M&Aに用いられる第三者割当増資とは

第三者割当増資とはM&Aの一種であり、対象会社が発行する株式の全部又は一部を取得し、対象会社の支配権を取得するという手法です。 今回はそもそも第三者割当増資の概要や留意点を細かく解説していきます。また、第三者割当増資とM&Aの関係性について紹介していきます。


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第三者割当増資とは

冒頭でもお伝えしましたが、第三者割当増資とは、株主であるか否かを問わず、ある特定の第三者に対して新株を発行し、第三者が増資を引き受ける資金調達の方法のひとつです。

増資に伴う新株主の出資方法は、金銭、現物出資の2パターンがあります。現物出資の際は裁判所の調査が必要になることもあるため、一般的には現金による出資が行われます。

増資は、銀行などの融資と違い返済義務がないため、自己資本比率の増加に伴う経営基盤の安定や、増資の資金を元手に新規事業や設備投資など、新たな成長戦略を描く際に用いられます。また、事業再建のために資金調達を図る際にも利用されます。なお、増資は返済する必要はありませんが、企業価値の向上や配当などを求められます。

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増資の種類

増資には「公募増資」「株式割当」「第三者割当増資」の3種類の方法があります。それぞれを紹介していきます。

公募増資

公募増資とは、新株を発行する際に不特定かつ多数(50名以上)の投資家に対して取得の申し込みを勧誘する増資です。

株式割当増資

株式割当増資とは、新株発行を行う際に既存の株主に対し、保有割合に応じて新株が割り当てられる権利を付与する増資です

第三者割当増資

第三者割当増資とは、特定の第三者に新株を引き受ける権利を付与して、新株を引き受けさせる増資です

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M&Aを目的とした第三者割当増資のメリット・デメリット

M&Aを目的とした第三者割当増資とは、特定の第三者に新株を引き受ける権利を付与して、新株を引き受けさせる増資のことを指します。ここでは具体的なメリット、デメリットを紹介していきます。

メリット

メリットは、会社にシナジーをもたらす第三者を発行会社が主導で指定することが可能です。また、発行会社は、元々繋がりのある取引先や関係性が深いビジネスパートナーなどから募集することが可能です。

デメリット

一方でデメリットもあります。既存株主の持株比率が下がることです。新株を時価で発行した場合、既存株主の持分価値は変わりませんが、新株の発行割合分に応じて持株比率が下がることになります。

第三者割当増資の留意点

ここまでは、概要とメリットデメリットについて説明してきました。次は第三者割当増資を利用するにあたり留意すべき3つの点を解説していきます。

1.株式の希薄化に留意する

新株を発行するための既存株主は、持株比率が低下します。また、不公平な価格で新株発行等が実施された場合には、経済的な不利益を被る恐れがあるため、発行手続きは会社法により詳細に決められています。

「株式の希薄化」とは、増資に伴い新規株式を発行し、発行済株式数が増加することで既存株主の持株比率が下がることを意味します。

増資(時価)を行った際には発行済株式数が増加し持株比率が下がりますが、株式発行の対価として現金が増加するため、既存株主が保有している株式価値は変わりません。

(例)株価500円(時価)、発行済み株式の10,000株のA社は第三者より100万円の増資を引き受けた。増資発行価額は500円とし、発行株数が2,000株増加します。(100万円÷500円)

株式発行に伴い、増資後のA社発行済み株式は10,000株から12,000株に増加したためA社株式が16.67%希薄化(2,000株÷12,000株)します。

上記を前提にA社の株式を100%持っていたとすると、第三者割当増資後の持株比率が100%から83.33%に下がることになります。

但し、既存株主の持分価値は、増資前と増資後では変動はございません(10,000株×500円=500万円)

増資を引き受けた新規株主の持分価値は増資額の100万円になります。(2,000株×500円=100万円)

2.スケジュールの調整に留意する

第三者割当増資を実行するには、必要資料の提出から増資実行まで一定の時間を要します。増資スケジュールを把握し、余裕を持って計画をする必要がございます。

また、第三者割当増資の基本的な手続きに関しては、株式の譲渡制限の有無によって手続きが異なります。

非公開会社の場合(全ての株式に譲渡制限がある会社)

非公開会社の場合には原則株主総会の特別決議により募集事項の決定がされます。なお、株主の全員の同意があるときは招集の手続を経ることなく、期間を短縮して株主総会を開催することができます。

