MBOを活用する場面
ここからは上場企業と非上場中小企業の2パターンに分けて、MBOを活用する場面を解説します。
上場企業を上場廃止(非上場)にしたいとき
MBOは上場企業を上場廃止(非上場)にしたいときに活用されます。MBOで株式を経営者に集中させれば経営権は安定し、重要な意思決定などを行う場合の他株主の承認手続きが不要となります。その結果、意思決定が早くなります。
また、敵対的買収などの対策にもMBOが用いられています。
MBOで上場廃止にするメリット
MBOで上場廃止にするメリットを考えていきます。MBOは発行済み株式の全ての買い取りを前提に実行していきます。そのためMBOが完了すると対象企業は上場廃止になります。
MBOで上場廃止にすると、以下のようなメリットがあります。
・株価や上場維持のコスト削減できる
・株主から解放される
・買収リスクを回避できる
・情報流出のリスクを低減できる
1つ目の上場廃止によるコスト削減は、大きなメリットでしょう。非上場企業と比較すると、上場企業の守るべきルールや社会の目はとても厳しいという現実があります。法令は徹底的に守っていかなければなりません。このような社会的責任を果たすためのコストは高額です。また、IR(投資家向け広報)も十分に行わなくてはいけません。
上場企業は、このようなさまざまコストをかけて株価を維持する必要があります。しかし、上場廃止によってそれらに投じていたコストを削減できるのです。
2つ目の上場廃止によって株主からの解放されることもメリットのひとつでしょう。上場企業は多くの投資家(株主)から資金を集めて経営しており、株主に利益をもたらすことは義務です。
意見する株主の意向に沿って経営方針を決めることもあるため、経営陣が思い通りに経営できないことがあります。しかし、MBOによって上場廃止にすれば、出資者が株主から経営者に変わり意見する株主から解放されます。
3つ目は、買収リスクを回避できるという点です。 近年、外資系ファンドなどによる企業買収は多く発生しています。もちろん合意の上で買収されるのであれば問題ありませんが、必ずしも友好的な買収だけではありません。
株を上場さえしていなければ経営権を死守できる点は、MBOを活用する上で大きなメリットです。
4つ目は、情報流出のリスクを低減できるという点です。上場企業の場合、株主への情報公開が義務付けられているだけでなく、株主総会で企業秘密の公開を迫られる場面があります。MBOで非上場にすれば、それらを回避できるので情報流出の可能性が低くなります。
また、中小企業の場合で言えば、経営者交代の情報流出リスクが低く、安心できるでしょう。その大きな理由は、第三者との交渉が少ないためです。第三者に承継しようとした場合、外部に話が漏れて、現社長が退くことが噂として取引先などに伝わるかもしれません。そのせいで事業に悪影響を与える可能性があります。社内で話をまとめられるMBOによる事業承継なら、情報流出リスクが低減できるのです。
MBOで上場廃止にするデメリット
MBOで上場廃止にするデメリットの1つ目は、「会社の資金繰りの難易度が上がる」ことです。
MBOを行う際には、事業計画に基づいた将来キャッシュフロー等を担保に、ファンドや金融機関等から多額の借入等を行うことになります。つまり、資金を提供した側は、将来利益を獲得できると判断したために投資を行うのです。
しかし、この事業計画が下振れした際には、期限の利益を喪失してしまうことになります。資金提供者は資金が回収できなくなるリスクを回避するために、一括での返済を迫ったり、資産売却を要求したりなどの行動に出ることもあります。
それだけでなく、将来における追加の資金調達が困難になるため、その後の資金繰りが難しくなるのです。
2つ目は、経営が不透明になる場合があるということです。
外部の株主から厳しい目にさらされなくなることで、チェック機能が働かなくなります。そのため、経営が不透明になる場合があります。
その結果、会社の業績が落ちる、不正行為に気づかないなど、悪影響が出る可能性は否定できません。
3つ目に経営に大きな変化が起こらないというデメリットも考えられます。
MBOによって株式を経営陣に集中することで、株主が自社の経営に口を出す可能性がなくなるというメリットが生まれます。一方で、経営に大きな変化も起こらない点がデメリットです。その結果、社会情勢や市場などの環境変化に柔軟に対応できなくなるかもしれません。
4つ目に株主と対立してそもそもMBOが成立しないという場合もあるでしょう。
株主は、株式をできるだけ高値で売却したいと考えています。株主が望む価格と折り合いがつかず対立すれば、MBO自体が成立しないことがあります。MBOを実行する前に株主へ根回しや調査は怠らないようにしましょう。
非上場中小企業での事業承継
非上場中小企業でのMBOを活用する場面は、事業承継です。株式を持つ現オーナーが信頼できる経営陣に株式を買い取ってもらい、事業承継を成立させます。
では、ここからは非上場中小企業がMBOで事業承継をするメリット・デメリットを詳しく見ていきます。
