店舗を移転・閉店する際の原状回復工事はどこまで必要か
実際に店舗を借りていて、移転もしくは閉店する際に原状回復工事はどこまで行う必要があるのでしょうか?
住居などではなく、店舗を借りた際の原状回復工事というのは、借りていた物件を入居時の状態に戻す工事のことです。店舗の場合の原状回復工事とは床や壁、天井・内装などがなにもない、「コンクリートの打ちっぱなしの状態(=スケルトン)」に戻す工事を指すことが大半です。
万が一、経年劣化のように見える損耗であっても、借主に原状回復工事の費用が発生します。これは、店舗物件は営利を目的とした契約で、人の出入りも多くなるため、経年劣化としての損耗とは考えないためです。
また、店舗を借りて店の雰囲気に合わせて改装したのであれば、その改装も全て取り払い、元の状態に戻す必要がありますし、たとえ居抜き物件として店舗を借りた場合でも退去する際にはスケルトンに戻さなければならないこともあります。
この原状回復工事については、店舗を借りる際に交わす契約書や特約にも明記されているので、店舗の退去が決まった場合には、どこまでの原状回復工事が求められているのかを確認しておく必要があります。
原状回復工事のガイドライン・費用の負担、相場
店舗物件の場合、基本的には借主側で原状回復工事を行う必要があり、原状回復工事の費用も借主側が負担することになります。
では、原状回復工事費用の相場がどのくらいになるのかを見ていきましょう。
飲食店を運営していた場合、見た目の解体・修繕だけではなく、排水設備工事や厨房機器の処分、空調機器のクリーニングなども通常オフィスよりも費用が高額になりがちです。
実際に費用相場がどれくらいになるのかというと、
小規模店舗(10坪~20坪):2万5千円〜3万円程度/坪
中規模店舗(31坪~40坪):3万円〜5万円程度/坪
大規模店舗(51坪以上):5万円以上/坪
ただし、上記はあくまでも目安です。
工事業者によって見積金額が違ってくるので、いくつかの業者に相見積もりをとることをお勧めします。
工事業者を探していると、相場と比べて費用を下げて行っているところもあります。ですが、費用が安いというだけで選んでしまうと、後でトラブルになる場合もあるので注意が必要です。
例えば、費用の安い業者に依頼をしたものの、後に修繕工事等で出たゴミが不法投棄され、市の方から連絡が来たというケースもあります。
業者を選定する際には、過去にトラブルはなかったか等の確認もしましょう。むやみに費用の値下げ交渉をすると、逆効果の場合もありますので、減額交渉を行う場合は慎重に行いましょう。
契約書の内容、特に特約などに目を通し、原状回復工事の見積書の内容が定められた範囲と一致しているか、不必要な工事が無いかを確認しましょう。
貸主も人間ですので、日頃から友好な関係を築いておくと費用の相談もしやすいかと思います。
賃料の滞納はしない、賃貸物件を大切に扱うなど日々の気遣いを心がけておくことも重要です。
また原状回復工事は余裕をもって行うことが必要です。工事完了予定が退去日の前日では、工事が遅れたり、何か問題が起こった時に退去日に間に合わなくなることがあります。原状回復工事のスケジュールは余裕を持って組むようにしましょう。
また、貸主との関係性を考え、査定から交渉までプロに任せるという方法もあります。自身では見積書の内容に関して詳細に説明を受けても理解できなかったり、「費用の相談はできない」と言われ反論する材料が乏しくそのまま交渉が終わってしまうケースもあります。お互いに気持ちの良いスムーズな退去を目指し、プロに助力を得るのも一つです。
原状回復工事の流れと工事業者の決め方
店舗の原状回復工事はスケルトン工事を求められることがほとんどで、その際は廃棄物処理までが一連の作業になります。
スケルトン工事は、床や壁はコンクリート剥き出しの状態、天井は閉じずに配線が見える状態にするのが一般的ですが、細かい点については物件ごとに異なるため、事前に契約書をチェックした上で、貸主と協議した上で工事を発注します。
さらに、解体作業で出てきた廃棄物を処理する必要があります。各自治体により廃棄物処理の法令や条例があるので、それを遵守し処理を行うことが必要です。原状回復工事を行う業者が、廃棄物処理まで行うのが一般的で、原状回復工事の費用には廃棄物処理費用が含まれます。
賃貸契約書によっては、原状回復工事を行う業者は貸主側が指定している場合があります。これは貸主が信頼できる業者に頼みたいと考えるためです。
ただ、借主としては原状回復工事費用の見積もりが適正かどうか、別の業者に相見積もりを取った上で費用の相談をすることは可能です。貸主側にまかせてしまうと高額な原状回復費用を請求されることもあります。貸主側との交渉次第では費用を下げたり、工事業者を自分で選べる可能性もあります。
