ドリームフーズ株式会社 代表取締役社長 山本英柱氏インタビュー(後編)飲食企業が食品会社をM&Aして生まれたシナジー

主力事業の「ちゃんぽん亭」をはじめ、蕎麦や肉そばなどを全国に70店舗以上を展開するドリームフーズ株式会社。家業を引き継ぐ形で企業経営に携わり、全国展開まで導いたのが、代表取締役社長 山本英柱氏です。最近では、食品会社をM&Aし、その独自性をより一層強めています。 後半では、M&A秘話と飲食業界に対する想い、今後の展開についてお話しいただきました。


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記者)業態もたくさん考えられてきたとのことですが、M&Aもされています。そちらについて詳しく教えていただけますか?

山本氏)2018年12月に、190年の歴史がある滋賀県の食品会社をM&Aしました。この会社は味噌作りからスタートして、今は漬物も作っています。

M&Aをする決断に至ったのは、この食品会社でしょうゆも作っていたからです。ちゃんぽん亭のスープは和風だしなのですが、ここにしょうゆもたくさん使っています。母体がしょうゆ屋をやっているラーメン屋というのはストーリー的に面白いなと思ったのがきっかけです。さらに、だしの製造販売もしているので、いずれだしの販売もできるとなると、セントラルキッチンとしての役割もこなせそうだと考えました。

これまで、飲食事業一本で経営をしてきた当社が、これによって食品事業にも関与できるようになるというのは、食というカテゴリで展開をしていく中では大きな一歩です。もともと食品事業もチャレンジをしたいと思っていたということもあり、M&Aを決意しました。食品の製造部門を元の会社に残して、販売部門をドリームフーズが行うという方法をとっています。

現在のようなコロナ禍になり、外食一本だと非常にリスクになるという考えからデリバリーなどに参入する企業も増えていますが、当社は既に食品会社でもあるため、基盤のある状態で事業展開ができるので、そこも他社との差別化につながっていますね。

記者)M&Aをすることで得られるものはなんでしょうか?

山本氏)M&Aを通して得られる新しい企業文化というのが、とても勉強になります。食品会社をM&Aして改めて感じたのは、外食会社と食品会社では集まる人が全然違うということです。品質管理に対しての思考レベルも全く違います。外食だとある程度の大手でなければ品質管理室というものを設けない企業も多いんです。品質管理についての高い意識が新たに加わったというのは、非常に大きい転換でしたね。

このように当社が持っている企業文化が新しい文化に刺激を受けて、今後の新しい展望が見えていくというのも、とても貴重な経験でした。だからこれからもM&Aは続けていきます。

 

 

記者)そばの新業態についても教えて頂けますか?

山本氏)「金亀庵(こんきあん)」は、今から5年ほど前から始めました。現在3店舗の経営をしていて、ようやく成長期の段階に入っています。ただ、じっくりと進めているうちに、蕎麦業界への新規参入も増えてきているので、少しスピードをアップして進めていけないなと考えているところです。

当社のそば屋で使っている蕎麦も、ローカルの蕎麦です。多賀そばと言われるもので、お店の名前よりも、この“多賀そば”を広めていきたいというビジョンを持って運営しています。これは、ちゃんぽん亭の場合も同じですね。ちゃんぽん亭という名前よりも、“近江ちゃんぽん”を全国に広めていきたいという気持ちが強いので、どのような形で広めていくかの戦略は、その都度変えていってもいいと思っています。

また、新業態でいえば蕎麦だけではなく、去年、「炙り肉そば ニューヨーク」という肉そばの専門店も作りました。私が東京でビジネスマンをやっていたころに何度か行かせていただいていた「港屋」という伝説的な店舗がありまして、せっかくそばをやっているのでインスパイアされて始めました。現在は大阪の本町で一店舗だけで運営をしていて、こちらも評判ですよ。

当社は、ちゃんぽん、中華そばの商品開発を行っているので、食材を変えることで台湾混ぜそば、油そば、なども作ることができます。しかも工場があって、タレから麺、スープ、チャーシューの全てを内製化しているため、新しい店舗をどんどん増やしていくつもりです。

 

 

記者)最近のニュースとして、漬物のクラウドファンディングを行ったと伺いました。こちらのきっかけは何だったのでしょうか?

