メインバンクの選び方
個人事業主やまだ法人化して間がない会社の代表者があらたに飲食店を始めるとき、開業資金を借りるにはどの金融機関を選んだらいいのでしょうか。
日本には都銀を始め実に多くの金融機関があります。その中から自分に合ったメインバンクを決めるのは事業の素人である新規事業者にはなかなか難しいかもしれません。そこで地方銀行に勤務し多くの新規開業者の融資にも関わってきた筆者がどのようにメインバンクを選ぶべきか、解説したいと思います。
金融機関の種類
融資を受けられる金融機関には大きく都銀・地銀・信金信組・JAバンク等があります。それぞれの特色をまず説明します。
都銀は三菱東京UFJ銀行を筆頭に4行あります。首都圏や関西圏を中心に店舗展開しており、取引先の多くは大手企業です。新規開業者が取引が絶対できないという金融機関ではありませんが、都市銀行の行員自体の目が大企業に向いているので、どうしても小規模事業者には対応がおざなりになり、それほどていねいな扱いをしてくれません。
地方銀行は大雑把に分類して、その地域で古くから根を下ろして営業している地銀と相互銀行から業態転換して地銀になった第2地銀があります。筆者はその地銀出身ですが、現在は地銀も第2地銀も大きな差はありません。取引先も地元の大手企業から小規模・零細事業者、個人まで幅広くあり、常にこの地銀・第2地銀は顧客の獲得競争をやっています。顧客と銀行担当者との結びつきも都銀と比べると一段と強くなるので、融資を利用する人も何かと銀行に相談しやすい状況になります。
信用金庫・信用組合になると、その営業地域がより狭くなるのでさらに顧客と担当者との結びつきは強くなります。このレベルになると、金融機関と付き合うというより担当者と膝を突き合わせて融資相談を行うというイメージになってきます。これが地銀レベルではひとり当たりの担当する取引先数も多くなり、すべての顧客に均等に接するということは難しくなります。
最後にJAバンクですが、これは結論を先に書くと飲食店開業者には不向きな金融機関と言えます。取り扱っているローンも住宅ローンや車ローンなど個人ローンが多く、事業性でも農業就業予定者など農業に関係した資金のみの融資なので、最初から外しておいたほうがいいです。
飲食店の開業者がまず付き合うべき金融機関はどこがいいか
売上実績を持たない新規開業予定者が将来の融資を前提に付き合う金融機関はズバリ、信金・信組あるいは第2地銀です。もちろん地銀でも規模が小さい銀行なら小回りが利きやすくなりその候補です。理由は彼らの視線が顧客目線に近いからです。
金融機関というのは現金なもので、その事業が軌道に乗り、周りから見ても繁盛しているのが見えるようになると、勝手に相手のほうから低金利の融資を武器に近づいてくるものです。ある程度事業が軌道に乗れば、運転資金が必要になることは誰でも分かるので、大手地銀等も担当者がおっとり刀で訪問してくるようになります。しかし開業時はその事業の方向がまだ定まらず、倒産リスクに敏感でかつ保守的な地銀は融資の売込に積極的でありません。
その場合、頼りになるのがやはり「地域密着」を看板にしている信金・信組あるいは第2地銀だと考えます。むしろこれらの金融機関はその対象者に積極的に開業時から関わっていかないと、事業が軌道に乗ってから融資相談に応じていては遅いのです。地銀と同じ対応をしていると、低金利融資で地銀にあっさりと取引を横取りされてしまうので、開業リスクも飲み込んで最初から積極的に関わることが必要なのです。これらの金融機関をメインバンクにすれば多少の無理は承知で頑張ってくれます。
メインバンクとの付き合い方
仮にメインバンクが信金・信組・第2地銀に決まったとします。近い将来開業資金を借りるためにはそれなりの付き合い方が必要です。何よりまだ売上実績も何もないのですから、まず個人としての信用を築く必要があります。
最も基本的な付き合い方は、個人の取引をメインバンクに集中させることです。難しい話ではありません。まずは普通預金を開設して、自分や家族の預金をすること、電話や電気等の公共料金引き落としにその口座を使うこと、そして時々は自宅を訪問してくるその金融機関の担当者の預金などのノルマに小額からでも付き合ってあげることです。
そうすることで金融機関に取引実績を作りつつ、同時に担当者をいざという時の味方につけることができるようになります。それが信用の構築ということです。
それには多少の時間が必要です。コツコツと積み重ねた取引はいざという融資を受けるときの強い味方になります。ぜひ、日ごろの付き合いを大事にしてください。
メインバンクの重要性
メインバンクの決め方には他に、その金融機関の支店が自宅または開業予定の店舗の近くにあるかという点も重要です。売上金を毎日入金するためには、やはり自宅や店舗の近くにメインバンクの支店があるほうが便利です。さらに仕事が忙しくて入金に行けないとき、担当者に集金をお願いすることもできます。
地銀などではすでに担当者の定例集金を銀行方針で禁止しているところが多いので、やはりこれらのサービスの期待が持てるのは信金・信組・第2地銀です。
さらに金融機関にかかわらず最初の融資はほぼ保証協会付き融資となります。新規開業資金は実績がないだけに審査に余計に時間がかかります。そういう時、頼りになるのがやはりその金融機関の担当者です。まじめで誠意ある担当者なら、真剣にその融資案件にかかわってくれることになるでしょう。さらに協会付き融資が受けられたら、協調融資としてその金融機関のプロパー融資を受けられる可能性もあります。それは小さい金融機関ならではの対応です。
そしてメインバンクから資金が借れて、事業も軌道に乗り他の金融機関から融資の提案が得られるようになってから初めてサブバンクの検討を始めても遅くはありません。ただしこの場合、地銀が低金利で融資を勧めたからと言って簡単に乗ってはいけません。それはメインバンクの顔をつぶし事業が厳しくなった時、追記融資が受けられなくなることにもつながります。まずは当面、きちんとメインバンクとの付き合いを継続することが、事業をきちんと軌道に乗せる近道だということをしっかり自覚する必要があります。