記者)「挽肉と米」の最大の特長として、いつ行っても出来たてのハンバーグと炊きたてご飯が出てくる点があります。このサービスを実現できている理由は何がありますか?
山本社長)お客様に次々と来ていただけるので、ハンバーグもご飯もどんどん回転良く準備できる点ですね。ハンバーグは15分くらいかかるんですけど、ご飯も合わせて15分おきくらいにどんどん炊いています。お客様がまばらだとロスになるってしまうデメリットもありますね。
店頭の行列が近隣の迷惑になってしまうことから、お客様には面倒をかけてしまうのですが、朝に整理券をお配りし、お客様の近い時間枠にお名前を記帳して、そのお時間に来ていただくようなシステムを採用しています。朝来ることは手間ですが、自分の都合に近い時間に食事することができるので、近所の方のリピーターさんは多いですね。
記者)もうひとつのポイントとして、90グラムの挽肉を3回に分けて提供されていますが、こちらの理由は?
山本社長)僕たちは「挽きたて・焼きたて・炊きたてを提供する」というテーマを掲げています。作る側としては、1個をそのまま提供する方がもちろん楽です。しかし、1つの大きなハンバーグを提供されても、最初は焼きたてでも食べ終わる頃には冷めてしまうじゃないですか。だから少しでも焼きたての時間を楽しんでいただけるように、あえて90グラムを3回に分けるオペレーションにしています。ご飯も炊きたてをお代わりしていただけるので、いつでも焼きたて・炊きたてを楽しんでいただけるのです。
記者)テーマに「挽きたて」とありますが、挽肉も店内で作っているのですか?
山本社長)毎朝、挽肉室という冷蔵室で挽きたての挽肉を作っています。挽肉って劣化が早いので、挽きたてが一番肉汁を含んでいるんですよね。仕入れたお肉を一番パフォーマンスが高い状態で提供できるというのが、店内で挽く理由です。店舗展開をしたとしても、セントラルキッチンではなく店内で挽くことは絶対です。
記者)ここまでのオペレーションを作り上げるには大変な苦労があったのではと思います。何か苦難されたことはありますか?
山本社長)やはりこのオペレーションは、お客様に絶え間なく来ていただけるのが前提なので、オープン時のまばらな時期はかなり多くのロスが出ていました。挽肉も焼き過ぎてしまうので、だいぶ賄いに回しましたね。
そうした背景もあり、当初はご飯が炊き上がる時間にお客様に来ていただくような、体験のためにお客様にも協力を必要とする設計をしていました。しかし、それだとどうしてもお客様にとって気軽なお店ではなくなってしまいます。繁盛店ではなく、ただの流行店になるなと。そこでいつ来ても炊きたてが食べられる店を実現するため、連続で炊き続けるしかないという結論に至りました。
高級店のようなサービスになってしまうよりも、気軽に行きたいときに行けるお店で、いつ来ても焼きたての挽肉と炊きたてのご飯を楽しんでいただけるということに集中しています。
記者)オープンからどれくらいで繁盛店になったのでしょうか。
山本社長)ありがたいことに1か月程度でしたね。早々に抜け出せた理由に、SNSの活用がありました。当時緊急事態宣言が発令されていたので、できることをと思い、お店をオープンする前からPOOLさんのメンバーがInstagramやFacebookでシズル感のある画像をアップし続けてくれたんです。あたかもオープンしているかのように、お店に期待と思ってもらえるような、お肉を焼いている動画などを発信し続けました。それが実って、イートインを始めるまでに2000人程度のフォロワーさんが付きました。事前に知名度は広がっていたので、お店を開けた瞬間からある程度来店していただけて、立ち上がりのペースが速かったのはそこに要因があると考えています。
記者)オープン当初から現在の記帳方式だったのですか?
山本社長)いえ、当初は並んでいただいていたのですが、だんだん収拾がつかなくなってきたので、記帳方式をとり整理券を配るようになりました。最初は11時からでしたが、10時半になって10時になって……。今では9時に記帳が始まります。週末ですと1時間ほどで1日分の予約が埋まってしまいますが、平日ですと昼過ぎまで夜の枠が空いていることもあります。
記者)立地的には路地裏でわかりにくいと思いますが、それはどのようにカバーされたのでしょうか?
山本社長)今までは街を歩いていて看板を見たり、実際に自分で発見したりということが多かったので、駅近や看板を大きく出せるところが立地的にいい場所だとされていました。
しかし、今は多くの場合スマホで事前に行きたいお店を見つけたうえで、来店するという流れが大半です。場所はGoogleMapが教えてくれますから、認知されることができれば立地による影響はだいぶなくなっていると思います。
記者)今後の出店計画はどのようにお考えですか?
山本社長)現在「挽肉と米」は吉祥寺と渋谷に1店舗ずつありますが、もう都内の出店は考えていません。すごくやってみたい物件があれば、やる可能性はありますが。同じ地域へ何店舗も出すと、お客様が分散してしまうリスクがあります。席が埋まり続けることが見込めないと難しい業態なので…。国内出店は、京都、福岡、金沢、札幌あたりでしょうか。海外の人が知られている日本の都市に4~5店舗の出店を考えています。東京以外はパートナー出店にしていきます。同時に海外への出店を計画中です。
記者)海外出店のイメージはどう考えていますか?
