そもそも「会社更生法」「民事再生法」とは
両者ともメディアなどで耳にする言葉ですが、実際にはどんな手続きとなるのでしょうか。まずは、それぞれの特徴を紹介していきます。
会社更生とは
会社更生とは、株式会社のみが利用できる裁判手続きのことです。経営が破綻した企業を倒産させずに再建を行うことを目的とする「会社更生法」に則って手続きを進行します。有名な企業では、JAL(日本航空)や吉野家などが過去に会社更生法の適用を受け、再建を図りました。
会社更生法が適用されると、株主が所有している株式の権利は喪失し、無価値になります。新たな株主は、会社再建のために資金援助をするスポンサーです。
もちろん、必ずスポンサーを用意しなくてはいけないというものではなく、自力での再建も可能です。しかし実際の事例では、スポンサーの支援により再建を果たした例が数多く存在します。
会社更生法の手続きは、大きく分けて6つのステップがあります。
2.会社更生手続きの開始決定、更生管財人の選任
3.財産の評定および財産目録、決算書などの提出
4.関係人集会の開催および債権調査
5.更生計画案の作成、提出、審議
6.更生計画案の遂行、完了
会社更生は法的拘束力が強い分、手続き自体が煩雑であることから、更生計画の認可まで通常1~3年ほどの時間がかかります。
また、破産手続きには裁判所へ納める予納金も必要です。会社の事業内容や財産状況などを基準に東京地裁の例でいうと、非上場企業で最低2,000万円、上場企業で最低3,000万円はかかるでしょう。そのほかに、弁護士費用も数百万円が必要となることから、会社更生は大企業向けの再建手続きであるといえます。
民事再生とは
民事再生とは、経営が立ち行かなくなった個人及び法人が裁判所の認可を受けた再生計画を定めることです。債務者の事業、または経済生活の再生を図ることを目的とする「民事再生法」に則って手続きを進行します。
民事再生法の再生計画は、下記の3つのパターンに分類されます。
自力再建型 | 本業の将来収益から再生債権を弁済し、自力で再建を図る |
スポンサー型 | スポンサーに資金援助を受け、その支援のもとで再建を図る |
清算型 | 営業譲渡などの手法で事業の全部または一部を受け皿会社に移管したうえで、旧会社は清算する |
また、民事再生の手続きは大きく分けて7つのステップがあります。
2.監督委員の選任と監督命令
3.民事再生手続開始決定
4.債権届出、財産評定、財産状況の報告
5.債権についての認否
6.再生計画案の作成、決議、認可
7.再建計画の遂行、完了
法的拘束力は会社更生に比べて弱い反面、申し立てから再生計画の認可までの期間がおおむね6ヶ月以内です。裁判所に納める予納金も負債金額などを目安に算定され、東京地裁の例でいうと200~1,300万円程度と、会社更生と比べると適用を受けやすい制度といえるでしょう。
会社更生と民事再生7つの違い
では、会社更生と民事再生はどのような点が異なるのでしょうか。この項目では具体的な違いについて紹介します。
【債務者の違い】株式会社と個人、法人
会社更生は適用が株式会社に限定されているのに対し、民事再生は株式会社以外の法人のほか、個人も対象としている点が大きく異なります。
範囲が広い分、民事再生の適用は多く、帝国データバンクの2019年度調査では、倒産件数8,354件のうち「会社更生法」の適用会社は1件、「民事再生法」の適用は351件と実務上ではほとんどのケースで「民事再生法」が適用されているという結果が出ています。
出典:全国企業倒産集計2019年報 | 株式会社 帝国データバンク
【株主&経営陣の違い】会社更生法は管財人が引き継ぐ
会社更生法では、裁判所が選任した更生管財人が会社の財産状況を調査します。そのほかに、今後の事業や債務弁済の見通しを立てて更生計画を作成後に裁判所へ提出するなど、更生管財人が手続きや計画の主導などの役目を引き継ぐことになります。一方、現経営陣は全員退任し、株主としても権利を喪失します。
