民事再生手続きをするメリット
会社の倒産手続きには、民事再生の他にもいくつかの手法があります。それらとの違いを明らかにするためにも、まずは民事再生を選択する主なメリットを確認していきます。
メリット1.債務を減らすことが可能
民事再生は、企業や債権者などからの申し立てに従い、裁判所が民事再生法に則って手続き開始を判断するものです。
手続き開始が決定すると再生計画案が作成されます。その計画案が裁判所によって認可されると、事業を継続しながら会社再生が進められます。
再生計画の内容は債務の圧縮がメインですが、民事再生法には債務の減額に基準が設けられていません。つまり、再生計画によって、債務を大幅に圧縮できる可能性があるのです。
実際のところは、再生計画の認可を受けた企業の弁済率は様々のようです。再生手続き認可決定を受けた90社のうち、データが判明した32社の平均弁済率は約15%となっているようですが、100%弁済する企業もあれば、1%以下で済む企業も存在します。
さらに、この再生計画案は、債権者のおおむね過半数の同意を得ればほぼ認可されるのが一般的です。たとえ債権者全員が同意しなくても、債務を大幅に減らせる可能性があることも、民事再生の大きなメリットといえるでしょう。
また、弁済期間は最長10年となっているので、不渡りを回避するなど、会社の資金繰りに余裕を持たせた計画策定が可能です。
メリット2.経営権を放棄せず事業の持続が可能
会社を解散させずに再建を目指す手続きとしては、民事再生のほか、会社更生もあります。
会社更生を選択すると、現経営陣は全員退任することになります。もし経営陣が株主として株式を保有していたとしても、その権利を喪失することになり、経営に携わることができなくなります。
しかし、民事再生であれば現経営陣がそのまま経営に携わることができ、会社の再建に向けて再生計画を主導で進めることが可能です。
ただし、経営陣がそのまま残ったとしても、裁判所に選任された監督委員によって、業務を監督される可能性が高い点に注意が必要です。
監督委員は必要に応じて専任されると法律上は定められていますが、実際には、ほぼすべての案件で選任されるといわれます。監督委員によって経営陣が経営再建に不適当であると判断されれば、裁判所が指定する管財人へ経営権が引き継がれることになります。すると、再生手続きが打ち切られ、破産手続きに移行するケースもあります。
メリット3.民事再生申し立て前の債務弁済の禁止
民事再生の申し立てが行われると、一般的に、裁判所から弁済禁止の保全処分が出されます。
弁済禁止の保全処分とは、民事再生の申し立て前までに生じた債務の弁済を禁ずるものです。これにより、債務者である企業は、借入金の返済や買掛金の支払いなどができなくなります。この保全処分で手形の不渡りを回避できれば、資金繰りが改善し経営再建の大きな力となるでしょう。
一部の債務、例えば税金や公共料金、給与の支払いなどに関しては、この保全処分からは除外されるので注意して下さい。
他にも、申し立て時点で資金繰りがかなり悪化していると判断された場合、悪意ある借入金の申し出などから守るため、借財禁止の保全処分も発令されることがあります。
【要確認】民事再生手続き4つのデメリット
債務の削減や経営権の維持など民事再生には様々なメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。
この項目では、民事再生における4つのデメリットを紹介していきます。
デメリット1.一定額の資金が必要
民事再生を行うには、手続きに際して裁判所に予納金を納めることが法律で定められています。
予納金とは、監督委員や監督委員を補助する公認会計士などへの報酬や公告に充てられる費用で、その金額は会社の債務総額によって異なります。
具体的な予納金の金額は裁判所ごとに設定が違いますが、東京地方裁判所に申し立てを行った場合の金額は以下の通りです。
負債総額 | 予納金の金額 |
5,000万円未満 | 200万円 |
5,000万円~1億円未満 | 300万円 |
1億円~5億円未満 | 400万円 |
5億円~10億円未満 | 500万円 |
10億円~50億円未満 | 600万円 |
50億円~100億円未満 | 700万円 |
100億円~250億円未満 | 900万円 |
250億円~500億円未満 | 1,000万円 |
500億円~1,000億円未満 | 1,200万円 |
1,000億円以上 | 1,300万円 |
民事再生手続きには、他にも予約金とほぼ同額の弁護士費用が必要となるのが一般的です。資金繰りが苦しい中、多額の資金を用意しなければならないことは、民事再生における大きなデメリットであるといえます。
ただし、予約金の支払いが苦しい場合には、分割払いが認められるケースもあるので、裁判所に確認のうえ、積極的に活用すると良いでしょう。
デメリット2.社会的信用を失う可能性
民事再生を行うと、その事実が官報により公告されます。さらには帝国データバンクなどの信用調査会社にも倒産情報として登録されます。
民事再生は再建型の倒産処理手続きとはいえ、公に倒産手続きを開始したことが周囲に明らかとなれば、これまで築いてきた社会的な信用を失う恐れがあります。
信用情報に事故情報として登録をされるため、新たな借り入れや取引先との掛け取引が難しくなることも考えられます。
この場合、全ての取引が主に現金取引となるため、一定の手元資金を保有しておかなければなりません。予約金などでキャッシュフローに痛手を負ったところに、さらに経営上の困難が生じる可能性があることは、民事再生を選択するにあたってじゅうぶんに認識しておく必要があります。
※現金取引がメインとなっているため、ある程度の手元資金が必要なため、準備を忘れずにしましょう。
デメリット3.担保権実行の可能性
民事再生のメリットとして、申し立て前に発生していた債務の弁済禁止がありました。一方で、民事再生には、担保権の実行を止められないというデメリットがあります。