山本社長)まずはアメリカに出そうと思っています。現地のパートナーを見つけて、FCで出店していこうと思っていて、フランチャイズのロイヤリティをスタッフに還元していくイメージですね。
「挽肉と米」のスタイルがアメリカで受け入れられるかは分かりませんが、海外のお客様に魅力を伝えられるように店づくりをしてきたので、従来のハンバーグを持っていくよりは勝算はあると思っています。
記者)新しい展開が控えている中、人材についてはどのようにお考えですか?
山本社長)僕は店舗をどんどん増やして母体を大きくしようとは考えていません。売り上げを重要視するよりは、利益率を高めていきたいと思います。店舗を出すともちろん売り上げは上がりますが、それに伴ってお店で働く人の人数も増えていきます。規模が大きくなっても会社全体で割ると一人当たりの利益は変わらないことになってしまうからです。スタッフ一人一人にしっかりと還元し、環境をよくしていくことが重要と考えます。
そのためには、一店舗一店舗のお客様に対しての魅力・価値を高めていくことが大切だと思っているので、最前線で働く人たちのクオリティ向上が課題です。
しかし、店舗スタッフには払える給料に限界があります。店舗の限界を超えた給料を払うためにはスーパーバイザーやエリアマネージャーなどの仕事を任せられることが条件になります。しかし、人には向き不向きがあるので管理職では力を発揮できない場合もあります。そういう人材は市場にも余り気味で会社を転々とすることがありますが、店舗に戻るには給料が高すぎるから行き場がないという問題が生まれています。
一番重要なのは、最前線でお客様に向き合うスタッフです。その店舗スタッフの給料が上がらず、飲食業から離れてしまうのは不本意ですので、店舗の人件費に使える金額をもっと増やしたいと思っています。挽肉と米の描く未来では、小さなお店でも人件費に使えるキャパを大きく持てるように店舗以外での収益を得ることを計画しています。それがうまく行けば、優秀な人材に店舗で活躍し続けてもらいつつ、新店舗の立ち上げやコンサル案件などが始まるときに店舗スタッフから責任者を派遣できたりすれば、退屈もしないですしね。そういう店舗の中でも外でも活躍できる人材を育成するファームのような店舗ができれば、会社としてのブランドにもなりますし、現場のクオリティも上がります。いろいろなアイディアをカタチにできる人材が増えれば、もっと大きな絵を描けると思うのです。
そのためには、むやみに直営店を増やして売り上げを追うのではなく、価値をどんどん高めていくことに注力しパートナー企業さんからのロイヤリティなどによって利益率を上げていくことを考えています。
飲食店が社会に貢献できる範囲がどんどん広がってくる時代になってくると思うので、現場で美味しい商品や魅力的なサービスを提供することを楽しみながら、新しい企画にもチャレンジ精神旺盛な人材と出会っていきたいですね。
記者)現在山本さんは株式会社挽肉と米の取締役、そして俺カンパニーの代表取締役を務めておられます。今後その2社について、どんな展開を考えていますか?
山本社長)「挽肉と米」では、今後コンサル業への展開を考えています。これまでは店舗を作ることが仕事だったところを、コンテンツで稼ぐことへのチャレンジをしたのが「挽肉と米」でした。我々には、サービスができるスタッフ、調理ができるスタッフ、空間を作れるスタッフといった多くの力と経験があります。それをブランドとして、より良いものを作るサポートをすることで収益を得られる仕組みを作ることが、実質的な成長につながると思っています。一つは、日本の食の価値を海外に対して売る、もう一つは地方に対して作っていくということを考えています。
例えば、その地域に行った多くの人が食べるような特産物を持つ地域はたくさんあります。そうした自治体の道の駅などに、挽肉と米のような考え方を利用したリブランディングを提案していければと思います。地域の特産物って、素材そのものがいいのですがPRがうまくいっていないことも多くあります。肉、野菜、海鮮といったその土地ならではのものを美味しく食べる体験づくりみたいなことをやって地域の価値を新しく作ることができたら楽しそうだなと思ったりしています。
記者)夢が広がりますね。逆にこれからの課題はありますか?
山本社長)大企業ではないので、単独ではなくパートナーが必要です。良いパートナーとタッグを組んで、海外への足掛かりを得られるかなどなど、やったことのないチャレンジなので課題は山盛りですが、価値あるチャレンジだと思ってやっていきます。
記者)俺カンパニーの方はどのように考えていますか?
山本社長)俺カンパニーの方は、おかげさまで「山本のハンバーグ」17年目を迎えます。一定の認知度と評価をいただいているためか、コロナ禍でのデリバリー売上も高い水準です。今後もお店の価値を高めていくための店づくりを継続したいと思っています。2022年1月には山本のハンバーグ尾山台研究所をつくり、新メニューの開発するキッチンと食物販向けの商品製造キッチンを併設した店舗を作り、ECサイトで商品を全国に販売していきます。パートナー企業さんとの、のれん分けでの店舗出店、デリバリー売上、食物販を進めていきながら、店舗売上以外の売上間口を広げていき利益構造を改善し、店のみんなの環境や条件をもっと良くしていきたいと思っています。
特にのれん分けは、社内向けにも、店長の先のステップとして制度化していきたいと思っています。具体的にのれん分けをイメージしてもらえるように、スタッフとコミュニケーションをとりつつ、具体的なビジネスモデル構築を計画しています。
店舗での仕事にこそ、飲食業のやりがいと価値があって、その経験が自分の幸せに直結するんだって環境を作っていきたいです。