飲食店経営者に知っておいて欲しい銀行融資のタイプと利用方法

事業主が融資を利用する時に理解が必要なそれぞれの融資タイプの基本的知識を解説し、さらに飲食店経営者の融資に特に身近な手形貸付、証書貸付を中心に詳しく利用方法を説明します。


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銀行の融資には短期資金と長期資金があります。この分類は期間を1年と定めて、1年以内に返済期限が来るものを短期資金、1年を超える返済期間を定める融資を長期資金と呼んでいます。

また銀行には融資のタイプに応じて大きく4つの型があり、短期資金には、手形貸付、当座貸越、手形割引が、長期資金には証書貸付が対応しています。

ここでは事業主が融資を利用する時に理解が必要なそれぞれの融資タイプの基本的知識を解説し、さらに飲食店経営者の融資に特に身近な手形貸付、証書貸付を中心に詳しく利用方法を説明します。

手形貸付

手形貸付は短期資金の代表的な融資タイプです。飲食店事業でも運転資金を借りる場合よく使われる融資の方法です。

事業主が銀行から手形貸付で融資を受ける場合、銀行が用意した貸付用手形に必要な融資金額を記入して、事業主の署名、押印をして銀行にその手形を差し入れします。この場合、この手形の発行人(振出人とも言います)はその事業主、受取人は銀行という関係になります。

手形の返済期日は発行日から3ケ月が相場です。主な資金使途は商品仕入れ資金や売上代金回収までのつなぎ資金等です。また資金使途によっては手形期間6ケ月の場合もあり、納税資金や賞与資金に使われます。
融資の方法は資金交付時に手形発行日から返済期日までの金利が計算され、その金利分全額が融資元金から控除されて残金が事業主の口座に振込されます。つまり利息が先取りされます。そのため融資金額がそのまま振り込まれることがないので注意が必要です。

期間が短期であっても銀行にとっては融資です。そのため事業主の信用状態が低いと融資の前に条件として銀行から担保を求められることもあります。

また返済期日に決済が出来なくて事業主が手形の返済期日の延長を求めることがあります。銀行としても事業主に返済の目途があるなら延長に応じますが、事業主が何度も延長を申し出ると(コロガシ単名と呼びます)銀行も不信感を持つようになるので、事業主も次からの融資を受けるためにもきちんと返済期日には手形を決済する癖をつけておいた方がいいと思います。

証書貸付

証書貸付は銀行で長期資金を借りる際の融資タイプです。

飲食店経営者もできれば証書貸付による長期運転資金を借りておくほうが1度の審査と手続きで済むので短期資金で何度も借入を繰り返すより時間的にも効率的と思いますし、何より長期資金導入で資金繰りが安定します。

著者としてもこちらの融資タイプのほうが断然おススメです。

事業主が銀行から証書貸付で融資を借りる場合、まず銀行が用意した金銭消費貸借契約証書という書類に必要な事項を記入しなければなりません。ここには借入金額、金利、返済期間、返済方法など重要事項を記入しますが必ず事業主本人が記入しなければなりません。面倒臭いと銀行員に代筆を依頼することは絶対ダメです。また現在は銀行員も代筆をしないようにちゃんと銀行から厳しい訓練を受けています。(昔は安易な取り扱いが横行して後でトラブルの原因になっていました。)

重要事項の記入と内容確認が終わったら、事業主と銀行が相互に署名、押印をして同じものを2部作成します。それぞれが融資取引を継続している間、証拠書類としてお互いが保存しておきます。また信用が低い事業先には銀行は手形貸付同様、担保を求める場合があります。

証書貸付の返済財源は基本的に当期利益に減価償却費を加えた額になります。減価償却費は決算書の計算上の経費ですが、実際の現金の支出が伴いませんので返済財源の一部としてカウントできます。
そのため仮に当期利益が赤字でも減価償却費との合計額が証書貸付による融資の返済額を上回っていれば融資を受けることができます。

返済方法は一般的に元金均等返済と元利金均等返済がありますが、事業資金では銀行が融資金の早期回収を図る趣旨から毎月元金を均等に返済していく元金均等返済が一般的です。

簡単な事例をあげます。

例えば融資額3,000万円、返済期間5年とすると、3,000万円÷60ケ月(5年)=50万円が毎月の元金返済額になります。これに月ごとの利息を加えて毎月の返済額が決定されます。

