M&A実施前は投資額や諸費用の目安について理解しておく
飲食店を売却したい、買収したいと考えている場合、事前にどのくらいの相場で取引されているかを知っておくことはとても重要です。M&Aを実行した後に、安く売ってしまった、高く買いすぎてしまった、と後悔しても取り返しがつきません。
また、M&Aの買手の場合、投資額の他に諸費用の存在を知らなかったなど、低く見積もってしまうケースも多くあります。
もしもM&Aの投資額や諸費用について疑問点や困ったことがある場合は、信頼できる専門家に相談すると良いでしょう。
M&A相場を算出する方法
M&A相場を算出する方法には、修正純資産法、DCF法、マルチプル法(類似会社比較法)の3種類があります。それぞれの方法について具体的に解説しましょう。
修正純資産法
修正純資産法とは、買収する会社の貸借対照表に計上している資産、負債を時価評価し、純資産を再評価したうえで、修正純資産を会社価値とする方法です。
利益が出ておらず廃業寸前である、土地など莫大な資産を有している、などの場合に使うことがあります。考え方としては分かりやすく、計算しやすい点が特徴です。
DCF法
DCF法とは、買収後に獲得できる将来的キャッシュフローを現在価値に割引計算することで会社価値を算定する方法です。
現在もらえる1万円と1年後にもらえる1万円とでは、現在もらえる1万円の方が価値は高くなります。それでは、将来もらえる1万円は現在の価値になおすといくらになるのでしょうか。これを計算するのがDCF法です。
将来的キャッシュフローは、実務上、売手が作成する事業計画書をもとに見積もられる場合が一般的です。DCF法は株価算定の理論的な手法ともいわれており、大手上場企業のM&Aの際にDCF法がよく採用されます。
一方で、将来的キャッシュフローの見積もりや割引率をどうするかで、最終的な計算結果が大きく動いてしまう点は留意が必要だといえるでしょう。また、DCF法は専門的な知識やノウハウが必要であるため、株価算定を外部の会計事務所などに依頼することもあります。
マルチプル法(類似会社比較法)
マルチプル法とは、M&Aの対象となっている企業と同じ業種、業界の企業の株価(取引価格)をもとにして、会社価値を算定する方法です。
ある上場会社がPER10倍の株価で取引されているのであれば、同じ業界に属する未上場会社もPER10倍となるように株価が決定されるというイメージです。
飲食業界のM&Aにおいてよく使われる方法
前項で紹介した3つの算出方法のなかでも、飲食業界のM&Aで一番よく使われている方法は、マルチプル法です。
マルチプル法に使われる倍率は業界によって異なります。M&Aの対象となっている会社の財務数字が良くないとしても、属している業界の価値が高ければ取引される相場金額も高くなることがあります。
たとえば、現在上場しているIT業界の中でもSaaS業界は、利益やEBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)が赤字である一方で売上×40倍といった高値で取引されている事例もあります。反対に厳しい業界、たとえば銀行業界などは、PER5倍といった株価で取引されています。
これらのマルチプルは、上場企業である点には留意が必要だといえるでしょう。通常、上場企業の方が未上場企業よりも高値で取引されることが、よくあります。それは、上場企業の取引は、市場参加者が多く、上場企業であるため信頼性がある、大規模なのでコストメリットが生じやすい、財務情報など投資に必要な情報が全て開示されている、などの理由があるからです。
それでは、飲食店業界はどのくらいの相場で取引されているのでしょうか。マルチプル法をもとにすると、利益やEBITDAのだいたい3倍~5倍での取引が多いです。
この数字の意味することは、「M&Aにより投資した金額は、だいたい3~5年で回収することができ、その後は儲けとして蓄積できる」ということです。ただし、相場観は経済状況などの影響などもあり、大きく変動する可能性があります。