MBOで中小企業での事業承継をするメリット
「信頼できる経営陣にスムーズに事業承継できること」と「現オーナー社長の保有株式を現金化できること」が、メリットです。
MBOを使って信頼できる経営陣へ事業承継すれば、社内へ与える影響は少なく、迅速に新しい経営陣へ引き継ぐことが可能です。
会社をよく知った経営陣が新社長なので事業だけでなく、経営理念や描く会社の将来像が大きく変化することはありません。そのため、従業員や取引先などが動揺することなく、事業承継を遂行できるでしょう。
株式の動きに注目すると、MBOの実行後は新社長に株式が集中します。その結果、新社長の意向を経営に反映しやすくなります。これにより、事業承継がスムーズに進むという側面もあります。
また、MBOによる事業承継が贈与や相続と大きく異なるのが、現社長の保有株式を現金化できることです。相続や贈与で後継者に事業承継した場合は、現金化できません。現金化できれば、引退後のセカンドライフや死亡時の相続税用の資金として備えることができます。
MBOで非上場中小企業での事業承継をするデメリット
非上場中小企業での事業継承をするデメリットは、後継者の資金調達が難しい点が挙げられます。
経営権を確保するには、株式の3分の2以上を保有しなくてはいけません。しかし、それだけの株式を保有するためには多額の資金が必要となるケースが多々あります。そのため、現在の経営陣による資金調達がうまくいかず、事業承継が進まないケースも多々あるようです。
そうならないためには、銀行やファンドなどから事前に買取資金調達の約束を取り付けておく必要があるでしょう。
MBOのスキーム
ここからは一般的なMBOのスキームや手順を見ていきます。
MBOを行う場合、買収対象企業の受け皿として、経営陣がSPC(Special Purpose Company=特別目的会社)という会社を新規で設立します。SPCを設立する一番の目的は、買収予定の株式を集めることです。
SPCを通じて株主から株式を買い取り、子会社化を実行します。一般的には、その後SPCと買収対象会社が合併して、MBOは成立します。
1.後継者役員がSPCを設立する
会社を承継する経営陣が、買収対象企業を子会社化するための受け皿の会社、SPCを設立します。
2.SPCがMBOの資金調達をする
SPCを設立してまず行うことが、MBOに必要な資金の調達です。金融機関や投資ファンドから調達する借り入れる必要があります。
実は、この段階がMBO最大の難関と言えます。借入調達先からは、会社の成長性や財務体質などを総合的かつシビアに見極められ、資金提供借入の是非が判断されるからです。
融資調達できないと判断された場合は、MBO自体を中止せざるを得ません。ないかもしれません。
3.SPCがMBOで株式を取得する
SPCは現社長やそのほかの全ての株主から対象企業の株を買い取り、代金を支払います。
上場会社が対象となる場合は、TOBを実施して、株式を買い集めます。
4.MBOした企業を子会社化する
株式買取に応じず、一部の少数株主が残ってしまった場合は、スクイーズアウトを行う必要があります。具体的には、現金対価株式交換や株式併合等を実施します。
スクイーズアウトの詳細についてはこちらをご覧ください。
こうしてSPCが対象企業の100%の株を取得したら、いよいよ子会社化を実行します。
5.SPCとMBOした企業が合併する
最後にSPCとMBOした企業が合併することで、MBOは完了します。
MBOの手順は以上です。MBOは、現オーナー社長から未来を担う新オーナー社長に株式を譲渡し、事業を継承していくための手法になりますMBOは非常に便利です。その成功の鍵を握る一番の関門は、やはり資金調達でしょう。
事業承継を検討中なら専門家への相談が不可欠
MBOを通じて株式を買収するには多くの資金が必要となります。加えて、事業継承には複雑なルールや契約書があります。そのため、M&Aの専門家に相談しながら、準備を進めることが確実な方法です。
飲食系中小企業の事業承継、MBOを関するご相談は、M&A Propertiesが承ります。弊社はM&Aのエキスパートであり、豊富な知識と実績があります。MBOに関する些細な疑問から、実際の交渉まで気軽にご相談ください。
まとめ
上場企業の上場廃止や非上場中小企業が抱える後継者不足の打開策として注目されている手段が、MBOです。MBOとは、買収対象会社の経営陣が出資して自社の株式を株主から買い取り、経営権を移行する仕組みです。
非上場中小企業で親族に後継者がいない場合、会社の内情をよく知った経営陣に経営を譲ることができれば、現オーナー社長も安心できることでしょう。MBOで事業承継できれば、すでに信頼関係がある現社長オーナーと経営陣で交渉するため、柔軟かつ迅速な経営権の移行が可能です。
ただし、株を買い取るための資金調達が難しく、計画が頓挫する場合もある点は注意しなくてはいけません。
将来を見据えた入念な準備なので、MBOを検討している場合はぜひ専門家へ相談しましょう。