記者)グッドイートカンパニーについてもお話しを聞かせてください。プレスリリースを見てNTTドコモさんの名前に驚いた方も多いと思いますが、プレスリリースだけでは具体的なサービス内容が見えてこないというが正直な感想だと思います。
プレスリリース) 食のDXを推進する「グッドイートカンパニー」が始動。〜 日本の食を愛する、すべての人の思い・体験・技術を未来につなぎ、世界中へ拡げる 〜
楠本)コミュニティの話に一旦立ち返ると、時代によって求められるコミュニティは変わります。なぜかというと、時代が変われば、生活者が求める生活が変わるから、生活提案も変わる。コミュニティも変わる。
つまり時代の変化=社会の変化です。この20年ぐらい、社会はものすごく変化してますよね。たとえば、カフェ・カンパニーでいうと、創業した2001年にはアメリカで9.11が起きました。そして、創業10周年を迎え、事業も絶好調だった2011年に東日本大震災が起きて、今、新型コロナウィルスが世界中で蔓延している。
東日本大震災のとき、その前にリーマンショックがありました。それを機に、僕は「カフェという場所を思いきりクラフトマンシップと地方を元気にする」という場所にしたいと思い、多様な事業をやってきました。
サービスエリア事業を始めたのも、実は地方を活性化する基盤になるんじゃないのかと思ったから。高速道路だけで考えると、例えば、東京の人々が地方に行き、帰る為に使う場所ではありますが。でも、実はあまり知られていないかもしれませんが、高速道路のサービスエリアは地元の人が出入りできるようになっているんです。だったら地元の農家さんがマルシェをやればいいじゃないかと。そうすると、トイレを使う為だけの便利な場所ではなくて、生産者と生活者の結節点になるのではないか、という考えからサービスエリア事業を手掛けはじめたんです。
2016年には、政府が日本のインバウンドを4000万人に上方修正しようと発表しました。僕は政府の委員を務めていて、ずっと、6000万人目標にしましょうと言い続けていたんです。その理由は簡単で、スペインのインバウンドは約8000万人ぐらいで人口は約4600万人なんですよ。フランスのインバウンド約8400万人、人口は約6600万人です。イタリアもインバウンドが約6400万人、人口は約6000万人。このように、ヨーロッパは人口よりもインバウンドの数が多い国だってあるんです。
観光を誘致するためのことを僕は言いたかったわけじゃなくて、日本は、2100年には人口が半分以下になると言われています。未来を考えるにあたっては、日本の人口は1億2000万人と考えるのではなく、5~6000万人位の規模なんだって考えたほうが良いんです。
豊かに暮らしている国と言うのは、食料自給率が高くてなおかつインバウンド観光の比率が高い国なんです。日本は四季があって自然が豊かで、アジアの中で唯一そういう国になり得ると思っています。
その中には絶対に食が入ってくるはず。食べて美味しくて、健康的で、地方が美しくて、しかも長寿、となったらみんな日本に来るでしょう。だから、観光政策だけではなくて、日本を楽しくする政策が必要なんです。それがずっと僕の中にあって、求められるコミュニティってそういうことだなって思い始めたのがこの10年の流れです。
日本食は海外から大変リスペクトされています。僕がクールジャパンや政府の委員を始めたときがちょうど10年前くらいなのですが、当時は海外の日本食レストランは約5万軒と言われてたんです。でも、現在は15万軒を超えています。この10年で3倍になったんです。
でも果たして日本人がそれで潤っているのかというと、そうではない。現地で経営をしているのはほとんどアジア系の方々ばかり。それを「なんちゃって日本食だ」と溜飲を下げて終わるのか、それとも「我々も負けないようにどう戦えばいいか考えよう」とするのか、僕ら自身の話なんです。
日本の食が世界で広がることは良いことだとは思います。ただ、それを、僕たち自身はどのように未来へ活かしているんだろう。あるいは、残す努力をしているんだろう。それを、どうすれば、僕たち食産業に携わっている人々が連帯し、どのように財産にしていけるんだろう、ということがほとんど議論されていない状態でもあります。
