【当事者が本音で語るM&Aのリアル】株式会社海帆 取締役会長 國松晃氏×株式会社SSS 代表取締役 中山俊士氏インタビュー 「友好的M&Aはなぜ実現したか」

自社ブランドの居酒屋チェーン「昭和食堂」、FCの居酒屋「新時代」を東海地方に展開する株式会社海帆が、2022年7月15日付けで株式会社SSS(スリーエス)の株式を取得し、100%子会社化しました。上場企業による地方居酒屋チェーンの買収には、どのような狙いがあったのか。本M&Aの仲介を務めた株式会社M&A Properties代表取締役 中村幸司が、双方の代表取締役に話を聞きました。


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中山さんがM&Aを検討し始めたきっかけを教えてください。

前々から自社の市場価値を計るという意味で、M&Aには興味がありました。売る側、買う側のどちらであってもチャレンジしてみたいと思っていた中でお話をいただき、今回は売る側になったという形ですね。

2月上旬に話が持ち上がってから、クローズが7月。非常にスムーズに進んだM&Aだったと思います。この間に大変だったこと、違和感を覚えたことなどありましたか?

これほどトントン拍子に進むとは思っていませんでした。大変だったのは資料の準備ですね。デューデリジェンスの際に各店舗のまとめを過去3年分出してくれといわれましたが、店舗ごとに細かい収支資料を完璧に作っていたわけではなかったので、まとめ直しが一苦労でした。相手は上場企業で、まだ売却が確定していない時。話を流してはなるまいと、一人で必死に作っていましたね。

國松さんはこれまで数多くのM&Aを手掛けてきたと思います。海帆におけるM&Aへのスタンスは何かありますか?

私は元々業績を上げるために海帆に入社しており、今後プライム市場といった大きな市場を目指すにあたり、企業の価値を高めていくこと、バリュエーションを高めていくことがミッションとなっています。
ただ、そのために直営店を50店舗持っている会社を買うとなると、規模が拡大に伴ってリスクも大きくなってしまいます。そうなると一緒にいる意味がありませんよね。しかし今回のSSSさんは業務のスキーム化等もやっていましたので、いい意味でコロナの中でリスクヘッジが効き、お互いのいいところを活かしあえると感じました

これから会社を大きくしていくにしても、一人でやるにはどうしても限界があります。私には私の強みがあり、中山さんには中山さんの強みがある。お互いの強みを活かして補い合えるなら、会社の価値を最大化できるのではと考えました。これは創業オーナーではない、プロ経営者としての判断ですね。

海帆としては、直営だけでなく、M&Aを通じて業務委託できる人材を確保するノウハウを持っているという点が強みであると思っています。

これは上場企業だからこその強みといえますね。

上場企業は、株式での資金調達がし易いので、お金を集める機能はあるんですよ。そのため、人を集める人脈と運営スキームを持っているなら、集めた優秀な経営者に業務委託をして、どんどんビジネスを回していきたいですね。SSSという会社に色々な経営者を集めて社長陣のような形にして、ここからビジネスを創り出していきたい
これはもう外食産業の枠に留めたくはないですね。彼らは海帆を使ってビジネスを回し、我々も彼らに人材やお金、情報を提供しながら、お互いが成長する座組を作っていくことを将来的に考えています。

ちなみに、このM&Aは海帆にとってどのようなタイミングだったのでしょうか。

増資が終わって、今後利益を出していくために何に投資をしていこうか検討している時期でした。しかし、100店舗以上運営していた頃に比べて今は本部機能が小さく、直営を広げにくいんですね。そこに自走できる会社が来てくれたのは非常にありがたいなと。まさに願ったり叶ったりのタイミングでした。

経営者を集めたいという姿勢の中で、中山さんとだったら一緒にやっていけるという思いがあったのでしょうか。

そうですね。中山さんは細かい仕事もしっかりと手抜かりなくやってくれる方です。そうした面では私よりも非常に優秀な方なので助かります。中山さんにとっても、上場企業でしかできないことに挑戦するチャンスが生まれますので、今後見える景色が変わっていくのではないでしょうか
2人で力を合わせてやっていけば、M&Aの在り方や上場の仕方も変わっていくと思います。大きなことをやろうというときに、中山さんがそばにいてくれるのはとても心強いですね。

中山さんは國松さんと一緒にやり始めてから、何か変化はありますか。やりとりが増えたり、生活習慣が変わったりなど。

日常生活の変化はありませんね。しかし組織の一部となったことで、見えないプレッシャーは感じるようになりました。今まではオーナー社長として下していた即断即決ができなくなりましたし、時間をかけて企画案を作らないといけなくなりました。精神的な自由が縮こまっているように感じるのは、大きな変化といえます。
とはいえ、完全に自由を失ったというわけではなく、どうしてもやりたいことがあるときには國松さんに相談に乗ってもらっています。結果として提案が通らなかった時も、納得いかなければ臨時緊急取締役会を開いてもらうこともありました。また、稟議書や事業計画などを通じて不足点を指摘してくれる人がたくさんいますので、とても学びになっています。業績だけが大事ではないという上場会社の深い構造を覗いているような気分。今後も自分の会社のいいところと悪いところ、両方を見られるのは楽しみです。

M&Aを進める上で感じる悩みはあったのでしょうか。当初は中山さんが会社を売却後に海外に行くという話もあったそうですが。

正直にお話しますと、2月時点では明らかに業績が伸びていました。いい物件も出てきていたので、お金という観点だけで見れば売却するよりも自分で持っておくほうがいいのでは、と悩んだ時期もありました。そうした思いを踏まえて最終的にM&Aを決めた理由は2つあります。

