飲食店にかぎらず、事業をしている経営者ならいつも資金のことが頭から離れないと思います。売上代金や仕入代金、従業員給与や税金の支払、機械を購入する費用等、全部お金に関わってきます。お金が手元に十分あるなら特に気にする必要もないですがそのような恵まれた経営者ばかりではありません。何らかの形で金融機関から融資を受けているはずです。そのお金があるからこそ事業主は安心して経営を続けられます。
ところで融資を受けていてふと思うことはありませんか。自分の事業では銀行はいくらまでならお金を貸してくれるのかと。もちろん青天井なはずはなくどこかで限界があるはずです。銀行がどこまで自分にお金を貸してくれるのか、またその限界はどこにあるのか、限界が来る前に事業主はどんな対策を立てたらいいのか、それらの疑問に答えたいと思います。
短期資金・長期資金
経営者はまず資金の性格というものを理解して頂きたいです。
資金にはふたつのタイプがあります。短期資金と長期資金です。銀行ではこの違いを融資の返済期間で分けています。その期間とは1年です。
1年以内に返済が行われる資金を短期資金、1年以上を超えて返済が行われるものを長期資金と分類しています。
短期資金を借りる時、事業主はその返済財源を明確にしておかねばなりません。当たり前のことですが、返済の目途が立たないような融資を銀行はしたくありません。それに対し長期資金は1年以上の融資になりますので返済は分割が基本です。そのため返済財源は事業から上がる利益になります。利益が上がらないと段々資金繰りが悪化して銀行の返済もできなくなります。そのため事業主は長期資金を借りている場合、常に銀行への返済額を上回る利益を上げ続ける努力が求められます。
また融資金を別の視点から見ると、運転資金と設備資金に分けられます。運転資金はさらに細かく分類すると短期運転資金と長期運転資金に分けられます。
借りたい資金のタイプを明確化させておく
なぜ銀行に融資を申し込む前に資金の性格を事業主にもしっかり把握してもらいたいかというと、この資金の性格をあまり理解しないまま銀行に融資の申し込みに行く事業主がかなり多いからです。
資金の性格を曖昧なまま融資を借りようとすると、銀行が資金使途について事業主に質問しても明確に答えられないので、銀行がまずその事業主の融資を借りる姿勢に疑問を感じて融資が慎重になってしまいます。さらに銀行が融資をしても当然返済財源も事業主の頭の中で曖昧なままなので、計画的な返済ができません。どんぶり勘定のような経営になってしまいます。そんな先には銀行だって融資したくないのは当たり前の話です。
繰り返しになりますが、事業主は融資を申し込む前にまずその融資が短期資金なのか長期資金なのか、また運転資金になるのか設備資金になるのか、そしてどの返済財源で返済するのか、そこまできちんと詰めてから融資を銀行に申し込む必要があります。
次にそれを理解してもらった上で、運転資金と設備資金に分けてどのように銀行は必要な貸出額を決定するか解説します。
運転資金と貸出額
銀行が事業主から運転資金の申し込みを受けたと仮定します。
この場合、運転資金の算出の基準とするのはその事業の月商です。月商とは年間売上高を12ケ月で割ると計算できます。
一般的に多くの事業は1ケ月単位で売上を回収し仕入先への支払や従業員の給与支払等を行いますので運転資金は月商分に相当する金額だけ準備しておけばいいと考えます。ただ事業というのは絵に描いたようにはうまく進まずそれぞれの業種ごとの慣習で売上の回収や仕入の支払等が数か月先になることも多く、結局自社での立て替え分が発生することになります。そして手元に資金がなければその不足分を銀行に依頼して融資を受けねばなりません。
銀行としても運転資金が事業主から申し込まれれば、一般的に月商3ケ月程度を上限とする融資を検討することになります。
また銀行としてはその事業主の信用度が低いと約束手形による貸付で返済期間3ケ月程度の融資を行い、事業主の事業が安定して利益も出て信用度が高いとか、あるいは融資額に見合った担保が確保できていれば1年を超えて返済期間3~7年程度の証書貸付による長期運転資金を実行します。
設備資金と貸出額
設備資金の場合は投資する目的物が明確になっているので申し込みする融資額も明らかです。ただ申し込みしたから必要金額全額が銀行で認可されるとは言えません。設備資金の場合、返済は長期になるし事業利益から返済されるので、銀行としても設備が事業に導入されて以降も安定した利益が見込めるかどうか十分検討しなければなりません。
さらに融資金額が大きくかつ返済期間が長期となると、銀行も融資リスクを減らすため担保や信用保証協会の保証を必要としてきます。当然それらの有無で融資額が制限されることもあれば、そもそも事業規模に対し投資する設備の額が過大だと銀行に判断されたら融資が断られる、あるいは減額される可能性もあります。
事業主が資金を借りやすくする方法
これまで説明してきたように融資金額の決定には様々な要因が絡むので「これで決まる」という定石みたいなものはありません。しかし貸出金額はその事業の月商、資金使途、返済財源、返済期間、担保の有無などの組み合わせで一定額が決まってくることは理解いただけたと思います。ただ必要な融資が出ないと最後に困るのは事業主です。そのため事業主自身も可能な限り多くの融資額が引き出せるように常日頃から融資を受けやすくするための準備はしておいた方が良いと考えます。その点について最後に説明します。
①財務内容の良化
当然のことですが決算書が赤字では融資は受けられません。よほど資産価値の高い担保でもないと赤字の決算書を出されて融資に前向きになる銀行は皆無です。そのためにもしっかり事業を経営して利益を出して決算書の財務内容を良くするよう頑張って下さい。これが融資額を増やす第一歩です。
②担保の準備
最近の傾向として、金融庁は銀行に対し従来の担保・保証人頼りの融資姿勢から事業内容や企業の将来性に基づく融資姿勢への転換を強く求めるようになっていますが、著者はそんなに簡単に融資姿勢が変わるとも思えません。特に地銀・信金含む地域金融機関ではまだまだ融資判断において土地を中心とする担保に頼る姿勢は変わらないと考えています。
そのためもし事業主が資産価値の高い担保物件を持っているなら必要な融資額を確保するためにもぜひ融資に活用して下さい。担保の有効活用の事例をひとつ取り上げます。
仮に事業主が20百万円の価値の土地を持っていて当面10百万円しか運転資金に必要ないのなら、銀行に対し20百万円担保として設定して10百万円を長期運転資金で融資してもらいます。そして残りの10百万円の担保設定分を利用して事業者カードローンのような極度額融資で10百万円枠を作ってもらいます。そうすれば事業主がいつでも資金が必要な時に反復して利用できるようになります。担保をうまく使った短期資金枠と長期資金の組み合わせ例です。
③金融機関の複数取引
銀行は無理に1行取引である必要はありません。著者は最低でも2行取引は必要と考えています。
複数取引のメリットは銀行間で融資競争してくれることでより良い融資条件が引き出せることです。一方1行取引のデメリットは当初銀行が協力的でもいずれ融資に限界が来ることです。銀行は貸出リスク回避の意味からも1社に対し必要以上に大きな融資をしたくありません。
しかし事業主としては時には店舗展開など成長のために規模・体力以上の融資を必要とするときもあります。そのような時に役立つのが他行取引です。メインの銀行とはまた違った視点で御社の融資を検討してくれるでしょう。他行から融資が引き出せればそれは事業主にとって1行取引では無理だった融資総額が増えたことを意味します。このメリットを複数取引で十分活かして欲しいと思います。