飲食店経営者の疑問…銀行の担当者はなぜすぐ転勤してしまうのか

飲食店経営者の疑問…銀行の担当者はなぜすぐ転勤してしまうのか

顧客にすればなぜこれだけ頻繁に交代があるのかと疑問を持つでしょうが、銀行からすれば同じ顧客と担当者の関係が密になりすぎると、情実に絡む融資の発生リスクが上がりますし、また担当者が不正を働いても転勤させることで早めに発見できます。結果として不正防止にもなります。


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銀行員は通常2~3年サイクルで転勤を繰り返します。そのため、経営者からするとやっとその銀行の担当者に慣れてきて融資でも気安く相談できるようになってきたタイミングでいきなり転勤、次に来た担当者がいかにも頼りなさそう。こんな場合、つくづく銀行の転勤というシステムを恨めしく感じますよね。

しかし銀行のシステムである以上仕方ありません。経営者は新しい担当者とうまく付き合っていくしか方法はないのです。でも同じ付き合う上でもちゃんと流儀があります。この記事では元銀行員として、また長らく営業の第一線で得意先係を担当し幾度となく転勤を経験した筆者からその対応についてアドバイスします。

転勤の背景

銀行が定期的に転勤を繰り返すのには当然理由があります。ご承知のように銀行員の扱う商品はお金です。信用を背景にしたビジネスなのでお金に関するトラブルだけは絶対避けねばなりません。そのトラブル防止の手法のひとつが転勤だと考えて下さい。例を上げれば転勤頻度の少ない地域密着型の金融機関、信用金庫とか農協、郵便局などでは職員による不正で被害金額も大きくなりがちです。職員の転勤がなくひとつの仕事に長らく携わることによる弊害がこういう形で発生する事例です。

銀行の得意先係でも転勤により常に担当者の入れ替えがあります。顧客にすればなぜこれだけ頻繁に交代があるのかと疑問を持つでしょうが、銀行からすれば同じ顧客と担当者の関係が密になりすぎると、情実に絡む融資の発生リスクが上がりますし、また担当者が不正を働いても転勤させることで早めに発見できます。結果として不正防止にもなります。

これは支店長とて例外でなく所詮サラリーマンですので不正防止の意味では支店長も転勤対象です。また転勤は人事刷新によるマンネリ化防止の意味もあります。人は飽きやすい動物なので働く環境を変えることでリフレッシュして新たに働く意欲も出てきます。

融通が利かない状況とは

転勤によって担当者が交代になり、経営者にとって「融通が利かなくなったとは」どういう状況のことでしょうか。それは融資に関し、担当者と意思疎通ができて苦労せず融資に応じてくれていた環境がまた振出しに戻ることを意味します。さらに悪いことに、次に来た担当者が前担当者と比較して行員としての意欲も能力も低い場合、頼りなくて融資相談さえためらうようになります。これでは担当者としての意味さえありません。

こういう担当者だと仮に融資の申込みをしても、自分の手元で融資案件として握っているだけでなかなか銀行内部に回してくれない、融資して欲しいタイミングで実行してくれない、顧客の意向を無視し銀行の意向だけ一方的に伝えてくるような担当となるなど、経営者にとって全く融通が利きません。

では何か良い対策はないのでしょうか。それを考える前に転勤に伴い銀行内では何が起こっているか、知っていただきたい点があります。

担当者が交代する時、銀行内部で起こっていること

転勤により取引先の担当者が交代する場合、当然顧客を巻き込んで引継ぎが行われます。通常この引継ぎは1週間以内に終了し、担当者はそれぞれ新しい勤務地に翌週から赴任しなければならないので土日を含めると実質引継ぎには5日間しか使えません。さらに引継ぎには現在の勤務先と次の勤務先での引継ぎがありますので、それぞれの引継ぎには多くて2~3日しか掛けられません。その間に100社を超える融資先や主要預金取引先への新旧担当者同伴の訪問、得意先資料の作成・引継ぎまで入れるとこの日程がいかにタイトか想像できると思います。

