産業雇用安定助成金とは?申請方法や受給までのフローまとめ

コロナ禍による経済の低迷が終わりを見せない中、売上が下がり事業経営は厳しいものの、従業員の雇用を維持し、収束以降に備えたいという経営者もいることでしょう。 この度厚生労働省が創設した「産業雇用安定助成金」がそれを可能にしてくれるかもしれません。


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他社と従業員をシェア?コロナ禍で広がる雇用シェア

コロナ禍で事業縮小を余儀なくされた企業があれば、一方で人出が足りない業界・業種業種があります。そこで従業員(マンパワー)のシェアという発想が生まれ、既に民間では実施例も多く認められています。

航空業界社員の他社への在籍出向が話題

一例として、日本航空と福岡県宗像市の共同プロジェクトを紹介しましょう。

航空業界はコロナの影響を最も強く受けた業界のひとつですが、福岡空港は国内線が大幅に減便、国際線に至ってはゼロとなり、日本航空社員のマンパワーに大きく余力が生じました。

ここに地元宗像市から地域の課題解決のための力を貸してほしいと申し出があり、共同チームが作られ、これまでに様々なプロジェクトを行っているのです。

中でもユニークなのは人員確保に苦労してきた宗像大社などの巫女を福岡空港で勤務する日本航空グループのグランドスタッフが務めたというもの。高い接客スキルを巫女として派遣することで大社側は人材不足の解消を、日本航空側は巫女としての心構えや独特の言葉遣い、所作等を学ぶことで接客スキルの向上が得られるというWin-Winの効果が生じました。

このほかにも、物流を手掛けるASKUL LOGIST株式会社(アスクル株式会社子会社)が、航空機地上支援業務を行っているスイスポートジャパン株式会社の従業員を出向者として受け入れる取り組みを始めています。

国でも雇用シェア(在籍型出向制度)を推進している

このような日本航空と宗像市やアスクルとスイスポートジャパンのように、他企業の従業員を期限付きで受け入れる仕組み「雇用シェア(在籍型出向制度)」と呼ばれています。

コロナ禍で難しくなっている雇用維持を可能にする有効な方法として、政府もこの制度を推進しようとしています。

在籍型出向は労働者派遣等と異なる

では、労働者派遣と在籍型出向はどんな点が異なるのでしょうか。

一言でいうと、「他の企業で働く労働者がどこと労働契約をしているか」という点に違いがあります。

労働者派遣では、労働者と労働契約を結んでいるのはあくまでも派遣元事業主(企業)で、派遣先事業主(企業)と労働者は指揮命令関係があるに過ぎません。事業主同士が結ぶ契約は「労働者派遣契約」となります。

一方、在籍型出向では、労働者と出向元事業主(企業)はもちろん、労働者と出向先事業主(企業)間にも労働契約が結ばれます。また、事業主同士が結ぶ契約は「出向契約」となります。

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産業雇用安定助成金とは

政府は在籍型出向制度の後押しをするための具体的な政策として、「産業雇用安定助成金」を創設しました。

これは、コロナの影響で一時的な経営縮小が必要な事業者が従業員をほかの事業者に出向させることで雇用を維持する場合、出向元と出向先の両方の事業者に運営経費を助成するというものです。

この制度は、2020年末の閣議で令和2年度の第三次補正予算案に盛り込まれました。すでに厚生労働省から、雇用維持に取り組む事業主に向けた「産業雇用安定助成金ガイドブック(以下「本助成金」とします)」も出ています。

なお、本助成金制度は出向開始日が2021年1月1日以降の出向運営経費及び出向初期経費が対象となります。

詳しくは厚生労働省発表の「産業雇用安定助成金ガイドブック」をご参照ください。

雇用調整目的の在籍出向が対象

本助成金の対象となるのは単なる出向ではなく、あくまでも事業主が従業員の雇用の維持を目的に行う出向となります。

また、特例措置である現在の雇用調整助成金に代わるものと位置付けられているとおり、当然ながらコロナ禍による事業縮小を原因とする出向でなくてはなりません。

出向元・出向先双方が対象

本助成金は労働者(雇用保険被保険者)を雇用調整目的として送り出す事業主(出向元)と当該労働者を受け入れる事業主(出向先)の双方を対象とすることで、在籍型出向制度の促進を促します。

気になる助成率・助成額はいくら?

