株式会社 海帆 取締役副社長 國松 晃氏インタビュー 〜M&Aの目的はスタッフに働く喜びを感じてもらい、成長させ、幸せにすること〜

今回の飲食経営ジャーナルインタビューは、「幸せな食文化の創造」を理念に掲げ、地域に密着した飲食店展開を手掛ける株式会社 海帆の取締役副社長 國松 晃さんにお話をお伺い致しました。


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ロードサイドの大型店舗から少人数店舗へ

業態の転換期にあるとお伺いしました

東海地区を中心に、『なつかし処 昭和食堂』などの居酒屋業態を主力とする15ブランド・約90の直営店舗を展開しています。大手自動車メーカー関連の工場が多い車社会のエリアにあって、低家賃のロードサイドに出店し、マイクロバスを用意してそういった工場などの団体客を取って送迎するスタイルを確立させました。そして“2時間飲み放題980円”を打ち出してヒットし、店舗月商1,000~1,500万円を稼ぐまでになりました。一気に年間数十店舗を展開した勢いで、2015年4月にマザーズに上場しました。

しかし、今は宴会ニーズが減少するとともに、駅前開発の進展によるカジュアルな少人数の飲み会へのシフトが進んでいます。また、飲酒規制の強化で、ロードサイド店でお酒を飲む習慣そのものがなくなっています。こうした要因で業績が悪化し、業態転換などの立て直しが必要な状況にあります。

 

具体的には、どういった業態転換をされているのでしょうか?

 

 

こだわりの熱々餃子と、生ビール・ハイボールが1杯190円の『熱々屋』と、“サムギョプサル(豚バラの焼き肉)980円”“ソフトドリンク飲み放題190円”“カルビ丼500円”を三大メニューとする『ぶた韓』という業態へのシフトを始めています。『ぶた韓』では店内にK-popアイドルの映像を流すなどもしており、女性客が9割を占める店に変わり、売り上げは3倍に伸びています。

 

2019年5月に立ち食い焼肉の『治郎丸』、12月に和食バル『葵屋』をM&A Propertiesの仲介で取得したのは、そういった業態転換の一環でしょうか?

 

 

これから居酒屋だけで伸ばしていくことは難しいとの判断があり、違う業態のポートフォリオを増やすという目的がありますが、それぞれ異なる経緯や目的もあります。

『治郎丸』は荻窪の直営店と5店舗を擁するFC本部事業を譲受しました。フランチャイズの新宿店が4坪で月商1,000万円、それ以外の店も5~6坪で600~700万円を売り上げており、立ち食い焼肉という業態は珍しい上に少人数でオペレーションを回せる点も魅力でした。我々で少し手直しして実績を上げてから、FCを主体に増店に取り組もうというシナリオで決めた案件です。15~20坪の物件はどこも欲しく、出物がない状況ですが、『治郎丸』の5~10坪であれば競合する会社が限られ、物件が取得しやすかったことにも背中を押されました。

 

 

『葵屋』は浦和店1店舗ですが、私の狙いは店というよりも『葵屋』を任されている人材の獲得にありました。オーナー会社は諸事情で店を売るわけですが、現場を任されている責任者は必死に頑張っていて、その彼は赤字の店を黒字転換させた実績を持っていたのです。そして、彼のゴールやビジョンを聞くと、「スタッフを幸せにしたい」と。彼は赤字の店を黒字にし、スタッフの給料を上げてイキイキさせることを第一に考えていました。そのため、実践できる力量の持ち主と判断したので、彼を買うつもりで店舗承継契約を結びました。

 

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M&Aはスタッフを成長させ、幸せにすること

M&Aについてのお考えをお聞かせください

私は20年前にカラオケ店の経営を始めて、そこそこ繁盛させることができました。最初は同業の先輩から赤字の店を無償で譲り受けることができたのですが、その店をどう立て直すかと考え、資金がなかったので自分たちでできることをやろうと、スタッフにその目的や意義を腹落ちさせながら他ではやっていないようなサービスに取り組んだのです。