スケジュールとしては、第三者割当増資について取締役会の決議後に株主総会の招集手続きを致します。招集手続きは株主総会の一週間前に招集する必要がありますのでご注意下さい。

株主を招集し、増資について株主総会の決議行った後には増資引受人との総数引受契約を締結します。引受契約契約を締結した増資引受人が出資の履行を行うことにより、増資手続きが完了致します。

株式発行会社は、増資に伴い、登記事項に変更が生じます。出資の払込期日から2週間以内に、法務局にて変更登記の手続きが必要になります。

公開会社の場合(株式譲渡制限のない会社)

公開会社の場合には、取締役会決議により募集事項の決定がされます。また、募集株式の払込期日の2週間前、払込期間を定めた場合はその期間の初日までに既存株主に対して通知する必要がございます。その後の手続きに関しては非公開会社の手続きと同様です。

上場企業の場合

上場企業の場合には、上記の公開会社の場合に加え金融商品取引法による手続き、日本証券取引所の取引所規則に対する手続きが必要になっております。

また、金融商品取引法に該当するため、有価証券届出書を提出する必要がごございます。有価証券届出書を提出するため、既存株主に対する募集事項の通知手続きは不要となります。

増資を実行するには、有価証券届出書を提出後、中15日の経過日数が必要です。有価証券届出書は管轄の財務局に提出する必要があり、提出後中15日の経過日数を待たなければ増資を実行することができません。

上場会社を含む公開会社は、募集事項の決定に関して原則として取締役会の決議により決定されます。公開会社であっても有利発行に該当する場合には、株主総会の特別決議によって募集事項を決定する必要がございます。

有価証券届出書を提出にともない、増資に関するプレスリリースを開示する必要がございます。基本的な内容に関しては有価証券届出書に沿った記載内容を求められます。

また、有価証券届書を提出後すみやかに、証券保管振替機構に通知を行う必要がございます。

その他必要な手続きについては以下の通りです。

・臨時報告書

第三者割当増資後、発行会社の親会社または主要株主に移動が生じる場合には、発行会社は遅滞なく、臨時報告書を提出する必要がございます。

・大量保有報告書・変更報告書

第三者割当の増資引受人は、増資による株式の保有割合が新たに5%を超えた日の翌営業日から5営業日以内に大量保有報告書を提出する必要がございます。

増資引受人がすでに5%超えて株券等を保有していた場合、第三者割当によってその株式保有割合が1%以上増加する場合には、保有割合が増加した日の翌営業日から起算して5営業日以内に、変更報告書を提出する必要がございます。

・払込完了のプレスリリース

第三者割当増資に関する申込者の払込が完了次第、払い込み完了に関するプレスリリースを開示する必要がございます。

・その他確約書・報告書等

第三者割当増資後は、東京証券取引所に対し、譲渡報告に関する確約書、株式譲渡に関する報告書を提出する必要がございます。

3.法令の遵守に留意

対象会社が上場企業の場合は、金融商品取引所に対する有価証券上場規定の遵守や、有価証券募集に係る届出書を財務局に提出する必要があり、金融商品取引法に対する法令の遵守にも対応することが必須です。

また、金融商品取引法上、有価証券の募集又は売り出しは、原則として発行会社が有価証券届出書を提出した後でなければ実行できません。(金商4条1項本文)

(非上場企業の非公開会社であっても50名以上の者を相手方として行う取得勧誘及び、私募に該当しないものに関しては有価証券届出書の提出が必要です)

有価証券届出書を財務局に提出し、原則として受理日から15日を経過した日に(受理日から中15日)効力を生じることになっております。

有価証券届出は、届出提出の2週間(概ね)前に管轄の財務局に事前相談を必要としております。事前相談の際に、有価証券届出書と日程表のドラフトを提出します。

有価証券届出書に関する手続き

財務局に提出する有価証券届出書には、3つの様式(通常方式、組込方式、参照方式)があり、それぞれ記載すべき内容が異なります。

様式の基準は継続開示要件や周知性要件を求められます。組込方式、参照方式の場合には企業情報の記載を除くことが可能であり、効力発生日の待機期間を中15日から中7日に短縮が可能です(財務局に確認必要です)

