記者)3店舗は出来ても10店舗には出来ない人が多いと言われますが、それはなぜだと思いますか?
湯原社長)それには二つの問題があります。一つはお金の借り方を知らないこと。もう一つは決算書の作り方を知らないことです。つまり、どこの金融機関に、どういった交渉をすればお金を借りられるのかという知識と、交渉するための武器である決算書を持つ必要があるということです。
私と契約をして、金融機関から融資を引き出してほしいと言ってきたとしても、決算書という武器がなければ何もできません。私はプロパンガス屋の息子でしかなく、金融機関に人的ネットワークがあるわけでも何でもありません。今までの積み上げで信用があるだけです。ここは間違えてはいけないところですが、いきなり金融機関の偉い人に会いに行って融資を受ける、みたいなことはあり得ません。
融資を受けるには、会社で利益を出して節税なしの決算書を作り、それを持って金融機関に行って、金融機関側に「この企業を応援したい」と思わせる必要があります。そのためには、経営者が契約をしている税理士を動かさないといけません。
以前は湯原会計事務所だったため、経営者には私のところに契約を変えてくれと伝えていましたが、今は決算申告等の税理士業務をしていません。理由はマンパワーが足りていないからです。ただ、税理士としての知識と経験があるため、契約をしている税理士が違法行為になるようなことは言いません。
税法というのは、「経費にすることができる」という規定が多いです。ポイントは「経費にしなさい」ではなく、「経費にもできる」という規定ということですね。これをどこまで理解しているかで、利益の出方は変わってきます。経費にできるものを全て経費にしようとすると、決算書では利益が縮小して見えるというのが特徴です。だから私は、経費にできるからといっても全てを経費にしません。出来る限り期間損益を合わせる、会社の実態に合わせる、そうやって企業の適正な利益を金融機関に見せることができます。
ただこうすると、他の税理士からは「ここを経費にすれば、もっと税金が安くなるのに」と思われます。ですが、私の言う通りにしていただければ、その企業の利益が伸びている決算書が作れるため、金融機関から融資を受けられやすくなりますし、借りたお金で店舗数を増やし、さらに利益を出していく事ができるというわけです。
こうやって利益を伸ばしていくと、今度は税務署から目を付けられやすくなります。何か違法なことをしているのではないかと勘繰って。ですが私は、経費にできることでも経費にしないようにして決算書を作ってもらっているので、税務署の調査が入っても指摘のしようがない状態です。
通常は経費を増やすためにきわどいことをしているので、税務署の調査が入れば、見解の相違等と言ってひっくり返されてしまいます。ですが私のクライアントさんには、そういったことはありません。むしろ、税務署の方が、もっと税金を安くできるはずなんだけど、と思っているかもしれませんね。
記者)税や経費に対する理解が非常に重要ということがわかりました。では、計画的な決算書作成の重要性を経営者にどうやって気づいてもらっているのでしょうか。
湯原社長)以前は、月に1回、財務セミナーを行っていました。そこに既存のクライアントさんが、「湯原さんの話を2時間聞けるから行った方がいい」とご紹介いただいて、気が付けば80社のクライアントさんができたんです。こういったことを、コロナ前は行っていましたが、今はどんな方法をとるのか模索中です。一人でセミナーを開くとしても、運営段取り、受付等一人ではできません。周りからはもっとセミナーのような活動をすべきだと言われるのですが、すでに多くのクライアントを抱えていますし、すべて私が担当しますので、あまり多くのお客様が来られても困るというのもあります。ライトな形での情報発信はしていきたいですね。
話を戻しますが、私と契約することで何が変わるかというと、社長が試算表や決算表に詳しくなるというのがポイントです。これはとても重要。なぜなら、融資をする金融機関はそこを強く聞いてくるからです。
税理士に貰った試算表に対して質問をする社長はほとんどいません。これはおかしいと思いませんか?他の仕事であれば、依頼をしたら上がってきた納品物を確認しますよね。税理士が出す納品物は試算表です。不明点があれば質問をしてしかるべきなんです。だから私は、社長に試算表や決算表を見せてもらって質問攻めにします。こうすることで、社長の中でも疑問が生まれ、必然的にその社長が顧問税理士として契約している税理士を動かすことになっていくのです。
こうして顧問税理士がちゃんと働くようになれば、試算表も決算表も分かりやすく良くなっていきますので、金融機関も融資してくれます。私のクライアントさんは、融資をしたお金でフェラーリを買ったりしないという信用がありますので、「湯原さんの紹介だったら」と言って金融機関はお金を貸してくれるというわけです。
記者)良い銀行の担当者に出会うにはどうすればいいのでしょうか。
