事業主が銀行と融資取引をしていると担保を求められることがあります。担保とは銀行が融資に関して将来生じるかも知れない不利益(貸倒れ等)に対してそれを補うために融資先に物を求める行為を言い、物的担保の代表が土地建物です。融資先が返済不能の状態になり一定期間経つと、銀行は最終的にその担保物件を売却・換金して融資残金の返済に充てます。
そこでこの記事では元地方銀行に勤務経験を持つ著者が、その担保物件についての銀行の取り扱いと併せて事業主に対しその有効な活用方法について解説します。
銀行融資と担保の種類
担保は通常土地・建物・預金・債権(国債・公社債等)・株券などがありこれらは一般的に銀行融資の担保に使えます。建物も土地同様、銀行担保の主要な物件ですが、年月とともに価値が減価する性格があることを理由に新築から5年~8年位までは担保物件として価値を認めていますが10年も経過するとほぼ資産価値ゼロとして取り扱う銀行も多いです。
一方預金は換金性や価値が安定しているので銀行での担保評価は100%で取り扱いますが、国債・公社債や株券などはその発行主体によって価値の変動があるので一般的に評価を時価の50%~80%に落として査定します。
土地は銀行担保としては最も主要なものですが、やはり貸倒れに備えて受入れには換金性の高いものが中心になり、換金性の乏しいものは担保不適格物件として銀行が受け入れてくれません。
不適格物件としては以下のようなものが上げられます。
①土地が市街化調整のような建物建築に規制のある地域にある物件
②農地のように特定の人にのみ売買が制限されている物件
③山奥にある土地で著しく換金性の低いもの
④間口が著しく狭く奥に長い形状の土地(通称うなぎの寝床と言われる物件)
⑤その土地の上に建物が立っていて建物が未登記の物件(建物を登記してもらうことで担保にできる場合があります)
抵当権と根抵当権の違い
先ほど述べたように銀行担保で最もポピュラーなのは土地ですが、担保を説明する前に押さえておきたい用語があります。それが抵当権と根抵当権です。やや難しい表現をすると、抵当権とは債権者(銀行)と債務者(融資を受けた顧客)の間に生じる特定の債務を担保する権利のことを指します。一方根抵当権とは債権者と債務者の間に生じる不特定多数の債務を一括して担保する権利のことです。
これらの権利は銀行が債務者に承諾を得て法務局に登記をすることで確定します。元々昔は担保と言えば抵当権しかなかったのですが、抵当権の発展型として根抵当権が生まれてきた歴史があります。
もう少し分かり易くするため住宅ローンと事業性融資を例に抵当権と根抵当権の違いを説明します。
住宅ローンにも担保として土地・建物を一体で権利を付けますがその権利が抵当権です。抵当権では住宅ローンの残高が返済で下がれば同時に金融機関の請求できる権利も同額で減価していきます。またこの権利は住宅ローン以外の債権には使えません。これが抵当権でまさに特定の債権と一対の関係にあります。そのため住宅ローン残高が最終ゼロになれば抵当権も権利が消滅します。
一方根抵当権は法務局に極度額○○円と登記されます。根抵当権の場合は、銀行が債務者とともに法務局に権利の抹消登記を出さない限りその権利が消えることがありません。これは銀行と取引先が融資取引をしている間、銀行は融資の形態に関係なくその極度額の範囲までは担保としての権利を遂行できることを意味しています。ここで融資の形態とは割引手形、手形貸付、長期貸付、当座貸越等を指し、顧客の融資の形態や残高に関係なく根抵当権は独立した権利として維持されていることを意味します。事業融資に関しては取引ごとに常に残高が増えたり減ったりしますが、根抵当権は残高に関係なく設定極度額の範囲で常に有効であるとみなされています。
そのため融資を受ける顧客は融資が発生するたびに抵当権を登記する手間と費用が省けて節約になりますし、銀行としても抹消登記がされない限り、引き続き融資債権の担保として利用することができるメリットがあります。
