どうしても社長を辞めたいときの選択肢

業績の立て直しがうまくいかない、経営に対するモチベーションが下がったなど、様々な思いから「社長を辞めたい」と考えたことはありませんか。しかし、従業員や取引先といった関係者のことを思うと、いつ・どのように行動を起こすべきか、悩める経営者も多いでしょう。 社長を辞めるには「廃業」、「事業承継」、「M&A」の3つの方法があります。そこでこの記事では、辞めどきを検討している経営者が知っておくべき3つの選択肢について詳しく説明します。


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経営者が「社長を辞めたい」と思ってしまう主な理由

中小企業庁が発表した『平成29年版中小企業白書』(※)によると、中小企業や個人事業主の経営者が廃業を考える理由として「業績が厳しい」、「後継者を確保できない」、「会社に将来性がない」が上位を占めました。

なぜ、こうした理由が経営者に「社長を辞めたい」と考えさせるのか、詳しく考察してみましょう。

出典:中小企業庁「平成29年版中小企業白書」(第2部 中小企業のライフサイクルより)

業績悪化を改善できない

会社の業績を悪化させる背景には、売上げの低迷のほか、固定費の割合が大きすぎて利益を出しにくい構造になっていることや、組織力の低下が考えられます。

固定費が経営の負担になっているケースでは、特に人件費やオフィス・店舗の賃料が影響しているケースが多いようです。

こうした固定費は業績拡大とともに増え、固定費を投じることで会社はさらに成長します。しかし、無理な計画や急な経済状況の悪化などから、固定費が収益を圧迫することはよくあります。しかし、飲食店など店舗やバイトの賃料などは、簡単に削れるものではないでしょう。

また、中小企業では会社を興した社長が全社員を牽引していくスタイルがよくみられます。会社の成長に合わせて社員に権限をうまく移すことができなければ、個々の業務内容や量に偏りが生じるなどして組織力が低下し、結果として業績悪化することは珍しくありません。

これらの要因に解決策が見いだせないとき、社長のとして働くモチベーションが下がってしまうのです。

最適な後継者がいない

日本では少子高齢化が急速に進んでいます。会社経営にもその影響は出ており、社長の高齢化とともに、後継者問題を抱える会社が増えているのです。

先ほどの『中小企業白書』でも経営者の高齢化を懸念する記述があり、平均的な引退年齢は68~69歳と予測されています。この結果からも、遅くとも60代を過ぎた時点で、後継者を決めて育て始めなければなりません。

しかし、子どもなどの親族や社内の従業員に経営者として適した人物がいない、または本人に引き継ぐ意思がないといったケースも多く、社長を辞めて会社を廃業したいと考えてしまうのでしょう。

出典:中小企業庁「平成29年版中小企業白書」(第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命)

業界の将来が不安

社会が目まぐるしく変化する中で、そのあおりを受けて、市場規模が縮小してしまう業界もあります。

たとえば、リーマンショック後の金融業界など、自社の努力から超えた大きな波にのまれ、廃業を選択せざるを得ない場合もあります。

業界の先行きが不透明な状況で会社を存続させていくことには、様々な不安が伴います。無理に事業を引き継いでも、後継者や従業員に苦労を強いるかもしれません。そこで、業界の動向を理由に、自分の代で会社をたたもうと考える社長もいるようです。

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社長を辞める方法1:廃業する

社長を辞める方法のひとつが廃業です。廃業とは会社や事業を辞めることを指します。債務超過などで事業継続を断念せざるをえなくなる倒産とは異なり、会社の資産で負債を支払って、会社を経営者自らの意思で閉じるものです。

それでは、廃業に必要な手続きや知識を具体的に確認していきましょう。

廃業の手続き

廃業するには、解散・清算の手続きを行うことで必要です。

株式会社の場合、まず株主総会で解散決議をし、清算人・代表清算人を選びます。清算人が本店と支店の所在地で「清算人就任登記」と「解散登記」を行うと、会社の活動は停止されます。

解散登記された法人は、清算会社と呼ばれるようになります。清算会社とは「清算」を目的に存続する会社のことです。清算とは、会社の資産を整理し、債権の回収や負債の返済を行って会社の財産を整理することをで、清算を終了すると「清算結了の登記」を経て会社は消滅します。

なお、清算を滞りなく進めるには、会社に資産が十分なければなりません。業績悪化により負債を完済できない場合は通常の清算を行えず、特別清算という手段を経て倒産することになります。

有限会社や非上場会社についても、株主総会などを省けば、ほぼ同じ手順が踏まれます。

廃業は従業員・取引先に影響を及ぼすことも

廃業すれば社長を辞めることはできます。しかし、会社を閉じることになるため、以下のようなデメリットを伴うことを考慮して、周囲への配慮を怠らないことが大切です。

従業員が失業する

いちばんのデメリットといえるのが、従業員の失業です。

廃業による解雇は、状況によっては会社の解雇権濫用とみなされるリスクもあります。そうなれば労働法違反を問われることになりかねないため、早期に廃業する旨を通知し、労使間で十分な協議を重ねるなど、誠実な対応を心がけましょう。

また、経営者として責任を持って、関係会社や取引先などを中心に、従業員の受け入れ先を探すことも大切です。

取引先の利益を損ねる

会社の廃業は、取引先にとっては、原料の仕入あるいは商品の販売など、自社の事業に関わる会社がひとつ消えてしまうことを意味します。関係性が強い取引先の場合、連鎖廃業や連鎖倒産に追い込んでしまうリスクもあります。