湯原社長)これはもう、出会えるまで探すしかありません。確率論の話です。私も初めから、どこの金融機関にどんな人がいるのかを把握していたわけではありません。1つ、2つの金融機関に顔を出すのではなく、5行、10行、20行というようにいくつもの金融機関を巡り、良い支店長と出会えたら、あとはその支店長の転勤先を追いかけたりしています。
もし金融機関とどんなやり取りをして、どのように良い支店長や担当者を見つけたらいいのかがわからない場合は、中小企業の仲間の経営者に聞いてみてください。「現在付き合っている良い金融機関があれば教えてほしい」と聞けば、教えてくれるでしょう。さらに、中小企業の仲間の経営者もいないという場合は、会社がある地名と金融機関で検索して出てきた金融機関に片っ端から出向くことです。予約をせずに、「こういった事業をしているものですが、融資のご相談をさせていただけませんか?予約はしておらず失礼だとは思うのですが、法人担当の方とお話しさせていただけないでしょうか?」と、金融機関の受付の人に聞いてみるといいと思います。
記者)銀行の担当者は、どういうところを見て判断すればいいのでしょうか?
湯原社長)第一前提として、支店の担当者は選べるということを覚えておいてください。銀行側から担当者として名刺を渡してきたとしても、他の人を選ぶことも可能です。人対人の相性といえるので、ご自身のコミュニケーション能力を使って話をし、人間的にいい人だと感じれば、その人が「良い担当者」です。これも確率論ですので、自分にとって「良い担当者」が見つかるまで続けるしかありません。
あとは保証協会付き融資かプロパー融資かというところも判断材料として使えます。融資には種類がありますが、初めからプロパー融資を受諾してくれる金融機関はありません。金融機関との信頼を築いてからプロパー融資になるのが道理です。
セミナーを開いていた時にも言っていましたが、最初は保証協会付き融資ですが、二回目、三回目の融資をお願いする場合には、プロパー融資にしてくれるどうかを担当者に聞いてみてください。そこで口ごもる金融機関は、業績が良かったとしてもプロパー融資を出してはくれません。そうやって金融機関の見極めをすることも大事です。
記者)みんなの財務のサービス内容を教えてください。
湯原社長)年4回のミーティングと、出店をする場合にはプラスでミーティングをします。年4回のミーティングでは、直近の試算表がクライアントの事業計画に沿っているかを確認しています。計画と試算表、予算と実績のチェックと進捗管理です。計画よりもうまくいっている場合にはもっと伸ばせるかを考えますし、うまくいっていない場合は何が原因で、どんな対策が打てるのかを一緒に考えます。そうすることによって、クライアントは計画に沿って、当たり前のように業績は伸びるというわけです。
記者)計画を作るところも一緒に入られていますか?
湯原社長)入っていますね。ですが、一緒に作ろうではなく、計画を作ってきてくださいと伝え、作っていただいた計画を私がチェックするという形です。計画のチェックをすることで、計算が甘かったり、厳しくしすぎだったりする部分は指摘するので、実現可能な計画ができます。
あとは店舗別、部門別の試算表になっているかも確認しています。そうすることで、どこの店舗が黒字成長期に入っていて、どこの店舗が安定期に入っていて、どこの店舗が赤字衰退期に入っているのかが明白になるからです。店舗別、部門別の試算表になっていないと、こういったところにも気づけないので分けてもらうように指示を出します。また試算表上は部門別になっていたとしても、実態としてわからないものは全て本部付けにしているような試算表を作っている場合もあるので、それも事細かにチェックを入れています。
多くのクライアントさんがしていることですが、私とのミーティングが終わった後に、全社ミーティングを開いて、次の私とのミーティングが行われる3か月後までに改善指示を社長が出しています。そうやって物事の整理と、試算表の整理を行うことで企業価値を高めていきます。そうすれば、金融機関からの評価も上がるため融資も出やすくなるということです。
また新規出店を行う場合には、投資回収計画書を作ります。これに対しても、資金調達の額、投資回収期間にいたるまで私がチェックしています。
クライアントさんと契約をしてから、一番初めに行うことは倒産しない会社を作ることです。まず、ほとんどの会社は手元に潤沢なキャッシュを置いていません。なのでまずはお金を集めるところから始めます。保証協会枠が残っているのかを確認して、残っていれば調達をしてもらいます。キャッシュを集めることが出来たら、今度は継続的・永続的に倒産しない会社にするために、FL管理(仕入原価率・人件費率)をしっかり行ってもらいます。そこができてきた段階で、自分の人生をかけて社長についてきてくれるスタッフ、スタッフの妻や子どもの為に横展開をして、企業として成長させていきましょうと伝えています。
記者)最初は調達からなのですか?
