【飲食店のM&A】2023年の飲食業界におけるM&Aトレンド

本記事では、2023年における売手目線のM&Aトレンド、すなわち売手の売却理由を5つに分類し、そのうち2つの売却理由について、実際の事例を用いて詳細を解説していきます。売手の業界トレンドを把握することは、買手にとって交渉や買収後の経営を成功に導くヒントです。それぞれについて、確認をしていきましょう。


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2023年の飲食業界について

2023年の飲食業界では事業承継型やファンド売却型のM&Aが増加傾向にあり、将来の経営不安やEXITに向けての売却活動が本格的に開始したと考えられます。

2023年5月には新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「5類」に引き下げられたことで、インバウンドの回復や忘年会需要の高まりによりコロナ前同様、もしくはそれ以上業績を上げる企業も数多く現れました。

しかし一方で、原材料費等のコスト高騰や、コロナ融資の利払い及び返済開始により、業績が戻らない企業は先行き不安から売却や倒産を検討していく可能性が引き続き予測されます。

飲食業界におけるM&A成約案件推移

2012年の安倍政権発足後、アベノミクス等による景気回復とともに、M&A成約件数は次第に増えていき、2019年に101件と過去最高件数となりました。しかし2020年以降、コロナショックによって成約案件件数は2015年と同等水準の59件まで減少しています。

2023年の成約案件は2022年と比較して横ばいですが、成約案件全体における支配権移動を伴うM&A案件の含有率は2022年と比較して約3pt(77%→80%)上昇しました。2023年下期においては、支配権移動を伴うM&A案件の含有率が86%と大きく上昇傾向にあります。2023年の含有率は2020年の数値を超えており、今後飲食企業のM&A(支配権移動)が増加する可能性を示唆しているともいえます。

2000年~2023年における年別推移

飲食業界M&Aの5つのトレンド

ここ数年の飲食業界におけるM&A(売主目線)には、以下の5つのトレンドが見られます。

  • 1.戦略的売却型
  • 2.事業承継型
  • 3.再生型
  • 4.ファンド売却型
  • 5.資本業務提携・経営統合型

今回はこの5つのトレンドのうち、「戦略的売却型」「事業承継型」について実際の事例を用いて解説いたします。

1.戦略的売却型

大手チェーン等が業態整理のため、業態や事業を売却し、注力する業態・事業に経営資源を集中する方法です。2023年の件数は28件(47%)となり、2022年と同水準となっております。 (弊社独自調査)

【事例】
ダスキンは大阪・北摂エリアで事業展開するベーカリーショップ「Bakery Factory」事業をベーカリーショップの運営を手掛けるStone Food Entertainmentへ事業譲渡しました。「Bakery Factory」は郊外型・大型ベーカリーショップとして計4店舗を直営店で展開していましたが、事業環境の変化やダスキンにおいてFC事業としての今後の展開が困難であることを踏まえ譲渡する考えに至りました。

買手側から見ると、売手側の運営下では収益性が低い場合でも、買手側とのシナジーにより早期に業績を改善させて利益を出せる可能性があります。また、好調事業を引き継ぐことができることも多く、譲受後から早期に利益を出すことができます。好調事業である場合、売却金額は高くなりますので、投資に見合った収益を得られるかという観点のチェックは必須です。

2.事業承継型

オーナーが高齢にもかかわらず、社内・親族に後継者がいない場合に、第三者へ売却する方法が事業承継型のM&Aです。近年はオーナーの年齢を問わず、先行き不安や出口戦略として企業へ売却するケースも多くあります。2023年の件数は15件(25%)と2022年(11件/18%)に比べて増加傾向にあります。(弊社独自調査)

【事例】
パッションアンドクリエイトは長崎県壱岐市にある郷土料理うにめしを提供する、うにめし食堂 はらほげを事業承継しました。店舗は壱岐島の観光スポットである、はらほげ地蔵に近く、ピーク時にはツアーバスで多くの観光客が訪れていましたが、現在は経営するご夫婦の年齢的な問題もあり、存続が難しい状況となっていました。今回の承継により、半世紀以上も愛され続けるうにめしが後世に伝えられることとなりました。

事業承継型の対象となる売手側は、長年店舗運営を継続しておりブランドやノウハウがある場合が他のタイプと比べて多くなります。ブランドやノウハウといった無形資産を、M&Aによりそのまま引き継ぐことができることが、買手側の大きなメリットです。

他方で、長年店舗を継続していることから、なじみのお客さんや忠誠心のある従業員がいる場合がほとんどでしょう。そのため、やはりオーナーチェンジされた際の関係者への影響は大きくなります。

事前に企業文化を理解すること、従業員の性格やスキルを把握しておくこと、顧客層の分析、譲渡契約書で対応できる点は補填するなどの対策が必要となります。

おわりに

今回は、飲食店業界のM&Aの5つのトレンドの中でも①戦略的売却型、②事業承継型について解説しました。

本記事でも紹介したように、それぞれのタイプごとに、買手に対するメリットが異なってきます。たとえば、①戦略的売却型であれば「好調な事業を引き継げることができる」、②事業承継型であれば、「ブランドやノウハウを獲得することができる」といった点です。

その他のM&Aトレンドの詳細については、本メディアからダウンロード可能な資料「【2024年最新版】2023年の飲食業界のM&Aトレンド」にて解説しておりますので、ご興味のある方は是非ご確認ください。