記者)飲食業界に入ったきっかけは何だったのでしょうか。
中元氏)大元をたどっていけば、はじまりは専門学校を卒業した20歳のときに店舗流通ネット株式会社への入社です。アルマーニをビシッと着こなした江藤鉄男社長(当時)が稼げる会社であると語っていたインタビュー記事を読んで、とても惹きつけられました。自分の父親が固い銀行マンなので、真逆の社会人像に憧れたのかもしれません。1社しか受けていません。
記者)江藤社長の出で立ちに感銘を受けたのですね。当時の店舗流通ネットは上場したばかりで競争率が非常に高い企業だったと思いますが、どのような採用試験が行われたのでしょうか。
中元氏)はじめは一般的な会社説明会です。翌年の新卒一期生に向けた説明会で、何百人という人数がいました。会場に入った瞬間に「これは手強いぞ」と思ったので、その中でなんとかインパクトを残す方法を考え、説明会の最後の最後に質問をしました。「20歳の専門卒でも入社試験を受けられるのか」という内容だったと思います。あとから現社長の松崎裕治さんに「あの質問をした学生は社長面接まで残そう」と決めていたと聞きました。髪の毛の長いまま社長面接に行き、坊主にするよう言われましたがそれに反抗したりして…自分の意見を伝えたところ、入社を認めてもらえました。
当時は何がよかったのかわかりませんでしたが、今となっては0か100のどちらかになるタイプだな、と感じてもらえたのかもしれませんね。奇跡的だったなと思いますが、今自分が社長になってみると、江藤社長がおっしゃっていたことも分かるなと思います(笑)
記者)入社後はどのような仕事を担当したのでしょうか。
中元氏)初めての配属は第三営業部で、不動産会社に飛び込んで物件をかき集めていました。うちが借りた店舗を飲食店などに転貸する店舗リース事業のため、とにかく物件の数が必要でした。1日40件くらいの不動産会社に飛び込み、レインズ(不動産業者間の物件情報共有サイト)にも載っていない物件を教えてくれとお願いをする毎日です。
記者)かなり早い段階で出世されたと伺っています。
中元氏)はじめは不動産のことなんて全く分からないまま営業していましたが、顔を出しているうちに気に入ってくれた不動産会社からいい物件を紹介してもらえることも増えていきました。また、他の営業は23区内、山手線沿線を攻めたがったんですが、私はあえて八王子などの西東京を開拓しました。競争相手がいないエリアで実績を作れたのは大きかったですね。
記者)その後エー・ピーカンパニーへ転職されています。なぜ転職に踏み切ったのでしょうか。
中元氏)エー・ピーカンパニーとの出会いは八王子での営業でした。当時あった501ダイニングというダーツバーを訪問したときに、偶然米山久社長とお話する機会に恵まれ、「じとっこ」のFCを含め3店舗任せていただいたんです。個人的にも気に入っていただけ、会社は関係なく飲みに誘っていただく機会もありました。そうした中でちょうど私が抱えていた悩みをお話ししたところ、エー・ピーに来ないかと誘っていただいたんです。
記者)かなり親密な関係になっていたのですね。ちなみにどのような悩みがあったのでしょうか。
中元氏)ちょうど3年目に入った頃で、年齢は22歳くらい。同年代の中ではかなり稼いでいました。しかし表向きにはお客様のためといいながら実際はコミッション(手数料)のために仕事をしている部分もあり、建前と実態の矛盾を感じるようになっていたんです。もっと飲食店のためになることを考えた方がいいのでは?と常々と常々思っていたとき、会社全体が見境のない契約が加速していったこともあり自分の中でも矛盾が広がっていきました。
自分自身、もう一度仕事に向き合いたいという思いもあり、米山社長のお誘いに乗ることを決めました。
記者)エー・ピーカンパニーに入ってからは営業ではなく内部に入られたとか。仕事は順調だったのでしょうか。
中元氏)それが本当に上手くいかなくて。飲食の知識が全くなく、自分の力不足を痛感する毎日でした。最初は物件を手土産に持っていったのもあり順調だったのですが、だんだん店舗開発やFC開発の知識を持っていないことが露呈してきました。振り返ってみれば、店舗流通ネットというバックボーンがあったからこそできていた仕事が多かったんです。
実は結構高い給料で雇ってもらっていたんですが、あまりにも結果がでなかったので、途中から基本給が下がり歩合給の割合が増えるような給与体系になりました。自分で連れてきた手前、米山社長もかなり悩まれたんじゃないかと思います。
記者)エー・ピーカンパニーでの時間はほろ苦い経験になってしまったんですね。
中元氏)結果だけを見ればそうですが、店舗開発やFC開発をしながらエリアマネージャーという役職をつけていただくことで、現場にも入る経験もさせていただきました。新宿と高円寺で展開していたホルモン業態で、エリアマネージャーとして自分より年上の店長さんやさまざまな年代のアルバイトの方と一緒に働けた経験ができたのは大きな財産だと思っています。悔しい思いもしましたが、この経験が今のヴィクセスの礎になっていると言っても過言ではないですね。
記者)エー・ピーカンパニーの後は再び店舗流通ネットへ戻られました。こちらはどのような経緯だったのでしょうか。
中元氏)エー・ピーで力不足を痛感したのと同時に、店舗流通から1年離れて外から見たからこそできることがあると考えたからです。店舗流通の中心メンバーは皆さん金融や不動産畑の方ばかりなので、より店舗ビジネスの現場からの見え方や感じ方を伝えられるのではないかと。戻ってからは以前のような物件の発掘ではなく、取引先同士をつないだり商材を店に卸す代理店契約を結んだり、物件を紹介したり、店舗のサポートをする新しい部署を作ってもらいました。実際のところ、店舗流通ネットを盛大に送り出していただいたので、気まずさはありましたね。
記者)新しい仕事の手応えはいかがでしたか?
