飲食店の開業資金を借りたい人が知っておくべき融資環境の変化

飲食店の開業資金を借りたい人が知っておくべき融資環境の変化

これまでのように、安易な気持ちで金融機関の窓口に出かけて融資申込したり、渉外行員と自宅・事務所で簡単に話をしただけで金融機関から融資を引き出せた時代は終わったと思います。 個人事業主も融資を受けるときには、従来にもましていろいろな角度から金融機関に質問攻めにされることを前提に十分な準備をしておく必要があります。


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10~5年前の融資対応

現在の金融機関を取り巻く融資環境を見ていく前に、以前の金融機関ではどのように顧客に融資の対応をしてきたのでしょうか、すこしさかのぼってみましょう。

元銀行員として融資体験を持つ筆者が、内側から見てきた姿はかなりずさんなものでした。融資希望者から申込を受けると、形式的には調査を行い書類を作って審査をしたわけですが、実態は各金融機関は最終的な意思決定の拠りどころを審査の内容そのものより融資の契約条件において、たとえば保証人の数や担保の有無、あるいは信用保証協会の保証などで決めていました。

一般的に銀行員はお金のプロと呼ばれていますが、実際は金融機関の審査では実に多くの業種の審査をひとりの職員が行いますから本当の意味では、各業界の融資のプロが育つわけでもありません。とりわけ地銀や信用金庫にその傾向が強く、件数を裁かねばならない理由もあって審査が雑になりがちです。業界データを活用し、融資申込者から適当にヒヤリングして形式的に審査の書類を仕上げたものでした。でも審査結果を最終的に決めるのは、中小企業・個人事業主の融資の場合だと、いかにたくさんの保証人を取るとか、換金性の高い担保をどのように差し入れさせるかがミソだったのです。実態は事業とほとんど関係ないこれらの要素が審査通過の決定要因でした。さらにおかしな話ですが、これは信用保証協会も銀行等と審査の判断においてはほぼ同様でした。

何が融資への姿勢を変化させたのか

ところが金融機関によるこのようなずさんな審査の姿勢をかなり根本から変えなければいけない状況が外部から起こってきました。それが金融庁の連帯保証人に関する方針の転換です。それまで金融機関が融資する対象者に安易に条件として要求していた連帯保証人を取ることに強い制限が掛かってきました。具体的には事業に直接関係ない第三者を安易に連帯保証人とすることを戒めるよう求めてきたわけです。もちろん例外として、たとえば個人事業主の場合、事業を伴にしている配偶者や後継者は外されていました。しかしその動きは今や、その配偶者さえ連帯保証人に取ることを制限する方向に流れてきているのが現状です。

この方針が示された理由は複雑な知識を要求される融資の契約で、情報弱者である事業に関係しない第三者を人権の面から守ることにありました。たしかに方針変更の理由は分かるのですが、だからと言って、これが与えた融資全般への影響を考えると、必ずしもいいことだけとは言えません。

今、金融機関に起こっていること

このような金融庁による新しい指針は融資環境に一段とマイナスの面を生みました。
金融機関は従来の融資決定の拠りどころとしてきた連帯保証人を自由に第三者に求められなくなったので一段と審査を厳しくせざるを得なくなったのです。最近、知人の行員から「個人事業主の配偶者さえ連帯保証人に求めることはかなり難しくなった」と聞きましたが、昔なら考えられなかった劇的な変化です。

これまで安易に頼ってきた方法が使えなくなれば、金融機関としては審査の原点に戻り顧客の事業をしっかりと把握して、事業の将来性や事業主の経営能力など多面的に審査する姿勢に転換しなければなりません。

経営者もまた金融機関に対し、なぜ今資金が必要なのかを具体的にしっかり説明できる能力が強く求められます。とりわけ、新しく飲食店を始めようとする個人事業主ならなおさらです。それでなくても、もともと金融機関は新規開業者に対する融資は厳しめなのですから。

さらに今後予想される融資を受ける者が受けるデメリットとしては、融資金利が引上げされたり、担保を要求されることでしょう。しかし開業をこれから計画している事業主がそんな条件をすぐ満たせる人ばかりではないことは言うまでもありません。

個人事業主が飲食店の開業資金を借りるために必要なこと

そういう意味ではこれまでのように、安易な気持ちで金融機関の窓口に出かけて融資申込したり、渉外行員と自宅・事務所で簡単に話をしただけで金融機関から融資を引き出せた時代は終わったと思います。
個人事業主も融資を受けるときには、従来にもましていろいろな角度から金融機関に質問攻めにされることを前提に十分な準備をしておく必要があります。

浪花節も時には必要ですが、人を説得するにはちゃんとした数字に裏付けされた説明資料がまずは必要です。そして金融機関からお金を調達する際には必ず「事業計画書」と「資金計画書」を提出する必要があります。

今までは雑に作られたこの手の計画書を出しても、金融機関内部で適当に処理して融資を実行してくれました。しかしもうそんな安易な対応をしてくれる金融機関はますます少なくなってくるでしょう。
ましてそれが飲食店の開業資金の場合、全く販売実績がないうえに連帯保証人という方法が使えず、さらに無担保・無保証融資扱いだと、よほどの緻密な「事業計画書」・「資金計画書」を準備して申込しないと簡単に門前払いされてしまいます。

もし自分の計画書づくりに自信が持てない場合、多少の経費が掛かってもその分野に精通している専門家のアドバイスを受けて計画書を作成したほうが、結果的に早く融資が引き出せると考えます。
またしっかりした計画書づくりは返って自分の事業を冷静に見つめる機会にもなり、事業の成功をより高めることにもつながるでしょう。

個人事業主は、金融環境の変化で金融機関を説得するのはさらに難しくなったことを自覚して、十分事前準備をしてから融資相談に出向いてほしいと思います。