株式会社SBIC 代表取締役 鬼頭宏昌氏インタビュー(前編)宅配とんかつ専門店「かさねや」が出来るまで

急拡大するデリバリー事業の中でも、特に勢いに乗る宅配とんかつ専門店「かさねや」。大手チェーン以外では異例の、全国に200店舗近くを展開する規模と、ゴーストレストラン(既存店舗にデリバリー業態を上乗せする形態)ではなく、あえて“デリバリー専門店舗を構える”という独自のスタイルが注目を集めています。 今回は「かさねや」を運営する株式会社SBIC代表取締役 鬼頭宏昌氏に、企業の誕生秘話から現在に至るまでの経緯と、今後の展望をお伺いしました。


この記事は約12分で読み終わります。

急拡大するデリバリー事業の中でも、特に勢いに乗る宅配とんかつ専門店「かさねや」。大手チェーン以外では異例の、全国に200店舗近くを展開する規模と、ゴーストレストラン(既存店舗にデリバリー業態を上乗せする形態)ではなく、あえて“デリバリー専門店舗を構える”という独自のスタイルが注目を集めています。
今回は「かさねや」を運営する株式会社SBIC代表取締役 鬼頭宏昌氏に、企業の誕生秘話から現在に至るまでの経緯と、今後の展望をお伺いしました。

記者)最初に、飲食業界に入ったきっかけを教えてください。

鬼頭社長)実家が八百屋だったんですけど、儲からないと思って、飲食店で起業するつもりでいたんですよ。それで、大学を中退して名古屋のイタメシ屋さんに修行に行ったんですけど、厳しすぎて1日で辞めて(笑)。

じゃあ実家がはじめていた居酒屋を手伝おう、ということで2号店を出したんです。その後、兄に代わって25歳のときに取締役副社長になって実質的に会社を切り盛りするようになりました。
6年ほど経営して、年商20億円くらいに成長させて32歳のときにジーコミュニケーションさんに会社を売却しました。

記者)その後、株式会社SBICを設立されるまでの間、ブランクはあったんですか?

鬼頭社長)いや、すぐ会社を作りました。2006年3月に売却して6月に会社を立ち上げたんですけど、事業はまったく決まっていなかったんです。飲食業以外で何かをやりたいとは思っていて、最初にやったのは情報商材の販売だったんですけど、販売初日に「これじゃあ絶対に事業にならない」って気付いて(笑)。

今度は飲食コンサルでもやろうかなって考えたんです。ただ、やるのはいいけど人脈もほとんどなかったし、お客さんをどうやって掴めばいいかわからなくて。

そこで、本を出そうみたいな話になって出版を決めて、本を読んでくれた人が、わたしのサイトを訪れたとき、メルマガ登録ができるようにしておいたんです。そこからコンサルのお客さんが増え出して、ちょっとずつ食べていけるようになったんです。

記者)HPを拝見すると、8冊ぐらい本を出版されていらっしゃいますよね。あれが原点なんですね。そのときは、外食の居酒屋チェーンみたいなところがお客さんだったんですか?

鬼頭社長)そうですね。チェーンというか、3店舗やってるとか5店舗やってるっていう人たちが、どうやったら事業が伸びるのかっていう相談に来るんですよ。「こうすればいいんじゃないですか」ってアドバイスするんですけど、「はあ」って聞いてるだけで行動に起こす人は、ほとんど、いないんですよ(笑)。

記者)すごく勢いがあって、なんでもすぐ行動に移せる人だったら勝手に伸びていきますもんね。なかなかそういう人は来ないですか?

鬼頭社長)滅多に来ないですね。1年か1年半ぐらいしかやっていないんですけど、コンサルとしては本当に人気がなくて。全員半年契約にしてたんですけど、更新した人は1人もいなかったですから(笑)。

そうこうしているうちに、2008年9月にリーマンショックが来たんですよ。リーマンショックって金融危機だから、銀行から調達できる金額のスケールが小さくなるっていうのと、新規事業で成功するのがむずかしくなると考えたんですよ。そうすると何が起きるかっていうと、成功した事業モデルの価値が上がるわけですよ。だから低投資で取り組めるフランチャイズのパッケージのニーズが高まるのかなと思って、会社名を「株式会社スモールビジネス紹介センター」に変えて。

今の株式会社SBICという社名も、その略なんですけれども。そんな予測をもとに、FC本部を立ち上げたんです。その少し前に、たまたま出会ったのが、「立呑み焼きとん大黒」代表の大谷(光徳)君で。

記者)「光フードサービス株式会社」のですか?

