青色申告書 ( 損益計算書 ) は税務署への納税用、金融機関への融資用資料として使われます。ところで青色申告書には事業主の意思が反映されることがあり作り方次第で、納税額を少なくできるかわりに、融資が借りにくくなる資料となってしまうことがあります。
そこで元銀行員の筆者が、どのような青色申告書が融資を受けるうえで望ましいか、金融マンが融資判断には青色申告書のどこを主に見て判断しているか、など重要ポイントを中心に解説します。
まずは青色申告書 ( 損益計算書 ) についてです。
決算書はその事業の1年間の成績表
事業を1月1日より12月31日までの1年間として区切りを付けて、その売上高や利益、資産の状況がどのような状態にあるのかをまとめた書類のことを決算書と言います。これらの書類のうち売上高、経費、利益の割合をまとめたものを確定申告書(または損益計算書)、その事業に関する資産・負債・資本の状況をまとめたものを貸借対照表と呼んでいますが、これらは翌年2月から3月にかけて税務署に対して行われる確定申告(納税)のための基礎資料となります。
ただし飲食店の個人事業主が確定申告で必要なのは単式簿記のルールに基づいて作られた損益計算書のみなので、以下では青色申告書 ( 損益計算書 ) 沿って融資の面から重要ポイントを説明します。
重要ポイント① 確定申告書の売上高・利益の方向性
まず確定申告書の現物を見てください。(出典:税務署HP)
所得税青色申告決算書と呼ばれるこの書類は、その事業の1年間の総売上高、売上原価 ( 総仕入高 ) 、総経費、利益の内訳を示したものです。
銀行では融資判断においては、通常3期、最低でも2期の確定申告書の提出を求めます。その意味は売上や利益の変化を判断するためです。もちろん売上、利益とも上昇傾向であるか、売上が横這いでも利益が増えていることが理想的ですが、売上や利益が下がっていても事業主が原因を把握できていて、それが短期で解消できる見込みを事業主が持っていれば銀行も前向きに判断します。
このように決算書の数字が良化しているか、逆に悪化しているのかを見るのが融資判断の重要ポイントになります。
重要ポイント② 確定申告書・祖利益の変化
売上高から売上原価 ( 仕入高 ) を控除した粗利益の変化も要チェックです。例えば2期の決算書を見比べて最終利益がトントンか少額黒字なのに、祖利益が率で何十パーセントも違っていることがあります。安定した経営をやっていれば普通はこんなことは起こりません。
銀行員がこういう数字を見つけると、事業主が納税をしたくないため、売上や仕入の数字の操作 ( 粉飾 ) したことを疑います。判明したら融資は否決されます。またこの手のネガティブ情報は業界にすぐに広がりますから、どの金融機関に申し込んでも結果は同じになります。できればこういう行為は慎んでください。真面目に納税するほうが金融機関からは遥かに信頼されます。
重要ポイント③ 返済財源の確保
その融資が長期資金だった場合、運転資金であれ設備資金であれ、きちんと毎月返済財源から返済されなければなりません。
ここで返済財源とは青色申告決算書では売上から仕入・経費を控除して、各種引当金を加減調整した後に残った「所得金額」に経費項目のうち「減価償却費」を加えたものになります。
つまり 返済財源 = 所得金額 ( 税引後当期利益 ) + 減価償却費※ という計算式になります。
( ※減価償却費は下記で説明します。)
返済財源 > 年間返済額の状態であれば返済は良好と言えますが、逆の場合は要注意です。返済財源 < 年間返済額の状態が続くと、やがて慢性的な資金不足の状態になって、追加融資が必要になり、借入ができなければいずれ事業そのものが続けられなくなります。借入については、返済財源の確保ができているかどうか、極めて重要なポイントです。
減価償却について
減価償却費の記載事例です。(出典:税務署HP)
事業では年度を超えて何年にも渡り使用する機械や什器、備品などがあります。飲食店で言えば厨房設備やパソコン、営業用車両などがそれに当たります。
これらは価値が一度に摩耗することがなく数年にわたって低下していくので、開業前に一度にお金を払って手に入れたとしても、経費として計上する場合、数年で費用化していたほうが合理的です。この考え方に基づいて費用化を行うのが「減価償却」という方法です。
減価償却の計算方法には「定額法」と「定率法」があり、定額法は当初その備品を手に入れた調達費を毎年一定額ずつ経費として計上していく方法、定率法は最初に比較的大きく費用として計上し、段々その費用の額を小さくしていく方法です。
さらに減価償却の計算ルールとして「法定耐用年数」と「償却率」があります。「法定耐用年数」とは償却対象となる資産を何年で計上できるか定めたものであり、「償却率」とはその資産を耐用年数ごとに1年間あたり、いくらまで経費として計上できるか、その割合を示したものです。
減価償却費が返済財源になる理由
所得は収入から経費を引いて出しますが、すでにこの経費の中には減価償却費が含まれています。ところがこの減価償却費の対象となる資産については購入時に一括で支払われているので、減価償却費が経費として計上されている年度には実際は支払は行われません。あくまで法定耐用年数や償却率を使って経費として帳簿に載せているだけで実際の現金の支払が伴わない経費なのです。
そのため「支払ったという前提で計算されて所得金額 ( 税引後利益 ) 」が計算されているので、後で再度減価償却費を足す必要があります。これが返済財源として所得金額 ( 税引後利益 ) に減価償却費を加える理由です。
まとめ
このように金融マンが青色申告書 ( 損益計算書 ) を使って融資の判断をするときには、決算書数字の方向性、祖利益の変化や、必要な返済財源が当面確保できているかどうかが重要なチェックポイントになります。
飲食店の個人事業主も金融機関から融資を受けるときには、決算書のどの点を金融マンが重視しているか、十分理解したうえで融資条件の交渉にあたってもらいたいと思います。