株式会社 カオカオカオ 代表取締役 新井社長 勇佑氏インタビュー【後編】タイカルチャーを日本へ広める戦略とは

本場の高揚感をそのままにタイ料理と空間を提供する『999(カオカオカオ)』。「タイカルチャーを日本に広める」というビジョンのもと、緻密な戦略に加え、顧客体験重視の独自の世界観を確立し、ファンを続々と増やしています。後半は、代表取締役 新井勇佑社長に今後の経営戦略と展望を伺いました。


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記者)新井社長には壮大な世界観、やっていきたいビジョンがあるとお聞きしたのですが、今のお考えをお聞かせいただけますか。

新井社長)ビジョンとして、タイカルチャーを日本に広めるためにどうしたらいいかと考えたときに、自社での出店計画以外にもFCで広めていきたいと思っています。あとはデリバリーや小売りの領域や、野菜の生産の部分に進出を考えています。タイ料理は流通が整備されていないところがあるので、そういう流通や商社の部分も私たちが一緒に協力していければいいかなと思っています。タイ料理だけじゃなくてタイカルチャーを日本に広めていける一気通貫したような会社になるということをビジョンとして持っています。

記者)そのために、飲食店以外の取り組みで今、具体的にどんなことが始まっているのでしょうか。

新井社長)タイ料理業界の生産というのは、需要と供給のバランスが非常に悪いために、タイ料理屋としても作りたい料理が作れない状況が多々発生しているんです。そういう社会的なタイ料理業界の課題も解決していこうという意味で、今進めている最中なのが、新しいビジネスモデルを作って、タイの野菜の生産を行っています。

記者)それは日本で生産するんですよね。

新井社長)もちろんそうです。ただ、日本の農家さんと組んでやるのではなくて、自社で「999農園」を作っています。野菜の栽培はこれからですが、業務委託という形でプロジェクトは始めています。それにはやっぱり流通がつきものです。タイ料理の商社さんだけだと、流通や倉庫の部分がなかなか整備されていない部分が多いので、そこを日本の総合商社さんと組んで、作物の流通をしっかりやって行こうと思っています。

記者)総合商社となると、それなりの物流も求めてくると思いますが、そのような点も含めて農園でカバーしていくということですか。

新井社長)そうですね。

記者)ゆくゆくは海外に輸出して行くこともお考えですか?

新井社長)いや、海外は考えていなくて、国内の流通網に乗せていくことを考えています。

記者)ちなみに先ほど、小売りということもおっしゃっていましたが、野菜なども小売りすることも考えているということでしょうか。

新井社長)いえ、野菜を小売りすることは考えていないです。いかんせん、BtoBのところが全然安定していないので、まずはそこの安定が第一だと思っています。そこでBtoCのところにも価値があるなら、それは将来的に考えて行ってもいいとは思います。

小売りについては、今は野菜というよりも僕らのタイ料理を売って行こうと考えているんです。じつは今、大手業者さんが作って流通しているタイ料理の小売りというのがすごくレベルが低いんです。なぜかというと、タイ料理の専門知識や技術がないまま、「これが売れるだろう」っていうマーケットインの発想で作ってしまっているんですよ。そうなると、どうしてもその料理がタイ料理の定義から外れていたりとか、ものすごく美味しくない商品が出回ったりしてしまう。そこで僕らのようなタイ料理のブランドを持っている外食産業が小売りに参入できれば、しっかりとした美味しいタイ料理を食卓に届けられるのではないかと思っています。

記者)ECもやっているんですか?

新井社長)ECはやっていませんが、今、全商品のOEMを作ってる最中です。FCをやる上でも、デリバリーや小売りをやる上でも、結局製造ができないといけないので、今はそこにトライしているところですね。製造ができれば、「999」としては、全部が一気に可能になるので。そこは僕らにとっては大事な1つのキーになってくるところだと思っています。

ただ、その製造をやる上で、正直野菜の量が足りていないんですよ。だからそこで生産が必要になってくるという訳です。つまり、決してコロナだから外食以外の違う道に行こうというのではなくて、タイカルチャーを日本に広める上で必要なことをやっていってるだけなんです。

記者)コロナの影響についてもお話を伺いたいと思います。路面店舗で繁華街立地やビジネス立地に出店されていますが、昨年対比でどのぐらいの売り上げになっているのでしょうか。

新井社長)全店もうコロナが関係ない売り上げまで戻って来ています。

記者)コロナ禍によって変えた部分ということはありますか?