本助成金により実際いくら助成されるのかは双方の事業主にとって最も気になるところでしょう。現在のところ双方の事業主が負担する賃金などの出向運営経費、出向契約整備や労働者受け入れのため用意する備品などの初期運営経費の一部が助成されます。

出向運営経費の助成率は、中小企業かつ労働者の解雇を行っていない出向元の場合が最も高い9/10となっており、上限額は1日12,000円となっています。

助成対象の経費

出向開始日が2021年1月1日以降であれば、開始日以降の出向運営経費・初期運営経費が助成対象となります。

出向が1月1日以前に開始されていた場合には、1月以降の出向運営経費のみが対象です。

受給フロー

①出向予定者の同意を得た上で、双方の事業主が出向期間や出向者の賃金の負担割合などを取り決めた契約を交わす。

②双方の事業主が共同事業主となって出向計画届を作成し、ハローワークに提出する。

③出向実施後、本助成金支給申請書を作成し、ハローワークに提出する。

④支給決定・助成金受給
※②③の申請手続きは出向元が行ないます。

助成額のイメージ

たとえば出向者の賃金の日額が10,000円で、その負担割合が出向元:出向先で4:6だった場合、出向元が労働者の解雇をしていない中小企業であれば助成率は9/10となるため、助成金は以下のように計算できます。

出向元:10,000×0.4×0.9=3,600円
出向先:10,000×0.6×0.9=5,400円

それぞれの事業者の負担額は、出向元で1日400円、出向先で1日600円となります。

上記の例では、出向元と出向先が4:6で負担するようにしてますが、実際の事例では出向先が大部分を負担するケースが多いようです。

とはいえ、この助成金を活用することで、例えば月給20万の労働者を実質2万円で雇用できることになりますので、出向先が全額負担したとしても、負担になるような金額にはなりません。それよりも、一時的であるものの(最長2年間)、優秀な労働力を1/10の負担で活用できることは非常にメリットがありますね。

そのため、コロナ禍でも採用を増やしている企業であれば、在籍出向での受け入れを検討した方が良いでしょう。

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公的機関であれば産業雇用安定センター

本助成金を活用したい事業者が気になるのは、従業員を出向者として受け入れてくれる事業者がうまく見つかるか、もしくは従業員を出向者として輩出してくれる事業者がうまく見つかるかということでしょう。

もちろん身近でそのような事業者がいればそれに越したことはありませんが、申し出や思いあたりがない場合は公益財団法人産業雇用安定センターが行っている在籍出向のマッチング支援を利用することができます。

マッチングの方法

産業雇用安定センターでは、労働組合やハローワーク、地方自治体などと連携しています。

コロナ禍で雇用維持が難しい送出ニーズの高い業界団体と、逆にコロナにより人手不足となっている受入ニーズの高い業界団体双方から出向に関する情報を集め、業種はじめ様々な要素から在籍出向をマッチングしています。

また、委託訓練やガイダンスの実施なども手配しています。

問い合わせ先

各都道府県の県庁所在地に産業雇用安定センターの事務所があり、相談を受け付けています。

産業雇用安定センターの所在地一覧はこちら

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民間であれば在籍出向支援サービス「ロンデル」

コロナ禍でとくに大きな影響を受けているのが飲食業界です。雇用の継続が厳しく、従業員の解雇に迫られている企業も多いでしょう。

そんな問題を解決するため、株式会社グローアップが運営する在籍出向支援サービス「ロンデル」の活用がおすすめです。飲食業界の従業員が一旦会社を離れながら、もう一度自社に復帰するためのサポートサービスを行っています。

ロンデルでは、雇用の維持が難しい飲食業界の従業員の方々に対して、1~2年の期間を設けて他業界の企業で働く機会を提供しています。人材を出向させる側は手数料無料で支援しています。

在籍出向の受入先は人手が必要な様々な企業が手をあげており、農業法人や水産加工業など、飲食業界でのスキルアップを目指せる企業も含まれています。

また、分かりにくい在籍出向手続きをサポートするため、在籍出向契約マニュアルの無料提供も行っています。在籍出向元も、在籍出向先も、詳細はこちらからお問い合わせください。

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まとめ

事業縮小が余儀なくされる事態であっても自らの従業員の雇用を維持することは、従業員の生活を守るとともに、経済活動が戻った際にスムーズに事業再建に取り組むことができます。

コロナ禍で人手不足となっている業種への従業員の期限付き在籍出向は、雇用を維持したくとも経済的に苦しい事業者にとって非常に有効な手段と言えるでしょう。

政府が創設を決定した産業雇用安定助成金制度は、在籍出向元・出向先双方の金銭的負担をかなり軽くすることで企業間の在籍型出向をより活発化させることが期待できるものです。