M&Aを進めるには、M&Aの専門アドバイザーや、マッチング後の売却企業へデュー・デリジェンス(買収監査)を行う士業の専門家が必須です。本記事では、M&Aに関わる専門家の報酬の相場とともに、M&Aの費用を抑える3つのポイントを分かりやすく紹介します。
【買収】M&Aにかかる費用は?手数料・報酬の種類と相場
M&Aのサポートを民間支援機関に依頼する場合、民間支援機関が設定する仲介手数料を支払います。仲介手数料の内訳や費用は、民間支援機関やM&Aのスキームにより異なります。
一方「事業引継ぎ支援センター」などの公的な相談窓口を利用する場合、利用料は無料ですが、サポート範囲はマッチング(買収先選定)までの紹介に留まっていることです。
M&A相手とは直接的な交渉・仲介は行っていないので、交渉に不安がある場合は民間支援機関に依頼する必要があります。
M&Aの民間支援機関には、M&A専門業者(仲介会社など)・金融機関(銀行など)・士業などの専門家(弁護士・公認会計士など)・M&Aプラットフォーマー(インターネットマッチングサービスなど)があります。
民間支援機関を利用した段階で発生する費用を、仲介手数料またはアドバイザリー費用といいます。
最近では「スモールM&A」といった中小企業や個人事業者を対象にしたものも増え、その手数料や報酬額も低コストになってきましたが、この章では一般的な仲介手数料について費用の相場の1例を紹介します。
譲渡側(売り手側)・譲受側(買い手側)間で基本合意書締結後に、デュー・デリジェンス(買収監査)を実施し、最終的な買収価額が決まります。
M&Aのプロセスにおいて発生する費用及び買収資金支払が発生するタイミングは、以下の通りです。
①相談料 | 正式依頼前の相談にかかる費用 |
②M&A業務委託時 | 着手金 アドバイザリー契約締結時に一括して支払う委託費用 |
③リテイナーフィー (月額報酬) | 手続き中に仲介会社に毎月支払う固定顧問料 |
④基本合意書の締結時 | 中間報酬(マイルストーンフィー) |
⑤M&A成立前 | デュー・デリジェンス(DD)にかかる費用 |
⑥M&A成立時 | 譲渡側(売り手側)に支払う買収資金 |
⑦M&A成立後 | 成功報酬 |
⑧実費・税金 | 不動産取得税・登記の登録免許税・課税資産の消費税(10%)など 買収規模や買収スキームにより、売り手・買い手にかかる税金が異なる |
相談料
「事業引継ぎ支援センター」から引き継いで、民間の支援機関を利用したケースであっても、正式依頼する前にM&Aについて相談する時に発生する費用です。
無料の場合も多いですが、1万円程度の相談料が発生する場合もあります。
支援機関をリストアップする際、相談料の有無を1つの判断材料にするとよいでしょう。
着手金・中間金
着手金とは、本格的に手続きを進めるための業務委託費用で、NDA契約も含め支援機関と正式にM&Aのアドバイザリー契約を締結した時に発生する費用です。
50万円~200万円程度が相場ですが時には400万円程度にもなり、最初に一括請求されます。
仲介会社の中には、この段階で着手金を受け取らないケースもあります。
一度支払ったら返戻されない費用ですので、仲介会社の選定は十分慎重に行ってください。
中間金(マイルストーンフィー)とは、買い手と売り手の間でM&A交渉の基本合意が締結された時に、発生する費用です。
一般的に、100万円~200万円程度といわれています。固定費として100万円と設定されるケースもありますが、成功報酬の10%など割合で設定されるケースもあります。また、案件が成約した際に支払う成功報酬の一部として含まれるケースも有ります。
着手金同様、返戻されない費用です。中には着手金・中間金を請求せず成功報酬のみで案件を引き受ける仲介会社もありますので、仲介会社選定時の判断材料にしてください。
成功報酬
成功報酬とは、買い手と売り手の間で正式にM&A契約が締結した時に発生する費用です。主に買収価格の1%~5%といわれています。この成功報酬が仲介手数料の大半を占めるケースが多いです。
成功報酬の計算方法:レーマン方式の計算例
成功報酬の算出には、一般的に「レーマン方式」という計算式が使われますが、一律の割合や固定金額で設定されている場合もあります。
レーマン方式とは、ドイツ人経営学者・レーマン博士の学説を応用した成果分配方式のことを指します。
レーマン方式は、依頼者の獲得できる費用が変動する業務に採用され、M&A仲介会社などへ支払う成功報酬を算出する方法です。主に以下の2つで算出されるのが一般的です。
・移動総資産レーマン(株式価値+負債)
・株式価値レーマン(支払対価のみ)