外食産業の市場規模は29兆円、さらに小売から食品加工から、農業に至るまで全部入れた食産業全体の市場規模を考えると117兆円もあります。観光の一番のモチベーションの1つも食ですから、その辺の裾野まで入れると日本の市場規模の3分の1くらいは食関連なわけです。
日本はGAFA(Google, Amazon, Facebook, Appleの略)があるわけじゃないし、石油を掘っても出てこない。でも、日本には食がある。食を中心としたコミュニティを作ってきた者として考えると、今まで縦割りで存在してきた農業から食品加工、外食産業までを全部縦割りで存在させるのではなく、圧倒的に生活者との直接的な接点を持っている外食がそこからみた景色でどんなコーディネートをしていけばもっと強い食産業ができるんだろうと、考えていったほうがいいんじゃないかと思っています。
よくよく考えてみると、このコロナで僕たち食産業に携わる人々がが味わったのは、全員が「1本足打法」だったがゆえの脆弱さだと思うんです。これからは、それぞれがもっと連携を図れるような仕組みを食産業全体で創っていくことが必要です。言い換えるなら、食のコミュニティ化を推進してくということでもあります。
最終的には、日本を楽しくて美味しい国にしようよ、という連帯を作ってったほうが良いんじゃないかと思っています。そのためにも、今はそれぞれの業界内でそれぞれが頑張っている状態ではなく、繋がないといけない。そして、コロナ禍で毀損してしまった分の新しいマーケットを創出しないといけないと思うんです。
グッドイートカンパニーでは、まず、マーケット&ファンクラブ「GOOD EAT CLUB」を立ち上げました。EC事業でもありますが、単に商品を売買するだけの「エレクトリック・コマース」ではなく、オンラインを活用しながらオフラインを融合させていくという事業で、僕らは「エモーション・コマース」と呼んでいます。食のECサイトは既に様々なサイトがありますが、リアルの場として多様な飲食店が存在しているようにもっともっと多様な生活文化に相応する仕組みができていくと良いとも感じています。
NTTドコモさんとは、実は、新型コロナウィルスが発生する前から議論を重ねてきました。昨年の4月に社会が劇的に変化したのを受けて、急速に企画を推進したというのが今回の経緯です。
グッドイートカンパニーには3つの事業があります。
1.食のエモーション・コマース(EC)事業
2.食のオフラインコミュニティ事業
3.食のプロデュースやDX支援事業
「食のエモーション・コマース(EC)事業」は、先程お伝えしたように、ECは「エレクトリック・コマース」を意味するのが一般的ですが、私たちは、「エモーション・コマース」として位置付けて展開をしています。商品の売買だけではなく、「おいしいね」という感情や「飲食店や生産者を応援したい」という生活者の思いも含めてコミュニケーショが取れるよう、まずはオンライン上に売場を作ったわけです。
オンラインでの展開は「食のオフラインコミュニティ事業」につなげていきます。外食の店舗や生産者との協業でオンライン商品を開発した際、それをブランド化して新しいフランチャイズモデルとして展開もしていく。そのように、オンラインでの展開をリアル店舗に活かすことも可能になってくるはず。僕らはそのオーケストレイターとなり、食産業全体を繋ぐ役割になれたらいいんじゃないかと思っています。
「食のプロデュースやDX支援事業」は、日本中にいらっしゃる素晴らしい生産者と匠の技を活かした食品加工、シェフの技、生活者に届ける嘘のないブランディング、そのような様々な人々の得意分野を掛け合わせてヒット商品を作っていくことも大事になってくる。それも含めたDXということなんです。
アメリカでは、作り手がダイレクトに生活者へ届ける「D2C」モデルが大変活況を呈していますが、このモデルの勝ちパターンには必ずリアル店舗があるんです。つまり、共感で集うことができるリアルな場とオンラインを活用してDXすること。それを日本の勝ち筋である「食」全般でちゃんと実践していき、顧客との直接つながりがある外食から食産業全体に対して推進していくことが大変重要なのではないかと感じているからこそ、「食のエモーション・コマース(EC)事業」「食のオフラインコミュニティ事業」「食のプロデュースやDX支援事業」の3つを推進していきたいと考えています。