中元氏)多くの方を引き合わせる動きをし続けた結果、私自身にも多くの知り合いが生まれました。今もお取引がある酒屋さんとつながれたのもこの時期です。当初は独立を意識してはいませんでしたが、繋がりが広がる中で徐々に下地が出来上がってきた手応えがあり、独立への意識が強くなっていったのを覚えています。当時米山社長へのあこがれがあって、お世話になったので恩返しをするなら独立をするしかないと思いました。
記者)独立の決め手は何だったのでしょうか?
中元氏)店舗流通ネット在籍当時、ロードサイドの案件が多数ございまして、エムグラントフードサービスの井戸社長と同行させていただく機会がありました。その際に、「独立したい」という事を話したところ「やりなよ」と間髪入れず言われまして(笑)元々独立そのものはするつもりではいたのですが、井戸社長の一言で気持ちが固まりました。
記者)そして2010年8月に独立し、1店舗目がスタートしました。独立当初は自己資金をほとんど入れなかったと伺いました。
中元氏)そうですね。ほぼゼロでした。現在のクラウドファンディングの走りで、ソーシャルレンディングの「maneo(マネオ)」で募集したところ、当時の最短で1,000万円が集まりました。この資金調達は1年後に一括返済するのが条件で、当時エムグラント社に保証に入ってもらっています。この資金を元手に「CONA」のフランチャイズ店として「UeCONA)」を渋谷道玄坂にオープンしています。
記者)滑り出しはいかがでしたか?
中元氏)正直、あまり売上は上がっていませんでした。利益もぼちぼちといったところで、12月末に10%残るかどうかという程度。それでも調達した資金を返さないといかなかったので、2011年3月に田町へ2号店を出店しました。しかし、この出店の1週間後に東日本大震災が起きてしまい…一時期は肝を冷やしましたが、4月以降には売上も戻ってきてトータルで月200万円ほどの利益が出せるようになったので、8月に地元の狛江で初の自社ブランド「HOME」をオープンしています。その後笹塚、下北沢と着々とオープンしていきました。
記者)1,000万円の一括返済も含めて、資金面は問題ありませんでしたか?
中元氏)1,000万円は市の保証付きの事業資金融資を受けられたので、無事に一括で返済できました。HOMEの開業資金はメインバンクの多摩川信用金庫さんから900万円のプロパー融資を受けています。
記者)店舗流通ネットにいらっしゃったからそのような資金繰りができたのでしょうか?
中元氏)いえ、それは全然…もっと勉強しておけばと思っています。ただ周りが突っ走っていくのに引っ張られるように自分も動いていましたね。
記者)なるほど。その後、現在のメインブランドのひとつである「ESOLA 」をオープンさせていますね。
中元氏)2012年7月にESOLAの1号店を代々木上原にオープンしました。翌年の3月に新潟の長岡、8月に田町へ直営で出店したんですが、この長岡がかなりヒットしまして。地方なので賃料が安く、年間で1,800万円ほどの利益を残す優良店になったんです。
記者)長岡の成功から、地方進出に力を入れたのでしょうか?
中元氏)いえ、それがここで調子に乗ってしまい、渋谷など都心に出したくなってしまって。周囲の先輩方が知名度をドンドン上げている時期だったので、自分もど真ん中でやりたい、目立ちたいと思ってしまったんです。2014年に渋谷にオープンしたESOLAはテレビに出たりして知名度アップには貢献してくれたんですが、競合も多かったですし、保証金も含めて投資が重すぎて大変でした。あのタイミングで地方に出ておけばよかったと今なら思います。まだ29歳くらいで血気盛んだったので、利益よりも知名度を取っちゃったんですね(笑)
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