そもそもなぜ緻密な事業計画書・資金計画書が必要か
お金を借りるのになぜ詳細な事業計画書・資金計画書を作る必要があるのか、少しシンプルに考えてみましょう。ここに二人の友人がいます。もしある理由でお金が必要になった人が友人に借りたいと申し出たとしましょう。頼まれた友人はできれば何らかの力にはなりたいと考えます。でも持っているお金は過去の仕事で苦労してやっと貯めたお金、それを一定期間友人とはいえ他人に貸すのですから、返済期限が来たら当然返してもらいたいと思うし、貸している間も本当に返してくれるかどうかいつも心に心配を抱えることになります。そこでお金を貸しているその間、自分の気持ちが落ち着く代りになる物が欲しい、普通の人ならこのように考えて当然です。
そしてこれを金融機関に置き換えると、その代替物が土地・建物や有価証券等の担保とか、借りた人が返済できないとき代わりに支払いを約束してくれている連帯保証人や保証人なのです。
しかしもしその融資の条件が無担保・無保証となると、最終的な返済の拠りどころはその借りる人が差し出した綿密な事業計画書・資金計画書そのものになります。
ところが、肝心のそれらがざっと見ただけであまりに雑すぎてとても信頼に足るものでないとしたら、たとえ友人でも貸すことにためらってしまうのではないでしょうか。ものすごく簡単な理屈です。
しかし長年金融機関の融資実務に携わった経験を持つ筆者は、その点で中小企業代表者・個人事業主にその計画書作りをあまりにも軽視している人が多かったことにかなり悩まされてきました。
融資の申込はどのように金融機関で審査されるのか
それでも、以前ならそのような安易な気持ちで金融機関窓口に融資申込に来られた方でも、実際は金融機関が協力して、計画書作りも含めてなんとかやり繰りして融資を実行してきたものでした。しかしそれも商売始めたらだれでも儲かったのはすでに過去の時代の話です。
日本はすでに若い人口が減る一方で景気も不安定なので、事業の成功率も落ちていますし、金融機関も以前のようなやり方で安易な審査などしていたらすぐに不良債権の山積みになります。
その結果、おのずと審査は慎重になり、申込者が出してきた事業計画書・資金計画書が本当に妥当性があり数字の裏付けに基づいて作られたものか、多面的に徹底チェックするようになります。さらに直に申込者を金融機関に呼び出し面接しながら、内容の根拠を厳しく確認します。
もし事業計画書を作る過程で背伸びした売上や利益、あるいは虚偽の事項が盛り込まれていたら、相手も金融のプロなのでその矛盾を見破ってきます。資金計画書も同様にチェックを受けるので、設備資金と運転資金の区分けもつかないような計画書は当然ダメです。
チェックの結果、一旦信頼を失えばもう審査に通ることはないので、いかに事前の準備が大切か理解していただけると思います。
新規開業とすでに売上実績のある場合の融資判断の違い
ところで、全く経営実績のない新規開業とすでに一定の売上実績がある場合の融資の申込を受けたとき、金融機関の審査の姿勢は全く異なることを知っていますか?
もちろんいくら売上実績があるといっても何期も続けて赤字決算の書類を出されてもさすがに金融機関としても困りますが、金融機関というのは実績主義なのでちゃんと決算書や確定申告書が形式的にでも整っていれば割と融資には積極的なのです。
しかしこれが新規開業資金申込で、さらに申込者の話がやたら誇大であてにならないものだと判断すると、さすがに金融機関も疑い深くなり融資に慎重になってきます。
その点、出された事業計画書・資金計画書がちゃんと根拠を持った数字に裏付けされており、計画そのものにも妥当性があり、さらにそれがその分野に精通した専門家のチェックを受けたような書類だとがぜん説得力が高くなります。
飲食店の新規開業資金で最低限準備したいこと
それでは飲食店に初めて取り組む人がその開業資金を金融機関に申込む場合、計画書を作る以前にどのような準備をすればいいのでしょうか。
まず、いきなり新しい金融機関に飛び込んで融資を申し込んでも簡単に融資には応じてはもらえないということを知ってください。安易な気持ちで金融機関に飛び込んで行ってもすぐにお金を貸してくれるほど金融機関は甘くはありません。最近は個人向けカードローンなどネットで簡単に全ての手続きが済ませられるようになっていますが、それはちゃんと最初から保証会社がバックについているので金融機関も簡単に融資に応じられるのです。しかしこの事業性資金に関しては今もほとんどの金融機関が昔ながらのオーソドックスな審査をやっています。そういう金融機関には何事もちゃんと正攻法で臨むのが結局確実な成果を得られる一番の近道なのです。
日頃から身近な金融機関に口座を開設し預金取引や公共料金・カード決済など日々の取引をコツコツやっている人はいざという時、融資の面でも有利になります。そのような取引のある人からの融資の申込はやはり金融機関としても応援したくなるものです。
さらにその申込者が詳細に作られた事業計画書・資金計画書を持参して融資を頼んできたら、金融機関としてもなんとかして協力しようとします。
将来飲食店で新規開業をしようと考えている人は、日ごろからメインバンクとの継続した日常取引がいざ融資の申込時にいかに有効かということを改めて認識してほしいと思います。要するに本当の信用というものは作るのにかなりの時間がかかり急には作れないものなのです。