M&A仲介会社がどちらを基準としてレーマン方式を採用するかによって、手数料が大きく変わってきますので、必ず事前に確認してください。
基準額の金額帯ごとに異なる手数料率を設定し、金額帯ごとに計算した結果を合算して手数料を計算します。レーマン方式の報酬率の一例です。
基準額5億円まで:5%
基準額5億円超~10億円:4%
基準額10億円超~50億円:3%
基準額50億円超~100億円:2%
基準額100億円超:1%
例えば、基準額が9億円の場合、該当する手数料率は以下の金額帯です。
基準額5億円まで:5%
基準額5億円超~10億円:4%
計算式は以下のようになります。
5億円×5%+4億円×4%=2,500万円+1,600万円=4,100万円
なお上記で計算した金額には消費税が含まれていないため、税込の金額を把握しておくことが重要です。
基準額はM&A仲介会社によって異なるため、正式契約前に必ず見積書を取りましょう。
成功報酬の体系については、全て契約書類に書かれており、気をつけるべき注意点は、以下の4つです。
・算出方法
・算出基準額
・設定報酬率
・最低報酬額
リテイナーフィー
リテイナーフィー(リテイナー)とは、M&A支援機関に支払う月額報酬(定額顧問料)のことで、譲渡(売却)・譲受(買収)いずれの検討時も必要となります。
成功報酬とは別に、M&Aのプロセス上の業務やサービスに対して支払う料金を指し、1か月単位など一定期間の業務に対して月額固定金額が設定されるリテイナー契約を結ぶことがあります。
仲介会社によっては、6か月間・1年間といった最低契約期間が設定されていたり、単に着手金のみを指すこともあります。
リテイナーフィーの相場は、難易度やコンサルタントの“格”(士業専門家の在籍・規模)によって決められますが、リテイナーフィーを必要としない(中間報酬や成功報酬のみ)仲介会社もありますので、契約時に事前に確認が必要です。
相場としては、依頼内容の難易度や専門家の人件費によって、数十万円以上の月額の顧問料が決まるといわれています。
月30万円~200万円程度が相場ですが、設定していない仲介会社もあります。
案件にもよりますが、M&Aの調整期間(数か月~数年)が長くなるほど積み重なる費用ですので、短期間でM&Aを成約させるなど実績のある仲介会社を選定することが重要です。
デューデリジェンス(買収監査)費用
デューデリジェンス(DD)費用とは、M&Aに先立って、買収対象会社に実施する監査費用のことです。
デューデリジェンスは、買収監査・リスク調査とも呼ばれ、法務DD・財務税務DD・ビジネスDD・人事DD・ITDD・不動産DD・環境DDと呼ばれる手法があります。
DDは実際に最終的な譲渡契約書を締結する前に、対象会社のリスクの有無を検証することで数値だけでは見えない企業の実態を把握することを目的として、買収価額を評価するために行います。
またDDにて理解した対象会社の特性を、PMI(Post Merger Integration|M&A成立後の経営統合プロセス)にどう活かすかを早期に検討するためにも、DDは重要となります
主に法務・財務状態や人事・システムなど、企業価値算定のための情報を調査します。M&Aには常にリスクが伴うので、相手の会社を事前に調査することは大切です。
デューデリジェンスは士業の専門家に依頼しますが、法務DDは弁護士、財務DD・税務DDは公認会計士もしくは税理士に依頼することになります。大手の弁護士法人や監査法人となると一括監査として連携して行われることがあります。
法務DDに関しては、弁護士費用を固定で設定している事務所もありますが、多くの場合はタイムチャージ制と考えられます。通常1時間あたり2万円~5万円となり、日当が14万円~40万円程度となるため、DDにかかる期間を考えると数十万~数百万という相場になります。
さらに緊急の対応を依頼したり、土日祝日に依頼したりする場合は、追加請求が行われる場合もあります。
対象会社の規模や調査範囲の多寡により幅がありますが、中小企業であれば財務DDの相場は百万円~・税務DDの相場は50万円~と考えられ、DD全体の相場は250万以上はかかるといわれています。DDの調査範囲を狭めるなどにより、対応日数や人員を調整したり、費用を減額するなどの検討も行われます。
デューデリジェンス費用は、着手金や成功報酬に含まれていることが多いですが、依頼をする前にデューデリジェンス費用が別途請求されるかなど確認する必要があります。
弁護士・税理士・会計士への報酬
報酬の相場は案件にもよりますが、M&Aにおける弁護士費用は、総額で数百万円~数億円に上ることもあるほど高額なものです。法律事務所によってカバーできる業務範囲や料金設定が大きく異なるため、事前にシミュレーションを行い、自社に適した選択をすることが重要です。
