飲食店主の疑問…取引している銀行の支店長が挨拶に来た、これは何?

飲食店主の疑問…取引している銀行の支店長が挨拶に来た、これは何?

初めての出来事であり、しかも相手は融資を受けている銀行の支店長、さすがに慌てますよね。なんとかその場は取り繕って対応したとしても支店長が帰った後で事業主の頭の中に疑問がチラホラ。「何で突然支店長がウチに挨拶に来たのだろう?」


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取引している銀行から融資を受けているとします。その銀行と初めて取引を開始した時も一度も支店長など自分の店に来なかったにも関わらず急に御社を担当している得意先係が支店長を連れて挨拶にやってきました。

初めての出来事であり、しかも相手は融資を受けている銀行の支店長、さすがに慌てますよね。なんとかその場は取り繕って対応したとしても支店長が帰った後で事業主の頭の中に疑問がチラホラ。「何で突然支店長がウチに挨拶に来たのだろう?」

そこで元銀行員の著者がその訪問の目的を銀行のさまざまな背景と共に分かり易く解説します。

支店長の挨拶はあくまで社交辞令に過ぎない

まず押さえて欲しいポイントはこの一言に尽きます。「支店長が訪問してくることに大した意味はない」

支店長というのは言わばその支店の顔です。基本的に取引先に対しては八方美人でなければなりません。取引してくれている全てのお客様に対し、継続して取引してくれるよう常に良い印象を与える必要があります。そのような支店長がいきなり取引先にやってきたとしても直接取引の根幹に関係するようなドロドロした話などするわけありません。あくまで表面的な話に終始して顧客に良い印象を残して帰ります。「ウチのような取引先にも支店長さんがわざわざ挨拶に寄ってくれた」と。

融資なら金利とか担保、保証人など繊細な話は全て得意先係が事業主と直接顔を突き合わせてやりますし、得意先係が仮に経験不足でうまく話をまとめられない場合は、その上司である得意先係長を連れてきて話をまとめます。支店長が自らそんな話をするために取引先を訪問することは滅多にありません。

つまり支店長の挨拶というのは、あくまで社交辞令の一環として行われるということです。その点を事業主はまず押さえて欲しいと思います。その点を理解せず、訪問してきた支店長にいきなり「支店長、実はお金が必要なので融資して欲しい、私の希望する融資条件…」って切り出すのはあまり望ましい対応ではないです。

仮にそんな話の展開になっても支店長と一緒に帯同してきた得意先係から「社長、その話はまた後日私がお伺いします」って話をはぐらかされて終わりです。

こんなタイプの支店長には要注意

ただそうはいってもどの世界にも例外はあります。支店長自ら営業マン化している場合です。支店の運営はほとんど次長に任せて、支店長自ら一日中取引先回りばかりしている支店長もどの銀行にも一定数はいます。その支店長が率先して頑張った結果、支店として短期的には営業成績を上げて行内表彰を受ける場合もあります。

営業成績が良いのはある意味当然で、支店長には融資に関して一定の融資額まで単独で決済できる権限が本部から与えられているので、それを使ってその気になれば支店長がその事業先の決算内容の良し悪しに関係なくどんどん融資を実行していくことも可能だからです。それに単独で決済しますから融資スピードも速いです。融資の欲しい一部の取引先からは「融通の利く支店長」として評価も上がるでしょう。

ただこの方法が良いかというと元銀行員の著者は否定的です。

このようななんでも自分で決めたがるワンマンな支店長の下は銀行内で人材が育ちません。常に支店長が単独で取引先と融資案件を決めてくるので、その後は得意先係も結論が決まっている案件を体裁よく処理するだけの事務屋になってしまいます。その結果得意先係としての審査能力が育たず、常に支店長の顔付きだけを伺うような内向き行員ばかりになってしまいます。

融資条件に関しても行内で決めた融資方針を取引先にただ押し付けてくるような得意先係ばかりになりますので融資先に交渉の余地などほとんどありません。結局、融資先の大半が迷惑を被るようになり、支店への不信感から最後はくしの歯が欠けるようにどんどん融資先が他の銀行に取引を変えてしまいます。

こういうタイプの支店長が赴任して挨拶しに来たら、事業主は早めに取引している他金融機関に融資相談を持ち掛けて保険を掛けていたほうがいいと思います。気分で支店経営やっていますので、支店長面談で取引先の印象が悪かったらいきなり融資を引き揚げることもあります。

どのような先に支店長は訪問するのか

ところで支店長がどのような先にどのような基準で訪問するのか、事業主は知りたいところですよね。一般的に支店長が取引先回りをするときには、最初に訪問目的別に基準を作ってその基準以上になった場合にその取引先を訪問することが多いです。その訪問先リストを作るのは殆どの場合、得意先部門の係長が中心になって行います。

まず各得意先係および融資係が担当している顧客名簿から、その支店の融資取引上位リスト、預金取引上位リストを作り、上位から一定の順位までの取引先を支店長訪問リストに加えます。さらに既に融資取引のある取引先からこれからさらに融資を売込みしたい取引先について、得意先係からヒヤリングを行いこのリストに加えます。

また最近は融資だけでなく、投資信託や変額保険商品などが銀行の手数料ビジネスに大きく貢献しているのでその販売予定先もまたリストに加えることが多くなっています。

つまり支店長の訪問先というのは主にその支店と長らく取引があり、既に融資や預金で支店業績に貢献してくれている取引先や、これから融資や各種金融商品で得意先係が販売を注力したいと考えているような先を中心に構成されており、支店長を訪問させることで最終的に支店の業績に結び付けることが目的になっています。ただし支店長自らその場で商品を売り込むようなことはあまりありません。しばらく間をおいて取引先係が何事もなかったような振りしてやってきます。

もちろん全てがそうでなく単なる表敬訪問の場合もあります。事業主もそれらを理解した上であうんの呼吸で対処すべきでしょう。

支店長訪問を受けたら事業主はどう対応すべきか

支店長の訪問を受けた場合、事業主には自然体で応対してもらいたいと考えます。特別に気負ったり緊張する必要もありません。事業主は一国一城の主、相手は支店長と言っても所詮サラリーマンです。堂々と対応すればいいのです。

ただせっかく取引銀行の支店長が来たのですから、その機会を見つけてぜひ御社の経営について強くアピールして好い印象を与えて頂きたいと思います。次回融資を受ける時の良い布石になるでしょう。

また待ちの姿勢だけでなく、御社の決算書ができた暁にはその銀行の支店を訪問して、もし支店長がいた場合にはぜひ「決算説明をしたい」と申込みして欲しいと思います。そのような姿勢は支店長並びにその支店の行員には前向きに受け入れられます。著者から見てもこのような決算説明にわざわざ銀行に来られる事業主は少数派だからです。ぜひ実践してみて下さい。