【当事者が本音で語るM&Aのリアル】GYRO HOLDINGS株式会社 取締役 中村英樹氏×株式会社パッションアンドクリエイト 代表取締役 豊島堅太氏 インタビュー「攻めの事業展開に繋がるM&A」

2022年10月1日、国内で約200店舗の飲食店を展開するGYRO HOLDINGS株式会社の子会社である株式会社パートナーズダイニングは、株式会社パッションアンドクリエイトの運営する焼肉専門店「ウシハチ」について事業譲渡契約を締結した。過去何度もM&A経験があるGYRO HOLDINGSがなぜ「ウシハチ」に目をつけたのか。その背景や今後の展望について、両社の代表から赤裸々に語っていただきます。


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攻めの事業展開につながるM&A

まずは、M&A着手前のお話からお伺いできればと思います。ウシハチは11店舗を展開しており好調だったかと思うのですが、売却を考えたきっかけをお聞かせいただけますでしょうか。

M&A Properties様にはコロナ前から打診はしていたのですが、具体的に検討し始めたのはコロナが流行って暫く経ってからでした。2020年前半はコロナ関連の協力金もなく、会社の財務が痛んでいく一方でして……

凄く好調なイメージがありましたが、実際は赤字だったのですね。

新しい店舗が沢山ありましたからね。2021年からは協力金の支給も始まり、2021年の10月頃には会社が危機に晒されることはない状況までは立て直せました。ただ、銀行への返済をリスケしていた状況だったため、コロナが収束した後に返済を始めると3年ぐらいは新規の借入ができなくなる見込みでした。そうなった時、当然新規出店が出来ず攻めの事業展開ができない

また、売却をせず現状の規模感を維持する場合、ウシハチに携わるスタッフを3年ほどは我慢させなければいけなくなります。それは、僕が創業から社員に伝えてきた理念と相反すると考えました。信頼でき、潤沢に資源を投資できる事業会社にウシハチを売却することで、今いる社員がより活躍できる場所を提供したいという想いもありました。

ちなみに、社員の方に従前説明していた理念・ビジョンとはどういったものだったのでしょうか?

一言でまとめると「社員に幸せになってもらいたい」という想いが根底にあります。幸せになるためには、経済的な余裕・時間的余裕を手にしていくことがベースとして必要だと思っていて。それを実現するために、会社として社員たちの能力を上げるための環境の整備も必要になる。これは会社にしか出来ないことで、当然そこには会社の成長も紐づいていなければならない。

どこの会社でもそうですよね。成長しないとやっていけない、攻めの生き物なんですよ。

そうなんですよね。現状維持というのは僕も嫌だったし、辛い時にも頑張ってくれた社員たちに成長できる環境を用意するというのは常々言ってきたことなので、そこに反することはしたくはないという想いは強くありました。

GYRO HOLDINGSとしては、今回どのような経緯でウシハチの買収を検討したのでしょうか?

我々は2021年11月にPAGというファンドの傘下に入ったのですが、ファンドということもあり、短期的に企業価値を上げていく必要があります。そのため、最低でも年間で10%から20%は成長をしていく必要がある。

PAGはグローバルでも飲食事業に力を入れていて、「ここから日本の飲食が復活する」「日本の食コンテンツがいい」と感じたから我々に投資をしているのですが、それを踏まえてこれから何をしましょうか?というのが今回のM&Aの発端になります。

その中で、ウシハチが良いと思った理由は大きく2つあります。
一つ目は、「焼肉」という事業を魅力的に感じたことです。我々は元々アルコールメインの業態を中心に事業を展開していましたが、コロナ禍ではそれが厳しいとなっていて。大型の宴会も難しいご時世の中、食事需要で運営できる業態を考えたときに「焼肉」が挙がりました。我々も焼肉のブランドを2つ展開しているのですが、どちらも調子が良く「攻めるなら焼肉が良さそうだ」と考えたのが理由になります。

二つ目は何でしょうか。

二つ目は、ウシハチというブランドを非常に魅力的に感じたことです。コンセプトの「コスパ日本一の焼肉専門店」にもある通り、品質・価格帯が絶妙なラインであると感じました。仮に今後仕入れ価格の高騰などの影響で値上げすることになっても対応ができそうだし、逆により廉価な価格帯で打ち出す方針でもやっていけそうだと考えています。

また、これはウシハチの魅力とは直接関係しないのですが、M&A Properties様とも十数年ほどの付き合いで、日々M&Aに関して情報交換を続けていました。その中で確度の高い案件としてウシハチをご紹介いただけたのもM&Aに踏み切る後押しになりましたね。

過去のM&Aと比較して、PAGの傘下に入ったことでM&Aに対するスタンスに何か変化はありましたか?

前提として、PAGが非常に良いファンドなんですね。我々事業会社を信頼し裁量を持たせ、かなり自由にやらせてくれています。そのうえで、M&Aをするにあたって金額の上限を気にしなくて良くなり、都度客観的なアドバイスをくれる点はM&Aの選択肢や考え方を大きく変えてくれたと感じています。

また、マネジメントやブランディングへの意識も変わってきました。オーナー企業だった頃と比べ、よりパブリックな企業になることを重要視するようになり、「どうすればお客様に支持され続け、従業員に頑張ってもらえるか」という目線でのM&Aを強く意識するようになりました

M&Aの大変さとは

コロナになったことで、M&Aの検討が長期間になり資料の準備など大変なことも多かったと思いますが、特に大変だったことなどありましたでしょうか?