担保の評価と融資との関連性
次に銀行ではどのように土地を担保として評価しているかについて説明します。
土地の値段の付け方には色々あります。毎年1月1日に国土交通省から出されているのが全国の標準地の地価公示価格、国税庁から出されているのが相続税計算時の根拠にもなっている路線価、そして実際の土地取引で成立した売買価格(実勢価格)です。
銀行員が顧客から示された土地を担保評価する時には、これらの要素を比較検討しながら評価額を決めることになります。手順としてはその土地の近隣に実際に土地の売買事例があればそれらをメインに、地価公示価格や路線価を参考にして最終評価価格を決めます。一般的には売買事例価格>担保土地の評価価格>地価公示価格>路線価の順に低くなります。
そこで銀行員としては根抵当権の設定をするため土地の評価を出しますが、計算方法としては㎡あたりの土地単価を出してそれに土地の面積を掛けて土地の評価額を出します。
住宅ローンの場合は抵当権であることを理由に通常100%で土地の評価をすることが多いのですが、事業性融資の場合、根抵当権設定が一般的なので、評価はさらにそこから60%~70%に落とすことが多いです。なぜなら担保なので、仮に融資先が返済不能になった場合、最終的に市場で土地を売却して換金しようとしますが、一般的にすぐには換金できず時間が掛かるからです。その間の土地の管理コスト、未収利息、売却に掛かる費用等を考慮すれば評価は6~7割まで下げざるを得ないわけです。
したがっていくら事業主がウチの土地は時価で○○円で売れるので同額の融資をしてくれと求めても、金融機関側にも評価で譲れない理由がありますから、この行内の担保評価の方法をちゃんと理解したうえで、事業主は銀行との融資条件交渉に臨まなければなりません。
飲食店主に知っておいて欲しい担保を活用した銀行融資の利用方法
上記のような銀行の仕組みを知った上で事業主には融資の申し込みで担保を使う場合、しっかりした戦略を立てて交渉してもらいたいと思います。
①担保を隠し玉に使え
事業主は交渉当初から銀行に担保を差し出す意思を示してはいけません。銀行は本音を言えば担保は喉から手が出るほど欲しいのですから事業主が最初から手の内を示す必要はありません。じっくりと銀行の示す融資条件を聞いて、さらに他行の条件も頭に浮かべながら時間を掛けて比較検討して下さい。この段階でもしその銀行の条件が良いと判断したら、さらに良い条件が提示されるかどうか、少しずつ担保の話も持ち出して相手の反応を確かめてみましょう。
②銀行によって担保評価の掛け目は変化する
これも融資条件交渉のミソで銀行によって同じ担保でも評価額が変わることが良くあります。事業主としてはできるだけ高く土地を評価してくれる銀行と取引したいですよね。そのためには日頃から複数の金融機関と取引をしながら各行に自社物件の担保評価について確認しておく必要があります。担保の評価は企業秘密なので直接聞いても正面からは銀行は答えてくれませんが、融資交渉の中では得意先係や融資係と会話の中にチラホラと漏れ出てきますので、事業主は聞き漏らさないよう常に情報感度を上げておいてください。
③担保を出すなら長期資金に使うこと
せっかく担保を出すならできるだけ安定して使える中長期融資の担保に出したいですね。銀行に短期資金融資の見返りで担保に出してしまうと後で短期資金を返済したのちに融資姿勢を変えられて追加融資に応じてくれないことがあります。また担保を抹消しようとしてものらりくらりと銀行の抵抗にあいます。そういう銀行の変節も踏まえた上でできるだけ長期運転資金や設備資金が利用できる担保として活用しましょう。
また担保があればたとえ事業内容が悪化していても銀行が融資に応じてくれる可能性が高くなります。事業が順調な時は融資に関して簡単には銀行の担保要請に応じず、できるだけ厳しい業況時のために担保を温存しておくのも手だと思います。
いずれにしても事業融資に不可欠な担保物件、できるだけ効果的な活用を図ってください。