飲食店経営者も知っておきたい小切手の基礎知識

飲食店経営者も知っておきたい小切手の基礎知識

飲食店でもお客様からの売上代金の回収は現金でも、仕入れ先等への支払では小切手を使う場面はあります。また場合によっては売上代金の回収で顧客から小切手を受け取ることがあるかもしれません。そこで今回は重要な決済手段のひとつ、小切手について基礎的な事項を押さえつつその取扱いについて解説したいと思います。


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小切手は事業主が経営活動を行う上で業種を超えてよく用いられている決済手段の方法のひとつです。しかし飲食店経営は基本的に現金商売なので小切手を取り扱うことは他業種に比べて少ないと思います。ただ飲食店でもお客様からの売上代金の回収は現金でも、仕入れ先等への支払では小切手を使う場面はあります。また場合によっては売上代金の回収で顧客から小切手を受け取ることがあるかもしれません。

その場合、事業主が小切手について何の知識も持っていないと処理に困ってしまうでしょう。そこで今回は重要な決済手段のひとつ、小切手について基礎的な事項を押さえつつその取扱いについて解説したいと思います。

小切手とその使い途

小切手とは冒頭にも述べたように商取引で振込と共に各種決済手段のひとつとして広く用いられている方法のひとつです。
商売の相手にお金を支払う時、あるいは遠隔地の相手と決済する必要が生じた時など、現金そのものでは1円単位まで含めた現金を用意しなければいけないとか、あるいは運搬上のリスクとか色々な問題点が生じるのですが、これが小切手だと薄くて軽い1枚の有価証券になるので取り扱いが極めて簡単になります。その場で小切手を発行して相手に交付するか、または郵送処理で済むからです。

小切手を手に入れる方法

事業主が小切手を手に入れるためには会社経営者・個人事業主が取引している銀行を訪問して当座預金の開設を依頼する必要があります。当座預金とは無利息扱いの入金及び出金額に制限が加えられていない預金科目のひとつで、その名の通り当座(ごく短期)のお金を預けておく預金の事です。

当座預金が開設されるとその当座預金の名義主である事業者は銀行から1冊当たり50枚綴りの小切手帳を交付してもらえるのでその小切手帳を使って小切手が発行できるようになります。

小切手は一旦発行されると有価証券として独立して価値を持ち現金のように流通させることが可能になります。価値があると信じてもらえるからこそ相手は小切手を受け取ってくれます。その為には発行された小切手は必ず最終的にその当座預金を開設している事業者の口座から決済されなければなりません。

もし決済ができなかった場合、銀行用語で不渡りと言いますが、その経営者に非常に厳しい罰則が待っています。不渡りを6ケ月間の間に2回出した事業者は銀行取引停止処分を受け、以後2年間に渡り全ての銀行から一切の当座取引・融資取引ができないようになります。そのため小切手を発行する事業主はきちんと当座預金に小切手金額以上の決済資金を確保したうえで小切手を発行する癖を付けねばなりません。

取引先の事業主から当座預金開設依頼を受けると、銀行は融資審査に準じてその取引先が当座預金を開設するのが適切な先かどうか、普通預金等の過去の取引履歴、事業者としての信用状況、融資も含めた取引を総合的に勘案して慎重に判断しなければなりません。

しかしいったん当座預金が開設されると、その事業者は取引銀行から小切手を発行できる取引先として信任を得たことになりますので、取引で小切手を活用することで社会的信用度も高まり商売も一段とやり易くなるでしょう。小切手を使えるということはそのようなプラス効果もあるということを事業主は知っておくべきだと思います。

小切手の発行方法

小切手は50枚綴りの小切手帳から1枚ずつ切り離して使用します。発行時に必要なことは金額、発行日(振出日とも言います)の記入、発行者の住所・氏名の記載、そして当座預金の登録印での押印です。またその登録印で発行控えと割印することも必要です。

金額については改ざん防止のため、アラビア数字の場合はチェックライターと呼ばれる数字の刻印機を使用するか、漢数字(壱弐拾など)で表記する必要があります。また金額頭部には必ず¥または金を、金の場合はさらに金額の最後に円也を付けておかねばなりません。

事業主が小切手を発行した時によく記入漏れする項目に振出日(発行日)があります。小切手法では小切手の有効期限は振出日の翌日から10日間(有効期限最終日が銀行休業日の場合は翌営業日まで)と定められています。ところが事業主が振出日を未記入のまま相手に小切手を渡してしまうと、小切手を受け取った人が発行主の当座預金が開設されてある銀行の支店に出向いて直接換金しようとしても、厳格な銀行だと「振出日なし」を理由に支払いを拒否することがあります。

もちろん実務上、銀行で問題なしと判断すれば小切手を持参した人に支払うこともありますが、それはまれなケースと捉えるべきです。大半は小切手の受取人が全ての要件を整えた小切手を呈示するよう銀行に諭されて再度出直しを求められることが多いです。小切手の受取主に迷惑が掛からないよう発行者は手抜きをせずきちんと要件の整った小切手を発行しましょう。