これに対し、民事再生法では裁判所の監督下のもと、現経営陣と支援先の金融機関や大口取引先などが自力で再建プランを立てて手続きを進めるのが原則です。重要事項についてのみ裁判所が選任した監督委員の同意が必要ですが、経営陣は引き続き経営ができます。また、株主としても権利をそのまま保持できます。
しかし、現経営陣が経営を行うことが不適当であると判断された場合には、経営権が管財人に引き継がれるケースがあります。また、監督委員の同意が必要な行為を現経営陣が勝手に行うと再生計画自体が打ち切られ、裁判所が職権で破産宣告をすることもあるので注意が必要です。
【費用の違い】予納金の金額
裁判所に更生や民事再生の手続きを申し立てる際には、裁判所に予納金を納めなければなりません。これは、管財人・監督委員の報酬や各手続きの費用に充てられます。
その金額は裁判所が案件ごとに決定しますが、各裁判所はおおよその基準を設けています。東京地裁を例に挙げると案件によって金額の上下はありますが、会社更生では最低2,000万円、民事再生では負債金額を基準に200~1,300万円程度の費用が必要です。
【担保権の違い】実行の有無
「担保権」とは、例えばお金を貸した際に返済されないことを想定して不動産などの財産を担保として設定しておき、返済されない場合に債権者がその財産を競売にかけるなど、万が一の場合に債権者が債権を回収できる権利を確保するものです。
しかし、会社更生の場合は、担保権者が債務者である会社の財産を競売にかけられません。できるのは、会社の財産の評価額の範囲内で配当を受け取ることだけです。つまり、債権者は債権回収を制限されることが「会社更生法」によって定められています。
一方、民事再生では適用が認められても、債権者は会社の財産を競売にかけることが可能で、債権回収が制限されていません。そのため、民事再生では債権者がその手続きに納得していることが、スムーズに進めるための大前提です。
【遂行期間の違い】長期と短期
会社更生と民事再生では、計画の認可までの期間でも大きな違いが存在します。
会社更生では更生計画認可までに約1~3年かかります。これは手続きに関わる関係者が多数いることが理由です。
それに比べて、民事再生では再生計画認可まで約5~6ヶ月と、会社更生よりも短期間で認可されます。これは会社更生よりも手続き自体が簡便であり、利害関係者の数も少ないことが理由です。
【手続きの違い】会社更生法は複雑
大企業への適用が想定されている会社更生法による更生は、その手続きの流れが民事再生と異なります。
管財人を選任しなければならず、一定の要件を充たした株主も手続きに参加でき、後述のように更生計画には債権者だけでなく、これら株主や担保権者の同意が必要となるなど、関係者の数がかなり多くなってきます。
さらに組織の再編には会社法上の手続きを踏む必要があるなど、どうしても会社更生は流れが複雑になり、完了まで長い期間を要するのです。
一方、民事再生は関わってくる人数も少なく、組織の再編についても再生計画の中に組み込むことが可能なので、手続きは会社更生に比べ簡便になります。
【認可要件の違い】会社更生は債権者以外の同意も必要
会社更生、民事再生ともに経営者の一存では実行できません。実行には関係者からの再建計画案への同意が必要だからです。
会社更生で同意が必要なのは、債権者・担保権者・株主です。それぞれ一定以上の同意が必要ですが、債務超過に陥っていることが多い更生会社では株主に議決権が与えられることは少ないでしょう。(会社更生法166条)
一方、民事再生で同意が必要なのは債権者のみです。議決権者の半数かつ議決権総数の1/2以上の同意を得ることで、再建計画の可決ができます。
まとめ
今回は、民事再生と会社更生の違いを紹介しました。大企業向けの会社更生に対して、民事再生は中小企業に向いている手法です。
このほかに、再建手続きには「再生型M&A」という法的整理手続きのなかでM&Aを行うことで事業の再生を図り、早期の事業再建を図る手法も存在します。
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