株式会社挽肉と米 取締役 山本 昇平氏インタビュー(前編)唯一無二のハンバーグ専門店「挽肉と米」に込めた想い

「挽きたて・焼きたて・炊きたて」をコンセプトに、焼きたてのハンバーグと炊きたてのご飯を提供する「挽肉と米」。気軽に食べられる最高のハンバーグを提供したいという信念を貫き、唯一無二の業態を作り上げたのが山本昇平社長です。前半は、独立秘話と「挽肉と米」に込めた想いと戦略を伺いました。


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記者)創業までの経緯を教えてください。

山本社長)大学を卒業する就職活動の時期に、就活サイト経由でムジャキフーズさんのスカウトメールをもらったのが最初の入り口でした。当時就活はしていましたが、企業研究をしっかりしていなかったせいか、行きたい企業が全然見つからなかったんです。安直ですが、飲食店でアルバイトをしていたというのが飲食業を目指した理由ですね。その時にはうっすらと、自分で何か起業できないかとは考えていました。

スカウトメールには、独立制度について書いてあって、プロセスを追っていけば最終的には開店資金も出資してくれると記載がありました。独立のために何をすればいいのかわからなかったのですが、具体的なプロセスが明確に提示されていたので、挑戦してみようという気持ちで入社したのが、社会人の一歩目でした。うまくいかない可能性も十分にありましたが、うまくいかないことも勉強だと考えていました。

記者)運命的なメールだったのですね。そこから独立まではどのような流れだったのですか?

山本社長)僕が入社した時は、ムジャキフーズさんが経営しているのはラーメン屋さんしかなかったため、そのラーメン店に配属されお店のオペレーションや管理のノウハウを勉強しました。その後社内の独立支援制度を使い、独立に向けて動き始めます。店長から推薦をもらい事業計画を評価する選挙に出て、過半数の審判から賛成票をもらえば合格、という仕組みの制度でした。

大卒で4月に入社して、9月頃には選挙に出始めていましたね。ラーメン屋としてのスキルを高めたかった訳なかったので、無理やり独立を取りに行った感じですね。

記者)入社間もない頃から独立を意識されていたのですね!選挙はスムーズに突破できたのでしょうか?

山本社長)2、3回目の選挙で過半数の支持をいただけました。入社から半年目くらいの時期です。たまたま最後の選挙のタイミングで「ガイアの夜明け」の取材が来ていて、独立支援制度にフォーカスされたのです。僕の予想ですけど、僕の企画がテレビの企画としても面白いトピックとしてちょうど良くて、それも後押しになったのではないかと思っています。

記者)独立する業態として、なぜ「ハンバーグ」を選ばれたのでしょうか?

山本社長)実は、最初はカフェをやりたいと思っていました。当時カフェブームがあり、中目黒や下北沢、裏原宿なんかで個人でファッションとしてやっているおしゃれなカフェを見て、こんなお店ができたらな、と若かりし頃の突発的な衝動がありました。だからムジャキフーズでもカフェがやりたいと言ったんですけど、カフェはお前にできないと言われてしまいました。反発もしたのですが、「飲食の素人がお客様の要求が複雑なカフェ業態は難しいから、専門店がいい」というアドバイスをもらったんです。お客様の来店動機が明確に絞れれば絞れるほど、その期待に応えられる可能性が高くなると。今振り返れば納得できる助言ですね。そこで考えたのが、みんなが集まるカフェから派生したハンバーグの業態でした。

ハンバーグって、お子様ランチにも乗っているし、高級ステーキ店でも食べられる間口の広さがあるじゃないですか。また、僕にとって子ども時代に母親が作ってくれたハンバーグの味は、ご馳走の記憶として残っています。レストランのハンバーグにもハッピーなイメージを持つ世代でしたので、大人になってもハンバーグに魅力を感じていました。そこで、楽しい、嬉しい、ハッピーというイメージの商品を専門店としてできれば、いろんな人に来てもらえる店ができるんじゃないか、と考えたのが決め手でした。

記者)お客様の期待に応えるために専門店を選ばれたのですね。その後どのように独立されたのでしょうか。

山本社長)通常の独立は、会社側が店舗や業態などを作ったうえで店長に引き渡すという流れになっていました。しかし僕はそんな経緯だったのもあって、皿や備品、内装の手配まで自分で手配する必要があったんです。もちろんある物を使わせてもらったり、相談に乗ってもらったりはありましたが、最終的にはほぼ自分で自由に決めさせてもらい、店を作りました。通常の独立制度では本来得られないような経験までさせてもらったことが、独立後に大きな影響を与えましたね。独立した店舗が2005年に恵比寿でオープンした「俺のハンバーグ山本」1号店です。

記者)その後店舗を増やしながら「山本のハンバーグ」へ改名、そして「挽肉と米」のオープンに繋がっていきます。挽肉と米の発想はどこから生まれたのでしょうか。

山本社長)山本のハンバーグは、家庭の食卓の延長にあるような、気軽に来られるお店のイメージでした。オープン当初はパスタやシチューなんかもある洋食屋さんでしたね。よりお客様に安定していいものを提供していく、ブラッシュアップしていくという中で、ハンバーグに特化していきました。マーケティングの視点というよりは、オペレーション的に良いものを提供することを追求した結果です。

普通、レストランで提供される料理は出来立てで、お客さんもそれを期待しているし、我々もそれを疑うことはありませんでした。しかし、ご飯が炊きあがった瞬間、お肉が鉄板で焼ける瞬間など、もっと進化した“美味しい瞬間”を追求できないかと考えたのです。