小切手の種類

小切手は大きく3種類に分かれます。持参人払小切手、線引小切手、先日付小切手です。

①持参人払小切手

持参人払小切手と言うのはその小切手の支払先を特定していない小切手のことです。その小切手を持参した人なら誰にでも、小切手要件に不備がない限り、またその小切手発行先の当座預金に小切手金額以上の残高がある限り、銀行は特別な判断をせず払ってよい小切手の事を指します。実務的には銀行はその小切手裏面に小切手を持参した人の住所、氏名を記載してもらってお金を支払うことになります。

②線引小切手

線引小切手とは別名横線(おうせん)小切手とも呼ばれ、小切手の右肩に二重の平行線が斜めに引かれた記載のある小切手の事を言います。(上記小切手のサンプルにも線引処理がされています)この二重線は小切手の発行者が発行前にボールペン等消えにくい筆記物で書くだけで線引小切手として有効になります。

線引の果たす効果について説明します。線引小切手を受け取った本人は小切手を換金するためには、必ず一度自分の取引銀行の普通預金など取引口座に入金させなければなりません。仮にその線引小切手をもらった人が小切手を道で落としたり盗難に会っても安心です。

なぜなら線引小切手を手にした他人が当座預金のある銀行窓口で直接小切手を持参して換金しようとしても不可能だからです。線引小切手の入金ルールにより直接小切手を銀行窓口で呈示しても銀行に支払いを拒否されますので悪意のある他人に現金が盗まれる心配はありません。そのためトラブルの未然防止の点からも事業主は小切手帳を受け取った段階で全ての小切手に横線を引いておけば安全だと筆者は考えます。

ただたまに直接銀行へ行って換金したいと線引小切手の受取に拒否感を示す取引先もいます。そのような場合の対策として、事業主がその小切手を渡す前に裏面に発行者自身の署名と銀行取引印を押印して交付すれば、その横線の効果がなくなり、銀行で通常の持参人払小切手と同様に取り扱いしてくれるので覚えておいてください。

③先日付小切手

先日付小切手と言うのは文字通り、その小切手を相手に交付する時、実際の振出日より先の日付を記入した小切手のことを言います。

通常の取引ではこのような小切手の発行は行われませんが、たまに資金繰りが厳しい当座預金先が先で入ってくるお金を当てにして入金のその日に合わせて先日付の小切手を発行することがあります。著者も30年ほど銀行勤務の体験がありますが、それでもこの先日付小切手を実際の取り扱いで見たのはほんの数回です。

しかしもし先日付小切手を受け取った本人が小切手の知識に疎く、先日付の日まで待たずそのまま自分の取引銀行から小切手を口座に入金して即日取立に回した場合、手形交換所経由でそのまま決済されてしまう可能性はあります。さらにもし残高不足で決済できなくて不渡りになったとしても先日付小切手を渡した本人が抗弁する手立てはありません。いったん小切手が発行されれば発行主の意思に関係なく流通してしまいます。

そのため先日付小切手を渡す時には、「先日付の日以前には小切手を銀行に渡さない」と十分意思疎通が図れた相手のみに渡すようくれぐれも注意が必要です。

振込と小切手の違い

振込と小切手の違いも簡単にまとめておきます。

①振込は取引相手の銀行口座に入金された時点からお金として引出できるようになるが、小切手の場合は受取人が自分の口座に入金しても小切手が銀行から取り立てに回され決済されるまで数日掛かり現金化できるのが遅れる。

②振込の場合は受け渡しに現金を伴わないので安全性が高いが、小切手の場合、受け取った後、銀行に入金するまでの間に紛失や盗難のリスクがある。

③振込は毎回銀行に支払う振込手数料が掛かるが、小切手には発行側にも受取側にも受け渡しに伴う費用は掛からない。しかし小切手では、発行者は小切手帳を銀行からもらう時に1冊単位で小切手帳代が掛かり、受取人が小切手を銀行口座に入金する時に取立費用が掛かる場合がある。

小切手を受け取ったらすること

小切手を受け取った会社・個人が即日小切手を換金したい場合は、その小切手表面に記載されている支払先の銀行の支店へ直接出かけて小切手を店頭で呈示して現金を受け取って下さい。また小切手の換金を急がない人はまず受け取った小切手を自分の取引している銀行に持ち込み、自分の当座預金もしくは普通預金に入金処理して下さい。

すると口座通帳に小切手金額とともに金額の頭部に「他手1」「他手2」等の表示がされて通帳が返ってきます。これは小切手入金後「後何日で小切手が換金できるか」を示した表示です。

おおよその目安として他手1の場合は2日後、他手2の場合は3日後に銀行に出かけたらそれぞれの小切手が現金として使えるようになって口座から引き出しできる状態と覚えておいてください。

また繰り返しますが小切手の銀行への呈示有効期限は振出日から10日間です。受取人が仕事等忙しくて有効期限を過ぎて銀行に持ち込んでも、ほとんどは要件不備を理由に銀行では受け付けてもらえません。あらためて振出人に小切手を差し替えてもらう必要が出てきます。相手にも迷惑を掛けますので小切手を受け取った方はくれぐれも小切手の有効期限には注意を払って早めに銀行に持ち込んでください。