事業承継の手段としてのM&A ~シナジー創出により成長を目指す~ Brianza(ブリアンツァ)×三井物産企業投資株式会社

2023年8月17日、三井物産企業投資株式会社はBrianza(ブリアンツァ)というブランドのイタリアン・フレンチレストランを運営する株式会社Signalに資本参画することを発表した。今回は、株式会社Signalの代表取締役社長兼総料理長である奥野義幸氏に、M&Aに踏み切った背景や今後の展望について話を伺った。


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開業当初からM&Aを考えていた

―M&Aを実施したきっかけを教えてください。

元々飲食を始めた当初からM&Aによって譲渡することを考えていました。また、昨今のコロナ・戦争といった社会情勢から『今後の飲食業界はどうなっていくんだろう』というのを想像したときに、今後自分が一人でオーナーシップを持ち続けてやっていけるのか?という不安はありましたので、そこから考え出しました。

―M&Aを検討するにあたり、どのような条件や相手方がいいと考えていましたか?

一緒に会社を成長させることができ、スタッフが路頭に迷わず、必要以上のことを要求されない、とかですかね。自分の場合、一人でやり続けているとどうしてもワンマン経営というか、経営努力や成長にも限界がくるだろうと考えていました。

―ご自身が残ることを前提としていたんですか?

自分が残らなきゃできないだろうとは思っていましたので、残ることを前提に考えていました。ただ、M&Aで他社のノウハウが入ってきてくれると、労務部分などある程度整えられるし、僕自身もある程度俯瞰して考えられるようになる。

その結果、社会的に受け入れられやすくなり、様々なところで働いているレストランのスタッフが『うちで働きたい』となり、中途採用につながる。そうすれば、今後の事業成長につながるし、社員も守りやすくなる構造が生まれる思っていました。

車の下取り感覚でM&Aの相談に

―2021年12月に弊社M&A Propertiesに相談をいただきましたが、当時のことを教えてください。

当時はM&Aに着手するとは明確に考えていなくて、車の下取りで見積に出すような感覚で面談をお願いしました。きっかけはM&A PropertiesさんからのDMだったのですが、他のM&A仲介会社とは異なり、不動産の仲介や人材紹介のビジネスもやっていて「飲食業界におけるネットワークが結構あるんだろうな」と感じられたので相談に踏み切りました。

翌月にはM&A Propertiesさんの事業の紹介をしていただき、暫く間を空けて2022年6月に再度面談をして、具体的にM&Aに向けて動き始めました。

―当時弊社のコンサルタントからM&Aについての提案を行いましたが、内容は如何でしたか?

今振り返ると、結果としては素晴らしかったと考えています。提案をいただいたタイミングでは「絶対にM&Aをする」と決めていたというよりは、自社の価値を把握できればよいという温度感だったので、当時のその状況から最終的にその提案内容のままM&Aに至っているという点では、やっぱり良かったですね。

―M&Aの準備を進める上で、大変だったことや悩みはありましたか?

最初はトップ面談の経験もなく、相手が望んでいる内容を僕自身の言葉で表現するのが難しかったです。ただ、経験を積んでいく中で段々とその感覚が掴めてきて、丁度そのタイミングで三井物産企業投資株式会社という良い相手が現れました。

動き始めた当初はデュー・ディリジェンスという言葉も知らないし、クロージングという言葉も英語自体の意味は分かりますが、M&Aのプロセスにおける用語やニュアンスとしては分かっていなかったので、実際に経験を積む中でそうした基礎知識を身に着けていきました。 終盤の契約などのタイミングでは、M&Aをやると明確に決めていたので悩みませんでした。「M&Aしか選択肢がない」という状態だと精神的な負荷が大きいかもしれませんが、自分の場合は業績も悪くなかったし、M&Aが成立しなかったとしても自分で続ければよいと考えていたので、その点での悩みはほぼありませんでした。

決め手は信頼関係が築けたこと

―三井物産企業投資株式会社と組むことにした決め手は何でしたか?

M&Aのプロセスの全体感の中で一緒にやれそうだと信頼関係を築けたことと、社員を守ることを重視したときに、三井物産企業投資さんの条件が一番適していました。

買収先については複数候補があり、提示された条件も様々だったのですが、今後社員が働いていくことや自らもコミットしていくことをイメージしたときに三井物産企業投資さんが最もマッチすると考えました。

―では、奥野さん自身の働き方に変化はありましたか?

働き方自体に大きな変化はありません。ただ、勿論変わったところもあります。これまでは100%自分事だったものが、三井物産企業投資さんが入られてからは、俯瞰した目線も持てるようになりました。

大事な意思決定が合議制になったことで、役割分断が明確になりました。大事な部分は取締役会で決めるといった形でガバナンスが効いてきています。また、自分が積み重ねてきたノウハウを、会社組織にどのように残していけるかを重要視するようになりました。今後後継者が出てきたときに学び取れるように可視化していく。そのようなフェーズに入ったのかなと実感しています。

今後はロールアップによる利益拡大

―M&Aのプロセスを終えられて、改めて気付いたことや印象が変わったことなどはありますか?

当初からM&Aのイメージは大まかに持っていたので、大きく印象が変わることはありませんでした。ただ、実体験を通しておぼろげだったM&Aのプロセスや仕組みが明確に理解できるようになりましたね。

経営者であれば、誰であっても会社を辞めるか、売るかというチョイスは必ず迫られるので、自らが進めてきたM&Aについても正しいことなんだろうなと考えています。

―今後の成長戦略について教えてください。

現在は直営店と業務委託を増やしていく方向性で成長戦略を立てています。いい話があればロールアップも検討できると思いますので、マッチする話があれば是非持ってきてほしいです。

例えば『バリバリのシェフがやっていて利益体質もしっかりしているけれど、そろそろ自分一人でやっていくのも疲れてきた』というお店があれば、ブランドネームの強化にもつながるので一緒にやりたいです。

―既に今後の出店計画も決まっていますか?

今年から来年にかけて、大阪などへの出店を順次進めていく予定です。そのためには人の確保が急務で、会社の体制・環境を出来る限り高めて、人の採用に繋げていこうと思っています。

―2023年11月には、麻布台ヒルズに新店舗「Depth Brianza」(デプス ブリアンツァ)をオープンされました。どんなお店にしていきたいですか?

“Brianza”(ブリアンツァ)というブランドをリーディングしていく店舗にしていきたいです。麻布台は日本の中心ですし、街と時代に合わせてバリューの高い店舗にしていきたいです。

―最後に、M&Aの全体を振り返って思っていることを教えてください。

本M&Aは100%やってよかったと思っています。M&Aのプロセスには時間が掛かりましたが、M&A Propertiesのスタッフさんが凄く頑張ってくれていたし、付き合っていく中で非常に信用できるなと感じられましたので、あまり心配はなかったです。そのおかげで三井物産企業投資さんと合意に至りましたので、満足しています。