三歩進んで二歩下る。じわりじわりと漸進してきた歴史
―M&Aに取り組もうと思ったきっかけを教えてください
これまでわれわれは本業の持ち帰りすしから徐々に業態を加え、回転すしや立ち食いすしなどメインのすし事業の店舗を増やし続けてきました。今はシュリンクさせて180店舗ほどですが、ちょうど平成30年(2018年)のまでの間に、最大店舗数は220までに昇りました。
進捗具合は、出した店すべてが当たるということはないので、確率としては6割ぐらいが成功し3~4割が不発と言った具合で、歩みは遅いながらも30年拡大し続けてきた訳です。
当初はスーパーマーケットが、持ち帰りすしをあまり扱っていなかったので、出店数がけっこう増えたんですが、最近はスーパー自体が持ち帰りすしを強化するようになってきて、出店誘致が減少しているのが現状です。
この1年ほどは、持ち帰りすしの出店ピッチがなかなか上がらず、一方で、立食すしなどの収益性が高くなっています。そういう状況を考えると、われわれが新たな物件を取得し時間をかけてうちの物にするよりは、既存のすし店舗などで立地条件が良いものをM&Aで取得する、というのがベストだと考えたのが最初のきっかけです。まずは本業の成長を効率的に拡大させるため、という発想がベースですね。
それからもうひとつ、お寿司は食材が魚。将来の資源問題を考えると中長期的にはきっと減少していく食材なので、お寿司だけを商売にすると将来的に厳しくなる可能性がある。
そこで第2・第3の新たな事業を展開させる必要性が出てきた。
つまり、本業の成長のために加えて新たな事業を展開すること、この2つがM&Aを手掛ける主な理由ですね。
買収条件は立地・すしとの相性に加え、企業文化の親和性も重視
―M&Aに際して注意を払っている点はなんでしょうか?
持ち帰りすしは、やはり立地ビジネス。隠れ家のような特徴をもつ店なら立地は気にせず集客できるでしょうけど、われわれのような大衆向けの価格を売りにしているお店は、やはり立地が非常に大事。
それと同様に重視しているのが、買収先の従業員の雰囲気。
一緒に働いた時に合うか合わないか?といった企業文化と経営システムですね。
職人集団で、個々の店長の考えが色濃いお店の集合体ですと扱いにくいですよね。
われわれはチェーンストアー展開で、本部と店舗できちんと役割を分けて、商品なども統制を図っています。お金だけ出して後はお任せってことができない。それが吉と出るか凶とでるかはやり方次第でしょうけど、うちはしっかり踏み込んで経営するスタイルなので、企業文化などの親和性が大切です。
過去に買収した蕎麦2社と、お弁当のまるこう食品は、親和性が高くスムーズに統合が進みました。
「すしの大衆化」を目指すにあたって
―今後どのような会社にしていく計画ですか?