炊きたてのご飯のタイミングに合えば一番おいしい状態で提供できますが、どのお客さんに対してもそれが提供できているのかと言われればそうではない。

ハンバーグも、オーブンから出てきた焼きたての瞬間が一番ふっくらしていて美味しいはずです。しかし、盛り付けて、ソースをかけて、ホール担当が運んで、という間に、少し時間ができてしまい、焼きたてではなくなっていくんですね。それは当たり前と言えば当たり前にかかってしまう時間なのですが、せっかく作るなら、もっと直球で一番美味しいところを届けられるようなお店作りをできないかなと考えたんです。

既存の高級な天ぷら屋さんや鉄板焼き屋さんでも、目の前でご飯を炊き上げたり、目の前で料理を仕上げたり、といったサービスを提供してくれるところもあるでしょう。でもそれは結局単価が高くなるんですよね。最低でも5,000円、店によっては2万ほどの価格になることもあります。

僕はその高単価業態で受けられるような出来立てを提供するサービスを、身近な日常の中で気軽に使ってもらえる価格帯でお店で実現することができたら、お客様に喜んでもらえるのではないかと考えました。そういうお店ってあんまりないなと。高級な素材やサービスに頼るのではなく、その部分で価値を高められる可能性を見出したのです。

記者)確かに出来たて・炊きたての瞬間は魅力的です。その発想は、どんな流れで具体的な形になっていったのでしょうか。

山本社長)5、6年前からそのような話をいろいろなところで雑談として話していました。そんな中、恵比寿で僕がやっていたパブに、一風堂の社長をやられている清宮俊之さんが、POOLの代表でコピーライターの小西利行さんを連れてきてくれたんです。それがきっかけで僕がハンバーグの可能性とか挽肉の可能性みたいな話を語ったら、お二人も乗ってきてくれて「3人で何かやりましょう」という話になりました。

その時は軽い話でしたが、その後深い話をするための定例ミーティングを開くようになりました。これが2017年の冬くらいの話です。そこから話し合いを重ねて、2019年3月に「挽肉と米」がジョイントベンチャーで誕生しました。

記者)そこから1店舗目が吉祥寺にオープンするのが2020年6月です。約1年の時間がありますが、この間は何をしていましたか?

山本社長)当時物件がうまく決まらなかったこともあり、時間が空いてしまったので、「挽肉と米号」というフードトラックを走らせていたんですよ。その第一歩目でフードトラックからスタートしたんです。宣伝カーとしても使っていこうと思っていたのですが、吉祥寺のお店のオープンが思ったより早くて、運転する手が空かなくなってしまったので、早々に店に集中しています。

記者)「挽肉と米」という名前にはインパクトがあります。このネーミングはコピーライターの小西さん考案でしょうか?

山本社長)発案は僕で、3人で相談した結果として決めました。お客様は、店名を見てどんなお店なのかイメージするじゃないですか。お客様がそのお店に対して抱くイメージに応えられるように、逆算して店名をつけようと思っていました。

話は「俺のハンバーグ山本」を開店した当時に遡るのですが、俺のハンバーグというメイン商品があったのですが、当時はみんながイメージするであろうスタンダードなスタイルで提供していました。美味しいものができたと思っていましたが、お客様に感想を伺うと、リアクションはイマイチ。何が足りないのかを考えていたある日、お店の店頭でお客様が「俺のハンバーグだって。どんなハンバーグが出てくるんだろうね」とお話されているのを耳にしました。それを聞いてお客様は「俺のハンバーグ」という店に対して、普通のハンバーグは期待していないんだと思いました。ハンバーグの味の評価の前に、お客様の期待に応えることが重要だと感じたわけです。

それまでのスタンダードなハンバーグでは、お客様の期待に応えていないとわかり、ここでしか食べられない個性的なハンバーグを作ることを決意しました。

それが「2代目俺のハンバーグ」です。ハンバーグの中にクリームコロッケを生ハムで巻いてパテの中にいれたり、よくあるデミグラスソースではなく味噌や和風出汁をつかい、ご飯に合うように濃厚なソースに変えたり、付け合わせも他では見かけないような個性を意識ししたり、ここだけで食べられるへんてこなハンバーグになりました。

メニュー変更当日から、明らかにお客様のリアクションが変わったのを覚えています。「おもしろい」「こんなのはじめて」という楽しいリアクションから「おいしい!」という声が聞こえてくるようになりました。と同時に「こんなのはハンバーグじゃない」とおっしゃるお客様もいらっしゃいましたが、多くのお客様はお店の個性として喜んで食べていただけていたように感じました。

このような体験から、私は、店名はお客様にお店への期待を、正しく持っていただくために重要なものだと思っています。

今回の「挽肉と米」も、本当に炊きたてのご飯と焼きたてのお肉のお店なので、この“挽肉”と“米”のおいしさに期待してもらえるよう、シンプルに決めました。

記者)インパクトのある店名にはそのような想いが込められていたのですね。内装などの工夫はありますか?

山本社長)内装は上野建築研究所の上野幹恭さんが手がけてくれました。彼は、飾るデザインというよりは、本質的にこうあるべきだよね、という視点でものづくりをしてくれます。また、POOLの小西さんが全体のデザインのディレクションをしてくださいました。

シンプルに美味しいものを提供するスタイルなので、お店の内装も必要のない飾りはせずに、提供したい商品をちゃんとした品質でお客さんに提供できるためのレイアウトと、主役であるご飯とお肉が引き立つように光や素材、色にこだわりました。

それがよく伝わるのが、自然光の取り入れ方です。店舗は2階建てなのですが、2階の席へは出来立ての瞬間を提供できないねと。だから思い切って2階は1階のために使おうと(笑)床を抜いて、自然光が入るようにしたのです。提供したい最高の状態の商品のために、こだわり続けた結果ですね。