新井社長)サスティナブルな観点から経営を行うCSV経営を軸に、経営戦略、計画においてすべてをブラッシュアップしました。経営戦略を立てるとき、現状分析、策定、評価をして、アクションプランに落とし込むという流れが通常です。この現状分析では、競合分析や顧客分析など様々行うのですが、そこにサスティナブルな観点から抽出できるような大手広告会社が使っている指標を用いたりしています。

資本主義において、今まで経済の部分ばかりフォーカスされていたのが、社会的、人間的、経済的な部分にバランスよくフォーカスしていくという考え方になっただけで、たぶん経営自体はそんなに変わってはいないと思うんです。これらはマイケル・ポーターさんが出してる論文などを参考にしながから独学でやっています。

記者)すごいですね。人材についてはいかがですか。

新井社長)うちは、ライブ感や臨場感のあるお店になっているので、働いているスタッフがすごく楽しそうに見えるようです。だからアルバイトは1回募集すると200人ぐらい応募があるんです。なのでアルバイト採用には困ったことがないですね。

社員に関しては、外国人やLGBT採用にも対応していて、困ったことがないです。ただ、中途採用はあまりしていなくて、新卒、第二新卒、LGBT採用をメインにしています。

新卒採用もとてもうまくいっています。ほとんどの飲食業の会社さんは、新卒採用の募集要項に「情熱を持って元気に明るい笑顔でやりましょう」みたいな、気持ちに働きかけるような内容が多いです。それに対してうちは将来経営がしたい人にフォーカスをあてて募集しているので、経営に興味がある高学歴な学生から応募があります。例えば旧帝国大学、早慶上智もいますし、地方の国公立大学がすごく多いです。

記者)飲食企業としてはとても珍しいですね。そういう人たちはギャップを感じて辞めたりしないのでしょうか。

新井社長)そういう高学歴な人ほど長くお店で働く傾向がありますね。

記者)現場仕事のほかに経営に携われるような仕事も任せているわけですか。

新井社長)それは力を入れてやっていて、経営塾のようなこともやっています。

記者)なるほど。では、これまでとこれからの出店戦略はどのようにお考えなのでしょうか?

新井社長)他の飲食業の会社さんみたいに、場所を最初に決めて「ここに出す」ということはないです。なぜかというと、普通の飲食店は出店するときにもうその業態のマーケットが成熟していることが多いので、「ここ」に出店すれば成功するっていうことが言えると思うんですけど、タイ料理の場合はまだマーケットが成熟していない。だから成長過程に合わせた出店戦略が必要になるんです。

具体的には、まずはわりと人が多く集まってくるところで、触れられる機会を増やす行動が大事だと思っています。基本的に今出店する上で間違いなく良いのは、ターミナル駅と感度が高い住宅街駅、あとは商業施設です。地方で出店するのであれば商業施設をまず第一に考えるのがいいかもしれないですね。

記者)ちなみに梅田も直営店なんですよね?距離が離れていると管理が大変そうですが。

新井社長)梅田の店舗は、遠隔マネージメントができるかどうかという実験をしてみたかった、というのもあるんです。実際やってみたところ、どこの店舗でもあまり変わりはなかったです。ただ大阪の店舗を運営して思ったのは、地元の大阪の人間で従業員の組織を作るというのは大事だと思いました。

記者)では最後に今後の展望を教えていただけますか。

新井社長)一般的なタイ料理屋のお客さんの男女比率って女性が多いんですけど、999の特徴として男女比が5:5ぐらいなんです。タイ料理屋が流行りそうなマーケットだけで攻めて行ったら、ある一定の店舗数を越えると更なる展開は難しい業態だと思います。拡大していくとなると、タイ料理が流行りそうなマーケット以外のところから顧客を持ってくるという考え方が必要になってきますよね。そこでうちはあえて居酒屋を探しているお客さんがターゲットになるエリアに出店しているんです。

もう一つ他に負けない点があります。それは、居酒屋の多い立地で経営するには、日本人スタッフのホスピタリティが必要になってきますが、現在メジャーなタイ料理屋さんの多くは外国人スタッフが運営しているため参入は厳しいと思います。尚且つ、タイ料理屋を運営するにはあまりにも多くの専門知識と技術が必要となるので、たとえ大手居酒屋チェーンがタイ料理屋をやろうとしても中途半端になってしまうと思います。だからうちの競合にはならないと思っています。

また、タイ人の方がやっているタイ料理屋もどんどん多くなっていますけど、彼らは「家業」から「事業」に変更することは難しいと思います。総合すると、業界的にうちの競合はいないと考えられるので、タイ料理業界でトップのポジションをとれると思います。

競合がいないとか、専門的知識云々という話をしましたが、999の一番の強みは、うちのお店以上に高揚感を味わえる店はなかなかない点だと思っています。うちに来てくださるお客さんは、例えると、銀座コリドーにいるような方が多いです。最近多くなっている高揚感が味わえる横丁スタイルですね。それをお店の中で完結するような場所を作っていきたいと思っています。