われわれは高いものを売ろうという概念はありません。なるべく安くて良いものを提供して「すしの大衆化」を企業目標としています。安い価格で良いものを提供するという点で、そば新の買収は合致していました。
蕎麦はお寿司に次ぐ第2の事業として考えているので、さらに2016年にもう一つ同じような低価格の蕎麦を提供する会社「梅もと」を買収し、今後は蕎麦事業の展開をあれこれ考えているのが、今の実態です。
本業のすしがベースではありますが、将来の資源問題で海鮮物の値上げなど、魚ビジネスは難しくなる可能性を踏まえ、蕎麦に目をつけたという訳ですが、もう一つお弁当という違うビジネスも考えてあります。
もともと持ち帰りすしって「お寿司のお弁当」ですよね。そこで、お弁当を供給するというビジネスが極めて関連性があることから、まるこう食品を買収しました。
元々この企業の商品のラインナップには普通のお弁当もあれば、お寿司もあり、
首都圏のスーパーマーケットを中心とした小売業に納品しています。
実はこの事業はすでに需要が高くなりつつあります。理由は、スーパーの人手不足です。
特にお弁当を店内で加工をする人材を確保できないため、外注するところが増えてきています。スーパーの人手不足を補うためにわれわれが工場生産したものを提供し、この売り上げが伸びている。
将来の展望は、ちよだ鮨のシールをつけたお寿司が、うちの直営店だけでなく普通のスーパーでも買えること。生のお寿司よりさらに2~3日長持ちするような商品の開発なども研究中です。
過去の経験を振り返り、再スタートした海外進出に掛ける思い
昔から海外にも本来の日本のお寿司を広めたいという思いをもっています。
韓国人や中国人が経営しているような模倣的なお寿司ではなく、本物の日本のすしを。
国内ではすし・蕎麦・天婦羅そしてお弁当という事業を新たに加えながら、世界中に向けてお寿司のお店を作っていこうと思っています。最近では2 年前にベトナムで第一号店を出しました。ただ新興国はお寿司だけでは商売にならない。日本ではお寿司屋さんだけでも成り立つけれど、新興国では和食というジャンルでお店を作り、そのなかのひとつの商品としてお寿司があるというのが、和食を根付かせるプロセスだと考えています。
だから今、国内で進めている和食の多角的な事業展開で得たノウハウは、将来の海外で生きると考えてやっています。実は過去にニューヨークと台湾に出店して失敗しているんですよ。ニューヨークはすしが市場ですでに定着していたのですが、台湾がしんどかった。
われわれが進出した時期(2006年)はまだ少し早かったんですね。しかし、これからまた海外にも市場を求めなければならない時期を迎えていて、今や回転すしのくら寿司や、 スシローも台湾に出ています。
ニューヨークではマンハッタンの5番街という好立地な場所で、安くて美味しいすしを提供して人気があったのですが、売上に比例して上がっていく歩合家賃についていけず撤退することになりました。「もっと高い値段設定にしても良いのに」という周りの声もあったのですが、われわれは海外でも日本と同じく、すしの大衆化を目指しています。
過去の経験から今また仕切り直し中で、今度はベトナムから海外を攻める作戦を練っているところです。2020年は海外の市場調査に行こうと思っています。
最後に話を原点に戻しますが、われわれはもともと、魚からスタートした会社ですから、今もっとも精力を注いているのは、すしと相性の良い蕎麦と弁当をわが社の力としてものにして、和の複合的な事業を糧に「すしの大衆化」を世界に広めていきたいと思います。
M&A Properties社は新事業開拓の頼もしい道先案内人
うちで初めて手がけた新事業がM&A Properties社を通して買収した、立ち食い蕎麦 “そば新”の案件(2014年の4月)でした。そば新の味の良さと価格の安さに惚れたんです。
蕎麦は、すしと非常に相性の良いカテゴリーですし、蕎麦には天ぷらがつきもので、
すし・蕎麦・天ぷら屋といった幅広い和食店作りの展開ができると考えています。
―M&A Properties社を利用してみて如何でしたか?
専門業者を利用するのは初めてだったので、「ここまでやってくれるものなんだ」と最初の頃は思っていましたが、不動産オーナーの了解を取りに行く時も一緒に来てくれたのには驚きましたね。さらに後々、他の業者にも頼んでみて、サービスの濃さの違いが如実に感じるようになりました。
M&Aを進めていくプロセスのなかで、入口からクロージングまで、そしてアフターフォローまで、かゆいところに手が届くんです。 通常、われわれが考えるべきことでも悩んでいればすぐに察知し、良策を示してくれるなど極めてスムーズにプロセスが進んでいきました。
われわれは、ほとんど何もしなくとも前へ進んでいけるくらい、顧客のニーズに沿った適切な情報を本当にうまく提供してくれました。
わたし自身、以前の会社でM&Aに関わる仕事もしていたので、プロセスを自分で考えてしまう癖もあるのですが、情報提供のタイミングと内容が極めてわれわれ顧客にとってありがたいものでした。
―ありがとうございました