従業員への対応と同じく、できるだけ早めに廃業する意向を伝え、混乱を最小限に抑える努力が求められます。

資産の売却が思うように進まない

廃業に向けて清算を進める際、資産を売却することになります。しかし、それまで培ってきたブランド力や技術力など、目に見えない資産が正当に評価されにくく、思うように資産の売却が進められないこともあります。

例えば、高価な設備機械であっても思ったよりも安い価格でしか売れないうえ、場合によっては処分に余計な費用がかかってしまうかもしれません。負債を返済できなければ倒産となってしまうため、廃業を検討するときには会社の資産を正確に評価しておくことが重要です。

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社長を辞める方法2:事業承継する

事業承継とは後継者に会社や事業を譲ることです。子どもや兄弟などの親族に対して承継される場合と、社内の役員や社外の第三者といった非親族に対して承継される場合があります。

廃業を選ぶと、従業員数や事業規模が大きいほど、周囲に多大な悪影響を与える可能性があります。自身での経営に限界を感じ始めたら、後継者に経営を任せることを考えましょう。

従業員や取引先に迷惑をかけずに済む

事業承継で後継者に引き継がれるものは、経営者が持つ株式や事業用資産、ブランド力や独自技術、会社の伝統など、有形無形の財産です。廃業と異なり、社長が交代するだけなので、事業承継による従業員や取引先への影響は低いでしょう。

さらに親族に承継する場合、条件を満たせば事業承継税制を利用でき、贈与税や相続税の納税を先送りすることができます。会社を引き継ぐ負担が少ないことは、後継者や関係者にとって大きなメリットです。

従業員をはじめとする会社関係者にとって、後継者が見つかることは社長を辞める方法としては最適といえるでしょう。

後継者を育てるために時間がかかる

事業承継のデメリットは、後継者の育成に長い時間がかかる点です。

後継者として子どもなどの親族を指名し、本人からも承諾を得ている場合は、計画的かつスムーズに事業承継は進むでしょう。しかし、社内外の非親族から後継者を選ぶときには、親族や他従業員、株主からの同意を得るのが難しくなるなど、より多くの時間が必要でしょう。

また、事業承継では、現在の社長が持っている株式や事業用資産だけでなく、会社経営のために社長個人が負った連帯保証なども後継者に引き継がれます。そのため、非親族に承継させたいと思っても引き継ぐことを拒否されるなど、後継者選びが難航する可能性があります。

第三者への事業承継を検討しているがうまくいかないときには、M&Aを検討することになります。

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社長を辞める方法3:M&Aで会社を売却する

「M&A」とは企業合併・買収のことです。

M&Aには様々な手法がありますが、社長がその職から退きたい場合は、社長の持つ株式を第三者に譲渡することで経営権を手放す「株式譲渡」という手法を取ることが一般的です。

経営者自身・従業員・取引先の三方にメリット

株式譲渡によるM&Aでは、社長は譲渡した株式の対価を受け取ることができ、経営資金の借入れなどによる経営者個人の連帯保証なども譲渡先企業に引き継がれます。つまり、M&Aを選択すれば、個人の資産を増やして負債を放棄することができるのです。

これが、社長を辞める手段としてM&Aを選択する最大のメリットです。

さらに、会社は買収企業のもとで存続するため、従業員や取引先を守ることもできます。ただし、M&Aの交渉過程で、従業員の雇用を守るなど、買収条件を明確にしておくことが大切です。

後継者を選んで育てる時間や手間がかからない点もM&Aの魅力です。近年は後継者不足が問題化していることもあり、M&Aを選択する中小企業の数が増えています。

M&Aを行うタイミングが難しい

M&Aを行う上で気を付けたい点が、実行するタイミングを経営者自身で判断できないことです。経営者がいくら会社を売りたいと考えていても、買い手が見つからなければ売却できません。さらに、売却条件の交渉がスムーズに進まなければ、M&Aの成立までに思わぬ時間を要することもあります。

M&Aを実行するタイミングや買い手企業の選択、契約の方法など、M&Aには専門的な知識が必要となります。M&Aを検討する際は、M&Aを専門に手がける仲介会社に相談するのがおすすめです。

また、親族や従業員への事業承継を試みた結果、最終手段としてM&Aを検討するケースも多いようです。しかし、M&Aも事業承継と同様に時間がかかるため、できれば事業承継と同時進行でM&Aの検討を進めると良いでしょう。

M&A Propertiesは、飲食業界を専門とするM&A・事業承継のアドバイザリーサービス会社です。飲食業界を中心に多くの顧客を抱えているため、M&Aの売却先企業を提案することも可能です。

飲食業の経営者で、M&Aに関心をお持ちの方はM&A Propertiesのホームページをご確認ください。

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まとめ

様々な理由から社長を辞めたいと考えるとき、経営者として取るべき手法はいくつかあります。

資産や負債などを整理して赤字にならなければ、いちばん時間や手間のかからない方法が廃業です。しかし、従業員や取引先に与えるダメージは計り知れず、周囲への配慮が欠かせません。

また、かつての日本では社長の多くが親族への事業承継を行うことが一般的でしたが、現在は中小企業の多くが後継者不足という悩みを抱えています。こうした状況で、事業承継に代わって増加しているのが、M&Aによる会社や事業の売却です。

社長を辞めることを考え始めたら、廃業ではなく、まずは事業承継とM&Aも検討しましょう。その際は、M&Aの知識や経験が豊富な会社に相談しておけば、最適な方法をアドバイスしてもらえます。