記者)改めて、仙台のホルモン焼き肉店であるときわ亭とタッグを組むことになった経緯を教えてください。
藤田氏)ときわ亭の存在を知ったきっかけは、FAさんからのご紹介です。日常感がある大衆向け、そして路面店という条件でM&A先を探していた中で、仙台で40店舗も営業しているというお店の話をいただきました。
理想はありつつも、M&Aはやはり数字ありき。その中でも仙台だけで40店舗という実績に驚き興味を持ちましたが、一方で名前以外は何もわからない。そこで仙台でお食事をしながらお話をさせてもらうことになったんですが、その時にいただいた塩ホルモンがとにかく美味しくて。独自性があって味もいい。その時点で0秒レモンサワーのアイディアはあったので、掛け合わせたら絶対に成功すると確信がありました。
記者)現在、ときわ亭とは業務提携という形になっていますが、M&Aを選ばれなかったのはなぜでしょうか。
藤田氏)M&Aになると、常磐食品の加藤栄一社長と上下関係ができてしまいお互いやりにくくなると思いました。加藤社長は手を広げたいし、私はときわ亭のブランドで100億100店舗100年企業を作りたい、というお互いのWinが明確になっていたので、それならわざわざM&Aでなくても、お互いにシナジーを作り出せる関係でいたほうがいいんじゃないかという結論に至りました。
このシナジーというところにポイントを置いています。弊社では7つの習慣を取り入れていますが、その第一は“シナジーをつくる能力”です。私は0から1を作ることは得意ですが、それをずっとやっていては何も変わらない。だから他社とのシナジーをつくることが必要と考えました。ときわ亭の持っているコンテンツに「0秒レモンサワー」という我々のアイデアを加えが第三の案で世の中をあっと言わせよう、というのがこの取り組みです。
記者)お互いがメリットを得られる新しいアイディアを出した形ですね。
藤田氏)もちろん今後M&Aをするという可能性もありますが、この違いを尊重して「第3の案を出す」というスタンスは、弊社の基本的な企業文化です。商品のラインナップを考えるときも、みんなで出し合ったアイディアの違いを尊重しつつ、第3の案を模索するスタイルをとっています。
プロジェクトチームで動く以上、営業、広告、クリエイティブなどそれぞれの立場から見た利益が相反する場合もあります。時には自分の意見の正しさだけを主張される時もありますが、それは私たちが求めるスタンスではありません。お互いの良さやメリットを尊重し、第3の案を導き出すことで、現在のときわ亭の価値が生まれていると思っています。
記者)目玉である0秒レモンサワーは、非常にインパクトがあるサービスだと思います。
藤田氏)実は0秒レモンサワーも、私一人で考えたものではないんですよ。全てのテーブルでビールが注げるローマ軒さんを参考にこそしましたが、最終的にはときわチームで商品のラインナップやルールといったものをみんなで話し合った結果に生まれたものです。
「0秒レモンサワー」が生まれた瞬間に勝ちを確信しましたね。街を歩いていて後ろの人がホルモン屋さんの前で「0秒レモンサワーに行こうよ」と話していたのです。あの業態=0秒レモンサワーと認識されているんですよ。これがまさにマーケティングの神髄ですよね。
この業態を3年くらいで100店舗やりたいという気持ちもありますが、一方で10店舗級を10業態作っても同じことなんです。今回のコロナで店舗ビジネスの難しさを痛感して、1業態で大きな数字を追いかける夢はなくなりましたね。
記者)0秒レモンサワーの導入には、どんな背景があったのでしょうか。
藤田氏)一番は人の問題ですね。あまり多くの人を雇えないのはわかっていたので、人的コストを下げられる形態は考えました。焼肉はお客様が自分で肉を焼き、注文もタッチパネルです。お客様と店員のコミュニケーションを減らし、お酒を運ぶ手間も減らせられれば、外国人店員でも対応が可能になります。そういう意味で、焼肉という業態やタッチパネルは相性がいいというのが前提でした。居酒屋のときにあったコミュニケーション上のトラブルや飲み放題のグラス確保、グラス洗浄の手間、飲み物の待ち時間などの問題を全て解決できたと思っています。
以前は空中階の個室で食べ放題、飲み放題をやっていたので、そこでの不都合や不満がたくさんあって、それを解決したいと思ったのです。その経験があったからこそたどり着いたアイデアと言えます。
他にも同じようにセルフサービスでドリンクを提供するお店はありますが、あえてレモンサワーを選びました。ビールは太るし、管理が大変です。お肉やホルモンを食べると少し罪悪感がありますが、レモンサワーでさっと流すことで罪悪感も一緒に流れる、というストーリーです。
記者)以前伺った企業としての経営方針も含め、ときわ亭は楽しい職場環境になっていると思います。採用や離職率にも影響があるのでは?