業務実行にかかる実費
①買収資金の支払後、クロージング(M&Aでの経営権の移転を完了させる最終的な手続)の段階で、M&A会社や事業の所有権などを整理する必要があります。
②M&A業務実行にかかる実費には、税金と登記費用があげられます。
M&A時の税金は買収の形態によって異なりますが、会社や事業を売却することで利益が得られる売り手側に、主に税金が発生します。
株式譲渡や株式交換の場合、株式の取引は非課税となり、消費税は発生しません。
しかし、買収の対象に不動産が含まれている場合には、不動産取得税や課税資産に対する消費税(10%)が課せられます。
個人事業主の事業承継における税負担を軽くするために、事業承継税制があります。
事業承継税制の主な制度は、相続時精算課税制度と小規模宅地等の特例です。
登記費用は、M&Aの形態によって必要な登記や費用が異なりますが、商業登記や所有権移転登記などの手続きがこれにあたります。
登録免許税の費用については、国税庁のHPをご覧ください。
参考:国税庁「登録免許税の税額表」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
【売却】M&Aにかかる費用は?手数料・報酬の種類と相場
この章では、売却側のM&にかかる費用の種類と仲介手数料・報酬の相場について解説します。
仲介手数料・報酬
買い手とほぼ変わりありません。
税金
M&Aをした際に売り手側が払う税金の種類や税額は、譲渡の種類や、売り手側の株主(個人か法人か)によっても異なります。
また、節税対策をする場合、M&A実行前に税理士に相談することをお勧めします。
①株式譲渡とは、売り手の企業から買い手の企業へ株式を売却することにより、経営権を承継するM&Aのスキームです。
株式譲渡を行った場合は、株式を譲渡して得た利益(売却益)に対して税金がかかります。
株主が個人の場合は所得税が課せられ、法人である場合には法人税等が課せられます。
(法人税等には法人税・法人住民税の法人割・法人事業税の所得割などが含まれます)
②一方買い手企業に株式ごと売却するのではなく、第三者割当増資によって、会社の経営権のみ移転する方法があります。
経営権は会社の株式の過半数を所有することで得られます。そのため、新たに株式を発行して増資という形で、第三者に自分が保有する以上の株式を保有してもらえれば経営権を譲ることができます。
第三者割当増資の場合、売却側が税金を支払う必要がなくなります。
③事業譲渡とは売り手企業が買い手企業に事業を売却することです。事業譲渡の場合は売却金を株主が受け取るわけではないため、株主に税金はかかりません。
事業譲渡で売り手にかかる税金は、法人の場合は法人税等です。
個人事業主が事業譲渡を行った場合は譲渡所得とされ、譲渡益に対して所得税が課されます(譲渡資産により分離課税・総合課税が存在)。
④株式譲渡における節税対策の1つに、役員退職金を活用する方法があります。
退職所得は所得額を算出する際の控除分が大きい上、他の報酬と分離して課税されるという優遇的な扱いを受けます。
この特性を利用し、株式売却時に役員に支給する退職金(控除額に近ければ節税効果)と譲渡金額を調整することで大幅な節税を図ることができる場合があります
退職金に課される所得税の税率は、ある一定の額までに限り譲渡所得にかかる税金(一律15%)よりも低くなるため、譲渡価額の一部を役員の退職金として受け取ることで節税対策ができます。
また、法人として役員退職金は損金処理ができます。
弁護士・税理士・会計士への報酬
買手側には、バリュエーション(EV・企業価値評価)費用が発生します。
バリュエーションは、多角的な視点からの分析が必要となるためM&Aの専門アドバイザーに依頼するケースがほとんどです。
バリュエーションの委託をできる専門家には、公認会計士や税理士・M&A仲介会社・FA・IPO(株式上場)を行う場合は証券会社が行います。
FA(ファイナンシャルアドバイザー)を兼務している専門家(弁護士・公認会計士)もいますが、バリュエーションの報酬は会社規模や目的によって異なります。M&A仲介会社・証券会社を利用する場合、成功報酬に含まれているケースもあります。
「株価算定報告書」などの対外的な書類の作成を依頼する場合は、「算定人」として算定を行った公認会計士・事務所の名前を記名した報告書を制作するケースを想定すると、費用の相場は下記のとおりです。
公認会計事務所(大手) 200万円~
公認会計事務所(中堅) 100万円~200万円
公認会計士事務所(小規模) 70万円~100万円
税理士事務所に税務目的の株価算定を依頼するケースの相場は、下記のとおりです。