鬼頭社長)そうです。彼も、一号店の物件を僕が探してきて、デザイナーとかを紹介して、事業の立ち上げをお手伝いしたんです。当時大谷君は、愛知県以外でやる気はないって言っていたから、一号店が成功したら、僕がFCで広げるって約束をして。

それで2009年から「立呑み焼きとん大黒」のFC加盟店を僕が集め始めたんですよ。それが、1年ぐらいで10何店舗になったんです。でも、その時は、内臓を店が仕入れて店が捌いて串打ってタレも店で作る、みたいなオペレーションで食材流通を本部で握ってなかったんです。

それにお客さんは同じものを食べに来るから、メニュー開発もあまり必要ないんですよ。そうすると本部がいらないので、ロイヤリティを払わない加盟店が続出しました。

そこで、「FC本部は、食材流通させないと維持できないんじゃないか?」ってことに気が付いて。じゃあ何があるかっていうと、ラーメンじゃないかと。麺とスープを店舗に流したら、それを買わないと店が開けられないから、そっちの方がFCに向いているんじゃないかなっていうことで、これもたまたま出会った桜木町にある「日の出らーめん」さんと話をつけて、FC本部をやることにしたんですよ。だから最初のFC本部デビューの2業態は、他人の業態だったんです。これがまた、よろしくないんですよ。

記者)そうだったんですね。でも、ラーメンだと本格的なパッケージとして成り立ちやすそうですけども。

鬼頭社長)成り立つんですけど、本店さんとの関係を保つことが意外と難しくて、あまり上手くはいかなかったんです。

記者)実際、光フードさんも日の出らーめんさんも、フランチャイズのマスター権利みたいなものをもらったということは、一定のロイヤリティを払うからFCの方は自分の方で管理させてくれということですか?

鬼頭社長)条件は、ケースバイケースでした。勢いで、やってみたものの、思ったように出店が進まないから、ロイヤリティの積み上げがなかなか効いてこなくて。

しかも、本店さんとの関係維持も難しさも感じてしまい、もっと楽に加盟店開発ができるパッケージがないか探していて見つけたのが、今で言う「ゴーストレストラン」だったんです。

既存の飲食店さんに「かさねや」のデリバリーを運営してもらう、というモデルなんですが、当時「釜のや」という釜めしのデリバリーチェーンがあったんですよ。結局それは、「銀のさら」の「釜寅」に負けちゃうんですけど。「釜のや」さんが、飲食店の厨房を使ってデリバリーをやっていて。だからゴーストレストランの元祖は「釜のや」さんなんですよ。

記者)そうなんですね。

鬼頭社長)北九州の前田さんという方が手掛けていて、当時全国に30店舗ぐらいあって、もっと伸びてもいいはずなのになんで伸びないのか調べてみたら、釜めしの機械って厨房に入らないんです。要はゴーストレストランって、売り上げが足りてない飲食店が加盟してやるじゃないですか?

記者)昔はそうでしたよね。

鬼頭社長)でも、釜めしって、すごく大きな調理器具がいるから、それが入る厨房を持った飲食店がいないんですよ。だから導入が全然進まなかった。じゃあどこの店にもある調理器具は何かといったらフライヤーだから、その中で作れそうで一番反応が取れそうな商材が「とんかつ」で。じゃあ、うちはとんかつ弁当のデリバリーをやろうと思って始めて、1年半で60店舗ぐらい加盟店が集まったんです。

記者)すごいですね。これはもう完全にゴーストレストランだけだったんですか。

鬼頭社長)そうです。ゴーストレストランだけで2011年に始めました。だから本格的にゴーストレストランの原型を手掛けたのは、間違いなくウチなんですよ。

記者)ちなみに、このときは今のUberみたいな仕組みはなかったんですか?

鬼頭社長)なかったです。全部自分たちで運んでました。

記者)それをやると、結構コストが合わないとかっていう問題が出てきたりしたんじゃないかと思うんですが。

鬼頭社長)コストが合わないというよりも、もともと経営状態が悪い店が加盟してくるので、ゴーストレストランをやったぐらいで、黒字に出来る力がないんですよ。だから、ほとんどが店ごと潰れちゃうんです。それがまず1つ目の問題点。

もう1つは、ポジティブな理由で。やってたら店の方が忙しくなってきて、ピークタイムのオペレーションの足を引っ張るからやめるっていう。

だいたいこの2つのどっちかなんです。だから、今ゴーストレストランをやっている人たちいますけど、だいたいは、どっちかの理由でやめていくと思いますよ。1年で100店舗とかゴーストレストランを作っても、3年も経てば10分の1以下とかになってるんじゃないですかね。

ゴーストレストランは、FC本部の事業として成り立ちにくいから、今だけだと思います。居酒屋さんを中心に、皆が苦しんでますから、藁にもすがる思いで加盟するものの、儲からないのでやめていく流れでしょうね。

記者)ちなみに、最初にそのゴーストレストランの形態で始めて、やっぱり1年2年で10分の1ぐらいみたいな感じで減っていったんですか?

鬼頭社長)うちの場合、メルマガで加盟店を集めていたから、メルマガの読者が4000人ぐらいはいたんです。そのリストをやりくりして継続的に加盟店開発をしたときの店舗数の均衡点が60店舗ぐらいだったんですよ。増えては減り、増えては減りで、横ばいの状態がしばらく続きました。

リストはそのうち枯れますから、枯れたときに加盟店舗がどんどん減っていくという流れが見えていたんですけど、デリバリービジネスってデータが残るんですよね。

チラシを1万枚撒くとこれぐらいの反応があって、これぐらいのお客さんがリピートしてこれぐらいの頻度で客単価がいくらでというデータが残るわけです。これが残ると何ができるかというと、売り上げ予測が立てられるんです。事業って、売り上げの予測が当たったら絶対成功するじゃないですか?