飲食業界専門のM&Aアドバイザリー会社M&A Propertiesでは、マルチプル法により算出した上場会社の数字について3カ月ごとにアップデートした資料を公開しているため、相場の参考になるでしょう。最新の情報を知ることで、直近の飲食店業界におけるM&Aの相場観を知ることができます。
詳しくはホワイトペーパーを参照ください。
M&Aの投資額を決める要素
最後に、M&Aの投資額を決める要素について解説します。飲食店業界における要素は下記のとおり4点あります。
① 店舗の立地や敷地面積
飲食店において、立地や敷地面積はとても重要です。飲食店の売上高は、来店客数×客単価で計算されますが、このうち、立地と敷地面積は来店客数に大きく影響を与える要因となるためです。
立地が良くないと、ウォークインによる来店が少なくなってしまうため、マーケティングもネット広告を利用するなどの工夫をしなくてはなりません。一方、駅前の一等地など飲食店経営に適した立地であれば、M&Aにおける相場は高くなる傾向にあります。
また、敷地面積は売上のアップサイドに大きく影響します。敷地面積が小さく現在の回転率が良いものであれば、この店舗を買収したとしても買収後に売上を伸ばす余地が少ないといえるでしょう。このような店舗は、相場が安くなる可能性があります。
② 店舗独自の強みやブランド力
買収しようとしている店舗に、独自の人気メニューや味、サービスなどがあれば、その店舗はM&Aにおいて人気が高くなり、それにともない相場も高くなります。
飲食店は競合の多い業界です。このような競争環境の中では、前述した独自の強みがあることは、お店の本質的価値に大きな影響を与えるでしょう。
また、この独自のメニューや味を目当てに来客する常連客の存在も重要な要素です。常連客が多ければ多いほど、買収後の経営が安定するためです。
③ 優秀な従業員
飲食店経営において、優秀な従業員がいるかどうかは重要です。能力のある従業員がいない場合は、一から採用と育成をしなければならないため、買収後に資金と時間がかかります。高い調理技術を持った従業員がいることはお店の本質的価値向上につながっており、そのような店舗の方が高く取引されるケースが多いのです。
M&A後に優秀な従業員が離職しないように、M&A前の計画やPMIのプロセスでも留意が必要だといえるでしょう。
④ 営業年数
開業してから3カ月の飲食店と10年の飲食店があり、それぞれ同じ売上・利益だとしたら、どちらを買収したいと考えるでしょうか。当然、10年の飲食店を選ぶ人が大多数だと思います。なぜなら、営業年数が長ければ長いほど常連客が多く、事業が安定していると考えることができるからです。
たとえば、タピオカドリンク店として一時的に売上がピークに達した飲食店が、そこまで評価されないのは営業年数が短いためです。買収したいと考えている場合、売上の一時期的な増減だけでなく、長期的な目線で業績を確認するようにしましょう。
飲食業界専門のM&A アドバイザリーの活用
M&Aによる飲食店買収で疑問やお困りのことがあれば、M&A Propertiesをご活用ください。
弊社には、創業以来、飲食業のM&Aにおける取り扱い総額は10年間で450億円という豊富な実績があります。また、飲食店のM&Aについて熟知した、経験豊富な専門コンサルタントが、飲食店を対象としたM&Aを行う際、適切な相場価格を見積もりいたします。
M&A Propertiesのサービスについては、こちらからご覧になれます。
まとめ
M&Aの買手でも売手でも、事前にM&Aの相場を知ることは非常に重要です。M&Aの交渉が始まってからではもう後戻りはできないからです。
M&Aの相場を算出する方法として、修正純資産法、DCF法、マルチプル法の3種類がありますが、飲食店のM&A業界ではよくマルチプル法が使われます。M&A Propertiesでは、上場企業のマルチプルがどれくらいか定期的にアップデートしていますので、M&Aの相場を知る上でとても良い参考資料として活用できます。事前にM&Aの相場を知り、適正価格でM&Aを行うようにしましょう。