証書貸付は長期運転資金だけでなく設備資金にも使えます。設備購入の場合、機械・什器類は事業に投入して継続して利用していくことからその価値の減少に関して減価償却処理が認められています。減価償却は設備ごとに法定償却期間が定められているので、設備購入を目的として融資を実行する場合、返済期間も償却期間に合わせて決めることが合理的と思います。

逆を言えば事業主が早く借入を返済したいことを理由に償却期間より短い返済期間で払うことを決めたら、毎月の返済額が過大になり、利益を超えて毎月必要な経常運転資金の一部からも払わねばならなくなってやがて資金繰りに支障を来すようになります。その結果さらに追加の借入が必要になってきて支払金利も増えるのでより資金繰りを圧迫します。これでは資金繰りしている意味がないので、あくまで合理的な基準に基づき返済期間は決めてほしいと思います。

当座貸越

当座貸越は短期資金の融資タイプのひとつです。飲食店経営者には事業者カードローンという表現をした方が分かりやすいでしょうか。

もちろん事業者カードローンは当座貸越の利用形態のひとつです。

ただし経営者に注意して欲しいことはこの事業者カードローンと言うのは、銀行や消費者金融等のノンバンクで個人向け小口融資として利用されている個人向けカードローンとは全く異なる事業融資ということです。混同されないようにお願いします。

当座貸越とは銀行により設定された極度額の範囲で何度も融資を繰り返し利用できる融資方式です。
タイプとしては①当座専用貸越方式②一般当座貸越方式のふたつがあり、事業者カードローンはこの①の当座専用貸越方式に属します。

この①当座専用貸越方式の方式では、当座貸越専用伝票を使って直接銀行から融資を受ける方法と、事業者カードローンのようにローンカードを使ってATMから借入する方法があります。

一方、②一般当座貸越方式では事業者が手形・小切手を利用するために取引銀行に開設した当座預金に当座貸越をセットすることで利用できます。

当座貸越には一定額の極度額が設定されているので、事業主が発行した手形・小切手が決済で当座預金から引き落とされる場合、仮に口座に残高がなくても極度額の範囲まではマイナスにして決済をしてくれます。これは当座預金に公共料金やクレジット等の決済が回ってきても同じように機能します。

この当座貸越で事業主が持っていて便利なのは事業者カードローンだと思います。手形貸付に比べて極度内で何度も反復利用できるので臨時にお金を借りる時に大変便利です。ただ利便性が高い分、手貸や証貸に比べても金利は割高でかつ審査も厳しめです。もちろん事業主の信用度が低ければこの融資形態でも担保が必要になります。

手形割引

最期に手形割引について説明します。

飲食店事業は現金商売なので通常この融資タイプの利用はありませんが、飲食店主が本業以外の他の事業を兼業でやっていた場合、手形を取り扱うこともあるかもしれないので参考程度に覚えておいてください。

事業主が商品・サービスを提供した対価として現金の代わりに手形を受け取ることがあります。特に卸売業や建設業では決済に手形の発行や受取が一般的です。

手形、特に約束手形は発行した事業者が手形を受け取った会社・個人事業主に一定期間後(通常3ケ月~6ケ月)に支払うことを約束した有価証券ですが、手形を受け取った会社・個人事業主は支払期日まで待たずその手形を取引銀行に持ち込み、銀行に買い取ってもらって(割引)早めに売上代金を回収することがあります。
この融資タイプを手形割引と言います。

手形割引では手形発行の背景に実際の商取引があるので、その手形が決済日までに発行先が倒産でもしない限り決済はほぼ確実であり、銀行も一般の銀行融資に比べて融資がしやすくなります。ただし手形発行先の会社の信用度合いが低い場合、手形を持ち込まれた銀行が割引することに難色を示す場合もあります。

まとめ

事業主が融資を受ける際の融資のタイプと利用上の注意点について述べてきましたがいかがでしたか。

融資タイプのそれぞれに長所短所がありますが、融資に関して銀行が事業主に一方的に融資の形を押し付けてくることがあり、事業主も自分の希望通りにならなくて納得いかないこともあります。そういう意味でもまず事業主としてこれらの融資の形に対する知識を正確に理解して銀行の提案に対して臨機応変に対応しなければなりません。また事業主がこれらの融資タイプをうまく使い分けることができるようになれば効率的な資金運営もできるようになるのでないかと著者は期待しています。