ドリームフーズ株式会社 代表取締役社長 山本英柱氏インタビュー(前編)自動化に対する考え方と飲食店の本質

主力事業の「ちゃんぽん亭」をはじめ、蕎麦や肉そばなどを全国に70店舗以上を展開するドリームフーズ株式会社。家業を引き継ぐ形で企業経営に携わり、全国展開まで導いたのが、代表取締役社長 山本英柱氏です。最近では、食品会社をM&Aし、その独自性をより一層強めています。 前半では、ちゃんぽん亭がどのような軌跡を歩んできたのか、山本社長にお話を伺いました。


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記者)まずは飲食を始めるきっかけについて教えて頂けますか?

山本氏)きっかけは、私の父がドリームフーズの社長をしていたからです。2004年に後継者として父の事業を手伝うようになり、そこからこの業界に入っていきました。

元々父は、金融業界で仕事をしていました。たまたま仕事で彦根に行った際に、駅前にある「麺類をかべ」というちゃんぽん屋に行きます。単純に食べることが好きな父親が有名店だからということで訪れたわけですが、たまたまそこのオーナーが旧知の仲の人だったということで、とんとん拍子で譲っていただく運びとなったと聞いています。

記者)縁とタイミングで始まった事業なのですね。

山本氏)そうですね。縁と、決断力でしょうか。当時はバブル時代の1980年代。土地建物がかなり高騰している時代です。そんな時に、そのオーナーから“すべてを譲るから経営して欲しい”と言われ、父親は決断を迫られます。そして、銀行員を辞めて、飲食業界の経営者として入ってきたというのが当社の創業話です。父親も、その時は一大決心だったと思いますね。

そんな父親の背中を見て育った私は、経営の勉強をしようと東京へ出て、MBA(経営学修士)を取得しました。いずれは父の後を継ぐんだという思いもあったので、自主的にビジネスの勉強をしていました。その後はバイオベンチャーのコンサル業務に就いています。周りには研究者や官公庁の方たちがいるような環境で働いていました。

そこから地方の飲食という全く畑違いの仕事に就き、東京と彦根という土地柄のギャップがあったり、ビジネスに関する常識も違ったり、思うようにいかず四苦八苦しながらやってきました。

 

 

記者)ちゃんぽん亭さんの最初の役職は総務部長とのことで、ご自身で「何でも屋」と仰っていますが、その時の経験についてはいかがですか?

山本氏)私のキャリアを遡ると、実は東京に行く前に名古屋でパソコンのスキルを教えるITスクールを経営していたこともあるんです。講義もしたしマーケティングもしたし、ベンチャー企業を一人で立ち上げたような形で働いていました。

「ちゃんぽん亭」の総務部長となった時も、同じように販促やメニュー開発、従業員のお悩み相談までマルチに対応する必要がありました。

共通して、そのような様々な業務を広く見てきたという経験から得られたスキルというのは、とても多かったと思っています。

記者)そのような経歴をお持ちであれば、飲食企業の経営以外にも選択肢はたくさんあったと思いますが、後を継ぐことを選んだのはなぜですか?

山本氏)私は末っ子長男なので、心のどこかで家業を継がなければならないという責任を感じていました。一方で、東京で学業ではある意味成功し、やりがいも成長性もある分野に携わらせていただいていたので、家業を継ぐかどうかは本当に悩みました。

ところが継ぐことになる前年には、親が親族や会社関係者に私が帰ってくることを触れ回っていて(笑)お披露目会も設定され、既定路線が出来上がっていました。

自分の意図しないところで話が進んでしまったところがあったとはいえ、通常であれば社長の息子が後を継ぐということに反対する社員がいてもおかしくない中、新しい戦力として歓迎してもらいました。結果的に継ぐことを選んで良かったと思っています。

 

 

記者)実際にちゃんぽん亭の経営を始めて、どのように感じられましたか。

山本氏)これまで学んできたビジネスの世界とはかなりギャップがありましたね。美しいビジネスの話と、泥臭い現場の話というのは全く別物です。私自身もですが、体育会系の人が多いので、従業員とも取っ組み合いをしたりもしましたよ。

しかも2004年というのは、ちゃんぽん亭にとって過渡期でした。当時、イオンモールさんやアリオさんやららぽーとさんといった大きなショッピングモールが日本でどんどん新規出店を行っていた時期で、ちゃんぽん亭にも声がかかっていました。それまでは滋賀県内だけでお店の展開をしていましたが、それを期に京都、愛知、大阪、兵庫と全国展開をするチャンスを頂いたんです。

 

 

全国展開を進めるためには、会社の体質改善は必要不可欠でした。オペレーション改善、商品開発、ブランド開発と、しなければいけないことがたくさんある中で、チャレンジする気持ちと、会社への想いと、従業員と…いろんなものが合わさって、支えられて乗り越えられたと思っています。人の入れ替わりも必然的に激しくなり、目まぐるしい時期だったと、今でも思いますね。

私自身、他業種から入ってきたものとしての意見ももちろんありました。当時は社員からも相当嫌われたと思います。それでも、飲食業界の悪しき風習的なものや、本来あるべき姿ではないことも多くありましたので、それを変えるには新陳代謝が必要でした。お世話になった人や頼りにしていた方々ももちろんいましたが、良くも悪くも、私が引き継いだ当初の社員は今は残っていませんね。

記者)人材が大きく入れ替わってきたようですが、どのように人材を確保されてきたのでしょうか?