プレスリリースの手続き

上場企業が第三者割当増資を行う際に、日本証券取引所の取引所規則に従い、一定の提出書類や決定事実としての適時開示(プレスリリース)が必要になります。

財務局に第三者割当増資の事前相談をする必要があるのと同様に、日本証券取引所にも事前相談をする必要がございます。上場会社は、第三者割当増資に係る開示予定日の10日営業日前までに上場部(東京証券取引所)へ事前相談が必要です。

プレスリリースの注意点としては、有価証券届出書と同様の内容になっていること、割当価格の合理性があること、資金使途の明確な理由を記載していることなど、記載内容の細かな修正を取引所から求められます。記載内容の修正期間も含めて第三者割当増資のスケジュールを決めることが重要です。

以下、プレスリリースの重要なポイントです。

・募集の目的及び理由

・調達する資金の額、使途及び支出予定時期

・調達する資金の具体的な使途

・資金使途の合理性に関する考え方

・発行条件等の合理性

・発行数量及び株式の希薄化の規模が合理的であると判断した根拠

・割当予定先の選定理由

継続開示要件

継続開示要件とは、1年間継続して有価証券報告書を提出している者、または、応当日において有価証券報告書を提出していない者で、有価証券届出書提出日までに有価証券報告書を提出した者(企業)を指します。

周知性要件

周知性要件とは、増資を行う企業の以前3年間の売買金額の合計を3で除して得た額 が1,000億円以上であり、かつ3年平均時価総額が1,000億円以上であることが条件とされております。

有価証券届出書には、第三者割当に係る割当予定先の情報、資金使途等の詳細な情報の記載が求められますので、届出の事前相談から、細かな修正を求められる可能性がございます。

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特殊な状況における第三者割当増資

次に特殊な状況の第三者割当増資について解説していきます。

有利発行

「有利発行」とは、第三者割当増資の募集の際に、募集株式を引き受ける者に特に有利な金額(株価)で新株を発行する手続きのことを指します。

有利発行と認定される基準としては、日本証券業界の定める「第三者割当増資の取り扱いに関する指針」(日証協ルール)がございます。上場企業の場合、株式の発行に係る取締役会決議の直前日の価額に0.9 を乗じた額以上の価額としております。

しかし、その時々の経済情勢や市場環境によって売買高等の状況が変動するため、直前日株価(効力発生日の前日)、1カ月平均株価、3ヶ月平均株価、6ヶ月平均株価などいづれかの期間を選択し採用することが可能です。

取締役会決議の直前日の株価から、あえて一定の期間の平均株価を採用するためには、「合理的な期間の終値平均を採用する合理的な理由」が必要とされております。(株式市場の株価が乱高下しているため、直近の株価を採用するだけでは既存株主よりも明らかに低い価格で増資を引き受ける可能性があるなど)。

有利発行は、既存の株主が損失を被る恐れがあるため、株主の了承を得るために株主総会の特別決議が必要とされております。

大量発行

東京証券取引所は、希薄化率(増資後の株式の議決権数÷増資前の発行済株式の議決権総数)が25%もしくは300%を超える第三者割当増資に対して制限を設けています。これを「25%ルール」「300%ルール」といいます。

25%ルール・300%ルール

東京証券取引所は、緊急性が極めて高い場合を除き、希薄化率25%以上となる大規模増資または支配株主が移動する見込みがある大規模増資を実施する場合、以下2点が必要になります。

・経営者から一定程度独立したものによる第三者割当の必要性および相当性に関する意見の入手(社外取締役や社外弁護士等の意見書)

・株主総会による特別決議

希薄化率が300%を超える場合には、「株主及び投資者の利益を侵害する恐れが少ないと取引所が認める場合」を除き、上場廃止となります。個別事情に基づく利益侵害の判断は日本証券取引所によって決せられるとしております。

上場企業の社長が増資を引き受ける場合

第三者割当増資では、社長自ら増資を引き受けることが可能です。その他投資家よりも財務状況など詳細な情報を把握しているため、増資に対する妥当性はございますが、取締役会決議をもって発行条件を決定するには、第三者割当増資が支配株主に利する取引、又は少数株主に不利益な取引に該当しないことを確認する必要がございます。(該当する場合は株主総会の特別決議が必要になります)