 

若い人がよく歌う曲をリストアップしてお客さんにレコメンドしたり、お客さんの好みのタバコの銘柄を調べて用意したり。こうして月商200~300万円だった店を500~600万円まで伸ばすことができました。つまり、立地も業態も看板も変えず、モチベーションを高めることでスタッフの意識と行動を変え、再生させることができたのです。これが原点となり、外食産業の道に入りました。その後、同様の考え方でM&Aに取り組む中、複数店舗の一括の譲渡や株式譲渡、分割買収などいろいろなケースを経験していきました。しかし、基本的な考え方は一つです。譲渡する相手にとっては、かわいいスタッフを誰に託すのかが一番重要な問題でしょう。だからこそ私は、預かるスタッフに働く喜びを感じてもらい、成長させ、幸せにすることを第一に考えて引き受けることにしています。

 

―M&Aはそのための手段に過ぎないと。

 

そのとおりです。店が立ち行かなくなる理由は、オーナーの経営目的が希薄になることです。店を始めたらうまくいって、3店舗、4店舗と増やし、いい車にも乗れるようになって意識が現場から離れてしまう。あるいは、現場が答えを持っているにも関わらず、聞く耳を持たずに自分の考えを押し付ける。こうして、現場はモチベーションを落とし、それがお客さんにも伝わり、気が付いたら落ち込み始めた、というケースが非常に多いのです。

 

そんな現場に入り込んで、「1回死んだようなもの。もう1回、生まれ変わろう」と夢や目的を共有することから始めます。モチベーションを上げるために、現場に「ありがとう」を細かくたくさん伝える。自販機を10円にしたり、スタッフの誕生日会を開いたり、海外旅行に連れて行ったり。そして、成果を上げたスタッフは徹底的に褒めて評価する。人は感情で動きますから。こうして立て直すことが私の目的であり、M&Aの醍醐味であるということです。

では、譲渡を受ける基準についても教えて下さい

 

いい会社で繁盛している物件は価格が高く、買ってもさらに価値を高めるのは難しいので買いません。前述のような理由で落ち込んでいる物件が対象で、諸条件を見て自分が欲しいと思うかどうかで候補にします。その上で、社内の事業部長に人材や食材などの調達など現実的な実行可能性を確認するとともに、投資回収性を分析して決断します。よほど簡単に再生できると踏んだ場合は自分だけで決めてしまいますが。

 

―簡単ではない場合は、決断に現場を巻き込むわけですね。

 

現場責任者にも決意してほしいからです。それで成果を出したら、手柄を全面的に与える。逆にいい加減にやったら「お前がやると言ったから買ったんだ!」とプレッシャーをかけるためです(笑)

 

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M&A Propertiesは単なる仲介業者じゃなくてサポーター

 

5~6年前の前職時代に共通の知人を介して出店を手伝ってもらい、その時に馬が合いそうというか、相談しやすそうに感じて「いい案件があったら持ってきてください」とお願いしました。それ以来、私や会社の考え方や価値観を理解し、会社の成長を考えた案件を選んで持ち込んでくれています。時にはブレーキもかけてくれますし。

単なるFA(Financial Advisor)ではない、サポーターという感じですね。馬が合うので、代表の中村さんともしょっちゅう飲みに行ってますし、その場でいろいろな情報交換もしていますよ。私も価値観が合う同業者と毎晩のように飲んで情報交換していますから。

 

M&A Propertiesは、どんな企業におすすめですか?

 

M&Aのコンサルと聞くと敷居が高いように感じるかもしれませんが、グループでは人材紹介サービスや店舗物件の仲介サービスも手がけているので、いきなりM&Aでなく「スタッフがなかなか集まらない」「いい店舗物件が見つからない」「資金が足りない」といった相談を気軽に持ち込める会社です。まずはそんな相談から付き合い始めて、いろいろ情報をもらうといいのではないでしょうか。

 

―ありがとうございました。