記者)湯原社長の経歴を教えていただけますか。
湯原社長)慶應義塾大学の商学部に入り、卒業後は外資系製薬会社のMRという営業で入社しました。同期は80名ぐらいで、薬学部出身が多くいたのですが、彼らに負けないようにと入社後半年の研修を終え、配属後は虎の門病院など様々な病院を担当しながら、更にインプットし、どうやったらわかりやすく人に伝えられるかを考えながらアウトプットのプレゼンを勉強しました。それが今でも生きているように感じています。
記者)税理士になられたきっかけを教えてください。
湯原社長)26歳のGWに、福岡の中学校の同級生3人との同窓会を東京で行いました。同級生たちは検事補、公認会計士補という肩書を持って働いていました。もう一人は、有名大学に行ったものの、料理が好きだからという理由で東京にあるすべてのフレンチを食べに行き、一番美味しかった店に土下座をして、皿洗いでよいから働かせてほしいと懇願し、その店で皿洗いをしていました。
それぞれが自分の夢に向かって歩んでいる中、当時の私は製薬会社でぼろ雑巾のように営業をしているだけです。そんな時に思い出したのが父親の「サラリーマンなんて、していたってしょーがねーぞ」という言葉です。このままじゃいけない、と強く思いました。そして、自営業をしていた両親のもとに、毎月税理士が来ていたことを思い出しました。元々、計算が得意だったということもあり、自分は税理士を目指そうと決めました。
その年のGW明けに会社に辞表を出しました。ただ実は、同じ年の11月に大学のサークル時代から7年付き合っていた彼女と結婚をする予定だったんです。この結婚資金を税理士になるための予備校代と当面の生活費に充てたい、と彼女に伝えたら、ものの見事に破談になりました(笑)。
約2年間は仕事をせずに勉強だけをしながら元結婚資金で食いつなぎ、その後は高田馬場にある会計事務所で3年間働きながら勉強を続けた結果、30歳になる頃に試験に合格して税理士になりました。ただ試験に合格して間もないころに、高田馬場にある会計事務所を退職となってしまったため、川越にある関信越では一番大きい税理士法人に飛び込みで入り、税理士登録をしました。そのまま川越の税理士法人で上まで昇りつめようと思っていましたが、当時妊婦だった妻に「あなたは絶対独立した方が成功する」と背中を押され2004年3月末に退職し、34歳で湯原会計事務所を立ち上げました。
記者)税理士として独立するのは厳しいと聞きます。
湯原社長)税理士というのは、1年で新規顧客との契約が5、6件取れたらいいと言われている時代でした。ですが私は、1年で26件の契約を頂き、ちょっとした注目を浴びました。
どうやって契約を取っていたのかというと、「私と一緒に事業をしていた方が、会社は絶対伸びます」とお伝えしていたんです。
大抵の税理士事務所では、所長は税理士なのですが、担当者が税理士でないということがよくあります。そのような税理士事務所と契約している経営者に対して、私と契約すれば漏れなく所長税理士である私が担当になりますと伝えました。
また、年齢の高い税理士がついている場合は、中小企業の30代40代の社長がエネルギッシュに仕事をしている時に、私もエネルギッシュに活躍できる歳だということを伝えました。そうやってひとつひとつ契約を取っていたから、顧客を増やすことができたのです。
また私と契約をしていただくと、本当に会社の業績を伸ばすことができます。なぜなら、他の税理士は節税をしようとするのですが、私は逆で節税はしないからです。節税をすると、確かに国に納める税金を減らすことができます。ですが、利益を少なくしてしまうために銀行からの評価が下がるという問題があります。こういったことは、サラリーマンではわからない感覚ではないでしょうか。
私は製薬会社でサラリーマンをしていました。80名もいる同期の中で上を目指すのはかなり難しく、努力を重ねて1年目で東京の花形部署に入り、支店長賞や社長賞をいただきました。私が会社を3年で辞めたからかもしれませんが、花形部署にいて賞をもらっても給料は多少上がる程度です。でも、東京はそもそも物価が高いためにお金は貯まりません。ですが地方の部署で働いている人は、営業出張費が付くため、節約すれば営業出張費だけで生活ができ、その他の給料は貯金できるんです。
精魂尽きるまで働いて結果を出しても年に何十万しか変わらないのかと落胆した時に私が思い出したのは、父親の「経営者は頑張ったら頑張った分だけ稼げる」という言葉でした。
私は中小企業の経営者だった父親の背中を見て育っていたので、税理士とはどうあるべきかがわかっていました。経営者はサラリーマンと違って、頑張れば頑張るほど上を目指せるんです。それを伝えることで、中小企業の経営者さんたちは私に対して商売人の色があると判断して信用してくれたんだと思います。
記者)湯原社長は「良い税理士」とはどんなものだと考えますか。