ひとつは上場企業の信頼や國松さんの人脈を使って会社を成長させたいと思ったこと。仮に将来自分が会社を離れることになっても、海帆の下にいる状態の方が安心だと考えました。

もうひとつは、自分が代表として残れるという条件を飲んでいただけたという点です。M&Aに対して持っていたイメージのひとつに、元のオーナーが代表として残るのは買い手側からみれば歓迎できないのでは、というものがありました。実は海外に行くというのは半分建前だったんですよ。しかしSSSは元々売却目的の会社ではありませんでしたし、私もまだ引退するような年齢ではありませんので、本音ではできれば残りたいな、続けたいなと考えていました。自分が離れた後、社員や業務委託の方たちの環境が崩れてしまうのは望むところではありませんので、引き続き任せていただけるならやりたい、という希望を叶えてもらえたのが大きな理由になっています

M&A後に私自身が社長として乗り込んでいくケースも多いのですが、今回に関しては中山さんに続投していただけるならありがたいと思っていました。海外に行くと聞いたときには「自分たちで頑張らないといけない」と思っていたのですが、最終的にはお任せできる形に収まり、いい結果になったと思っています。
私も海外志向はありますので、いずれ会社を建てて海外に攻め込もうという時には、中山さんのような若く優秀な経営者の力を活かしてもらうのは面白いなと思いますね。

中山さんは周囲から売却に反対されましたか?

企業として好調だったので、ある銀行さんからは「個人的な借金があるのか」、「急な買い物をしたのか」と不審がられました。IRの発表を見ている人からは「なぜ売却したの?」、「大丈夫なの?」といったネガティブな反応が大半です。もしかすると、お金だけを考えたら勿体ないという見方もあると思いますが、今後のことを考えると決して悪い決断ではなかったと思っています

國松さんは周囲からどのような反響がありましたか?

投資家からはM&Aを行うことに反響はありましたが、シナジーがあることを説明して理解していただきました。今後、11月の第2四半期決算において、SSSがこれだけ寄与しているというところを公表していきたいと考えています。

グループになった後、デューデリジェンスで気がつかなかった想定外の問題や不都合などはありましたか?

現時点では特に何もありませんね。何かあったら報告がくるでしょうし、中山さんを信用しているので大丈夫だと思いますよ。

上場企業の一部となって、自分だけで意思決定できなくなった一方で、他の人の力を借りられるようになったメリットがあると思います。今の環境を活かして何をしたいと思いますか。例えば出店に関しての計画などはいかがでしょうか。

出店していきたいという気持ちはもちろんありますが、無駄な出店はしたくありません。人のお金だからといって、これまでの出店とスタンスを変えて、そこそこ、儲けようというような気持ちは全く無いんです。自分が株主でもやりたいと思う店だけを厳選してやっていくスタンスで出店を進めています。すでに出店エリアの提案はさせてもらっていて、自分のお金でもいいからやらせてくれ、と言うときもあります。もちろんNGなんですけど。

ややこしいんですよ、本当に(笑)

誠実に考えているからこその提案だと感じます。他に組織の一員だからこそやりたいことはありますか。

個人的に興味があるのが、赤字企業の再生です。SSSの経営は好調でしたので、自社経営ではそういった経験が出来ませんでした。また、海帆の経理担当の方に「SSSの経理は大変しっかりしている」と高く評価していただけているので、SSSで使っていた仕組みを海帆の経理に逆輸入し自動化を進めたいという思いもあります

いわゆるDXですね。若い中山さんはそのあたりは強そうです。

棚卸、発注の自動化、レジ金誤差の防止は当たり前にしていきたいですね。これは飲食業界全体の課題だとは思いますが、なかなか飲食人からそういった発想がでてこない。誰かがやった方がいいけれど、やれるだけの素養を持った人がいないのも理由のひとつだと思いますので、ぜひ中山さんと一緒に積極的に参入していきたいと思います。
あとは若い人を取り込むアクションにも積極的にチャレンジしていきたいと考えています。TikTokの活用はその代表ですね。若い人はSNSが生活の一部になっていますので、我々も早期に参入をしていかなければならないでしょう。新しいチャレンジの9割はうまくいきませんが、飲食業界から出てこない発想のチャレンジをしていけば、いずれ価値とお金が生まれてくると思っています。

海帆にとってもSSSにとっても、今後の展開が楽しみですね。改めて将来の展望について教えてください。

今回のM&Aで上場企業への仲間入りを果たせましたので、まずは着実な業績アップを目指します。M&A以前よりも業績を伸ばすのが、海帆グループにおいてSSSが担うべき役割です。そして、グループの中で結果を出し、いずれは海帆さんの経営層の一人となって会社をリードしていくのが目標です。今はしっかりと上場企業の戦い方を学ばせてもらいながら、海帆さんに貢献できるよう頑張っていきます。

大きな志を持っている中山さんにジョインしていただけたのは、私どもとしても非常にありがたいことです。これから先も「海帆に入ってよかった」と思ってもらえるかは私次第ですので、中山さんに負けないように気持ちを引き締めます。

海帆は多くの企業からの投資で成り立っている会社です。会社を大きくすれば株主に喜んでもらえ、いい人材が集まってきます。前向きな人、優秀な人たちの英知を結集し、キラキラできるような飲食事業を作る。そういう会社を作ることが飲食業界への寄与であり、株主への貢献であり、会社を作った社長への恩返しにもなります。私が途中からジョインした意味を示せるように、海帆をさらにいい会社に育てていきたいですね。