クロージング直前まで社内には話をしていなかったというのもあり、資料準備などを一人で進めなければならないのが大変でした。
あとは、取引先様との契約周りを一つ一つ承継する必要があったので、手間は想像以上でしたね。

また、大変というのとは少し異なるのですが、クロージング前に社員へ告知をする必要がある点で緊張感はありました。

そこは難しかったですよね。従業員に伝えた後に万が一クロージングまで至らないと、従業員としても売る判断をした社長の下でコロナ禍を耐え続けるのは厳しいです。我々としても、豊島さんなら大丈夫だと信頼していましたが、実際に進めてみないと分からない部分もあったので、そこはハラハラしていました。

今後の展望

M&Aを終えた後の、各社の方針や戦略などをお聞かせいただけますでしょうか?

今回のM&Aでウシハチは手放しましたが、基本的には事業の中心には「和牛」を据えていきたいと考えていて、和牛を使って、オンライン・オフライン問わず事業を展開していきたいという構想があります。グローバルな事業展開を本筋で考えていますが、コロナの影響も大きかったので、バイアウト前提の事業も並行して作っていき、事業売却による資金調達もしながら本丸の事業を伸ばしてIPOを目指すというハイブリットな形でやっていこうかなと思っていますね。

豊島さんは元々IPO路線でしたよね。

自分のやってきたことを歴史として形にしたいという想いがあるので、その成果としてIPOは分かりやすいと考えています。
今になって振り返ると、自分が創業したときに目指していたものが全然手に入っていなかったので、「コロナ前の10年でもっと頑張っていれば良かったな」と思うことがありました。ただ、幸いにもまだ40歳と若いので、その10年を取り戻す気持ちでもう一回チャレンジしてみようかなと。こうした目標を持っていないと、恐らくここから数年をもどかしい思いで過ごすことになるので、今回のM&Aが綺麗に決まって良かったです。

GYRO HOLDINGSについては如何でしょうか?

我々としては、大きく成長戦略が3つあります。

一つ目は既存ブランドの成長。ファンドが入ったことにより、最短最速で時価総額を最大化していくという方針であることは先ほどもお話しましたが、そのためには注力できるブランドにも限りがあるので、新規出店についてはブランドを絞っていこうと考えています。

二つ目はフランチャイズ展開。こちらについては今あるブランドもそうですが、M&Aで新しいものを持ってきたり、開発したりなども念頭に置いています。ウシハチについてもフランチャイズ展開していこうかなと。

三つ目はどんどん仲間を集めること。ファンドに資金力があり、関係性も良好でいいファンドだと思っているので、積極的にM&Aはしていこうと考えています。
また、これら3つの成長戦略を見据えて、横軸でマーケ・テックなどの施策は積極的に活用していきたいです。ウシハチはここら辺かなり積極的に取り組まれていましたよね?

はい、食べログの点数などは高く維持できるように投資してきましたし、限定メニューをバズらせて集客する、などのマーケ関連にも取り組んできました。

また、店舗内の状況を分析するカメラの導入も既存店舗では積極的に進めており、ウシハチについても順次導入できればと考えています。合わせて、マーケティングに活用できる顧客情報の蓄積にも力を入れ、既存店舗のベースアップや新規出店に繋げていきたいです。

全体を通して、マーケ・テック戦略は現場との連携がとても大事ですので、SNS受けなども含めた商品開発・PRなどにも取り組み、ウシハチを更に伸ばしていきたいですね。

これまでのウシハチでは試していなかったのですが、郊外で客単価をある程度確保できる「良質な食べ放題店舗」を展開していくアイデアもあります。郊外への出店は、平日の集客の面で工夫が必要になるのですが、「映える食べ放題」のような見せ方が出来ると、話題性もあって来店動機に繋がるのではないかと考えています。

それは非常にいいですね。ウシハチには確立された集客モデルはあるのですが、課題点がまだまだ多いです。都心エリアでは現在のモデルで出店しても問題ありませんが、ここから100店舗、200店舗と広げていこうとするのなら、郊外専用のモデルも作っていく必要があります。また、直営店舗だけではなくフランチャイズでもどんどん出店していきたいですね。

今後狙っていきたい客層や地域はありますか?

秋葉原・池袋はかなり相性が良さそうだと考えていて、若い方・ビジネスマンの双方を狙っていけそうです。

あとは我々の頑張り次第でもあるのですが、店舗によっては24時間営業をやってもいいと思うんですよね。2~3店舗しかないときにやってしまうと、ブランドの劣化に繋がりかねないのですが、今のウシハチであれば問題ないかなと。

実際に他の焼肉店ではランチからやっているところもあるし、深夜までやっているところもあります。これからのコロナの動向次第でもありますが、旅行などで人々の動きに変化が出てくると思うので、その様子を見ながら検討していきたいです。

ありがとうございました。各社の更なる発展・活躍に期待しております。