煙草の害が叫ばれるようになったこと、煙草の値段が上がってきていること、環境的にも分煙が進んでいることから、現在は煙草を吸う人の数が非常に減っています。
昭和40年のときには男性のうちの82.3パーセント、女性のうちの15.7パーセントが喫煙者だったのですが、平成28年の段階では、男性の喫煙者の割合は29.7パーセント、女性の場合は9.7パーセントにまで落ち込んでいます。男性の場合は「全体の8割が喫煙者」であったのに、現在は「男性の7割が禁煙者」という状況になっているのです。
これは「健康」という面から考えると評価できることです。ただ、その分、喫煙者に対する視線が冷たくなっているのも事実。そしてこの流れのなかでは、飲食店も無関心ではいられません。
「健康増進法」の定めとはどういうものか
飲食店と喫煙の関わり方としては、「分煙対策」があげられるでしょう。喫煙室と禁煙室を分けたり、全面禁煙にしたり、時間によって禁煙タイムを分けたり……などの方法です。
そしてこの「分煙対策」は、「健康増進法」という法律と大きく関わってきます。
健康増進法の第一章「総則」のなかの第二節に、受動喫煙の防止」というものがあります。この二十五条において、以下のように定められています。
「第二十五条 学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。)を防止するために必要な措置を 講ずるように努めなければならない。」
これを、飲食店に関係する読み方をすると、「飲食店では、受動喫煙を防ぐために、なんらかの対策を講じるようにしなければならない」ということになります。
現在の分煙の状況について
ただ、このような健康増進法があるにも関わらず、完全な分煙は行われていないのが現状です。現在の分煙の状況について見ていきましょう。
平成24年に出されたデータでは、レストランのうちの7割近くがなんらかの分煙対策を心がけています。スナックなどの場合は90パーセント近くが何も対策を講じていません。
これは「酒類を主に提供するところか、それとも食事を中心とするか」で分けた時、もっとはっきりします。前者のうちの86パーセント以上が「分煙には未対応」としているのに比べて、後者の場合はまったく対応していないところは53.5パーセント程度にとどまっています。
今までのきまり、これからのきまり
「健康増進法」があるにも関わらず、どうして飲食店のなかには分煙をまったく行っていない店舗が存在するのでしょうか。
この理由は、非常に簡単です。
現在施行されている「健康増進法」には、罰則規定がありません。上で紹介した法律の文章をよく読んでもらえればわかるのですが、健康増進法で謳われているのは、あくまで「努めなければいけない」であって、努力義務にとどまるわけです。そのため、飲食店の経営者は、どれだけ非喫煙者が「分煙にしてくれ」と訴えようが、また逆に喫煙者が「周りに気を使うから喫煙席を設けてくれ」と訴えようが、席をわけたり、禁煙タイムを設けたりしなければならない法律的な理由はないわけです。
このような結果として、「酒を飲みながら煙草を吸いたい、というお客様が多い」「そもそも店主が喫煙者であり、お客さんと話しているときにも煙草を吸っているので分煙対策はしたくない」「分煙対策をしたいとは思うが、お金がなくて無理」という飲食店も、なんら罰則を受けることなく営業を続けられてきたわけです。
しかしながら、このような「努力義務」であった飲食店における「分煙」が大きく様変わりしそうになっています。
その契機となるのが、2020年の東京オリンピックです。今から3年後、日本の東京で華々しくオリンピック(パラリンピック)が開かれます。これにあわせて、国が、「官公庁などは全面的に禁煙するべき」としている案を、2016年の10月に公表したわけです。「全面禁煙」は官公庁や病院などですが、飲食店においても、「分煙をすること」とされました。
重要なのは、これに「罰則」が盛り込まれる、ということです。今までは罰則がなく努力義務だったのに、今後は分煙がなされていないところにはなんらかのペナルティが課せられるようになるわけです。
そのペナルティがどれくらいのものなのかはまだはっきりとはわかりませんが、今までのように、「お酒を出しているから」「お客様のほとんどが喫煙者だから」という理由で「全席全面喫煙OK」の状態ではいられなくなるのは確かです。
喫煙者が迫害を受けている、などと言われる昨今ではありますが、飲食店の経営者としては、無関心ではいられません。まだ分煙措置をしていないところは、これから少しずつ対策を講じていくのが望ましいでしょう。