山本氏)M&Aで買った会社で2、3代前から漬物事業を始めていたからです。売り上げの半分を支える事業でしたが、漬物は完全に斜陽産業です。漬物=ごはんのお供、というイメージがあると思うのですが、そもそも日本人の白米の消費量がパンよりも減ってきているので、必然的に漬物の需要も落ちます。

普通であれば力を入れないのかもしれませんが、この作っている漬物に目を引くものがありました。万木(ゆるぎ)かぶという赤かぶを日本の伝統製法で作るということをしていたのです。しかもこの製法で作れるのは、日本で唯一。だったらこの素晴らしい文化を残さないといけない、このまま何もしないわけにはいかないと思い、広める活動をしようという事になりました。

例えば、地域の小学校と提携して、食育として行ったり、地域おこしのような形で行ったり、お祭りの企画を立ててみたり。参画者も、地域の人だけではなく、伝統を残したい人に向けてもいいのではないかと思い、この文化を無くさないために協力してくださいという形でクラウドファンディングを行いました。

正直クラウドファンディングのウケはいまいちでしたが、失敗をしたとも思っていません。食文化を後世に残していくというのも使命だと感じているからです。ビジネス的な成功を得るのと同時に、社会貢献、地域貢献ができたら、社員にとっても誇らしい活動になり得るし、地域にとって不可欠な会社になれれば会社の永続に繋がります。綺麗事に聞こえるかもしれませんが、今後も地道に、継続的に行っていこうと思っています。

 

 

記者)食文化という大きな枠で様々な取り組みをされているのですね。FCについても教えて頂けますか?

山本氏)60店舗中10店舗がフランチャイズ。50店舗が直営という形で運営をしています。このFCの10店舗も、当社の方から積極的にというよりは、口コミで増えたオーナーさんです。私自身は、もともと自力でやった方がコントロールしやすいと思っていたので、他の人に任せるという考えはありませんでした。特に、大切に箱入り娘のように育てた近江ちゃんぽんは、誰かに預けたくないという気持ちが強かったです。ですが、もう立派に育ったじゃないか、そろそろ世の中に出して他の活躍をさせてもいいんじゃないかという思いで送り出しました。

近江ちゃんぽん以外のブランドは、初めからそういう考え方です。生み出してブランドとして成長させたら、後は親元を巣立って世の中に広まっていって欲しいと思っているので、今はちゃんぽん亭も、金亀庵も、炙り肉そばニューヨークも、フランチャイズとして経営したいという人に渡していきたいと思っています。

記者)考え方が大きく変わってきているのですね。今後はどのように展開していくことを計画されていますか?

山本氏)以前はできる限り自力でやろうという気持ちが強かったんです。ただ、今はいい意味で人の力を借りるというのも成長なのかなと思っています。そう思い始めたのもここ2年ほどの話なので、コロナ禍の影響も相当ありました。それまでは毎年毎年店舗を広げていくことに追われて突き進んでいたところに、突然足止めを喰らってしまった。それをプラスに捉えて、見つけた答えです。

私はちゃんぽん亭を増やしたい、そば屋を増やしたいというよりは、ちゃんぽん亭で扱っている「近江ちゃんぽん」を広めたい、そば屋で扱っている「多賀そば」を広めたいという気持ちの方が強くあります。ですから、運営力がある人は運営をすればいいし、開発力がある人は開発をすればいい。それぞれの得意分野を生かしながらwinwinとなるように協業しながら展開していくことをイメージしています。

 

 

また、来年がちょうど「をかべ」創業の60周年を迎えます。それに向けて積極的にPR活動を仕掛けていこうと思っています。ちょうどローソンさんでの近江ちゃんぽんのカップ麺の販売があったり、テレビ番組で2つほど取り上げていただいたりと、たまたまいいタイミングで幸運が重なっている状態です。来年は近江ちゃんぽんを知らない方にも伝えていける一年にしたいですね。

記者)最後に、外食産業についてどのように考えられているのかを教えて頂けますか?

山本氏)日本は既に成熟している社会です。それに合わせて、会社自体も、外食産業自体も同じように変化をしていかなければいけません。しかし、外食業界にはまだまだビジネス的な意識が低い人も多くいます。これは批判でも何でもなく、そのような現実が残念ながらあるということです。そういう面で、外食産業が他の産業の人からまだまだ発展途上だと見られてしまうのは、業界人としての憂いですね。

飲食はクリエイティブな仕事で、経営者もクリエイターです。だから、奇抜な格好をしていたり、金髪にしていたりすることも、問題ありません。私がそういう格好をしていても何の不思議もないと思いますし、むしろ、カッコいいと思われるのではないでしょうか。ただ感覚はクリエイターでも、本質はちゃんとビジネスマン。従業員教育を含めて、しっかりやっていく誠実さを持っておきたいと、個人的には思っています。正しいビジネス感覚が飲食業界でも広がっていくことを期待しています。

 

 

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