記者)全てを網羅した、今もっとも必要とされている仕組みですね。
楠本)そうなんです、全部を網羅しないで部分最適の話だけをしていると出口を見失いがちで「結局、何がしたかったんだっけ」という話になっちゃうわけですよ。日本の食の勝ち筋に対して真摯に向き合い、産業全体を盛り上げていきたい。少し大きなことを言ってるように聞こえるかもしれないのですが、まず、僕たちがしっかりやらなくてはいけないことは、外食の皆さまの商品をEC化して販路を増やす、ここにまず特化したいのと、それから後ろ側ではDXの支援をしていくことです。
記者)まず第一段階は、外食のお店が自分たちが作っている料理を御社のプラットホームを通して消費者の方に届けることができる、ということですね。
楠本)まず、プラットフォームとして、その販路を徹底的に提供したい。それにあたって、特色もしっかり明示したいと思っています。僕はコミュニティ屋なので(笑)、単にものが行き交うだけの場ではなく、そこで共感が生まれ、増幅していくような仕掛けも考えています。それが「食のエモーション・コマース事業」ということです。
1月にローンチしたのはまだベータ版で、本サービスは初夏のローンチを目指しています。そこではユーザーが買い物をして大好きになった店舗を応援する仕組みが有ったり、みんなが新商品開発に参加できたり、「売り場」「買い場」じゃなくて、共に作って共に楽しもうというような仕組みになる予定です。
それから、売る買うという行為も、もうちょっとイベント的に「全員参加型で楽しく始めようよ」というような仕組みも考えてます。ちょっとこれ以上話していっちゃうとネタバレになってしまいますね(笑)。コミュニティ度が非常に高い、共感型、全員参加型、応援型のECをやる予定です。
あとは、ここに食の賢者、「Tabebito(食べ人)」という紹介者が立っている、ということもひとつの特徴になっています。今は、又吉さんや、秋山具義さん、また、『神の雫』の作者の亜樹直さんがワインをリコメンドしています。
記者)っていうことはコンテンツ側もつくっていくわけですね。
楠本)そうですね。「GOOD EAT」は「愛すべき食」と訳しました。人によっていろんな思い出があるじゃないですか。先程「風景を創る」という話をしましたが、風景ってやっぱり記憶だと思うんですね。そういった、ふとした時についつい思い出してしまい何度も訪れてしまう、そんなサイトを作ろうという主旨です。
これから先、世の中も、食を取り巻く状況も大きく変わっていく中でDXを考えない選択は無いと思っています。これを進めていかないと「おばあちゃんのぬか床の知恵」などは消えてしまうんです。流動性を高めて、レシピ化することで知財としてこれからの未来へ引き継がなければいけない。
地方の人気店だけどコロナ禍で人が絶えてしまい、「担い手がいないからもう辞めようかしら…」という店舗もあるはずです。だから、このままいくと日本の食文化が保たれる期間はもうこの先5年が限界なのでは、と思っています。
この5年間は、日本の食産業がどのように連帯し、守り、守るだけじゃなて、知財化して世界に出せるように発展させるかという5年だと思うので、同じ業界の中でもライバルとして敵対するのではなく仲間として共に育んでいくことができればと考えています。
記者)コロナ前から仕込んでいらっしゃたわけですけど、ちょうど間にあったというか、むしろ必要になってしまったということですね。
楠本)「天の時、地の利、人の和」という孟子の言葉があります。コロナ禍は毎日不快極まりないけれど、でも、「天の時」だと思うんです。だから背を向けちゃいけないんですよ。先日、とある老舗飲食企業の社長が「コロナ禍でいろいろ考えて、僕たちが変わらなきゃいけないんだって気が付きました」とおっしゃっていました。このタイミングは、そういうタイミングなんです。今、経営者の皆さんは様々な戦略を考えていないはずが無い。だからそこでみんなポジティブに、「ひとまずここからやってみよう!」というきっかけになればいいなと思っています。
記者)正式には初夏頃のオープンで全容が見えてくるわけですね。とても楽しみです。