山本氏)飲食業界の人材確保は厳しいと言われていますが、中間管理職以上の人たちの動きは悪くはありません。

ただ、オペレーションサイドの人材は不足しています。これは以前から分かっていたことなので、そこをどう補っていくのかの戦略を5年、10年前から地道に対策を打ってきました。

人材については、飲食業界がブラックだと言われるのは、人員配置の問題だと私は思っています。額面的には多く見せても、残業代込みの給与体系で固定シフトを組みながら、社員主体で店舗を運営していくという会社もあります。社員主体の構成になると、社員全体の給料を中々あげることができません。

当社はどうしているかと言うと、店舗に配属する社員の数を減らし、パートアルバイト採用を積極的に行っています。社員に払うべき人件費と、パートアルバイトさんの時給を比較したときに、社員の比率が相対的に減れば、パートアルバイトの方の時給を上げられるという仕組みです。

そうやって、採用力を高めています。社員も少数精鋭なので、結果的に社員の給料を上げることができ、全体的に好循環です。こういう形にシフトしないと、結局はブラック体質から抜け出せない。ビジネスモデル自体が崩壊してしまうのです。

 

 

ブラック体質を改善したいという思いを常に持っている経営者であっても、財務の問題や経営効率的に実質不可能な態勢を取ってしまっている会社もあると思います。私は会社づくりの上で、そうならないようにするためのシステムを作ってきたつもりです。

そうなってしまった会社は第三の道、外国人採用に進んでいかざるを得ない。ただここで、外国人採用というものをネガティブに受け取っているというのも問題かもしれません。積極的に活用していくという考え方にシフトしていく必要があると思います。

記者)人員問題を解決するために店舗業務を自動化している飲食店もあります。自動化についての考えを教えて下さい。

山本氏)自動化は、できるところは進めています。一方で、お客様は飲食店に「手作り感」を求めて来られていると思っています。目の前で人が自分に対して料理を作ってくれていることに対する価値です。その価値は業種、業態、価格帯によって違いは生じますが、飲食店として追求しなくてはいけないところだと、私は考えています。だからその価値を自動化で簡単には捨てたくありませんし、そこが他社との差別化に追々つながっていくと思っています。

自動化を進めている競合他社さんのオペレーションを見ていても、必ず一つはハードルを残しています。そのハードルは、その店舗ならではの技術です。その技術を習得しないと、この店舗は成り立たないというようなものとも言えます。

ただ、一般的なチェーンオペレーションの考え方で言えば、人や店舗に依存する部分をどんどんと排除していくのがセオリーだったりします。しかし、すべてを排除してしまえば、差別化の要素はなくなってしまうというジレンマもあります。

このロジックの逆をいっているのが、丸亀製麺さんです。店内製麺、店内調理というハードルの高いことをしているため、他社が追随することができません。真似をしようとしても、積み上げていく歴史と、人材教育と、それにともなう組織体系と、組織の文化・常識を、短い時間で作り上げられるかと言うと不可能になっています。それがブランドの強みですよね。

 

 

機械で何でも自動化してしまうと、その機械を購入すれば、誰でも簡単に真似することができます。手間を抜く要素はもちろん必要だと思いますが、全てを自動化するのではなく、せめて看板商品の数品でもいいから、手間暇かけるポイントつくるというのは大切だと考えます。これは当社に限ったことではなく、飲食店はそういう強みを残さないと後で困るのではないかという話です。強みを取ってしまうのは、侍の刀狩りと同等のダメージなのではないでしょうか。

記者)自動化と手作りの価値のバランスは難しいですね。今年、他社さんで東京駅の丸の内に完全にロボットアームで調理する店舗がオープンするらしいですね。

山本氏)それについても非常に興味深く、関心を寄せています。結局は顧客のニーズだと思うのです。古き良き飲食店をお客様が求める限り、そういうお店は成り立ちます。反対に、同じものを同じ時間内に食べられることが重要で、完全ロボット化がベターだとお客様が納得するのなら、それはそれで正解なのだと思います。

お客様のニーズという面では、西と東では文化も違うし、地区によっては経済感覚も違う。私たちは滋賀を中心に展開しておりますので、もちろん東京駅の丸の内とはターゲットが異なります。それを理解した上で、東京や大阪、世界のトレンドをキャッチアップしながら、店舗にアジャストしていくのです。これは本当に難しいことで、我々も散々業態を作ってきて失敗も多々ありましたが、常に悩みながら続けていますよ。

 

 

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後編へ続く