事業規模の小さい個人事業主や法人にとって最初に取引する金融機関はどこがいいでしょうか。
やはり色々な面で、とりわけ融資の面で便利で身近にある信用金庫だと著者は考えます。もしかして近所には同じく地域で営業している地方銀行や都市銀行の支店もあるかもしれません。それでも事業主には金融機関の取引では信用金庫との取引をまず優先してもらいたいと思います。
以下ではなぜ信用金庫の取引は必要なのか、どのような信用金庫と取引すべきか、またその理由はなぜなのかなど色々な視点から信用金庫取引の必要性を解説します。
信用金庫とは
信用金庫とは銀行とそもそも成り立ちが異なります。
銀行は営利を目的に活動している事業体ですが、信用金庫は営利でなく相互扶助を目的として設立された共同組織の金融機関です。主な構成員は地域の個人や法人で、出資金を払い込むことで信用金庫の会員になれます。信用金庫の活動は金融活動を通じて会員相互間の便益を図り地域社会の発展に貢献することを目的としているので営利活動を基本としている銀行とはかなり取り組みの姿勢が異なります。
事業主はまず同じ金融機関と言っても両者がこれだけ性格が異なる金融機関であることを知っておく必要があります。
信用金庫の規模にはかなりの差がある
2016年3月基準で全国の信用金庫の概況を調べてみました。
全国信用金庫預金ランキングの1位は京都中央信用金庫です。預金量は4兆4,008億円あります。現在信金は全国に265信金あり265位の日田信用金庫の預金量は417億円です。その差は約105倍です。
一方この規模を地方銀行で比べると信金トップの京都中央信用金庫の預金量に匹敵するのは地銀64行中20位の南都銀行の4兆5,971億円です。地銀64位の富山銀行の預金量は4,152億円なので信金265位の日田信用金庫の約10倍となります。
このように同じ信用金庫と言っても上位の信用金庫と下位の信用金庫では規模に相当の開きがあり、トップクラスになると並みの地銀をしのぐ預金量なので事業主はどの信用金庫と取引するべきか迷ってしまいますね。
信用金庫はあくまで信用金庫である
しかしいくら規模が地銀をしのぐ信用金庫であったとしても各信用金庫は信用金庫法という法律で規制されているので、根本的な共同組織体を通じた相互扶助という設立精神は引き継いでいます。しかも事業主が取引をする単位は信金そのものでなく個々の支店です。事業主がその成り立ちさえ理解していれば信金の規模の大小は信用金庫取引に限りほとんど関係ないと考えます。
ただし規模が大きいということは規模のメリットが働くので、顧客は預金ランキング上位の信用金庫の支店と取引するほうが下位の信用金庫の支店と取引するより低い金利の貸付を受けられる可能性はあります。しかしこれは事業主がどの地域で営業しているか、自分の営業先または居住地域で一番近くて便利な信用金庫はどこかという地域性の問題も絡んでくるので一律に語るには難しい話です。
さらに信用金庫は営業している一定地域を超えて顧客と取引をすることが信用金庫法で制限されているので顧客も自由に地域を超えた信用金庫を取引先とすることもできません。
事業主が信金取引を必要とする理由
事業規模の小さい個人事業主・法人はまず融資に関して信金取引を優先すべきと筆者は考えます。理由はなにより融通が利くからです。
事業をやっていればいつ資金繰りで苦境に陥るかもしれません。急に売り上げが落ちた、売掛金の回収が遅れてしまった、突然大きな受注があり急いで材料を仕入れしなくてはならなくなった、などなど追加資金を必要とすることが突然発生します。手元に現金の余裕がなければ取引金融機関に追加融資を頼まねばなりません。
このような時に地銀や都銀の支店をメインバンクにしておくと緊急の融資に間に合わないことが多いです。なにより地銀や都銀はこのような小口で緊急のつなぎ融資や短期資金融資に消極的です。
大きい銀行ほど特にこの傾向が強く、融資額も1千万円とか5千万円単位の融資実行を好みます。しかし実は審査に掛かる時間は融資金額が数百万円でも数千万円でもあまり変わりません。これは私も元地銀の行員なので経験済みです。そのため都地銀では効率面から融資ではできるだけ融資額の1単位が大きく、さらに審査は1回で済み融資実行後、長期間残高が残って金利が得られる長期運転資金や設備資金の案件を好みます。逆に言うとこれが短期資金融資のようにすぐ返済されて審査には手間だけかかる融資を嫌う理由です。
一方融資の対応でこれの対極にあるのが信用金庫です。
信用金庫はそもそも融資のターゲットを支店のある地元の中小企業・個人に置いているので、会員の無理な要求にもかなり応えてくれる姿勢が整っています。なので、緊急のつなぎ資金や各種の短期資金融資にも快く応じてくれる可能性が高いのです。
ただ一般的に地銀や都銀に比べて支店の規模が小さいので、経営的に成り立つためには融資の金利は高くせざるを得ません。事業主として融資も受けやすく、かつ融資金利も安い金融機関と取引したい気持ちは分からないではありませんが、信用金庫も経営的にどこかでバランスを取らねばならないので、信金から融通の利く融資が受けられる一方、金利が割高になることは事業主として受け入れるべきだと筆者は考えます。
いずれにしても信用金庫の取引はこのような点からも小規模な事業主には必要不可欠なものだと考えています。
複数の金融機関取引から考える信金取引の重要性
事業主の中に「自分の事業は小さいので銀行取引は近くの地銀1行でいい」と主張されて頑固に守る方がいます。それって本当にいいのでしょうか?著者としては否定的です。
銀行取引数に制限はありません。個人ならいざ知らず、いつ融資を必要とするかもしれない事業主はできるだけ複数の金融機関と取引しておくことを著者は強くおススメします。
ただし前に述べたように都銀・地銀と信用金庫はその成り立ちや融資の姿勢も大きく異なります。事業主にはまさにその金融機関ごとの性格の違いを逆手にとってうまく融資の申込や利用で活用してもらいたいと思います。
複数取引は金融機関相互に融資条件を競争させることでよりよい融資条件を引き出すことにも使えます。またひとつの金融機関が一事業所に融資できる額にも上限があります。貸し倒れなどの融資リスクを回避するためです。しかし複数の金融機関と取引していれば、それぞれ独立して審査しますし、また各々の金融機関が融資シェアを上げたいので競争の結果、その事業主が期待している以上の融資が実行されることもあります。
またそれぞれの金融機関の性格を把握して、臨機応変に短期や長期の資金が出易い金融機関に依頼することもできるでしょう。
その点では事業主に取ってメインバンクに位置付ける信用金庫との取引は必要不可欠なものと言えます。
まとめ
これまで述べてきたように信用金庫との取引メリットは色々あります。また信用金庫との取引開始は垣根が低くそれほど難しいものではありません。
たとえば現在でも信用金庫はその性格上顧客と定期的に接点を持つことが一番重要と考えているので多くの信金で定期積金の集金制度を残しています。
一方私の勤務していた地銀などでは早くから営業効率化のため集金制度を止めて、それでも定期集金を望む顧客には有料化して対応したので今では集金などの実態はほとんどなくなっています。同じ地方で金融業を営む地銀と信用金庫でもこれだけ顧客への対応が異なるのです。
事業主にはまずは定期積金で信用金庫と取引を開始して、実績を積みながら必要なタイミングで融資を申し込んで頂きたいと思います。それ以外の近隣他行との取引開始は信金取引の基盤が十分固まってからでも遅くはないと著者は考えています。