記者)はい、そうですね。

鬼頭社長)経費の予測って正しくできるけど、売り上げの予測が外れるから潰れるわけで。でも、デリバリーってデータをもとに組み上げていくと売り上げの予測が立つんですよ。これぐらいの期間にわたって、これぐらいのチラシを累計でこれだけ撒くと、損益分岐点を越える売り上げに到達するって、データから逆算して割り出せるから、成功する可能性が高いことを、僕らはわかっていたんです。

ゴーストレストランのモデルは上手くいかないけど、デリバリー専用の店舗を作って運営すれば上手くいくっていうことをデータをもとにして確信を持つようになってきたのが、2014年の初頭ぐらいなんです。

その当時から、デリバリーのニーズの強さを確信している加盟店さんも中にはいて、そういう方に「ちょっと専門店を作ってやってみようよ」って声を掛けて。厨房を作って配達するようにしたんです。

記者)今までは、どこかのお店の中に入ってデリバリーをしていたのが、このための店を作ったということですね。

鬼頭社長)そうです。それが2014年で、「かさねや」浅草店と山王店の2店舗でテストをして、どっちかの月の売り上げが400万を越えたら多店舗展開しようと思ったんです。そうしたら、2014年12月に山王店の売り上げが400万を越えたので、2015年から多店舗展開を始めて今に至るんです。

記者)HPを拝見すると、フランチャイズさんがいくらで加盟できるかという料金モデルがあって700万ぐらいで加盟できると書いてありますが、当時もそれぐらいの金額でやっていらっしゃったんですか?

鬼頭社長)今はもう少しかかってますけど、当時は居ぬきを使ったりしてましたから、安くできる店は安かったですね。

記者)じゃあ500万~700万で出来るようなスタイルでスタートして行ったわけですね。

鬼頭社長)最初はそうですね。さっきの話に戻りますけど、2008年にリーマンショックが来て、スモールビジネスフランチャイズの時代が来るんじゃないかと思っていたら、本当に来たんですよ。

でも、僕らはそれに乗れなかった。結局、スモールビジネスフランチャイズって蓋を開けてみたら200〜300万で取り組めるフランチャイズのことで、誰がそれの波に乗れたかっていうと、お掃除本舗や、ニコニコレンタカーさんなんですよ。僕らが手掛けたのは、飲食だから、1,000万ぐらいかかるんですけど、それだけかかるともうスモールビジネスじゃないんですよ。

だから、予測どおりスモールビジネスフランチャイズの波は来たんだけど、その波には、乗れなかったですね。一方で、フードデリバリーの波が来るとは思ってなかったんですけど、今度は来たから乗った、みたいな(笑)。

2度目のビッグウェーブが来たっていう(笑)。結論的には、波が来るってわかっていても、わかっていなくても乗らなきゃ一緒なんだなって。波に乗ったもん勝ちなんですよね(笑)。

記者)現在、「かさねや」さんは何店舗ぐらいになっているんですか?

鬼頭社長)出店が確定しているものを含めて、180~190店舗あります。今期の売り上げが130億ぐらいありますね。

記者)「かさねや」さんの、薄切り肉を何層にも重ねてミルフィーユ状にした「熟成重ねかつ」というのは、鬼頭社長が考えられたんですか?

鬼頭社長)あれはもともと、とんかつ屋をやってる友人がいて、「うちのとんかつめっちゃ美味い」っていうから食べてみたら本当に美味くて。それで、「お金を払うから修行させてほしい」って言ったら、「鬼頭さんだったらタダでいいですよ」って言ってくれたんで、従業員を送り込んで学ばせたんです。

記者)そうなんですね。本当に上手くご縁を使っていらっしゃったんですね。

鬼頭社長)本当にそれだけです。加盟店もたまたま出会った人ばかりだし。今やってるライセンス先とかも、友達とかばっかりですよ。自分から探して何かするということがあんまりなくて。

記者)そうなると、日頃から縁を引き寄せる行動をしていらっしゃるんでしょうね。

社内独立についてお伺いしますが、今は基本的に人材を採用してある程度修行していくと、本部に残るケースと独立するケースの2つに分けるような感じで社内教育をされているんですよね?

鬼頭社長)最初の段階で、独立するために来る人と本部社員として来る人とで、分けて採用しています。

記者)じゃあ、独立する前提でしばらく修行するということですね。ちなみにどういう基準に達したら独立できるのでしょうか。

鬼頭社長)基本的には、半年ぐらいですね。試験的なものはあんまりないんですよ。「大丈夫じゃない?」っていう感じです(笑)。

インタビュー後編に続く

株式会社SBIC様へのご相談はこちら

株式会社SBIC様へ、採用や独立開業についてのご相談、フランチャイズの提携についてのご提案、M&Aのご提案などありましたら、下記フォームよりご連絡ください。