる女性従業員というのは、決して少なくはありません。(もちろん、男性客が男性従業員にセクハラ発言をしたり、女性客が行ったりすることもゼロではありませんが、極めてまれなケースだと思われるので、ここでは男性客が女性従業員に対して行うセクハラ行為について見ていきます)
特に居酒屋や深夜経営のファミリーレストランなどでは、その危険性が高くなります。お酒が入っているということもありますし、深夜ということで日中のお客様とは違った客層になることもあるからです。そしてそのなかには、「レストランや居酒屋を、キャバクラなどと一緒なものだと思っている」という人もいます。
実例として、女性従業員に「ここに座って酌をしろ」と言ってきた人もいました。従業員がそれを断ると、「これも仕事だろうが!」とブチギレた、という話もあります。
どこまでがセクハラか~経営者の責任とは
「どこまでがセクハラか」というのは、なかなか線引きが難しいところでもあります。ただ、現在では「行動」だけでなく、「発言」もセクハラとされます。無理に何度もデートに誘ったり、恋人の有無をしつこく聞いたり、容姿などについての言及などもセクハラにあたることもあります。
これらのセクハラ行為があって困っている、と従業員からの訴えがあるにも関わらず、経営者が何ら対策を講じなかった場合、男女雇用機会均等法の第11条に違反しているとみられます。場合によっては損害賠償責任などが生まれる可能性もありますので、経営者としての注意も必要です。
また、事実確認は大切ですが、従業員からの訴えが真実であったとわかった場合は、「それくらい我慢できるだろう」「みんなは我慢している」「そんなこと言うくらいなら辞めれば?」などの言葉は絶対に言ってはいけません。お店全体が一丸となってセクハラを撲滅していく、という認識でいてください。
できうる対策について考える
では、このような「お客側からのセクハラ」についてはどのように対応していったらよいのでしょうか。
まず真っ先に考えられるのが、「そのお客の対応を男性従業員に任せる」ということでしょう。男性従業員ならば絶対にセクハラ被害にあわないか、というと必ずしもイエスとは言えませんが、確率はぐっと低くなります。女性従業員から、「あの席のお客からセクハラ発言を受けた」と相談されたのなら、その場ですぐにその席の担当者を男性に変えましょう。注文を受けるとき、料理を出すとき、レジでの会計まで、すべて男性従業員に任せます。
もちろん、男性従業員がほかの席で接客をしており、すぐには動けないこともあるかもしれません。しかし基本的にはそのときに生じるタイムラグというのは、それほど大きいものではないので、少し待たせておくことを覚悟のうえで、このような対処をしましょう。
そのお客がいわゆる「一見さん」の場合は、これで十分対応が可能です。
常連客がセクハラをしてくる、という場合で、かつ注意をしても聞き入れられないということならば、ためらいなく、「出入り禁止」の措置をしてください。責任者がいる時間帯であるのならば、その責任者が責任を以て、そのお客が来店してきたときに「ご入店はお断りします」と言い切ってください。それ以外の時間帯にも、このことは周知徹底しましょう。「あの時間は入れた」となると、さらに大きなトラブルに発展しかねません。責任者以外の人だと怖かったり二の足を踏んだりするかもしれませんが、強い気持ちで「出入り禁止」を言い渡すように指導してください。
それでもまだ入店してこようとする、というケースでは、警察に連絡するように指導してください。もしお店がセキュリティ会社と契約をしているということであれば、入店禁止を言い渡しても入ってこようとするというケースではためらわずセキュリティ会社を呼ぶようにします。
また、証拠などがそろっているのであれば、法的な措置も可能です。
しっかりと覚えておいてほしいのは、セクハラは純然たる「犯罪である」ということです。決して許されない犯罪行為であり、刑事罰の対象にもなりうることです。セクハラ行為をしてくるお客は、「お客様」ではありません。「犯罪者だ」と認識して、毅然とした対応をしましょう。