飲食店オーナーに銀行が勧めてくる金融商品とそのメリット・デメリット

飲食店オーナーに銀行が勧めてくる金融商品とそのメリット・デメリット

融資を借りていると融資取引以外に色々な金融商品を銀行から勧められることがあります。銀行は融資だけでは利益が得にくくなっているので近年は他の金融商品を販売し利益を確保しています。融資先の場合、銀行から依頼されると融資を借りている関係で無下に断れないのも弱みです。


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融資を借りていると融資取引以外に色々な金融商品を銀行から勧められることがあります。銀行は融資だけでは利益が得にくくなっているので近年は他の金融商品を販売し利益を確保しています。融資先の場合、銀行から依頼されると融資を借りている関係で無下に断れないのも弱みです。

しかし銀行の取り扱う金融商品も良し悪しがあり、個人事業主にとって必ずしも良い商品と言えないものも多くあります。この記事では地方銀行に30年勤務し、それらの金融商品の販売体験を持つ筆者が行員の勧める主たる金融商品のメリット・デメリットを紹介し、また利用して欲しい金融商品にも触れます。

預金・個人向け国債

銀行の金融商品と言えばまず預金です。普通預金・定期預金など目的別に利用できますが、現在の金利を某地銀の定期預金で調べると1年~10年間預けてもなんと全て0.01%でした。100万円預けて1年に100円利子が付く計算です。税金が引かれるので差し引き80円の手取りです。これではほとんど預ける意味がありません。

しかし事業主としてはいつ何時事業資金が必要になるかもしれません。ある程度余裕をもって自己資金を用意しておくことは必要ですし、やはり定期・積立預金等の形で銀行と取引を継続しておくことは大事なことです。なにより預金のメリットはいつでも解約が可能で即利用できる点です。

一方、銀行から個人向け国債を勧められたらどうしたらいいでしょうか。

著者としてはあまりお勧めできません。

個人向け国債というのは簡単に言えば国が発行した個人対象の債券です。額面1万円から購入できて半年ごとに利子を受け取りつつ、満期が来れば元金がそのまま返還されます。運用期間は3・5・10年とありますが、デメリットは契約後1年間解約ができないことです。これでは事業主がすぐに現金化したくても間に合いません。さらに満期まで持てば元金は額面通り戻ってきますが、中途解約には元本を下回るリスクがあります。その上、預金と同様国債の利子水準が低すぎて、これらのデメリットをカバーできません。

投資信託・個人年金保険

預金とともに既に銀行の主力販売商品になっているのが投資信託や個人年金保険です。

投資信託というのはたくさんの顧客から集めた資金をひとつにまとめて、運用のプロが公社債・国内外株式・不動産投資信託など様々な有価証券に分散投資して運用するものです。その運用の結果、収益が発生すれば分配金という形で顧客に還元されます。投資する運用対象によって実に様々なタイプの投資信託があり、顧客は銀行から説明を受けて好みの投資信託を購入します。投資信託は株式等投資に知識のない顧客でも運用はプロに任せるので安心、簡単に購入できると銀行は説明します。

しかし投資信託の特徴は投資した元本の保証がないということです。投資の結果がプラスでもマイナスになっても全て自己責任です。

一方確実なのは、運用結果に関わらず顧客は高利の手数料を販売した銀行や投資信託の運用・管理会社に取られてしまうということです。預金金利がわずか0.01%しかないのに、これらの手数料は合計で3%~5%にも達します。しかも投資信託を運用している間は定期的に2%程度の信託報酬という名の管理手数料を取られ続けます。

筆者も行員時代から自ら投資信託を運用していますが、運用の貧弱さに加えてこの手数料の高さに辟易しているのが実感です。お勧めしたくない金融商品の代表です。

さらに個人年金保険も銀行員は熱心に販売してきます。

保険と名がついているのは最終的に60歳以降年金として受け取りすることを目的とした商品であるためなのですが、実態は投資信託勘定に投資する金融商品です。以前は途中の運用実績に関わらず最終的に元本が保証されていたタイプもありましたが、今はほぼ元本保証のないタイプばかりです。この商品のデメリットも運用成績は自己責任である一方、確実に販売時・運用中さらに年金受取中も高利の手数料を取られることにあります。

投資信託は分散投資でリスク軽減できると聞こえはいいのですが、実際は日本の投資信託勘定は相当数が元本を割っているものが多く、高い手数料だけ取られているのが実態です。

銀行がいくら勧めても事業主はあまり関心を示さないほうがいいと思います。

個人カードローン・フリーローン

個人事業主が事業性融資を借りていると、行員からよく勧められるのが個人カードローンやフリーローンの類です。なぜなら金利も相対的に高く銀行の収益に貢献するからです。

筆者としても、その事業者が子供の教育資金とかマイカー購入資金という明確な目的があって個人ローンを利用することまでは否定はしませんが、必要もないのに銀行の頼みに付き合う形でこのようなカードローンやフリーローンを利用することはお勧めしません。

このような個人ローンは単に銀行担当者の個人成績に貢献するだけで事業主には何のメリットもありません。それどころか不必要な個人向けカードローン枠を作ることで、追加の事業資金が必要になった時、安易に個人資金と事業資金を混同してこのカードローンの資金を事業資金に流用したりすることがあります。こういう公私混同は後に信用失墜という形で事業主本人にはね返ります。あくまで実需に基づいて個人ローンは利用しましょう。

筆者が勧める金融商品とは

お勧めできる金融商品が少なそうですが、ではお勧めできる商品はないかというとそれがちゃんとあります。それは「確定拠出年金」という商品です。小規模な信用金庫では取扱いしていないところもありますが、都銀・地銀等は保険会社と提携しているので契約できます。

以前の記事で所得税の節税のために利用できる小規模企業共済という方法をご紹介しました。小規模企業共済ではその掛金を全額所得から控除でき大きな節税効果が期待できます。

一方、それとは別建てで確定拠出年金という金融商品を利用すると、その掛金が全額、所得控除の対象となるのです。

この制度が認められている背景には、日本も年金を含む社会保障制度が財政的に厳しくなっており、公的年金だけでは頼りないので、自己責任で個人年金を充実させる必要性が上がってきたことが上げられます。そのためこのような付加的年金制度を国が税制面からサポートしているのです。しかしまだまだこの制度は普及していないのが現状です。だからこそ個人事業主はこの制度に興味を持っていただきたいと思います。

https://www.ideco-koushiki.jp/ (個人型確定拠出年金)

個人事業主の場合、掛金は一人当たり月額5千円から最大で6万8千円まで利用することができ、年間では81万6千円もの控除が認められています。その人の所得税率にもよりますが年間20~40万円位は節税できる計算です。さらに小規模企業共済同様、利用できる人は事業主以外に事業に携わる家族も認められています。公的制度としてうまく利用すれば節税した分だけ確実に資金が手元に残る話です。

ただ、最終的に年金でもらうために掛ける制度なので、一度確定拠出年金を契約すれば60歳までは引き出せません。そのため途中で止めないためにも掛金の額は無理のない範囲に留めておいてください。もちろん事業が軌道に乗れば後で増額もできます。
小規模企業共済や確定拠出年金を節税の観点からうまく金融商品として活用することは、銀行の勧めるメリットの少ない金融商品に付き合うより、のちに事業主に何倍もの利益となって帰ってくるものと考えます。