飲食店の個人事業主がプロパー融資を受けられるようになる条件

飲食店の個人事業主がプロパー融資を受けられるようになる条件

銀行から信用保証協会付き融資だけを受けているという場合、それはプロパー融資とは呼びません。既に信用保証協会によって貸出リスクのほとんどをカバーされているからです。それだけに銀行が本格的なプロパー融資を個人事業主に行うには一定の厳しい条件が満たされる必要があります。


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銀行のプロパー融資というのは銀行が融資に関して100%責任を負って行う融資のことです。銀行から信用保証協会付き融資だけを受けているという場合、それはプロパー融資とは呼びません。既に信用保証協会によって貸出リスクのほとんどをカバーされているからです。それだけに銀行が本格的なプロパー融資を個人事業主に行うには一定の厳しい条件が満たされる必要があります。今回はその条件に付いて詳しく解説します。

融資申込み時、決算を3期以上経過し利益が出ていること

創業時、個人事業主は事業実績も何もないので銀行も融資には慎重です。そのため直ぐには銀行は直接融資(プロパー融資)をしません。代わりに信用保証協会付き融資や時には政府系金融機関である日本政策金融公庫に相談に行くことを勧めます。そこで信用保証協会融資や日本政策金融公庫融資が実行されると銀行の評価もかなり緩やかになります。銀行というのは良くも悪くも実績主義です。その事業主に対する他審査機関の融資実績を見極めてからやっと重い腰を上げるのです。

公的機関の融資を受けて事業を開始し一定期間経つと、事業の成果も目に見えるようになり事業の通信簿である決算書ができあがります。ではその決算書はプロパー融資にはどれくらいの期間必要でしょうか。

筆者は最低でも3期間分は必要だと考えています。理由のひとつは3期あれば銀行も事業の方向が読み取れることです。もちろん決算ごとに利益を継続して出していることがプロパー融資の前提です。また1~2期程度の決算書より3期間なら売上や利益の操作や不正がやりにくいのも理由のひとつです。さらに信用保証協会等に既に決算書を出していますから側面から事業主に関する信用情報も得られるメリットもあります。

いきなり銀行に融資を申し込んでもプロパー融資は受けられません。個人事業主もプロパー融資を借りるためにはちゃんと段階を経て順番に融資を受けていく必要があります。

担保や保証人が必要な場合には出せること

プロパー融資の条件を銀行と交渉している時、担保の提供や保証人の追加を求められることがあります。もちろん事業主としては負担になりますからできるだけ担保・保証人などは出さないほうが良いに決まっています。金融機関の監督官庁である金融庁も過去の金融機関の行き過ぎた行為の反省から、融資に関しできるだけ個人事業主以外の保証人を求めないように各金融機関に指導しています。

しかし、実際の銀行の現場では必ずしも理想通りには進んでいないのが現実で、決めるのはあくまで民間金融機関である銀行です。銀行が融資の保全上必要と感じたら可能限り担保や保証人を求めてきます。しかしこれはあくまで交渉事なので事業主と銀行の立場はイコールです。事業主が納得できるまで交渉は粘るべきだと考えます。でも事業主の場合、融資に対する未熟さもあって交渉で銀行に押されることが多いです。しかしそれでは良い融資条件を引き出すことはできません。そのためには事業主は銀行の考え方も知って交渉力を付けねばならないと筆者は考えています。

たとえば銀行は事業主の所有物件を融資の担保として取りたがります。理由は融資が返済不能になったとき、担保物件を売却・換金して融資を回収すること、及びメインバンクの地位を得たいためです。しかしそれは事業主の立場から言えば担保を一行に独占されることになり、自分が他行と融資取引できる可能性を狭めることを意味するので、できれば担保は出さないに越したことはないのです。これは保証人も同様です。もしプロパー融資を銀行に無担保無保証扱いで実行させれば、所有物件や保証人は次の融資の時の条件に温存できます。そこで事業主には、銀行の本音や金融庁の指導方針を理解したうえで実際の交渉に活かしてほしいと思います。時には融資をサブバンクと競争させてもいいでしょう。

それでもどうしてもプロパー融資に担保や保証人が条件になるなら、その時初めて銀行の要求に乗ってあげてもいいのではないでしょうか。最初から出さなければプロパー融資は受けられない、事業主がそう思い込む必要はないと思います。

資金繰りに余裕があること

資金繰り表とは事業の収入・支払の状態を一覧表にしたもので何時ごろ、どれくらいの運転資金が過不足するかがすぐに判断できる資料です。通常毎月作る必要があります。事業主は資金繰り表で3ケ月先までの資金計画を立てて、仮に資金不足が発生しそうなら借入れ等で余裕をもって早めの対応が可能になります。

事業は決算で利益が黒字でも金が足らなくなって倒産しますが、自己資金があって資金繰りがうまくできている間は倒産しません。ですから経営は売上げや利益でなく資金繰りであると断定する経営者もいるほど、事業にとって毎日の資金繰りは重要な要素なのです。

資金繰りができている事業主は資金繰りの苦労にとらわれることがないので、本来の事業に専念できて事態が前向きに展開します。一方資金繰りに四苦八苦している事業主は精神的・肉体的に余裕がないので事業もうまくいきません。

これは銀行サイドからも同じことが言えます。プロパー融資申込みに当たり、出された資金繰り表を見て資金繰りに余裕があることが分かれば銀行としても安心して融資に応じることができます。通常運転資金は最低月商1ケ月分、理想から言えば3ケ月分くらいあれば余裕をもって事業を回していけると言われています。特に飲食店の場合は現金商売ですのでよほど下手な商売でもしない限り、売掛金は発生しません。資金繰り面からすれば有利な商売と言えます。

それでも不払いリスクや仕入先への支払い・従業員の給料の遅配は許されないという資金繰り上のデメリットも抱えています。それだけに現金・預金を含む運転資金の確保は重要です。また多くの自己資金を確保しておくことは、仮に売上げが不振になり銀行から融資が受けにくくなっても、当面資金繰りは回るので、事業を立て直すまでの期間強い味方になります。経営者はプロパー融資をうまく引き出すためにも、事業で利益を出してできるだけ多くの自己資金を常に持つ努力をしてほしいと思います。

融資に対する資金使途・融資の効果が明確なこと

プロパー融資を受ける場合、その資金が何に使われるか、また使われた結果どのように利益として戻ってくるか、事業主が明確に銀行に説明できなければなりません。資金を借りるうえで銀行にあいまいさは許されません。これは設備資金の場合特に重要であり、事業計画書で投資効果が明確に説明できることが必要です。

銀行としても、短期資金の場合は資金繰り表の動きから返済財源が明確に判断できますが、設備資金や長期運転資金の場合は融資期間も長期になりますので、その効果を確認するためにも審査はより慎重になります。その場合に事業計画書が粗雑だとそれだけでプロパー融資は難しくなりますし、仮に融資を受けられても条件が厳しくなって保証協会付き融資になったり、融資条件に担保や保証人を求められることになります。

まずは無担保無保証で銀行に対応してもらえるよう用意周到な準備をしてプロパー融資を申し込みましょう。さらに融資実行後も、ちゃんとその経過報告を定期的に行うことが銀行からの信頼につながります。そのような姿勢が次のプロパー融資をより簡単に受けられることにつながってきます。