税理士事務所 20万円~30万円
バリュエーションの価格はピンキリであり、目的や企業の規模、依頼する事務所によっても大きく異なります。
必ず複数社に見積もりを取った上で、確認をするようにしてください。
また、売手側には、契約書のレビュー費用も発生します。株主(売主オーナー)で主に用います。売却する対象会社の顧問弁護士に依頼するケースもありますが、M&Aに長けた弁護士に依頼をすることを推奨しており、別途費用が発生します。
尚、顧問弁護士に依頼した場合でも、株式譲渡契約書のレビュー業務については、オーナー個人の負担となります。費用は大体50万~100万円程が相場です。
M&Aの費用を抑える3つのポイント
中小企業のM&Aであっても、大企業のM&Aであっても、M&A支援機関が行う業務内容は基本的には同じです。一般的には、以下の業務が挙げられます。
・M&A戦略の策定
・M&Aスケジュールの策定
・企業価値(バリュエーション・譲渡価額)の概算
・M&A相手企業の紹介・選定(マッチング)
・弁護士など専門家の紹介(デューデリジェンス)
・交渉の代行
・契約書の作成
支援機関の報酬体系には、発生・不要の設定があるため、相談料から成功報酬までの費用を抑えることがポイントとなります。
具体的には、以下の3つのポイントが挙げられます。
着手金・中間金がかからない仲介会社を選ぶ
詳しくは上述したとおりですが、報酬体系が完全成功報酬型(着手金・中間金無)であることを、M&A支援機関として選定する1つの指標とすることができます。
顧問料は、月最低金額を5万円前後からと設定しているところが多く、費用相場は5万~数十万円といわれています。
複数の仲介会社から相見積もりを取る
相談の段階で、複数の仲介会社から相見積もりを取ることも得策です。
上述したとおり、特に成功報酬体系はM&A仲介会社によって異なるため、注意が必要です。
お得にM&Aを進めるためには補助金がおすすめ
M&Aには、公的な補助金制度があり、これらの要件をクリアして有効活用することをお勧めします。
M&Aを考えている中小企業者等や、既にM&Aを実行し新たな経営革新等に挑戦する中小企業者等を対象にした、中小企業庁の「事業承継・引継ぎ補助金」制度を紹介します。
事業承継・引継ぎ補助金(2023年2月最新)
経産省の中小企業庁が公募している「事業承継・引継ぎ補助金」は、事業承継やM&Aを契機とした経営革新等への挑戦や、M&Aによる経営資源の引継ぎなどを行おうとする中小企業者等を支援する制度です。
毎年申請期間が設けられ、3つの類型で申請要件がありますが主なものを紹介します。
【申請受付期間】
令和4年12月26日(月)~令和5年2月9日(木) (予定)
・経営革新事業
補助率:2/3 補助上限:600万円以内 ※補助額の内400万円超~600万円の部分の補助率は1/2
事業承継やM&A(事業再編・事業統合等。経営資源を引き継いで行う創業を含む。)を契機とした経営革新等(事業再構築、設備投資、販路開拓 等)への挑戦に要する費用を補助します。
(補助対象経費:設備投資費用、人件費、店舗・事務所の改築工事費用 等)
・専門家活用事業
補助率:2/3 補助上限:600万円
M&Aによる経営資源の引継ぎを支援するため、M&Aに係る専門家等の活用費用を補助します。(補助対象経費:M&A支援業者に支払う手数料※、デューデリジェンスにかかる専門家費用、セカンドオピニオン 等)
※M&A支援機関登録制度に登録されたファイナンシャルアドバイザー(FA)またはM&A仲介業者によるFAまたはM&A仲介費用に限る
・廃業・再チャレンジ事業
補助率:2/3 補助上限:150万円
再チャレンジを目的として、既存事業を廃業するための費用を補助します。
(補助対象経費:廃業支援費、在庫廃棄費、解体費 等)
引用元:「令和3年度補正予算「事業承継・引継ぎ補助金」(四次締切)の公募要領」
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2022/221226shoukei_kobo.html
まとめ
M&Aは企業の将来をも左右する重要な案件です。
現在は、グローバル化と共にM&Aを活用した第三者事業承継が主流となっており、国をあげて様々な支援策がなされてきました。
売り手と買い手双方にとって大きな決断となるM&Aを確実に成功させるためには、早期・計画的な取組の重要性や課題への対策、適切な判断と交渉術が重要となります。
成約の先の成功まで(PMI=M&A成立後の統合プロセス)を見据えたさまざまなニーズに特化したサービスがありますので、M&Aの専門家と相談しながら、自社に適したベストなM&Aを実現しましょう。