個人事業主は青色申告制度という税金や取扱いの面で色々な特典が得られる制度が利用できます。制度を利用するには事業に関する帳簿を正確に記入し整理保管すること、および事前に税務署に届けを出して認められる必要があります。
一方この制度は自分の都合で中止したり税務署から認可を取り消された場合は、再度開始するにはその起算日から最低1年を待たなければなりません。それらを理解したうえで個人事業主にメリットの多いこの青色申告制度、そのメリットの中から特に役立つものを取り上げて解説します。
青色申告特別控除
青色申告制度で最も効果的なメリットと言えばこの青色申告特別控除です。青色申告を税務署に認められるためには二通りの方法があって
①複式簿記で貸借対照表・損益計算書を作り青色申告書に添付する
②単式簿記で損益計算書を作り青色申告書に添付すること
のどちらかです。
また青色申告特別控除の点から認められる控除額は ①では65万円 ②では10万円 となっておりその差はかなり大きいです。具体的に例を挙げると、最も課税総所得額で対象者の多い330万円~695万円の所得層は税率が20%ですが、青色申告特別控除65万円の場合では65万円×20%=13万円と節税ができる計算になります。②のケースでも節税にならないわけではありませんが、やはりできることなら①の複式簿記による経理作業を行いより大きなメリットを受けてもらいたいと考えます。
また損益計算書だけでなく貸借対照表を作ることで経営はより透明化するので、事業が厳しくなった場合の原因を探るための対策にも役立ちます。
青色事業専従者給与
飲食店事業ではその事業主の配偶者や後継者などが従業員とともに仕事を手伝うことも多いと思いますが、所得税法ではその家族に対して仮に給与を支払っていても経費と認めておりません。しかし青色申告制度の下ではこの家族に払った給与も従業員同様経費として認めてもらえる特典があります。
手続きとしては税務署に対し、事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を出して認可をもらう必要があります。また認められるためには以下の条件をその家族が満たしておかねばなりません。
①その人が事業主と生計を一にする親族であること
②その年度末12月31日現在で15歳以上であること
③その年度で対象者が6ケ月以上事業に従事していること
また一度この青色事業専従者給与の適用を受けると、所得控除の項目である配偶者控除(38万円)や扶養控除(38万円~63万円)の適用が受けられません。ただ一般的には青色事業専従者給与の適用を受けるほうが給与全額を控除できるのでメリットが大きいと言えます。
家事関連費を経費処理
個人事業主が飲食店経営を行う場合、事業用なのか個人用なのか境界があいまいなものがたくさんあります。例えば一つの建物を店舗兼自宅として利用していれば、建物の減価償却費の取扱いや火災保険料、固定資産税、電気代、電話代、水道料などがありますし、あるいは車を営業用と個人用に併用している場合もそうです。これらは一般的に家事関連費と呼ばれています。
家事関連費では、その事業主が青色申告制度を利用していれば、事業用として認められる部分については経費として落とすことができます。
ただこの場合、どの程度まで事業用とするかは個人事業主の裁量に依るところが大きいので、積極的に関わっていかないと税務署はそのままでは経費として認めてくれることはありません。
そのためには毎日しっかり家事関連費を振り分けして、経費処理の根拠となる領収書・請求書の類は整理保管して、来るべき確定申告の日に備えねばなりません。せっかく制度として認めてくれているので前向きに活用すべきと思います。
決算の純損失を繰越しまたは繰戻し可
青色申告制度の特典のひとつがこの損失を繰越しできる点です。事業にはいつもいい時ばかりでなく努力しても赤字になってしまう時もあります。もちろんその年度で決算が赤字になれば当然税金は払わなくていいのですが、青色申告制度ではさらにその赤字を3年間繰り越しできる特典があります。
また申告所得には損益通算という制度もあり、例えばその個人事業者が不動産業など他の事業もやっていてその所得が黒字だった場合、もし同年度の事業所得が赤字ならば両事業の所得を合算することができるのが損益通算です。
その損益通算の結果、それでも赤字が残った場合、青色申告制度の下では3年間赤字が繰り越せます。翌年度決算が黒字で前年度赤字と合計してもまだ赤字なら、その赤字は再び繰越しができるのです。税務署に対する手続きとしては確定申告時に「損失申告書」を出す必要があります。また繰越しを継続している間に決算が再び黒字に転換すれば改めて通常の「確定申告書」を出すようになります。
決算に関して青色申告制度のもう一つの特典が損失の繰戻し還付です。たとえば赤字になった前年度の決算が黒字だったと仮定しましょう。もちろん前年度決算も青色申告制度の下での処理です。決算が黒字でしたから当然所得税が支払われています。
この場合、もし翌年度の決算が赤字であれば「損失申告書」と一緒に「還付請求書」を出せば前年度に払った税金が戻ってくるのが損失の繰戻し還付です。ただしその戻ってくる税金の上限額は前年度に納めた所得税額となります。
このメリットをうまく活かして税金を戻してもらえれば、決算で赤字が出て資金繰りも厳しくなっている先は多少なりとも資金繰りの改善に役立ちます。
減価償却の特例が利用できる
事業では多くの備品が必要になります。飲食店だと看板や厨房設備、冷暖房設備、椅子机などです。これらの備品は固定資産として長年にわたって使えるので減価償却の対象となります。
減価償却というのはその備品の取得費を法定耐用年数で割って数年に渡って費用化していく処理のことを言います。通常備品の場合は取得費が10万円以上なら減価償却の対象となります。
ただし個人事業主が青色申告制度の適用を受けていると特典があって、その備品の取得費が10万円以上30万円以下の場合、その年度に一括して経費に計上でき、結果として大きく節税をすることができます。ただし備品についてはその取得年月が平成28年3月31日までのもの、総取得価額が300万円以内に限定されています。
※減価償却の概要(参照元:国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2100.htm
またこの特例とは別に通常の減価償却も選ぶことができますので、個人事業主は自分の事業の状況・決算の見込み等を勘案しながら経営にプラスになる償却方法を選んでいけばいいと思います。
※この特別償却は法律で期限を切って定められています。経緯を国税庁のHPでチェックすると前回は備品の取得期限は平成24年3月31日が期限となっていました。つまり現在は4年間延長されています。筆者の推定ですが、おそらくこの現行の期限も近いうちにさらに延長されるものと考えています。