藤田氏)影響は大きいですね。お店のコンセプトが「ストレスフリーの焼肉エンターテイメント」ですので、お客様も従業員もストレスを感じない環境になっています。今はお肉を持ってきてもらうタイミングくらいしか従業員とお客様の接点がありませんので、従業員は楽ですし、お客様もお待たせしません。日本語検定2級程度の外国人でも無理なく働くことができます。そうなるとアルバイトの離職率が下がり、社員がちゃんと休暇を取れるようになりますので、社員の定着率も上がる循環が生まれました。
記者)ときわ亭との提携を経て、社内の環境も大きく変わったと思います。現在藤田社長はどんな仕事をメインにされていますか?
藤田氏)すごい会議というのを取り入れて、経営管理、人事評価などすべて変えていき、課題の見える化を進めています。50店舗も出ると、当然課題店舗が出ますよね。そうした店舗を改善できた店長はスーパーバイザーやエリア長に昇進していきますが、彼らのやり方は属人的になりやすく、体系化されていません。彼らが辞めたら改善方法が社内に残らず、店舗の状況が悪化してしまいます。
そうした状態を引き起こさないためにも、課題をいくつかのフォーマットに分け、目的意識を持っている店長なら誰でも改善できるような、属人的にならない仕組みを作っています。
SNSが普及したことにより、今はQSCをよくすればお客様が来てくださるという時代ではなくなりました。情報が多すぎて忘却曲線に乗りやすいのです。だから、いかにしてお店のファンになってもらうか、そのファンになってくれた方に来店してもらうかというセールスファネルを店長が理解して、改善をするということが必要になってきます。
一般企業ではそういったロジカルな改善方法を検討するはずなんですが、飲食業界はあまりそうした文化がありません。キッチンの料理が遅い、接客が悪いという話に行き着きがちなので、そうではない部分をフォーマット化していくのが、現在私が取り組んでいる課題です。
記者)どんなアプローチで改善方法をフォーマット化していくのでしょうか?
藤田氏)数百個用意したKPIの中から、効果的なものを選んで継続的にチェックしています。また、中には選んだKPIが実情を反映していない場合もあるので、別のKPIを入れ替えて計測を繰り返します。
例えばアルバイトの離職率といったKPIを初日、4週目、8週目……と数値化し、その店舗が「楽しい」のかを数値で測ります。楽しい店舗は雰囲気が良くなり、お客様も楽しい。お客様が楽しくなれば集客のための広告も要らず、従業員が楽しければ新規採用費もかからない、と好循環が生まれました。
かつては毎月数千万円の広告費を使う空中戦が主流でしたが、今はどれだけファンを作れるかが重要です。こうした方針転換ができたのも、ときわ亭との業務提携が大きなターニングポイントになってくれたからですね。弊社の理念をしっかり体現できる業態だと思います。
記者)今後の展開に向けた展望を教えてください。
藤田氏)今年はしっかり足場を固める年にしたいですね。現在ときわ亭50店舗のうち、15店舗が直営で、35店舗が加盟店。既存のダイニングレストランが20店舗あり、合計で70店舗ほどを運営しています。今年はダイニングレストランは出店せず、ときわ亭の出店に集中し100店舗に乗せたいですね。今年の年末には120店舗ほどを見込んでいます。
コロナの影響で、国からの協力金やコロナ融資、劣後ローンとかなりお金を集めました。この返済が2年後に始まりますので、そこにしっかり耐えられる会社作りが当面の課題です。
記者)店舗を拡大する上で、フランチャイズも意識されていると思います。フランチャイズはどのように募集されていますか?
藤田氏)現在は積極的に営業はしていませんね。口コミと紹介が中心です。今は直営店と現時点の加盟店の収益性が一番大事です。こちらから頭を下げて加盟していただいても上手くいかないケースが多いので、当面は現在の方針のままいこうと思っています。数を追うというよりは長く続くお店作りというのが根底にあります。200,300店舗となるとテクニック勝負にもなってきますので。
記者)一方で、来年末までには120店舗という構想もあるとのことですが、出店エリアは今後変わりますか?そのほかに今後の構想があれば教えてください。
藤田氏)そうですね。現在は東名阪が中心ですが、来年は北海道や九州への出店もできる体制を整えていくつもりです。ぜひ東名阪以外で出店されたいという方がいらっしゃるなら、ぜひ一度お声がけいただきたいですね。
あとは、今回のときわ亭のように、地方の業態で我々がリブランディング会社として携わることで日本中、世界中で評価されるお店にできるものがあると思うのです。それができれば我々としても社会貢献事業になるので、取り組んでいきたいですね。