湯原社長)はい。そうです。調達の確認から行っています。キャッシュがないと、何も対策を行うことができないためです。
記者)つまり、調達、改善、調達を繰り返すということですね
湯原社長)そうです。会社の規模に関係なく、最初は1億円のキャッシュを持ちましょうと伝えています。ただ、会社の売上が6億もあるとなると話は別です。キャッシュとして持っていてほしい額は、平均月商の3か月分です。その額の現預金を置いておくことが大事。
もう一つ大事なことは、いくつの金融機関からお金を借りているかというところも重要です。メガバンクなど1、2行からしか借りていないと、銀行の言う通りにしか動くことができなくなってしまいます。ですから、お金を借りる銀行の数は少なくとも5、6行です。そうすれば、A銀行が融資してくれないのであれば、B銀行から融資してもらいますと伝えて、リスク回避ができるからです。借入ができる金融機関は増やしておくのが得策です。
ただし、売上が10億、20億になり、上場を目指そうかなといった段階に入ると、メガバンクが2行、地方銀行が3行ぐらいに集約されてきます。小さな地銀では金利競争についていけなくなるからです。ただこうなってくると、中小企業の財務戦略観点から見ると卒業に近くなります。今度はM&A等の高等戦略を行っていく段階に入るためです。
記者)過去の実際の支援先を教えていただくことは可能ですか。
湯原社長)過去の支援先は、横浜家系ラーメンの「ギフト」(町田商店)、居酒屋業界で言うと、「てっぺん」、「絶好調」とかですね。関東だけではなく仙台も支援していたのですが、焼きとん大国っていう串を出している「株式会社エムシス」。福岡の「やきとりの八兵衛」、などがありますね。
記者)現在コロナで困っている飲食店に対してアドバイスがあれば教えてください。
湯原社長)コロナ関連融資の枠が余っているんだったら、最大限借りることです。必要がないお金と思うかもしれませんが、使わないのであっても、横に置いておくだけでも十分です。キャッシュがあると思うだけで安心を得られます。
その次に考えないといけないことが、コロナが始まって1年が過ぎてくるため、据置期間が終わり、返済を迫られる時期が来るということです。もう一度、お金を借りた金融機関に相談をし、据置期間を1年でも2年でも延長ができないかを相談してみてください。とにかく今は、手元からお金を出さないことに徹するのが一番です。
これができている方でなお資金に不安を感じる方は、次の手として、資本性劣後ローンという5年、10年、20年の期日一括返済というものがあるので、それにチャレンジしてみてください。どうしてまだ借りるのかというと、お金を集めるのと同時に、出ていくお金をなるべく遅らせたいからです。そうやって時間を稼ぎ、PLの改善に努め、来るべき返済日の資金繰りにキャッシュが間に合うようにすることです。
また不採算店舗の撤退を恐れないでください。不採算店舗があるということは、営業マイナスが起きているということ、つまりお金が出ていっているということです。撤退をすると、営業マイナスの赤字を止めることができますし、契約にもよりますが差入保証金がキャッシュとして返ってきます。
固定資産の除却損は出ますが、そのマイナスは帳簿上のマイナスであって、キャッシュが出ていかないマイナスです。マイナスが出ることに恐れを感じる経営者は多いのですが、帳簿上のマイナスはキャッシュアウトではないので気にする必要はありません。それよりも営業のマイナスはお金が流れていくため早急に止めてください。この決断が重要です。
記者)あとはわからないことがあったら、湯原さんに聞くということですね
湯原社長)そうですね。相談してくださればお答えします。
記者)ただ、空き枠は少ないんですよね。
湯原社長)そうですね。だから早い者勝ちです(笑)
決算月が1月、4月、7月、10月のクライアント企業が少ないので、この月を決算にしている企業とは、すぐに契約できます。3月、5月、9月決算の企業が多いのですが、とくに3月決算だと難しいですね。
記者)本日はお時間を頂きありがとうございました