湯原社長)税理士の業務は、過去一年間の集計結果を決算後2か月以内に申告することです。それ以上でも、それ以下でもありません。ですが、私はそこに疑問を感じています。クライアントさんと税理士の報告に立ち会う時、そういった計算報告だけをしてくる税理士に対して私は「それで?」と聞きます。
税理士がしているのは一年間の結果として税金を計算すること。過去の集計計算をしているということは、本来であれば過去からの流れが見えているはずです。現状の話をした上で、なぜ、少し先の話をしないのかと思うのです。
財務は、今から3年後どうありたいか、そのために1年後どうあるべきかを考える仕事です。私はそういったことを実際に行っています。顧問税理士が作った試算表や決算書を見ながら社長の話を聞き、この先どういう状況になるかを話し合い、その時に節税決算ではダメだとか、手元のキャッシュを増やしましょうとか、3年後の目標を達成するためには今はこうしましょうとか、そういった話をしています。
もし社長が今が楽しければいいという考えであれば、私と契約をしても意味はありません。3年後にどうしたいのかを考えて行動するのであれば、私は何をどう改善していけば目標を達成できるのかのアドバイスをします。
ただ、5年後、10年後という話になると、また別です。それはベンチャーキャピタルや投資家に対する話です。私はあくまでもリアルに考えられる3年後の計画に沿って助言をしています。銀行も同じですね。3年後の計画であれば聞いてくれますが、5年後、10年後の計画のための話は夢物語と言われて相手にはしてくれないでしょう。
記者)一般の人からすると「経理」「税務」「財務」などは混同されがちだと思います。その中であえて「財務」を選んで「みんなの財務」という名前にした理由を教えてください。
湯原社長)私の考える「財務」は「現預金」です。「みんな」が誰に対してなのかと言うと、上場企業ではなく中小企業ですね。上場企業と中小企業では財務の考え方が変わってきますから。
私がこの仕事をしている理由は、会社を潰したくない、潰されたくないからです。会社が倒産するというのはどういうことだと思いますか?一般的なイメージだと赤字になることです。ですが、赤字だと倒産し、黒字だと倒産しないのかと言われるとそうではありません。黒字倒産というものがあるからです。ということは、赤字=倒産という考え方がおかしいことがわかります。では倒産とは何なのか…それは現預金の枯渇です。
会社経営は、常に黒字だとは限りません。短期的収益悪化という言葉もよく使いますが、まさにコロナがそうだと思います。コロナで短期的で強烈な収益悪化を起こしている飲食業界ですが、私のクライアントは1社も倒産していません。
なぜかというと、コロナになる前から複数の金融機関から資金を借りていたため、潤沢なキャッシュがあったからです。コロナ融資というものもありますが、それ以前から常に複数の金融機関と取引をしていたため、金融機関との良好な関係が構築されています。そうすると、「お金を貸してください」「わかりました。いつも決算書を見せてもらっているので内情はわかっていますし大変ですよね。融資します」となり、スピーディーにお金を集められるわけです。私のクライアントさんは、これまでにないほどの赤字を抱えています。複数店舗を経営している社長は1億を超える赤字を出しました。ですが、それでも倒産しませんし、倒産させません。
全部をまとめると、財務戦略というのは「現預金残高戦略」です。ただ金融機関から永遠に借り続けることはできません。どこかの段階で収益化をして、毎月の資金繰りに合わせて収益を出していく必要があります。そこで出てくるのが多店舗戦略。
ただ多店舗戦略をするにも考えることはたくさんあります。どういった形で多店舗戦略をするのか、直営で行うのか、業務委託の多店舗展開にするのか、労務リスクはどうするのか、そういったスキームの提案もしています。
また、今は別の展開も行っています。例えば、私のクライアントの飲食店の中で、人手は余っているが資金があまり借りられていない、それでも新しい利益が出る業態を展開していきたいというA社と、お金はたくさんあるが人手が足りていない、というB社があった場合に、クライアント同士で資金の融通をさせています。今まで多店舗展開となると、直営か業務委託かの二者択一でしたが、企業間での業務委託という新しい選択肢を増やしたというイメージですね。資金を出した方は店舗使用料として回収していきますが、1年で回収が終わったら、あとは資金を出された方が儲かるような仕組みです。今は金融機関がなかなか融資をしてくれないので、そういった流れも作りました。
記者)このような戦略は、財務を理解している経営者でないと難しく、悪循環になってしまう気がします。それについてはどうお考えですか?
湯原社長)4~5店舗まではワンマンパワーでいいと思っています。それを超えてくる規模になると私が一番力になれるボリュームゾーンになってくると思います。試算表が読めない、数的感覚が乏しい人に経営は難しい。飲食店に限らずどんな業種でもそうです。少なくとも、黒字にするにはどこを改善したらいいのかを感覚を持っている人、というのが大前提にあるかと思います。