事業承継税制とは
事業承継税制とは、事業の後継者が非上場の株式等を先代経営者から贈与や相続により取得した際に、一定の要件を満たした場合に贈与税・相続税の納税が猶予または免除される税法上の優遇規定を指します。
この項目では、事業承継税制のしくみや条件について紹介します。
事業承継税制のしくみ
事業承継税制については、2023年3月31日までに都道府県庁に会社が認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けて作成した「特例承継計画」を提出した場合に限り適用されます。
2023年3月31日までに計画を提出した場合には、事業承継税制適用の権利を手に入れたことになり、2027年12月31日までに継ぐ予定の会社の株式等を贈与すれば、適用可能となります。
そして、その納税猶予の適用を受けた株式等を有する後継者(2代目)が最低5年間は事業を継続させる。その後さらにその後継者(3代目)にその株式等を贈与した場合、または期間を問わず死亡に伴う相続により、3代目がその株式等を取得した場合には、その株式等に対応する贈与税、相続税の納税が猶予されます。
この際、3代目に事業承継がされたタイミングで2代目が猶予されていた税額のすべてが免除されます。
つまり、誰かが会社を引き継ぐ限り、納税が猶予されるしくみとなっています。
事業承継税制を利用するための条件
事業承継税制の適用を受けるためには、いくつかの条件があります。
・会社の条件
・先代経営者、後継者の条件
・事業継続要件
「会社の条件」については、適用対象となる会社が中小企業基本法で規定された中小企業であることが条件です。
具体的には、以下の業種に応じて資本金の額または従業員数のいずれかの条件を満たしている会社を指します。
業種 | 資本金 | 従業員数 |
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
ソフトウェア業または
情報処理サービス業 |
3億円以下 |
300人以下 |
※上記は一例
ただし、資産保有型会社もしくは資産運用会社に該当する場合、または風俗営業会社に該当する場合には適用除外となります。
「先代経営者、後継者の条件」については、贈与と相続の場合別に以下のように定められています。
【贈与税の場合】
・先代経営者の条件
1.会社の代表者であったこと(贈与までに代表権を返上していること)
2.贈与の直前において会社の筆頭株主であったこと
3.贈与時に代表取締役ではない
・後継者の条件
1.贈与を受ける際に会社の代表者であること(代表者は他にいても良い)
2.20歳以上であり、かつ役員就任後3年を経過していること
3.贈与を受けることにより筆頭株主となること
【相続税の場合】
・先代経営者の条件
1.会社の代表者であったこと
2.相続の直前において会社の筆頭株主であったこと
・後継者の条件
1.被相続人(先代経営者)の死亡の直前においてその会社の役員であったこと
※被相続人(先代経営者)が60歳未満であった場合は除く
2.相続開始日の翌日から5ヶ月以内に代表権を有していること
3.相続を受けることにより筆頭株主となること
上記の条件を満たさない場合は適用除外となるため注意が必要です。
そして「事業継続要件」については、5年間後継者が取得した株式を保有し会社の代表者であり続けることが条件です。
2018年の改正前には雇用の8割を維持することが条件であり、この縛りが大きかったため事業承継税制はなかなか広まりませんでしたが、今回の特例制度では認定経営革新等支援機関の意見が記載された「下回った理由を記載した書類」があれば問題ないという制度になっているため、実質的に雇用要件は撤廃されました。
事業承継税制のメリット
事業承継税制のメリットは、上記に記載のとおり贈与税・相続税の納税が猶予または免除されるため、事業承継がスムーズに進められる点です。
税法上、贈与税は相続税よりも税率が高く設定されており、平均寿命が延びていく中で事業承継がなかなか進まないことが問題となっていました。
この特例制度の新設により、税金のことを気にせず事業承継が進められるようになったので、大きなメリットであると言えます。
事業承継税制のデメリット
税金を気にせずに済むことが最大のメリットである事業承継税制ですが、デメリットもいくつか存在します。この項目ではそのデメリットについ紹介します。
事務手続きが煩雑
まず、適用を受けるための手続きが非常に煩雑となっています。
適用を受けるために必要な手順として、以下の作業を行わなければなりません。
1.特例承継計画を策定して都道府県庁に提出し審査を受けて「認定書」を受け取る
2.受け取った認定書を添付して納税猶予の適用を受けるための贈与税申告書を納税地の所轄税務署に提出する。
3.納税猶予の適用を受けたあと、5年間毎年都道府県庁に報告書を提出し、その報告によって受け取った「確認書」を添付して届出書を提出する。(5年経過後は税務署に3年に一度の届け出で良い)
4.先代経営者が死亡した場合に、都道府県庁に贈与税から相続税への切替確認の手続を行う。この手続きにより「切替確認書」を受け取る。
5.その切替確認書を添付して納税猶予を適用した相続税申告書を提出する。
上記の作業を行うにはかなりの労力を要します。また、専門性の高い書類が多いため、税理士などの専門家に頼る必要があり、費用が発生することも頭に入れておく必要があります。
納税猶予の打ち切りリスクがある
納税猶予の打ち切りリスクについて、株式の譲渡や資本金の減少など納税猶予中に禁止されている事項を行った場合には打ち切りとなるのですが、他にもかなり細かく規定されており、事前にしっかり確認しておかないと思わぬタイミングで猶予されている税金を支払うはめになります。
対応できる専門家が少ない
この事業承継税制自体が正しく適用するためには多くの知識が必要となり、手続き自体も認定経営革新等支援機関などが絡み非常に煩雑です。
また、適用条件や適用しても打ち切り事由が存在しているため、ひとつでも間違えば、とんでもない金額の税金を支払うことになるため、非常に責任の重い仕事にもなります。
こうした理由から対応できる専門家自体が少なく、その中から信頼のおける者を選ぶのは非常に困難であると言えるでしょう。
事業承継税制の利用に不安があれば専門家に相談を
事業承継税制は、適用条件や適用するための方法などが非常に複雑であり、計画を作る段階から認定経営革新等支援機関の指導及び助言が必要なため、独学で実行するのは非常に困難です。
こういった場合は、実績のある専門家に依頼するのが確実です。
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まとめ
この特例事業承継税制は、制度を適用するための期限が2023年3月31日までと明確に定められているため、なるべく早めに行動に移すことが重要となります。
「後継者をだれにするか」「いつ事業を継がせるか」など、言いだしにくい問題ではあると思いますが、いつかは話合わなければなりません。
大事なのは、会社としての大きな問題に先代経営者、後継者、その他の親族、会社関係者等が一丸となって取り組むことです。
特例事業承継税制を契機に、計画の実行により会社の事業を磨きつつ、後継者の育成も行い会社の長期存続のための地盤を固めていきたいものです。