とても新旧担当者で一社に長時間挨拶・引継ぎをできる状況ではありませんので、ほぼ駆け足で引継ぎをする感じになります。
さらに引継ぎをする担当者がずぼらな性格の場合、資料の引継ぎも雑なので、後任の担当者が担当する全ての事業先について詳細を把握できるというのを期待するのは無理なのです。

そのため、経営者としては新しい担当者には初めから大きな期待を持たず、全く何も知らない取引先係が御社を訪問してきたという前提で対策をした方がいいと思います。下手な期待を持てばその結果に落胆することは目に見えています。

経営者が取れる対応・対策

それでは具体的に経営者は新しくやってくる得意先係に対しどのような対応を取るべきでしょうか。私の提案です。

①自分の事業内容、現状の分析と方向性、自分の事業に掛ける決意などについて時間を作って文書化しておくこと

こうしてその内容をパソコンに保存しておけば、いつ何時銀行の担当者が交代しても、新しい担当者が来た時にパソコンから取り出し印刷したものを交付すれば事足ります。並みのレベルの行員なら、慌ただしい引継ぎが終わり一息ついてから、御社から交付された要約書を読みつつ行内に蓄積された貴社データと突き合わせてゆっくり理解していくでしょう。

著者の体験としてはほとんどの事業先がこのような対応をしていません。引継ぎのその時だけ前任が後任担当者に経営者の前で口頭説明しますが、新担当者は気持ちに余裕がないのでほとんどその話の内容を忘れてしまいます。しかし文書を渡すことで担当者の頭には御社がしっかりと意識づけられます。他社がほとんどやらないので大変効果的です。またのちのちこれは融資にも資料の一部として利用され活きてきます。なにより御社自身が作成されているので得意先係が伝言で作る文書より説得力が高いものになります。

②得意先係のタイプに関係なく銀行と戦略的に付き合うこと

銀行と言っても人は最もコストの掛かる経営資源です。そのため人員に余裕はありません。御社を訪問してくる担当者も御社の銀行における評価ランクやテリトリーによって色々な行員が配置されてきます。

一度担当者が決まれば最低1年以上付き合う必要があります。経営者が気に入らないからと言って担当者の交代を依頼しても、銀行も人員に余力がないので、むしろ「面倒な顧客」とレッテルを張られるのが落ちです。そんなことをするより、むしろ配置された担当者のレベルを見極めてうまく活用したほうが得策です。

担当者には大雑把に分類して
⒜得意先係になって1年未満の行員
⒝年齢は25歳後半から30歳代前半までで得意先係として経験も積んで単独でどの分野の仕事もひととおりこなせる行員
⒞年齢が明らかに30歳代後半に達し、行内評価が低くまだ係長にもなっていないような平行員
の場合と分けられますが、それぞれに応じて違った対応が必要になります。

ただ行員レベルに関係なく御社に対応してもらいたいのは、融資を含む全ての依頼には口頭でなく文書で対応して欲しいという点です。それが担当者のレベルに関係なく御社の意向を銀行に正確に伝える最も有効な手段と思います。

また担当者レベルごとの対応としては、それぞれ銀行員としての能力や経験を把握して、レベルに応じて面談回数を増やして御社の意向を理解させるよう、努力して欲しいと思います。

担当者も一人で多くの取引先を担当しています。その中で経営者が得意先係を味方につけたいのなら手間が掛かっても担当者と機会を見つけて接触回数を増やすのが一番の方法だと筆者は思います。

また同時に得意先係とばかり懇意にするのでなく、時には銀行の支店を自ら訪問して融資係や時には支店長とも面談して信頼を高め、必要な時には融資をタイムリーに引き出せる環境を経営者自身作り出していってもらいたいと考えています。