M&Aでは買い手にも税金がかかる。税金の内容と節税方法について紹介

M&Aは、中小規模の飲食店にとって、事業規模拡大やシェアの拡大などに有効な手段のひとつです。しかし、M&Aをするときに気を付けなければならないが税金のことです。M&Aでは、買い手にも税金が発生する場合があるからです。 そこで、今回はM&Aによって買い手にかかる税金や、節税の方法について紹介します。


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M&Aでは買い手にどんな税金が発生するのか

M&Aには、売り手企業の株式の譲渡を受ける株式譲渡や、事業自体の譲渡を受ける事業譲渡があります。株式譲渡の場合は、買い手に税金はかかりません。買い手に税金が発生するのは、事業譲渡の場合です。

そこで、事業譲渡のM&Aでは買い手にどんな税金が発生するのかについて解説をしていきます。

消費税

M&Aで買い手が支払わなければならない税金のひとつに、消費税があります。企業が消費税を支払うのは、決算・申告のときに、法人税などとともに国に納める消費税のことを思い浮かべる人も多いでしょう。

しかし、消費税は決算・申告時に国へ納付しているだけでなく、普段から食材の購入などでも「本体価格+消費税」の金額を仕入先などに支払っています。事業譲渡のM&Aにおいても、買収する資産の中に「本体価格+消費税」で代金を支払わなければならないものがあります。

具体的には、事業譲渡のM&Aで買収する資産の中に以下のものがあれば、本体価格に消費税を加えて代金を支払うことになります。

・土地、保証金等以外の有形固定資産
・無形固定資産
・棚卸資産
・のれん(営業権)

不動産取得税

不動産取得税とは、土地や建物などを取得したときに発生する税金のことです。不動産取得税は国に納める税金ではなく、各都道府県に納める地方税で、事業譲渡や営業譲渡の対象に不動産が含まれていると発生します。

原則、店舗など事業用の不動産に対する不動産取得税の税率は4%です。不動産取得税の計算式は、次のようになります。

不動産取得税=課税標準額(固定資産税評価額)×4%

不動産取得税は、不動産の購入価格に対してではなく、各自治体が決定した固定資産税評価額に対して課されます。固定資産税評価額は、各自治体が保有する固定資産課税台帳や、毎年固定資産税の納付書と一緒に送付されてくる固定資産税課税通知書などに記載されています。

不動産を取得したら、取得した日から30日以内に不動産取得税申告書の提出が必要です。申告書は土地、家屋の所在地を所管する各都道府県に提出してください。不動産取得税申告書を提出すると、各都道府県から納付書が送付されます。

登録免許税

M&Aで買い手が不動産を取得した場合は、法務局で所有権の移転登記を行う必要があります。所有権移転登記を行う際、国に税金を納める必要がありますが、それが「登録免許税」になります。

登録免許税の金額は、土地が固定資産税評価額の2%、建物が固定資産税評価額の2%です。

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買い手側の税金対策

ここまでは、事業譲渡の場合のM&Aで買い手にかかる税金について解説しました。M&Aを行うと、場合によっては多くの種類の税金を支払わなければいけませんが、ここまで見てきた税金については、なかなか節税ができるものではありません。

そこで、法人税等について、節税ができるかどうかを考える必要があります。次は、買い手側企業にかかわる法人税等の税金対策について確認をしていきましょう。

ポイントはのれん(営業権)

M&Aにおける法人税等についての節税方法のポイントは、「のれん」です。営業権とも呼ばれています。のれん(営業権)とは、売り手企業がこれまで築き上げてきたブランド力やノウハウなど、帳簿上の金額に表すことのできない価値を指します。通常M&Aにおいては、のれんに含まれるようなブランドやノウハウを承継することを目的に行われるため、のれんへの対価が発生します。

具体的な計算方法としては、売り手企業の純資産よりも高い金額で買収したときの「買収金額と純資産の差額」のことです。

例えば、売り手企業の資産が1億円、負債が6,000万円の場合、純資産の金額は「資産1億円-負債6,000万円=4,000万円」です。

もしも、この売り手企業を6,000万円で買収した場合は、純資産4,000万円との差額2,000万円が「のれん」になります。

では、のれんの会計上の取り扱いはどうなるのでしょうか。のれんは、譲受後、一旦資産として計上され、その後は一定期間にわたって償却されます。これは、固定資産の減価償却費と似た考え方です。

実は、こののれんの償却は、M&Aの方法によって、税金計算上の経費にできる場合とできない場合があります。

譲渡方法を考える

M&Aの主な方法には、「株式譲渡」や「事業譲渡」があります。いずれの場合にものれんは発生しますが、株式譲渡で発生したのれんについては、税金計算上の経費にすることはできません。連結会計を取り入れている場合に、のれんが計上され、償却もされますが、それは税務上費用として計上できるものではありません。そのため、節税対策に用いることもできません。

一方で、事業譲渡で発生したのれんは償却が可能になります。

事業譲渡は、売り手企業を会社ごとM&Aで買収するのではなく、一部の事業だけを買収する方法です。飲食店の場合、一つの店舗だけをM&Aを実施する場合などが事業譲渡になります。

事業譲渡の場合、のれんは発生しますが、この場合は税金計算上の経費にできます。税務計算上の経費にできるのれんは、経費にできないのれんと区別して「資産調整勘定」として帳簿処理などを行います。また「税務上ののれん」と呼ばれることも。

資産調整勘定は、5年間に渡って定額法による償却が強制されています。例えば、期首に行ったM&Aで、資産調整勘定が2,000万円計上された場合の毎期の損金計上額は、2,000万円÷5年=400万円。

5年にわたって、毎年400万円もの経費を計上できることから、事業譲渡でM&Aを行うことは、買い手企業に大きな節税効果をもたらすことになります。
このようにM&Aの手法によって、のれんの処理方法が異なることに留意しなければなりません。また、M&Aの手法により節税効果が異なるため、専門家へ相談をされることをおすすめします。

ただし、ここで注意したいのが、売り手側の税金のことです。実は、事業譲渡やの場合、買い手企業にとっては大きな節税効果をもたらしますが、売り手企業にとっては、多くのケースで法人税等の税率が高くなります。つまり、売り手側が支払う税金が増えるのです。

そのため、売り手企業が事業譲渡でのM&Aに難色を示すことも多くあります。その場合、M&Aがスムーズにいかないこともあるので、注意が必要です。M&Aをする場合は、売り手企業との間で、M&Aの方法から、M&Aで支払うこととなった税金のことまで細部にわたり、交渉していくことが重要となるでしょう。

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まとめ

飲食店のM&Aには、売り手企業の株式の譲渡を受ける株式譲渡や、事業自体の譲渡を受ける事業譲渡があります。株式譲渡の場合は、M&Aによる税金はかかりませんが、事業譲渡では、消費税や不動産取得税、登録免許税などの税金がかかります。

一方で、買い手企業の法人税等の金額を考えてみると、株式譲渡の場合はのれんを経費にすることができません。しかし事業譲渡の場合はのれんを経費にすることができるので、節税効果が期待できます。

飲食店のM&Aを行う場合には、支払う税金や節税効果のことまでしっかりとシミュレーションを行っておく必要があるでしょう。

多額の金額で取引が行われる企業同士のM&Aにおいては、そこにかかる税金についてもしっかりと把握しておくことが大切です。今回記事で紹介した内容を参考に、効果的な節税対策を行ってみてください。