意見書の提出

社長自らの増資に対する説明義務の一環として、経営陣から独立した者(監査役又は監査委員会)からの意見書提出が必要です。また、発行価額の恣意性に係る問題を問われるため、払い込み金額の算定根拠に加え、その具体的な内容、評価方法、経緯等の合理的な説明をする必要がございます。

・資金調達の必要性(緊急性)が認められていること
・資金使途に不合理な点が認められないこと
・発行価額及び増資決定の手続が合理的であること
・増資決定の手続きが合理的であること

利益相反の回避

社長自らが増資を引き受けるにあたり、公正性を担保するための措置及び利益相反を回避する必要がございます。社長は、取締役会において特別の利害関係を有するため、取締役会の議決には参加せずに、利害関係を有しない取締役のみによる増資の審議、決議が必要になります。

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M&Aのスキームとして第三者割当増資

第三者割当増資は、株式譲渡と異なり、新たに発行する株式を対価とし増資を引き受けることを目時としております。増資の実行に伴い、経営権の移転と併せて対象企業の資本力強化や財務内容の健全化を図ることが可能です。

そのため、株式譲渡とは別の手段として、会社の経営に携わり対象企業の成長に関与することができます。

また、増資の対価として株式を譲渡することになりますので、対象会社の経営陣の賛同を得やすく、M&Aを円滑に進めることができます。

第三者割当増資が用いられるケース

ここからは実際に第三者割当増資が用いられた事例とその概要を紹介していきます。

①ゴーストレストラン研究所

2020年4月、実店舗を持たないフードデリバリー専門店「Ghost Kitchens」を展開する株式会社ゴーストレストラン研究所は株式会社サンファーロ、株式会社トリドールホールディングス、三枝真也氏を引受先とする第三者割当増資を実施しました。

株式会社ゴーストレストラン研究所は実店舗を持たずUber EatsやChompyなどデリバリーアプリを中心として料理を届けるサービスを行っており、その地域求められる料理を提供することを心がけております。

ゴーストレストラン研究所は、新たな資金を元手に初の実店舗を展開しテイクアウト業務を開始、新ブランドの展開、Direct to Consumerビジネスの展開の成長戦略を実行する予定です。個人、企業などの複数から増資を引き受けることで、各出資者のアドバイスやノウハウを獲得できます。成長戦略にシナジーをもたらす第三者からの増資を用いられたケースになります。

②株式会社海帆

株式会社海帆は、2020年3月資金調達及び成長戦略を実行するための第三者割当増資を実行しております。海帆社は継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在していたため、早期に解消又は改善することに加え、M&Aによる収益事業の獲得に取り組むために増資を実行しました。

増資引き受け先は、海帆社の大株主兼代表取締役の久田氏であり、自社の企業の成長性について一番理解力のある人物であるため、会社の将来性を見越して増資を実行しております。

社長自らの増資を実行する際には、既存株主から増資価額について恣意性の問題から有利発行を指摘される恐れがあります。(本件は、有利発行価格に該当しない株価での円滑な増資を実行しております)

このように第三者割当増資は、継続企業の前提に重要な疑義が生じさせるような仕方のない状況においても、早急に資金を注入することが可能です。また、社長自らが増資を引き受けることも可能であり、スピード性を重視した柔軟な資金調達を実行することが可能です。

③鉄人化計画

2018年4月、株式会社鉄人化計画はファーストパシフィックキャピタル有限会社、株式会社エクシング、株式会社第一興商に対し第三者増資を実行致しました。

鉄人化計画は新規事業投資のための多額の借入調達及びカラオケ本業への投資不足による事業毀損に陥ったことから、経営の安定化を図ることを目的として第三者増資を実行致しました。

ファーストパシフィックキャピタル有限会社は鉄人化計画の筆頭株主であり、鉄人化計画創業者の財産保全会社です。

株式会社第一興商及び株式会社エクシングは、カラオケチェーン店舗を運営する競合関係であり、カラオケ機器メーカーとして重要な取引関係のある2社です。

カラオケ業界が成熟市場となり業界環境が厳しさを増す中でメーカーと供給先との取引関係を構築しながら、様々な協業の可能性の検討など、業界発展のための共存共栄の関係を構築するための第三者割当増資を実行致しました。

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まとめ

このように、ライバル関係のある競合他社からの資金調達も可能で人口減少の日本市場での生き残りをかけてライバル企業各社が協業する動きが出てきております。そのさいにも第三者割当増資を用いられるケースがございます。