M&Aの担当部署は主に2つに大別できる
M&Aは、法律や税務・ファイナンス・ITなど幅広い知識が必要なので、専門部署を置く意義は大きいといえます。極論をいえば、M&Aを統括する人材が1人いればM&Aの実務は可能です。
ただ、そういった人材はプライベート・エクイティ・ファンドや投資銀行などで戦略策定から契約交渉、PMIまで一貫して経験を積んだ人が多く、年収も高いので事業会社での採用は困難です。そのため、M&Aを成功させるためには、社内体制を整える必要があります。
最低限社内でそろえる部署としては、以下の2つが考えられます。
・経営企画部
・事業推進部
各部門の役割
それでは、2つの部署の役割を解説します。
経営企画部(M&A統括)
まずは、M&A統括としての経営企画部です。ソーシングからエグゼキューションまでを行う、M&Aの統括を担います。
ソーシングとは、自社の希望条件にある候補企業を見つけ、交渉を進めていくプロセスを指します。
エグゼキューションとは、M&Aにおける一連の手続きなどを管理・実行することです。
既存事業のメンバーでも良いので、買収後のPMI(統合プロセス)に注力する統括部隊を用意し、買収後にきちんと事業が推進するかを見極める必要があります。
ディール統括者はM&Aの経験者が適任です。しかし、ある程度のドキュメンテーションとマネジメント能力がある人材がいれば、その人物に任せても良いでしょう。外部専門家の助言のもとで統括が可能です。
※ディール統括者とはM&Aを取引するために統括する者。
事業推進部
事業推進部は、PMIを実行して買収成立後の事業計画に責任を持つ部署です。ソーシングの段階から関与していればPMIの計画を早期に検討でき、売り手とのコミュニケーションも図れるため、スムーズな交渉ができます。
M&AとPMIを分けず、1つの専門M&Aチームを持っている会社が通常です。ただし、規模の大きいM&Aでは、それぞれの専門知識が必要になるので、M&AだけでなくPMIの専門チームを社内に設けている場合もあります。
PMIは、M&Aを成功させる重要な要素です。デロイトトーマツの2013年の調査では、デューデリジェンスの作業中からPMI計画を開始した企業は米国で40%、欧州で50%であるのと比べると、日本はわずか7%でした。
一方、契約締結~クロージングまでの期間にPMI計画を始めた企業は米国13%、欧州10%でしたが、日本では46%でした。つまり、日本ではディール後半になってPMI計画を始めている企業が約半数にも上るのです。
デロイトトーマツでは、「日本企業は交渉が決裂した場合のムダを省こうとしている」と分析しています。しかし、「PMI進行の遅れによってM&Aに悪影響があった」と回答した日本企業は13%と、米国0%や欧州3%より、明らかに高いことが分かりました。
このことから、M&Aの成果を最大化させるには、PMIをディール後半からではなく前半のソーシングの時点から開始することが重要だと言えます。そうすることで、本当にシナジーが生まれる買収対象なのか、統合の難易度はどの程度なのか、統合後の目標はどの程度を目指せるのかなど具体的なPMIの計画を立てることが可能になるのです。
M&Aに一度取りかかると、「止める」という判断は非常に困難です。その結果、ディールを完遂することがM&Aの目的になり、想定より高くなった買収価格を根拠の薄い理論価格で正当化する事態も起こっています。
中堅・中小企業にとっては、1つのM&Aの失敗が本体を揺るがしかねません。M&Aの目的や戦略があいまいなまま話を進めて買収を実行してしまうと、PMIでそれを修正することはできないので注意が必要です。
M&Aの失敗で多いのが、M&Aの起案や実行は経営企画部、成立後の管轄は事業部という例でしょう。M&A全体の責任が経営企画部と事業部のどちらにあるのか判然としないので、責任を押し付け合う結果に陥りやすいからです。
そのため、最初の案件開発は経営企画部が実施するとしても、本格的な買収起案は、事業部をメインに行わなくてはならないでしょう。さらに買収の決議は、関連する事業部が買収先の管轄責任者を決め、その責任者によって買収価格が決定されるべきなのです。
必要であれば外部の専門家へも依頼する
社内にM&Aの専門部署を設け、人材を配置することが難しい場合はどうすれば良いのでしょうか。その解決方法を解説します。
外部に依頼するメリット
インターネットの普及により、世界中の企業に直接アプローチできる時代になりました。また、仲介会社や金融機関の手を借りず、みずから候補先へアプローチすることも可能です。
ただしM&Aは戦略を立て、適切なPMIを実施することでシナジー効果を最大限に高める必要があります。大手企業と比較して人材が不足している中堅・中小企業では、策略の選定やPMIの実行は困難です。このため、外部の専門家の力が必要になります。
社外にアウトソーシングする場合の依頼先は、以下の5つがあります。
・FA(フィナンシャル・アドバイザー)
・財務プロフェッショナル(公認会計士・税理士)
・法務プロフェッショナル(弁護士)
・財務や法務、税務などの社内企業
・M&A仲介会社
弁護士や会計士が社内にいても、M&Aの実務を経験したことがあるかどうかが重要です。M&Aを専門にしている弁護士や会計士に依頼した方が安心でしょう。
中小企業同士のM&Aの場合、経験の少ないコンサルタントや経営者の知り合いがアドバイザーになることがあります。そうなると、業界の常識から外れた条件や価格で交渉が行われる可能性があり、結果的にディールを壊してしまう可能性もあるのです。
そのため、M&Aを専門とした経験豊富な仲介会社に依頼するのも良いでしょう。買収先の選定・資料リストの作成・交渉・財務や法務のデューデリジェンスの実施・契約書作成など、あなたの事業戦略に基づいたM&Aを包括的にサポートしてくれます。
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まとめ
中小企業の後継者難はまずます深刻になると見込まれています。中小企業の事業承継・M&Aの潜在的規模は12~22万社とされており、あなたの交渉候補もその中に眠っているかもしれません。
「M&Aを外注すると、費用がかさむのがデメリットだ」と考える方もいるでしょう。しかし、買収の規模や金額大きさによっては、外注費を使った方が費用を抑えられることがあります。また、M&Aの総合的なサポートはもちろん、社内部署についても的確なアドバイスが期待できるので、社内に適任者がいない場合は、一度外部の専門家に相談することをおすすめします。