原状回復工事以外の選択肢、「居抜き退去」という方法
ここまで原状回復工事のことをお話してきましたが、手順を踏んで貸主と相談することで原状回復工事をしない方法もあります。それは、「居抜き退去」という方法です。
「居抜き退去」とは、前テナントが利用していた造作・設備・什器等がついたまま退去する方法のことです。通常、店舗の場合、借主は自ら物件に取り付けたものを全て撤去し、物件を何もない空の状態に戻して貸主に返却しなければなりませんが、もし貸主の承諾が得られれば、借主は店舗の内装や設備を残したまま、後継者に引き渡すことが出来るようになります。このような退去方法を「居抜き退去」と言い、居抜き退去する物件の事を「居抜き物件」と言います。
そのため、原状回復工事を行う必要がなく、閉店コストを抑える事ができます。
また、居抜き物件になると、次に入居する人が内装工事から始める必要がなくなるため、業種に縛りがでるものの、費用をかけずに店をオープンさせたい人には人気の物件になります。
ただし、原状回復工事をせずに、居抜き退去をするためには、退去期限までに新たなテナントを見つけ、内装等の引き渡しの同意を得る必要があります。
居抜き退去という方法は、貸主にとっても、空室リスクが軽減され継続した家賃収入が見込めるので、退去するテナント・貸主・次の入居者それぞれにメリットがあります。
貸主との交渉次第では、居抜き退去もOKということもありますのでぜひ交渉してみてください。
店舗の原状回復工事の際に起こりやすいトラブル
店舗の原状回復工事については、トラブルも存在します。いくつか実際に起ったトラブルを紹介してみます。
・店舗の原状回復工事はどこに頼んでも費用がそれほど変わらないと思っていたため、相見積もりを取らずに最初に連絡をした業者に頼んだ。結果、その業者の工事費用が高かったことが後からわかり、後悔した。
・原状回復工事のスケジュールを出してもらった時には、退去日までに完成するはずだったのが、工事が遅れてしまい退去日を過ぎての完了となった。結果、貸主に追加で1か月分の賃料を支払うことになった。
・店舗の原状回復工事を行う際、普通は工事業者が近隣の店舗に挨拶をしに行くものだが、依頼をした業者が挨拶をせずに工事を始めてしまった。結果、近所から騒音などのクレームが入り、工事が立ち行かなくなった。
・原状回復工事の業者には壊してはいけない場所を伝えていたものの、間違えて取り壊しをしてしまった。結果、貸主から後に多額の請求書が送られてきた。
・原状回復工事の業者に取り壊しの指示を出していたにもかかわらず、壊し忘れや残置物があるまま連絡が取れなくなった。結果、別の業者を雇わなくてはいけなくなった。
・原状回復工事の業者が廃棄物を不法投棄したため、廃棄物に含まれていた看板をもとに、弊社に連絡があり、不法投棄の責任を取らなければいけなくなった。
こういったトラブルを最小限に抑えるためには、社内に原状回復工事の知識のある担当者が必要です。工事業者を選定する際には十分にご注意ください。
良い工事業者の見極め方
では最後に、店舗の原状回復工事に適した工事業者の見極め方を4つご紹介いたします。
①社員を自社で抱えており、メールや電話にレスポンスよく返答をくれる業者
レスポンスが遅い会社は人手が足りていない可能性があります。しかし、ただレスポンスがよくても、肝心な回答が遅かったり、聞いていることと違う返答が返ってくる場合にも注意が必要です。また、社員を抱えておらず工事を外注している場合、その時々によって仕上がりにムラが出る可能性があるため、お勧めできません。
②店舗の解体工事の実績が多く、貸主や管理会社の要望をくみ取ってくれる
店舗の解体工事の実績は重要です。実績が多ければ多いほど、依頼人がどうしてほしいのかの理解が早い上、出した要望に対してアドバイスをしてくれることもあります。
③常識的な費用体系で納期を守って工事をする
常識的な費用体系かどうかは相見積もりをとるとわかります。ただ納期を守れるかどうかは、初めて依頼をする業者ではわかりづらいかもしれません。インターネットなどで検索をして、批判的な意見がないか探してみるのも良いでしょう。
④産業廃棄物処理のマニフェスト伝票(産業廃棄物管理票)を工事ごとに出せる
マニフェスト伝票があるということは、ゴミ処理を法令遵守して行っている業者の証になります。工事業者選定の際にはチェックしておかなければならないポイントの一つです。
以上の4つを軸に、良い工事業者を選定しましょう。
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