担保権とは、債務者が債務を弁済できない場合に備えて、債権者が債権を確実に回収できるように、債務者の財産に設定する権利のことです。抵当権や連帯保証などが該当します。
会社更生では、担保権を行使して債務者の資産を処分できないように規定されています。しかし、民事再生においては担保権についての制限が設けられていません。そのため、担保権者の意志によって強制的に自社ビルを競売に掛けられるなど、担保権の内容によっては事業の継続が難しくなることもあるのです。
このようなことにならないためには、債務弁済に関する協定を締結しておくなど、担保権者と事前に話し合っておくことが大切です。
デメリット4.強制的に破産となる可能性
民事再生は、開始手続きが決定して再生計画が認可されれば、会社の事業を続けながら再生計画が遂行されていきます。
しかし、「猶予された債務が弁済できなくなる」、「当初の再生計画の履行が難しくなる」、「そもそも再生計画自体が実現不能と判断される」などの場合は、強制的に破産手続きに移行します。他にも、v民事再生は開始決定後に撤回ができないため、撤回が破産手続きを意味することにもなるのです。
帝国データバンクの2019年度倒産集計によると、倒産件数8,354件のうち民事再生法を適用している企業は351件(4.2%)であり、実務上適用している企業は少なく、一方で破産件数は7,716件(92.4%)と、大多数は再建の道を模索せずに破産手続きに移行しています。
また、東京商工リサーチが公表している民事再生法が施行された2000年度から2015年度までの『「民事再生法」適用企業の追跡調査』によると、民事再生法を適用した7,341社のうち実際に再建に至った企業は2,136社(29.1%)に過ぎないという厳しい結果となっています。
民事再生手続きによって再建を果たした企業も存在はしますが、そのハードルは極めて高いといえるでしょう。
デメリット5.経営者個人の連帯保証は免除対象外
経営に必要な資金調達のために、経営者個人が銀行などの連帯保証人となるケースは珍しくありません。先述の通り、民事再生の申し立て前に生じた「会社」の債務は免除対象ですが、「個人」の債務は免除されません。
つまり、経営者個人が連帯保証人となっていれば、再建計画中もその債務を負い続ける必要があり、金額によっては経営再建の足かせとなるリスクもあるでしょう。
これらの経営者保証のデメリットに対応して、平成26年より「経営者保証に関するガイドライン」が運用されました。
以下の経営状況であれば、中小企業における経営者保証なしでの融資を認めるといった内容です。
(1)主債務者が中小企業であること。
(2)保証人が個人であり、主債務者である中小企業の経営者等であること。
(3)主債務者である中小企業と保証人であるその経営者等が、弁済に誠実で、債権者の請求に応じて負債の状況を含む財産状況等を適切に開示していること。
(4)主債務者と保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと。
引用:「中小企業や小規模事業者の方へご存じですか?「経営者保証」なしで融資を受けられる可能性があります」(政府広報オンライン)
新規融資だけでなく、過去の経営者保証の契約や、事業再生に伴う保証債務の整理手続きなども適用対象になります。
M&Aを活用した企業再生も考慮する
これまで、民事再生による会社の自力再建について、メリットとデメリットの二面があることを紹介してきました。
大きなメリットとして「債務の削減」や「経営権の維持」があげられますが、実行することによるリスクも多いため、別の手段で会社の再建を検討する経営者も多いのです。それが、M&Aによる第三者(スポンサー)からの支援を元にした事業再生法です。
例えば、M&Aによって会社の経営を圧迫していた不採算事業の売却を行うと、採算事業に資本や人員を集中させ、事業再建への体制を整えることができます。資金力のある企業にスポンサーとして資金提供を受けることで、財務状況の安定化を図ることもできるでしょう。
民事再生におけるM&Aにはスポンサー型やプレパッケージ型が存在します。詳しくはこちらの記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
M&Aによる事業再生の基本的な流れは、以下になります。
②対象企業の検索、選定
③M&A交渉
④契約
⑤統合実行
M&Aにおいては、事業再建の適切な手法を選定することはもちろん、自社の事業を任せられ、なおかつ資金力を持つ、信頼のおけるスポンサーを見つけることが何より重要です。
しかし、自力でそのようなスポンサーを探して交渉し、契約まで漕ぎつけるのはなかなか難しいものです。また実際にM&Aを実行するには、専門的な知識も必要となります。そのため、M&Aを検討するなら、知識や経験が豊富な専門家の力を借りることをおすすめします。
M&Aによる会社の再建をお考えでしたら、M&A Propertiesに相談してください。M&A Propertiesは、4万社のグループ顧客ネットワークを用いた情報集とコンタクト能力があり、M&A取り扱い総額450億円の実績があります。
規模が小さな案件や赤字で経営が困難な飲食店など、難易度の高い案件も豊富に扱っているため、的確な再建戦略を提案します。M&Aに関する相談や戦略立案に無料で対応しているので、興味のある方はぜひ相談してみて下さい。
まとめ
今回は民事再生のメリットとデメリットを紹介してきました。民事再生は、経営再建を目的とした倒産処理手続きですが、メリットとデメリットがあり、手続きの実行を経営者個人で判断するのは難しいでしょう。
適切な判断を下すためにも、弁護士や税理士といった専門家をはじめとする有識者に相談をすることをおすすめします。
また、企業の経営再建には民事再生以外にも、会社更生やM&Aといった手段があります。それらも加味して、総合的に検討しましょう。